南東北・関東をめぐる旅

8月2日(木)

 上野駅6:51発の東北本線、快速ラビット号で出発。天候はどんよりとした曇り空で、この夏の猛暑が信じられないくらい涼しい。乗車前に上野駅で立食いソバの「肉そば」を食べて朝食とする。蕎麦屋の屋号が以前の「更科」から「喜多」に変わっていた。
 宇都宮8:22着、8:25発の列車に乗り継ぎ、黒磯9:14着。さらに黒磯9:38発、郡山10:40着、10:49発と乗り継いで行く。福島へは11:35に到着。
 福島市街を歩き回り、昼食場所を探す。「柚邑(ゆむら)」という蕎麦屋を見つけたので、入ってみる。店内は、最近の東京にもありそうな、洒落た感じの造り、大理石のカウンター席と畳の座敷席がある。BGMには、クラシック音楽が流れている。
 カウンター席に腰掛け、メニューを見ると、もり蕎麦が3種類、「笙幻」、「藪」、「更科」とある。なかなか期待できそうなので、「三種味比べ」(1350円)というのを注文して、3種類すべてのソバを味わうことにした。ソバは、せいろ型の箱笊に1種類ずつ盛られ、食べ終わるタイミングを見はからって、順番に供される。それぞれのボリュームもなかなかである。
 「藪」は細打ちで香り高く、喉ごしがよい。「更科」は薄茶色でツヤがあり、なめらかな口当たりで、しっかりとしたコシがある。「笙幻」は「更科」のツヤとコシを持ちつつ、もう少し茶色く透明感がある。いずれも満足のできるおいしいソバだった。今後、福島へ来たら、必ず立ち寄ることになりそうな店で、気に入った。

 

 駅近くの中合デパートの地下酒売場で、「みちのく福島路ビール」3種類を購入。ヴァイツェンとレッドエールは、山形へ向かう列車の中で飲んでしまった。ここの地ビールも、以前にくらべておいしくなった感じがする。福島13:15発の奥羽本線の列車に乗車。峠を過ぎて、一瞬晴天になったが、山形県に入ってから再び曇る。山形14:51着。山形も涼しい。
 駅前の公衆電話から、蔵王温泉の「招仙閣」という宿を予約。駅ビルで、今晩の酒とつまみを仕入れたりしてから、蔵王方面行きのバス停へ。山形駅前15:40発。乗客はほとんど観光客で、ほぼ満席の状態だった。山形市街を抜けるのにけっこう時間がかかり、蔵王温泉のバスターミナルまで50分くらいかかった。
 温泉街は霧に包まれていて、蔵王の山々がまったく見えないばかりか、温泉街付近の景色もよくわからなかった。宿泊場所の「招仙閣」は、バスターミナルから歩いて数分のところだった。

招仙閣の内湯

 宿に到着後は、内湯に入ったり、部屋でゴロゴロしたりしてくつろぐ。この宿は独自の源泉を持っているらしく、源泉の温度は49℃とけっこう熱い。泉質は、強酸性の硫化水素泉で、かなり硫黄の匂いが強い。ほぼ透明だが、湯の花がたくさん浮いている。
 午後6時頃、1階の別室で夕食となる。山の中の温泉なので、あまり料理には期待していなかったのだが、予想外においしい料理が用意されていた。米沢牛の陶板ステーキ、鹿肉の刺身、鮎のマリネ、冷やし鰊うどんなどいずれもなかなかの味。
 特にトロッとした味わいの鹿肉は絶品。また、山形で蕎麦ではなく、鰊うどんというのも意表をつかれた感じだが、関西風の薄口のツユで食べる冷やしうどんは、コシがあっておいしかった。天ぷらも、山葡萄の葉や蓮根のホタテすり身はさみ揚げなど、揚げたてを持ってきてくれる。最後に、生姜ご飯、鱧とジュンサイの椀物というのも気がきいている。この料理で一泊一万円というのは、けっこうお値打ちかもしれない。

 食後は、夜霧の温泉街を散策しつつ、外湯へ行ってみる。蔵王温泉には5か所の共同浴場があるが、「源七露天の湯」という、温泉街のはずれの少し山を上ったところにある共同浴場へ行く。

