日本全国おでん屋紀行(15)親爺(富山)

 冬になると、日本海沿岸の地方都市を旅したくなる。日本付近が西高東低の冬型の気圧配置に覆われれば、太平洋側のカラッと晴れた天気とは裏腹に、日本海側は毎日どんよりとした鉛色の空の日が続く。そして、時折降る雨、みぞれ、雪。観光を目的とした旅行者であれば、避けてしかるべき季節である。
 しかし、私のような食と酒を求める者にとっては、これほど魅力的なときはない。冬の日本海の荒海で育ったカニ、エビ、ブリ、タラなどの新鮮な海の幸を肴に、しぼりたての新酒を飲むことのできる至福の季節なのである。 日本海沿岸のまちで、飲食文化が発達したところといえば、やはり石川県の金沢が一番であるが、お隣の富山も、冬はおいしい酒と肴に出会うことができる。

 富山駅前付近の飲食街に「親爺」というおでん屋がある。おでん以外の食べ物もけっこう充実しているので、この店をおでん屋と呼んでしまってよいのかわからないが、私はここのおでんが好きである。あっさりとした塩味のだし汁がよくしみ込んだダイコン、ひき肉の旨みが引き立ったロールキャベツ、味わいのある魚のツミレの他、どのおでん種も確かに美味い。
 お酒はなぜか金沢の「福正宗」の特別本醸造。含み香のきれいなこの酒をぬる燗にしてもらい、まずブリや甘エビなどの刺身をつまむ。その後、美味この上ないおでんを堪能するのである。

  店内は、一階が15人ぐらい座れるカウンター席で、2階にも座席がある様子。カウンター奥の上方には、つけ放しになったテレビがあり、その脇には神棚がある。店を取り仕切るのは、屋号のとおりオヤジ(親爺)で、その他に手伝いのオバサンが二人いる。客の注文がなく手持ち無沙汰なときは皆で世間話などしていて、あまり客の存在を意識していない様子だが、それがかえって気さくな感じをかもし出している。
 寒い冬の日に訪れれば、家庭的な雰囲気の中、おいしい酒と肴で、ほっと落ち着いた気分になれるおでん屋である。

親爺(富山市桜町2−1−7 0764−31−4415 日曜休み)

酒蔵奉行所通信第15号掲載文

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