「松 扇」(新井薬師)
西武新宿線の新井薬師駅南口から、新宿方向に線路沿いの道を歩くこと数分、商店街のはずれある。間口が狭いので、「石びきそば」と「そば処」という幟がなかったら通り過ぎてしまうかもしれない。
店内は、カウンター10席と申し訳程度のテーブル席が少し。オープンキッチンなので、カウンターに座れば、目の前での職人たちの仕事が丸見えである。ソバをゆでたり、天ぷらを揚げたり、酒や肴を供したりと、テキパキとしていて動きに無駄がない。
ほとんど板前割烹の雰囲気である。
ここでは、まず冷酒を飲みながら、旨い酒の肴をつまみたい。日本酒は、「上喜元」、「黒龍」、「芳水」、「菊姫」など銘酒が厳選されている。「おつまみ盛合せ」が1500円。季節で内容は若干変わるようだが、刺身蒲鉾、穴子マリネ、鴨つくね、きす天など合わせて8品ほどが少しずつ一皿に盛られている。
今まで食べた中では、「そばの刺身」というのが珍しくておいしい。蕎麦粉を固めたものを薄切りにして、刺身のようにワサビ醤油で味わうものだ。また、「穴子の煮こごり」も、穴子の旨みが引き出された煮かたで、だしゼリーとからんで美味である。
メインのソバのほうは、「せいろ」が900円。大盛りが1200円。自家製粉の細打ちで、蕎麦の黒皮の部分がかなり入っていて、風味が抜群である。食感は、田舎風味というか、口中でざらつくゴワゴワ感があるので、人によって好みが分かれるところである。
ツユは、ややしょっぱいのが気になるが、キレがあってさほど濃くなく、ソバの風味を生かす。
店内には、ジャズや軽音楽がBGMとして流れていて、気持ちよく酒と肴、ソバを楽しむことができるような空間を演出している。
味4、雰囲気4、対応4、CP3 計15
評価時期 平成15年7月22日
データ 中野区上高田3−18−3 03−5343−3483 11:30〜15:00 18:00〜22:00 月曜休み
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「松 月」(久我山)
井の頭線の久我山と三鷹台のちょうど真中ぐらい、住宅地の中にある。外から見ると、ごく普通の町場の蕎麦屋である。テーブル席のみの店内は小ぎれいだが、テレビがつけ放しになっていて、お世辞にも風情があるとは言えない。メニューを見ても、「親子丼」や「カレーライス」など御飯ものもけっこう載せられている。
ソバを注文しても、運ばれてくるまで、本当においしいソバが食べられるのか不安である。ただ、打ち場があるので、手打ちのソバが供されるであろうことはわかる。
「せいろ」は、2段重ねでボリュームがあって600円、「大盛り」は、なんと3段重ねで850円である。しかもみずみずしく輝く、すばらしい細打ちの手打ちソバ
である。蕎麦の香りも高くて上品、なめらかな口あたりで、ツルツルと食べることができる。唯一、合わせるツユにキレがなく、ややもったりとしているのだけが残念である。
また、刻んだ油揚げや散らし海苔のたっぷりかかった「冷やしきつねそば」(750円)もおいしい。ツユが別に供され、自分でソバにかけるいわゆる「ぶっかけ」である。
店の外観や雰囲気などからでは想像できない、お値打ちの手打ち蕎麦屋である。
味4、雰囲気3、対応3、CP4 計14
評価時期 平成13年9月14日
データ 杉並区久我山4−41−19 03−3334−7385 11:30〜20:00 不定休
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「香り家」(恵比寿)
洒落た隠れ家的な飲食店の多い恵比寿の街にある蕎麦屋らしく、落ち着いた雰囲気の店である。昼間は軽音楽、夜はジャズが流れる店内には、大きな木製のテーブルと木製の椅子。ソバや酒の肴を盛る器はすべて民芸陶器である。
ここで供されるソバは、山形県葉山山麓天童産の蕎麦粉を使った板ソバ。「蕎麦切り」(850円)を注文すると、大きな箱板に山形らしい太い田舎ソバがたっぷりと盛られて来る。蕎麦の香りはおとなしいが、太さのわりにはなめらかな食感で、ツルツルと食べることができる。
合わせるツユは甘めながら、ソバとの相性は悪くない。ボリュームを考えれば、十分満足できる味わいである。「蕎麦切り」のおかわりは600円。「鴨汁蕎麦切り」(1050円)、「かき揚げ蕎麦切り」(1150円)など温かい汁で食べる板ソバもおいしい。
また、「きざみそば」(900円)、「花巻そば」(980円)などかけ汁で味わうソバはなぜか細麺である。冷製と同じ太麺でもよいのではないだろうか。
ソバ前の酒の肴も充実している。やや甘めだが「出し巻き玉子」や「棒だきにしん」、クリーミーな「汲みあげ湯葉」、酒が進む「焼き味噌」など、蕎麦屋定番の肴をつまみながら、「月山」、「吉乃川」などの地酒を楽しむのもよい。
