金沢のおでん屋は、どの店に入ってもまず間違いなくおいしいおでんを味わうことができる。私は金沢へ行くたびに数軒のおでん屋をハシゴするが、どの店で食べてもおでんはいつもおいしく、よい意味で大差がない。そこで、私のような酒呑みとしては、どんなおいしい地酒を飲めるのかが興味の的となってくる。
香林坊の北国新聞社ビルの裏にある「よし坊」は、日本酒の品揃えが豊富で、おいしいおでんと地酒双方が楽しめる店である。狭い入口の扉を開けて中へ入ると、奥へと長いL字型の白木のカウンター、さらにその奥には、若干の座敷がある。照明が明るいためか、店のスタッフが若いためか、おでん屋にしては妙に明るい雰囲気で、ひとりカウンターでうなだれて酒を飲む感じではない。
客層は、地元のサラリーマン、ОLの類いが多い。カウンターの内側では、兄弟とおぼしき同じような眼鏡をかけた二人の若者が忙しく立ち働いている。
ひとりでカウンター席の片隅に腰掛け、そこに置かれた1枚の紙のメニューを見る。日替わりメニューがワープロ打ちされていて、おでん以外のつまみも充実している。刺身、焼物、煮物と何でも揃っている。しかし、「私はおでんを食べに来たのだ」とおいしそうなつまみの誘惑にかられながらも、おでん種を次々と選んで食べた。ロールキャベツ、ダイコン、ガンモ、エビ天、牛スジと。ロールキャベツは挽き肉と玉ねぎがたっぷり、ダイコンはだし汁がよくしみ込み、名物の大きなガンモの中からは銀杏や山菜が出てきてボリュームたっぷりだった。もうひとつの名物、カニの甲羅の中に身の部分をしっかり詰めたカニメンは残念ながらこの日はなかったが、これだけでもけっこうお腹はいっぱいになった。
おでんを食べながら、酒は「手取川」の大吟醸杯、「天狗舞」の純米原酒2杯を飲む。小グラスで、1杯あたりの量は少ないが、価格は良心的だ。地酒のメニューには、他に「菊姫」、富山の「名誉北洋・越中懐古」、「勝駒」などの銘柄が載っている。以前飲んだ「勝駒」の純米酒はとても旨かった。
「よし坊」は、酒と肴の質、量、価格どの点でもお客を満足させてくれる店。今、金沢では、私のイチオシのおでん屋である。
よし坊(石川県金沢市香林坊2−4−21 076-221-8048 日曜・祝日休み)
酒蔵奉行所通信第11号(平成8年4月1日発行掲載文を修正)
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