日本全国おでん屋紀行(9)おぐ羅(銀座)

 銀座には古くから「お多幸」と「やす幸」という、おでん屋の老舗があって、今ではその暖簾わけの店の数も多くなっている。銀座界隈には同名のおでん屋が何軒もあるし、これらの店で修業後、独立して自分の店を構えている人たちも大勢いる。
 銀座の数寄屋橋通り沿いにある「おぐ羅」は、「やす幸」に20年以上いたご主人が、昭和61年に独立して始めた店だという。抹茶色の地に「おぐ羅」と白い字で書かれた暖簾をくぐり店内に入ると、ご主人の「いらっしゃいませ」という大きな声で出迎えられる。正面は、おでん鍋と調理場を囲むように15席ほどのカウンターとテーブルが8席、入口の左右には予約用の小部屋がある。場所柄、接待にも使われるのだろう。客層は、中高年層が多い。確かに値段の上でも、若い人の財布には少し負担が大きいかもしれない。ただし、おでんの味は特筆すべきものがある。

 白木のカウンター席に座り、ビールとおでんの盛り合わせを注文する。ダイコン、ロールキャベツ、ガンモ、トウフの4品だが、どれも実によい味に仕上がっている。やす幸ゆずりの透き通った塩味のだし汁が、おでん種にしっかりとしみ込んでいる。あっという間に食べ終え、追加のおでん種を選ぶ。
 この店でぜひとも食べてみたいのが、ツミレとイイダコ。ツミレはアジをミンチにしているそうで、柚子の香りがスパイスとして心地よく、絶品である。その他、季節によって旬の素材も色々とおでん種に使っているようだ。
 「おぐ羅」では、おでん以外のつまみも豊富である。旬の魚や珍味類もあって興味をそそられるのだが、私個人としては、おいしいおでんだけで十分満足している。そして日本酒は、灘の「黒松白鹿」の本醸造を置いている。ご主人が、常にお燗の状態を、小さな猪口で味見してからお客に提供している姿が印象的である 。

 「おぐ羅」は、春夏秋冬季節を問わず混雑していて、時間帯によっては入店できないこともある。しかし、夏におでんは合わないと思っている方々がいたら、これからの季節、ぜひこの店に足を運んで、冷たいビールと一緒に、おでんという日本の伝統的煮込み料理を味わっていただきたい。

おぐ羅(中央区銀座6−3−6本多ビル地下1階 03−3574−8156)

酒蔵奉行所通信第9号(平成年7年7月1日発行)掲載文を修正

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