「ふるやま」(阿佐ヶ谷)

 小さな隠れ家的な蕎麦屋である。地下鉄丸の内線の南阿佐ヶ谷駅から歩くこと数分、成田東の住宅街の中にひっそりと暖簾を出している。店へ入ると、6人掛けのカウンター席と4人掛けのテーブル席が2か所あるのみで、確かにこじんまりとしている。
 しかし、店内の風情はとてもよく、木製のテーブルや椅子、土の塗り壁など、洒落た居酒屋といういう感じで、BGMも静かなモダン・ジャズが流れている。
 ここでは、「東北泉」、「王禄」、「九平次」など厳選された銘酒でまず一杯といきたい。酒の肴も豊富で、「そば味噌」、「卵焼き」、「板わさ」など昔ながらの蕎麦屋の肴をはじめ、鴨料理、天ぷら、小鍋料理など多彩である。珍しいのは、「そば若菜の辛し和え」で、さっぱりとして、食感が心地よくおいしい。

 ソバは、「せいろ」が650円。ネマガリダケの編み笊に盛られて供される。蕎麦の風味が豊かな細打ちのソバ、喉越しもよい。
 また、特にお薦めしたいのが、「鴨つくねせいろ」または「鴨つくねなんばん」(いずれも1000円)。やわらかい鴨つくねの味わいが何とも美味。鴨だしの旨みが口の中に広がる汁の味もすばらしい。
 家の近くにこんな店があったらいいなと思わせる、住宅地のなかの快適な蕎麦屋である。

味4、雰囲気4、対応3、CP4 計15

評価時期 平成13年12月7日

データ 杉並区成田東4−26−12 03−5378−0233 11:30〜15:00 17:30〜21:30(土日・祝日は11:30〜21:30) 水曜休み

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「蕎麦善」(四ツ谷)

 四ツ谷駅から歩いて数分、商店街にとけ込んだ、一見町場の蕎麦屋である。しかし、入口脇のガラス越しには、電動石臼のある打ち場が見えるので、自家製粉の手打ち蕎麦屋とわかる。
 店内は、テーブル席のみで、25人ぐらいは入れるだろうか。昼時は混雑し、近所のサラリーマンとOLで満席になるので、相席を覚悟する必要がある。
 蕎麦は、北海道旭川近くの江丹別産の玄蕎麦を自家製粉、健康に配慮してアルカリイオン水を使って打っている。冷たいソバは、普通の「せいろ」が600円(2枚せいろ1000円)、「生粉打ち」が1000円。いずれもやや荒挽きの細打ち、香り高いソバだが、「生粉打ち」の風味の豊かさは絶品である。もちろん、「せいろ」でも風味十分で、この品質のソバでこの値段はかなりのお値打ちでである。

 残念なのはソバツユ。もったりとした濃い目の甘辛いツユは、繊細なソバの風味を損ねてしまう。薄めの辛口のツユなら、きっとソバの味を引き立てることだろう。
 また、この店の名物「生桜海老かき揚げそば」、「生しらすかき揚げそば」(冷製、温製いずれも1000円)も食べてみたい。ボリュームのあるかき揚げは、カラッと揚がっていて香ばしい。ただ、かき揚げの衣の部分が多いのと、温かいソバの場合、繊細なソバが汁に溶けてしまうのが少し気になる。
 ソバ前酒は、珍しい滋賀の「不老泉」をはじめ、「黒牛」、「加賀鳶」などの銘酒を揃えていて、「合鴨ねぎ焼き」、「そば鬼揚げだし」などの肴とともに楽しむこともできる。
 気軽にレベルの高いソバを味わうことのできる蕎麦屋である。

味5、雰囲気3、対応3、CP4 計15

評価時期 平成14年1月8日

データ 新宿区四谷1−22−12 03−3355−8576 11:30〜15:00 17:30〜21:00(土曜は11;30〜15:00のみ) 日曜・祝日、第2・第4土曜休み

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「玄蕎麦・野中」(練馬)

