旅師が評価する東京の蕎麦屋(東京都区内)
閉店した店 むさし野(武蔵関) 橡(とち)(練馬) 目黒一茶庵(目黒)
上野の不忍池のすぐ近くにあって、江戸情緒を漂わせる、風情あるたたずまいの蕎麦屋である。神田藪、並木藪と並ぶ、藪御三家の一つと称されるだけあって、店内の雰囲気や店員の接客にも老舗の風格が感じられる。
「板わさ」、「焼のり」、「はしらわさび」、「天ぬき」など江戸前定番の肴が揃っていて、ソバを食する前に思わず一杯やりたくなる。酒は白磁の徳利で供されるが、どうも菊正宗の樽酒のようである。お通しに、蕎麦の実の入った焼き味噌が付くが、水飴を使っているのか、けっこう甘い。
酒の肴は、前述の江戸前のつまみから、自分の好みで選ぶことになるが、ここでは珍しい「そばなえ」を食べてみたい。蕎麦の芽をおひたしにしたものだが、まずその新芽の鮮やかな緑色に目を奪われる。味も癖がなく酒のつまみには好ましい。
仕上げの「ざるそば」(600円)は、笊を裏返したところに盛られている。少量なので、「汁なし」(550円)をもう一杯追加する必要がある。ソバは細打ちで長く、風味はほどほどといったところ。時として、茹で過ぎでソバがやわらかくなっていることがある。
ツユはキリッと締まっているが、やや醤油味が強く、しょっぱい。ソバには軽く浸すようにしたほうがよい。
土日や昼時は混雑していて、行列ができることもある。ゆっくりと江戸情緒を味わうなら、混雑時を避けて訪れる必要がありそうだ。
味3、雰囲気5、対応4、CP3 計15
評価時期 平成18年2月10日
データ 文京区湯島3−44−7 03−3831−8977 11:30〜14:00 16:30〜20:00 水曜休み
上野のアメ横とはJRの高架線を隔てて反対側、繁華街の中の近代的な2階建てのビルで営業している。店内はこぎれいだが、1階はテーブルの配置などのせいか少し窮屈な印象を受け、ゆったりとくつろげる感じではない。また、お昼時はけっこう混雑、タバコの煙が充満していて閉口するときもある。
しかし、伝統のソバの味は、さすがに老舗らしいレベルを保っている。冷製の「せいろ」は685円、大盛は210円増である。
中細打ちの麺は、エッジがしっかりとして、コシのある独特の食感。蕎麦の香りもなかなか高くて、おいしいソバである。
ソバツユは、江戸前の伝統的な濃いものなので、あまり浸すと風味を損ねる恐れがある。一掴みすくったソバの先に少しつけてすすったほうがよいだろう。
上野駅にも近く、買物帰りや美術館めぐりの帰りに、少し小腹が空いたときには重宝する食事処である。
味4、雰囲気3、対応3、CP3 計13
評価時期 平成17年3月15日
データ 台東区上野6−9−16 03−3831−4728 11:30〜20:30 水曜休み
藪御三家の中にあって、堂々たる風格と風情をを漂わせた老舗である。それほど広くない店内は、テーブル席と小上がりの座敷席に分かれていて、余計な装飾がなく意外にシンプル。しかし長年のうちに形づくられたであろう、独特な年季が感じられる。
昼時は常に混雑しているので、相席になることも多く落ち着かないが、少しピークをはずした昼下がりともなれば、ご隠居気分で一人酒を楽しむことができる。日本酒は灘の生一本「菊正宗」の樽酒。杉枡の中に白磁の一合徳利を立てた状態で供される。お通しに、水飴状の「そば味噌」が少量添えられる。
ほのかな杉樽の香りが心地よいこの酒に、合わせる肴は、「板わさ」、「わさび芋」、「焼のり」など定番の江戸前の品々。または、通ぶって「天ぬき」、「鴨ぬき」などで一杯やるのもお洒落である。
ソバのほうは、「ざるそば」、「かけそば」とも650円。「ざるそば」は池之端と同じく笊を逆さにしたところに盛られている。少量なので、2枚食べて一人前という感じである。麺はやや茶色い細打ち、香りもそこそこあって、長くて喉越しがよい。ツユは、ここまで濃くなくてもというほど濃くて、醤油味が強い。あまり浸さないように要注意である。
他に種物では、かき揚の入った「天ぷらそば」、季節限定の豪快な「鴨南蛮そば」も人気メニューである。
白衣を着たオバさんたちの接客もよく、注文を伝える声にも風情が感じられる。いかにも浅草という場所にふさわしい、江戸情緒たっぷりの蕎麦屋である。
味3、雰囲気5、対応4、CP3 計15
評価時期 平成17年3月22日
データ 台東区雷門2−11−9 03−3841−1340 11:00〜19:30 木曜休み
