日本全国おでん屋紀行(14)三吉(仙台)
東北随一の大都市、仙台には、昔ながらの古い居酒屋が数多く残っている。文化横丁という路地の奥にある「源氏」はその代表で、使い込まれたカウンターと椅子に年輪を感じさせ、酒を引き立たせる旨い肴を供してくれる店、一度は訪れる価値のある仙台の居酒屋の一軒である。
さて、おでん屋の方はどうかというと、仙台で最も有名なおでん屋は、一番町という繁華街にある「三吉」である。屋号の三吉は、創業時は「みよし」と読んだそうだが、お客が「さんきち」と呼ぶのでいつしか「三吉(さんきち)」になったとのことだ。
店内へ入ると、カウンターが15席、座敷に7卓ほどあって結構広い。2階と3階にも座敷がある様子で、おでん屋にしては大型店である。
カウンターの一番奥の席に案内され、まずはエビスビールの樽生を一杯。おでんは、毎度ながらロールキャベツとダイコン、そしてツブ貝を注文する。どれも透き通った塩味のだし汁がしみ込んでいておいしい。ロールキャベツは、つなぎに片栗粉を使用しているのが珍しい。あっという間に食べ終え、名物のニラ玉、かんぴょうの鉢巻きをしたイイダコ、サンマのすり身団子などを追加する。ニラ玉はニラの味わいが心地よく、すり身団子は魚の香りを強く感じた。
日本酒に移行し、秋田の「新政」の特別本醸造生貯蔵300mlを飲む。先代の店主が秋田出身とのことで、酒も秋田の酒を置いている。ほのかな吟醸香がして、きれいな味わいである。
この店を仕切るのは、長門裕之のような厚顔な面構えの二代目のオヤジで迫力がある。おでん鍋だけには、他の誰にも手を触れさせず、若い店員をいつも叱りつけている。私の座っている脇の壁には「三吉の馬鹿親父には負けました。」と書いたフランキー堺の色紙が飾ってある。きっと名物オヤジなのだろう。
店内は、比較的若い二人連れや少人数のグループが多く、オヤジの声と相応して活気がある。ひとり静かに飲むという雰囲気の店ではないが、なかなかユニークなみちのくのおでん屋であった。
三吉(宮城県仙台市青葉区一番町4−10−8 022−222−3830 日曜休み)
酒蔵奉行所通信第14号(平成11年3月1日発行)掲載文を修正
おでん屋紀行(15)へ 目次へ戻る
COPYRIGHT 2001 H.NAKAJO