日本全国おでん屋紀行(6)島正(名古屋)

 おでんをその味付けからタイプ分けした場合、一般に「関東風」と「関西風」に分類することができる。関東風のおでんは、黒々とした醤油をベースとしただし汁で煮込まれていて、いかにも味が濃そうである。これに対して、関西風は薄口醤油または塩味を基本とし、おでん種がだし汁によってそれほど変色せず、見た目が美しいところに特色がある。また、一見薄味に見えるが、食べてみると結構塩辛いものも関西風おでんには多い。いずれにしても、味わいを左右するのは、だし汁の旨みしだいと言えるだろう。

 全国のほとんどのおでんは、この2つのタイプにわけられるのだが、愛知県にはもうひとつ独特な味のおでんがある。八丁の赤味噌を使用した別名「どて焼き」とも呼ばれる味噌味のおでんである。名古屋の地下鉄伏見駅から歩いて数分のところにある「島正」は、戦後の屋台の味を守る味噌おでんの店である。店内はカウンターのみでそう広くはない。昨年初めてこの店を訪れたときは、ほとんど満席状態、かろうじて入口付近の一席を確保することができた。

 ビールを注文し、カウンター前のおでん鍋を見ると、味噌味のおでんばかりではなく、透明なだし汁に浸かった関西風おでんもある。しかし、やはり私の目は味噌おでんの方へ引き寄せられた。「ダイコン、コンニャク、スジ、タマゴ」とお願いする。赤味噌のだし汁にどっぷりと浸かったこれらのおでんの味わいは「甘みとコク」と表現するのがよいかも知れない。次に串かつを注文する。ここの串かつは、先の赤味噌のだし汁に一回ドボンと放り込んだ後に供される。名古屋名物の味噌カツは、こうした屋台のどて焼きから生み出されたと言われる。東京人の私には新鮮な味わいでだった。カツのソースとして、八丁味噌がこれほど適合するとは。立派な食文化だと思った。
 日本酒は、広島の「賀茂鶴」を置いている。熱燗で一杯飲んでみたが、味噌おでんとの相性は今ひとつだった。しかしこの店は、おいしい味噌おでんの味と、客同士が肩を寄せ合って飲んでいる店内の雰囲気とで十分に満足だった。
 今年になってからつい先日、再度この「島正」を訪れてみたが、店は閉まっていて「6月〜9月は土曜・日曜連休致します。」との看板がぶら下がっていた。

島正(名古屋市中区栄2−1−14 052−231−5977)

酒蔵奉行所通信(平成6年7月20日発行)掲載文を修正

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