この晩飲んだ日本酒とビール

 広い露天風呂は、入浴客がほとんどなく、ゆったりと湯につかることができた。源泉が39℃というのも、ぬるめの温度でよい。露天風呂は、霧と湯けむりが入り混じったところにほのかな照明があたり、なんともよい雰囲気に包まれている。湯舟のまわりは木立に囲まれ、頭上の木の枝の緑もほの暗く照らされている。映画かドラマのワンシーンで使われそうな感じである。内湯のほうはヒノキ張りの湯舟で、こちらも雰囲気がよい。
 入浴後は、しばらく休憩所で身体の火照りをさます。温泉街の土産物屋などに立ち寄ったりしながら、午後8時半頃、宿に戻る。
 部屋に戻り、持参した「みちのく福島路ビール・ピルスナー」と「月山ビール・ピルスナー」、日本酒「出羽桜・大吟醸生」を飲んでから寝る。出羽桜の大吟醸生は、文句なくおいしかった。

 
8月3日(金)

翌朝の招仙閣

 朝は5時半頃に起きて、内湯へ入る。やはり熱いので、長時間は湯舟につかっていられなかった。湯上り後、再びウトウトと眠り込む。
 7時半に、昨夜と同じ部屋で朝食。ベーコンエッグ陶板焼き、塩シャケ、海苔などけっこう定番の食事だった。
 外は昨夜の霧も晴れて、よい天気になった。宿の仲居さんが「御釜へ行くなら午前中のほうがいい」というので、8時40分頃、早めに宿を出発し、蔵王山頂を目指す。温泉街を抜けて、歩いてロープウェイ乗り場へ。霧に包まれていた昨日とは異なり、まわりの山々や温泉街の様子がよくわかる。

 山麓ロープウェイ駅を9:00に出発、10分足らずで樹氷高原駅に着く。ここでロープウェイ山頂線に乗り継ぎ、さらに地蔵山頂へ。山頂へと上がるにつれて、蔵王の温泉街は遠く小さくなり、雄大な蔵王の山々の緑を望むことができた。遠方には、雪をいただく月山や鳥海山が雲の間から顔を覗かせていた。

ロープウェイからの眺望 ロープウェイ山頂駅近くの地蔵菩薩像 御釜へと続く遊歩道

  地蔵山頂駅はは標高1600メートル余り。晴れているのでまだよいが、さすがに風は冷たく涼しい。ロープウェイ駅を出ると、高山植物などが自生する自然植物園が広がっている。また、地蔵山の由来ともなった、江戸時代に造られたという石の地蔵尊がどっしりと鎮座している。地蔵尊の脇から、標高1703メートルの三宝荒神山へ上る散策路があったので、歩いてみる。高山植物と低木が生い茂る中の細い道をたどって三宝荒神山頂へ。ここから見る月山、鳥海山など、たたなずく奥羽の山々の眺望はすばらしい。吹きすさぶ風の中、しばらく頂上からの眺めを楽しんだ。

三宝荒神山頂 三宝荒神山頂からの眺望

 三宝荒神山を下り、再び地蔵尊のところに戻って、今度は反対の方向、地蔵山(1736m)、熊野岳(1841m)をたどり、御釜のほうへ尾根を歩いていく。初めは、木の板を渡した遊歩道が整備されていて歩きやすかったが、だんだんと登山道になってきて、けっこう疲れた。特に熊野岳へ登るところは、道なき岩場になっていて、登山装備でない身ではきつかった。それでも無事、蔵王最高峰の熊野岳山頂にたどり着く。

熊野岳への登山道 熊野岳山頂

  熊野岳からは、馬の背とよばれる、御釜を望むビューポイントまで下っていく。眼下に眺める火山湖、御釜は、神秘的なモスグリーン色に輝いて美しかった。さらに馬の背から刈田岳まで、御釜のまわりの尾根を歩く。刈田岳付近は、さすがに観光客がいっぱい訪れていた。車やバスを利用して、蔵王エコーラインを通ってくれば、白石や山形から比較的簡単に来れるようである。
 刈田岳(1758m)の山頂に登った頃から、時々白い雲が流れてきて、御釜の湖面が見えなくなる。やはり午後になるとガスがかかることが多いようだ。早い時間に登ってきてよかった。山形へ行くバスが刈田駐車場12:30発だったので、急いで刈田岳を下り、リフトに乗って、刈田駐車場のバス停へ。