夜は、ほとんど居酒屋のように利用されているので、長居している客も多い。空き席待ちで、入店できないことも度々であるが、店の雰囲気とコストパフォーマンスのよさが人気の秘密だろう。
味3、雰囲気4、対応4、CP4 計15
評価時期 平成14年5月18日
データ 渋谷区恵比寿4−3−10 03−3449−8498 11:30〜4:30 第1日曜休み
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「すが原」(阿佐ヶ谷)
阿佐ヶ谷は手打ち蕎麦屋の宝庫である。しかも、ここ数年のうちに、新しく開店した店が多い。「すが原」も、そんな新進気鋭の蕎麦屋の一軒である。
JR阿佐ヶ谷駅北口から歩くこと数分、杉並第一小学校のそばにひっそりと店を構えている。入り口の間口がとても狭いので、初めて訪れると、蕎麦屋とわからず通り過ぎてしまうかもしれない。
店内は、うなぎの寝床のように、奥へと細長い空間が広がっている。白い壁、木製のテーブルと椅子、竹の簾など落ち着いた雰囲気は、モダンなリビングルームに招かれた印象も受ける。簾で仕切られた個室のようなコーナーも含めて、おそらく15人も入ればいっぱいになってしまう感じである。
冷製の「うすもりせいろ」は550円。横長の長方形の箱笊に盛られたソバは、細打ちでしっかりとしたコシがあり、口中に豊かな蕎麦の風味が広がる。合わせるツユは、味のバランスよく洗練されていて、ソバとの相性もよい。
土日・祝日にのみ打たれる「粗挽きせいろ」(1200円)は、黒い外皮が打ち込まれていて、さらに風味が高い。同じく繊細な細打ちで、ややざらつく食感が特徴。「うすもり」と価格差があるのは、倍量のためのようである。
また、この店で特にお薦めしたいのが、「鴨南蛮」または「鴨せいろ」(いずれも1500円)。蕎麦屋ではなかなかお目にかかれない上質の鴨肉を使用している。包丁で切れ目を入れ、外側に焼き焦げをつけた太い長ネギは、見た目に美しくおいしい。鴨汁も、脂がギトギトとしていなく、ソバの味を殺さない上品な味わいである。
その他、刺激的な辛さの「辛味大根せいろ」(900円)は、健康的な感じで、食後の爽快感が心地よい。ふりかけられている蕎麦の実も香ばしい。
「だし巻玉子」、「やきみそ」、「わさび芋」など蕎麦屋定番のつまみもあって、「王禄」、「竹鶴」などの銘酒とともに味わうこともできる。隠れ屋的な蕎麦屋として、末永く営業を続けてほしい店である。
味4、雰囲気4、対応4、CP3 計15
評価時期 平成15年9月27日
データ 杉並区阿佐谷北1−4−11 03−3310−4147 12:00〜15:30 18:00〜21:30 水曜休み
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「さらしなの里」(築地)
創業は明治時代というから、更科系の蕎麦屋では老舗である。マンションの地下1階から2階までを店舗として使っていて、1階の入り口正面に、製粉機の回る、ソバ打ち場がある。一般のテーブル席は階段を降りた地下1階、2階にはちょっとした集まりに使える座敷があるようだ。地下1階のの店内は、喫煙席と禁煙席に分かれていて、けっこう広い。
酒の肴がいろいろとあるので、まずは一杯飲みたくなる。酒は新潟の銘酒「鶴の友」や「菊正宗」の樽酒がよい。鶴の友は本醸造と純米があって、いずれもすっきりとした辛口、菊正宗は、樽味が心地よく、やはり蕎麦屋で飲む菊正は旨いと実感する。
名物は「そば田楽」、「信州揚げ」、「そば寿司」などのそば料理。とりわけ「信州揚げ」は、蕎麦の実を衣に付けて揚げた鳥肉のササミのから揚げで、蕎麦の実の味が香ばしく、肉もやわらかくておいしい。
その他、「板わさ」、「鳥わさ」、「穴子巻」などの肴も、素材が良質でよい。「穴子巻」は、穴子入りの玉子焼だが、あっさりした味付けで、酒の味を邪魔しない感じである。
普通のもりそばである「手打ちそば」、真っ白い「さらしなそば」とも700円。他に、毎月変わる12種類の季節の変わりそば(800円)を打っている。「手打ちそば」は、香りは意外とおとなしいが、細打ちでなめらかな喉越しである。甘味も辛味も強い江戸前のツユは、かなり濃いので、ソバにあまり浸さないほうがよい。
江戸っ子風に、酒とソバを楽しむことのできる蕎麦屋である。
味3、雰囲気3、対応3、CP3 計12
評価時期 平成13年11月12日
データ 中央区築地2−2−7 03−3541−7343 11:30〜20:30(土曜は11:30〜14:30) 日曜・祝日休み
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