ビールを注文し、カウンター前のおでん鍋を見ると、味噌味のおでんばかりではなく、透明なだし汁に浸かった関西風おでんもある。しかし、やはり私の目は味噌おでんの方へ引き寄せられた。「ダイコン、コンニャク、スジ、タマゴ」とお願いする。赤味噌のだし汁にどっぷりと浸かったこれらのおでんの味わいは「甘みとコク」と表現するのがよいかも知れない。次に串かつを注文する。ここの串かつは、先の赤味噌のだし汁に一回ドボンと放り込んだ後に供される。名古屋名物の味噌カツは、こうした屋台のどて焼きから生み出されたと言われる。東京人の私には新鮮な味わいでだった。カツのソースとして、八丁味噌がこれほど適合するとは。立派な食文化だと思った。
日本酒は、広島の「賀茂鶴」を置いている。熱燗で一杯飲んでみたが、味噌おでんとの相性は今ひとつだった。しかしこの店は、おいしい味噌おでんの味と、客同士が肩を寄せ合って飲んでいる店内の雰囲気とで十分に満足だった。
今年になってからつい先日、再度この「島正」を訪れてみたが、店は閉まっていて「6月〜9月は土曜・日曜連休致します。」との看板がぶら下がっていた。
島正(名古屋市中区栄2−1−14 052−231−5977)
酒蔵奉行所通信(平成6年7月20日発行)掲載文を修正
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