 西武池袋線の練馬駅あるいは中村橋駅から歩くこと15分ほど、住宅街の中にあって風情あるたたずまいを見せる蕎麦屋である。店の出入り口脇には、ガラス越しに石臼があり、その日使われている蕎麦の産地、品種、水分、香り、甘味が明示されている。
 店内へ入ると、普通のテーブル席と靴を脱いで上がるテーブル席(以前は座席だった。)に別れていて、調度品や坪庭などに蕎麦屋らしい落ち着いた空間を感じることができる。
 居心地がよいので、ソバだけ食べて帰るののは惜しく、思わず一杯飲んでしまう。
 日本酒は、地方の銘醸酒をそろえていて、この店ではお燗して飲むことを薦めている。酒の肴も豊富にあって悩むところだが、名物の「こだわり豆腐」はぜひ食べてみたい。秩父の神泉村の湧水、伊豆大島の天然にがり、有機栽培の大豆を使用した温かい手造り豆腐で、クリーミーで口の中でとろける食感とコクのある味がすばらしい。

 ソバのほうは、「せいろ」が550円、「二枚重ね」が850円という、自家製粉・手打ちの店にしては良心的な値段。極細打ちでやや荒挽きの風味のあるソバ、しっかりとコシを残した茹で具合もよい。ツユは、やや甘めであるのが、バランスはよい。
 他に「手挽き田舎そば」(1000円)というソバがあり、毎日限定20食のやや黒っぽい極細打ちの田舎ソバである。
 また、明石産の穴子を使用した「穴子天せいろ」や旬の野菜だけを揚げた季節の「天せいろ」、車海老、ホタテ、メゴチなど魚介類を揚げた「魚介天せいろ」など、天種物も充実している。いずれも衣がサクッと揚がっていて、素材の味が生きていて、確かな職人仕事を感じる。
 酒器やソバを盛る皿、湯桶入れなどは民芸調の陶器で統一され、大根おろし、本ワサビ、ネギを盛った小桶も洒落ている。こうした細かいところへの気遣いも、この店が繁盛している理由のひとつだろう。
 決して有利な立地にあるとは思えないが、地元の家族連れや遠方からの客が訪れる人気店、平日でも空き席待ちで並ぶことが度々ある。

味5、雰囲気4、対応4、CP4 計17

評価時期 平成15年7月2日

データ 練馬区中村2−5−11 03−3577−6767 11:00〜15:00 17:00〜20:00 月曜・第3火曜休み

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「橡(とち)」(練馬)

 西武池袋線の練馬駅から歩いて数分、繁華街とは反対の練馬消防署の裏にある小さな蕎麦屋である。静かにクラシック音楽が流れる店内は、店名の由来になった橡の木を使ったと思われる床や壁、大きなテーブルが二つあって、せいぜい13〜14席ぐらいだろうか。狭いので全席禁煙となっている。
 自家製粉の店ということで、なかなかレベルの高い手打ちソバを供している。冷製の「粗びき」のせいろソバは800円(大盛1100円)。荒挽き特有の小さな粒を残した細打ちで、ツユをつけずに食べることができるほど香り高く、風味も抜群である。やや短く切れてはいるが、ヌメリのある食感があってよい。
 合わせるツユは洗練されていてバランスがよいが、ちょっと濃すぎる感があり、この風味豊かなソバの味を生かすには、もう少し薄くてもよい気がする。
 また、限定で打たれる「手びき常陸」(1000円)というソバもあるが、予約がないとなかなか食べることはできないようである。

 ソバ前酒と肴も充実している。塩をつけていただく「天ぷら」は、天然エビを使用。2尾づつまとめ揚げされていて、身はホクッとして甘味がある。尾っぽの部分はカラッと揚がっているので、エビの香ばしさを楽しむことができる。「にしんうま煮」もよい。何日も時間をかけて煮込んでいるようで、ツユがよくしみ込んでいて深い味わい。やわらかで、口当りも非常によい。
 他にも、硬めのおぼろ豆腐とごま豆腐を盛り合わせた「二色とうふ」、自家製酢醤油につけた「わらびの一本漬け」などこだわりの肴が揃っている。ビールはエビス、日本酒は「日置桜」、「舞姫・翠露」、「浜千鳥」、「出羽桜・雪漫々」などの銘酒を厳選して置いている。
 夫婦二人でやっているこじんまりとした、隠れ家的な蕎麦屋だが、食に対するこだわりを強く感じる魅力的な店である。

