日本全国おでん屋紀行(8)たこ梅(道頓堀)

 おでんは別名「関東煮」と呼ばれるぐらいだから、もともと関東の食べ物であったに違いない。しかしながら、現在大阪を中心とした関西地方でも、おでんは日常的な食べ物としてすっかり定着し、それを商売にするおでん屋の数も多く、どの店も賑わっているようである。

 大阪の道頓堀川沿いにある「たこ梅」は、古くからこの地で営業を続けるミナミを代表するおでん屋である。 大きく「たこ梅」という文字が染め抜かれた暖簾をくぐり店の中に入れば、そこは外の路上の喧騒とはまったく無縁の別空間。昭和初期にタイムスリップしたような異次元の世界が広がる。カウンター席のみ20席余り。
 おでんはカウンターにはめ込まれた鍋でぐつぐつと煮立てられ、店内にはおでん鍋から立ち昇る湯気と匂いがほのかに漂っている。割烹着姿の粋な感じの女将さんが、てきぱきと客の注文をさばいていく。他にもうひとり、お手伝いのおばさんもいる。

 カウンター前の椅子に腰掛け、まずはビールとゴボ天、玉子、里イモなどおでん、そして名物のタコの甘露煮を注文する。タコを丸ごと煮たものを切って出すのだが、これがやわらかくて本当に旨い。おでんは昔なつかしいアルマイト皿に盛られて供される。だし汁が濁っているのは、おでんを煮立てるためだろうか。このだし汁がしっかりとおでん種にしみ込んでいる。 追加で珍味のサエズリ(クジラの舌)を注文する。高価なおでん種らしいが、不思議な味わい。一度食べてみる価値はあるだろう。
 ビールを飲み切り日本酒に移行する。ここでは灘の「黒松白鹿」の特別本醸造を置いている。燗で二杯飲んだが、かすかな吟醸香が感じられ、コクがあっておいしかった。錫製のポットから錫製のコップに注いでくれるのも風情があってよい。

 何かの機会があって大阪へ行くことがあったら、この「たこ梅」に立ち寄り、浪速のレトロな雰囲気に浸ってみるのもよいだろう。

たこ梅(大阪市中央区道頓堀1−1−8 06−6211−0321 日曜休み)

酒蔵奉行所通信第8号(平成7年2月20日発行)掲載文を修正

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