日本全国おでん屋紀行(10)しる清(心斎橋)

 大阪のミナミで人気のおでん屋といえば、この「しる清」である。場所は心斎橋の大丸百貨店のすぐ近く、ミナミの繁華街のまさにど真ん中である。店構えは、おでん屋などと呼ぶには少々立派すぎる感じで、むしろ和風の小料理店といったたたずまいだ。店内は、カウンター、柱、天井と木製の統一的な色調で落ち着いた感じを受ける。カウンターの真ん中には大きなおでん鍋がどっしりと据えられていて、そこでおいしそうに煮込まれているおでん種を見ているだけで食欲が湧いてくる。

 おでん種はかなり豊富で、何を注文したらよいか迷ってしまう。やはり好きなものから食べるのが一番と「ロールキャベツとダイコン!」。ロールキャベツは挽き肉がたっぷり入っていてボリュームも十分だ。ダイコンは関西特有の薄口醤油のだしがしみ込んでいてよいお味。続いてユバとキンチャクを注文する。ユバは甘みと歯ごたえが絶妙、キンチャクは餅と白滝が入ったものだった。他にタマゴや牛スジのねぎまを食べたが、玉子は事前に他の鍋で煮てしっかりと下味がつけられていておいしい。 牛スジはカウンターに辛子とともに置いてある柚子味噌をつけて食べると旨い。
 以上おでんに関しては、どれを食べてもおいしく満足できるのだが、お酒が「剣菱」というのが残念。錫製のコップと受け皿で供せられるのは風情があってよいが、燗して飲んでもこの酒は水っぽくていただけない。酒杯を重ねるというわけにはいかなかった。

 「しる清」はお昼前から夜の10時まで休みなく営業している。昼はおでん定食もあって、ここで昼食をとる買物客も多い。夜は6時ごろには満席になってしまうほど、連日お客が訪れる。この店の繁盛ぶり、立地条件の良さもさることながら、廉価でおいしいおでんを提供しようという大阪人の心意気の表われではないだろうか。

しる清(大阪市中央区心斎橋1−4−9 月曜休み)

酒蔵奉行所通信第10号(平成7年11月20日発行)掲載文を修正

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