(平成15年に閉店しました)

味5、雰囲気4、対応4、CP3 計16

評価時期 平成14年6月30日

データ 練馬区豊玉北5−1−1 03−3991−3699 11:30〜16:00 火曜・第3月曜休み

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「甲子(きのえね)」(江古田)

 西武池袋線の江古田駅のすぐ近くにあって、蔵造りの店構えと大きな紺の暖簾が印象的な蕎麦屋である。
 店内は、昔ながらの町場の蕎麦屋の雰囲気で、しっとりと落ち着いている。整然と並べられた木製の大テーブルと椅子、色茶けた天井板と梁、レトロな笠をかぶった裸電球が吊り下がっている。
 最近流行のニューウェーブの蕎麦屋のようなジャズやクラシックなどBGMを流すこともなく、客の会話による静かなざわめきが、よい雰囲気を盛り上げている。

 こうした店で、昼酒を楽しむのは気持ちがよい。日本酒は東京の地酒「澤乃井」。キリッした辛口の淡麗な酒である。
 酒の肴は、「そば味噌」、「玉子焼」、「板わさ」、「わさび芋」など蕎麦屋定番のものが揃っているが、珍味の「浜納豆」をつまみながら一杯やる酒はまた格別である。見た目は味噌豆を乾かした感じで、濃厚な味噌の味わいに生姜のアクセントが加えられていて、これだけでも酒がクイクイと進んでしまう。
 ソバは「もりそば」が600円。2段重ねになっているが、1枚の量は少ない。多くの客が追加(1枚300円)を注文している。太い平打ちのソバで、蕎麦特有の香りはおとなしい。茹で方もやわらかめである。ツユは甘辛く濃い江戸前風で、あまりソバに浸さないほうがよいだろう。
 接客もしっかりとしていて、蕎麦屋で憩うにはもってこいの店である。

味3、雰囲気5、対応4、CP4 計16

評価時期 平成14年6月30日

データ 練馬区栄町6−10 03−3991−0338 12:00〜15:00 17:30〜20:00 金曜休み

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「玄 庵」(立石)

 京成立石駅から徒歩5分あまり、ビルの2階にあって、ゆったりとくつろいで酒とソバを楽しむことのできる店である。
 広々とした店内は、木製のテーブルと椅子が余裕をもって配置され、床もフローリングで、落ち着いた空間となっている。BGMには、静かにジャズが流れている。奥まった個室や囲炉裏を囲む座敷も用意されている。
 この店のソバへのこだわりは、良質の原材料を使用すること。契約栽培で仕入れた常陸秋蕎麦を石臼で自家製粉している。実際、入口脇にある製粉室では、何台もの電動石臼が常に稼動している。

 こうして石臼挽きされた蕎麦粉から打たれるソバは2種類。丸抜きから挽かれた粉を使った「せいろ」は、130グラムで700円(大せいろは200グラムで1000円)。中細打ちで、常陸秋蕎麦の実力を遺憾なく発揮させた、上品な風味のよさが光っている。しっかりしたコシがあって、喉越しも申し分ない。
 一方、玄蕎麦から挽かれた粉を使った「田舎せいろ」は、100グラムで700円。普通の「せいろ」とは対照的な野趣にあふれたソバ。やや太めで黒っぽく、短く切れている。ごわつく食感が田舎らしい特徴である。
 これらのソバに合わせるツユは、やや甘めだが、バランスはよい。薬味はネギと辛味大根おろしである。
 ソバ前の酒と肴も充実している。エビスビールや神亀、天狗舞、真澄、開運まどの地酒を飲みながら、「鴨つくね焼」、「自家製がんもどき」、「そば屋の玉子焼」、「ジャンボかき揚げ」や黒白2種類の「そばがき」を楽しむことができる。特に、ダシの味がよくしみていて、甘味を抑えたふんわりとした玉子焼は絶品である。
 このビルの3階は、江戸東京そばの会という手打ちそば教室となっていて、ここで修業し独立開業した店も数多く全国に広がっている。東京における手打ちソバの重要な発信基地である。

味4、雰囲気5、対応3、CP3 計15

評価時期 平成15年3月3日

データ 葛飾区東立石3−24−8 03−3694−1241 11:30〜20:00 水曜休み

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