 
モスグリーンに輝く火山湖・御釜と午後になって霧のかかる御釜

 刈田駐車場からバスで、蔵王温泉を経由して、一気に山形駅まで戻る。1時間半ぐらいかかった。お昼もとっくに過ぎていて、空腹だったので、山形市内の蕎麦屋へ。初めて「三津屋」へ行ってみる。「大せいろ」を食べる。山形では老舗の蕎麦屋らしいが、ソバの味は今ひとつ。細打ちで喉越しはよいが、蕎麦の香りがあまり感じられなかった。
 不満の残る味わいだったので、もう1件別の蕎麦屋へ行くことにする。昨年も訪れた「庄司屋」へ。「板そば」を食べたが、味もボリュームも文句ない。太打ちの香り高く、しっかりとした味わいの田舎ソバは、いかにも山形のソバを食べているという印象を受ける。

 遅い昼食で満腹になって、山形駅へ戻る。山形15:43発の仙山線快速で仙台へ。仙台16:46着。仙台駅近くの仙台ロイヤルホテルに、予約なしでチェックイン。少し休憩してから、夕方の仙台の街へ繰り出す。
 まずは、文化横丁の「源氏」へ。やはりこの店に来ると落ち着く。BGMもなく、お客の会話だけが静かに聞こえる、古びた店内は、理想的な居酒屋の姿と言えるだろう。金曜日の晩のせいか、勤め帰りのサラリーマンたちで、やがて満席になってしまった。生ビール2杯と日本酒1杯を飲み、1杯頼むごとに付いて来る、煮物、冷奴、刺身などを肴に、くつろいだ時間を過ごす。

 
文化横丁飲食街とその一角にある居酒屋「源氏」

 次は、仙台メディアテーク内にある「カフェ・クレプスキュール」へ。東京のベルギービール・バー「ブラッセル」が仙台に今年オープンさせた店である。ヒューガルデン・ブロンシュ生を1杯飲む。オリジナルグラスで1杯550円は、東京では出せない値段だろう。その他のベルギービールは厳選されていて、20種類弱というところ。アサヒビールやチューハイなどを置いているのは、仙台という場所柄か。
 この仙台メディアテークは、最先端の知と文化を提供することを理念とした公共施設で、図書館やギャラリー、スタジオなどを備えている。今回、初めて3階と4階にある仙台市民図書館を見学する。広々として明るく、きれいな図書館である。2階のインフォメーション・フロアには、インターネットコーナーもあるが、残念ながら30分待ちだったので利用できなかった。

仙台メディアテーク内にある
カフェ・クレプスキュール
仙台市民図書館

  再び、一番町、国分町の盛り場をブラブラして、立ち寄る店を探す。「むささびの宿」という店へ入ってみる。店内は、丸太はだの壁と木製のテーブル、椅子で、山小屋の雰囲気。料理は、鹿や雉、鮎や岩魚、自然薯、山菜など山の幸が名物のようだ。地酒の「夢幻・吟醸原酒」と「船形おろし・吟醸」などを飲みながら、「シカ刺」、「アミタケおろし」、「天然あゆ塩焼」を食べる。シカ刺は、ルイベ状態で今ひとつ。昨夜の蔵王の宿のシカのほうがおいしかった。
 アミタケは、ナメコみたいな茸だが、食感がなかなかよい。また、天然あゆは香り高くおいしかったが、外側がもう少しカラッと焼けていればもっとよかった。地酒のほうは、「夢幻」が甘口でコクあり、「船形おろし」はサラリとして香り高い吟醸酒だった。
 だいぶ酔ってきて、最後に中華料理屋「泰陽楼」に立ち寄る。ビールとシュウマイ、仕上げに冷やし中華を食べる。どうも旅先では食べ過ぎてしまう。ホテルに戻ったのは午後11時過ぎ頃だったろうか。

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