池袋の大通り沿いにあるが、正面の間口が狭いので、気をつけていないと通り過ぎてしまう蕎麦屋である。中はウナギの寝床式になっていて、テーブルが縦にいくつも並んでいる。
一番奥の席には自在鉤に鍋がかけられ、囲炉裏には炭も入っている。落ち着いた店内で、くつろいでソバを味わうことができる。
ソバは、やや太く黒っぽい田舎風で、コシがあって噛みごたえがある。
「もり」が560円、ニ段重ねの「重ねもり」が860円。量も、東京の蕎麦屋としては、多いほうである。つゆがややしょっぱく、コクがないのが残念である。
また、「鴨せいろそば」は、つけ汁に豪快に鴨肉が入っていて、なかなか食べごたえがあってよい。
ソバを食する前に、お酒「信州の地酒」と板わさを注文したところ、蒲鉾板1本分ぐらいの量はある、紅白のカマボコの切り身が出てきて腹にもたれてしまった。一人で食べるには多すぎるように思う。
気楽に立ち寄って、気持ちよく素朴な信州ソバを楽しむことができる店である。
味3、雰囲気4、対応4、CP4 計15
評価時期 平成13年7月19日
データ 豊島区池袋2−14−2 03−3986−2091 11:00〜15:30 17:30〜20:00 火曜・月に2回水曜休み
JR荻窪駅南口からやや離れた環八通り沿いに、ひっそりと暖簾を出している。静かにジャズの流れる店内は、照明を落とした落ち着いた雰囲気で、ゆっくりとくつろぐことができる。
一角にはご主人がソバを打つ部屋があって、ガラス越しに中を覗くことができる。部屋の奥では電動石臼が回っている。
厳選された日本酒が各種あって、「そば豆腐」、「卵焼き」、「鳥わさ」、「穴子のにこごり」、「越後もずく」などを肴に、まずは一杯飲みたくなるところである。
「せいろ」(800円)は繊細な極細打ちで、蕎麦の香り高く滋味あふれる。やや水切りが悪いのがのが残念である。つゆは洗練されていて、バランスよくコクがあって、ソバとの相性もよい。
「鴨南蛮」や「鴨せいろ」(1500円)は、柚子や山椒の芳しい香りと、鴨からしみ出たダシによって、つけ汁の旨みが高められ、
この汁がソバやネギにからんでなんとも美味である。ただ、繊細なソバのため、温かい汁につかっている間にとけてきてしまい、ソバの食感を失ってしまうのも事実である。
同じ荻窪の「本むら庵」で修業したというご主人の繊細な石臼挽き手打ちソバ、蕎麦本来の味を楽しむなら、やはり冷製の「せいろ」がよさそうである。
味4、雰囲気4、対応4、CP3 計15
評価時期 平成13年11月8日
データ 杉並区荻窪2−30−7 03−5397−0118 11:30〜14:00 17:30〜20:00
水曜・第3木曜休み
数ある杉並区内の蕎麦屋の中では、老舗中の老舗の蕎麦屋である。JR中央線の荻窪と西荻窪の間、住宅街の中にあって、風情あるたたずまいで暖簾を掲げている。店内は広い奥座敷とテーブル席が多数ある。
平日でも時間帯によってはかなり混雑するが、騒々しい雰囲気ではないので、比較的落ち着いて、酒とソバを楽しむことができる。
ソバを食べる前に、「そば豆腐」や「玉子厚焼」、「磯揚」などを肴に「升酒」を一杯いただきたい。升酒は剣菱の樽酒で、杉樽の香りがさわやかである。磯揚は、海老を芯にしたソバの巻き寿司を揚げたもの。スパイスがきいていて酒のつまみには好ましい。
「せいろそば」は1枚682円。事前に生ワサビとソバツユが供される。ワサビを自分でおろしながら待つことしばし。運ばれて来るソバはかなり粗挽きの細打ちで、蕎麦の香りが抜群である。それほどツユをつけなくても食べられるほど風味が高い。ツユ自体もやや薄め、甘辛のバランスがよく、ソバとの相性は悪くない。
また、 「田舎そば」は1枚735円。太打ちのソバで、やはり蕎麦の香りは高いが、口中でのざらつく食感がかなり強い印象である。
その他、究極のソバともいえる「薬膳そば」(735円)も一度は味わってみたい。現在の蕎麦の原種といわれるダッタン種を原材料としていて、野趣あふれる風味と食感は印象深い。色はかなり茶色っぽく、蕎麦皮の味わいの強い、細打ちソバである。
店は大正13年創業とのことで、今や六本木とニューヨークに支店を持つ、日本を代表する蕎麦屋である。また、ここで修業した後、独立開業し活躍している職人も数多く輩出している。
味5、雰囲気5、対応3、CP4 計17
評価時期 平成18年3月10日
データ 杉並区上荻2−7−11 03−3390−0325 11:00〜21:30 火曜休み
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