「並 木」(青梅市和田町)

 青梅市内の吉野街道沿いにあって、150年前の江戸時代弘化年間に建てられたという土蔵を改修利用し、店舗としている。蔵造り特有のひんやりとした店内は2階建てになっていて、1階はテーブル席、階段を上がった2階は板座敷。天井や梁、壁に木材をふんだんに使っていて、しっとりと落ち着いた雰囲気をかもしだしている。とりわけ、2階は、ほの暗い裸電球の照明もあいまって、よい雰囲気、思わず長居したくなる。
 まずは、エビスビールや蕎麦ビール、地酒「澤の井」を飲みながら、鴨肉くんせい、そばどうふ、山菜おろし、木のこおろし、揚そばなど(各500円)の肴を味わいたい。特に「鴨肉くんせい」は、食感がやわらかくて、鴨の旨みが口の中に広がる。

 ソバのほうは、冷製の「もりそば」が800円、「生粉打ちそば」が1000円。いずれもオーソドックスな正方形の笊に盛られている。「もりそば」は、見た目にもみずみずしい細打ち。蕎麦の香りよく、ツルツルと手繰ることのできる喉越し抜群のソバである。「生粉打ちそば」のほうも、同じ太さの細打ち。やや黒っぽく、香りもよい。ざらつく食感はなく、やはりツルツルと食べることができる。
 ただ、合わせるツユが、甘くて濃いのは残念である。薄いすっきりとしたツユであったら、もっとソバをおいしく楽しめるだろう。
 その他、種物では、「天ざるそば」、「かき揚そば」、「鴨汁そば」、「おろしそば」など。また、温かいソバも用意されている。
 お品書きには、この蔵の由来と「蔵にこだわり、石臼にこだわり、手造りにこだわり、蕎麦にこだわり、健康にこだわり」というこだわりの五ヶ条が記載されている。土蔵という独特の空間で味わう、こだわりのソバもなかなかである。
 春には梅の名所、吉野梅郷にも近く、観梅の途中に立ち寄るのもよいだろう。

味4、雰囲気5、対応3、CP3 計15

評価時期 平成15年3月31日      

データ 青梅市和田町2−240 0428−76−1760 11:00〜売り切れまで 金曜休み

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「は ら」(青梅市梅郷)

 JR青梅線の日向和田の駅から歩いて8分ほど、観梅の名所、青梅梅郷にとけ込んだ風情のある蕎麦屋である。自宅を改造して使っていると思われる店舗は、いかにも地元の旧家という様子。大広間の座敷に、テーブルが整然と並んでいる。部屋の一角には、自在鈎のかかる囲炉裏もあり、ゆっくりと腰を落ち着けて、ソバを楽しめる雰囲気である。
 冷製の「せいろ」は真ん丸い笊に盛られ、1枚が700円、2枚で1200円、3枚で1700円である。やや太めのソバで、1枚でもボリュームは十分。蕎麦の香りが引き立つ挽きぐるみのソバ、噛んでいると口中に特有の旨み広がる。太さのわりに、喉越しもそれほど悪くない。合わせるツユはやや甘くて薄いが、ソバとの相性がよく、ソバの風味を生かしている。

 「せいろ」のつけ合せに、豪快に揚げられた「天ぷら」(400円)を注文するのもよい。素人っぽい揚がり具合だが、ナス、カボチャ、ゴボウ、シシトウ、シイタケ、マイタケなどの野菜がたっぷりで、ボリュームがある。
 ビールやお酒を飲みながら、のんびりと憩うのもまた一興。日本酒は、地酒「澤の井」が本醸造、純米生酒、大吟醸と用意されている。おつまみは、「しおから」、「板わさ」、「枝豆」、「冷やっこ」など簡単なものだけだが、すべて各300円というのは良心的である。
 開け放たれた縁側のガラス戸。さわやかな風が吹き込む部屋で、庭の豊かな緑と山の木々の緑を眺めながら、ソバを手繰るのも気持ちがよいものである。

味4、雰囲気4、対応4、CP4 計16

評価時期 平成15年5月7日

データ 青梅市梅郷3−882 0428−76−1156 11:30〜売り切れまで 月曜・火曜休み

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「きびや」(三鷹)

 JR三鷹駅南口からまっすぐ延びる中央通りの商店街を歩くこと7分ほど、若干脇道に入ったところにひっそりと店を構えている。間口の狭い戸を開けて中へ入ると、民芸調のスペースが奥へと広がっている。厨房や打ち場は正面奥、客席は20人分ほどだろうか。テーブルは一枚板を何か所かに配置、所々に古箪笥などの民具、古布などが飾られていて、落ち着いてソバを楽しむ空間となっている。
 ここでは3種類のソバを供している。冷製の二八の「もり」(600円)は、みずみずしい中細打ち。しっかりとしたコシとなめらかな喉越しで、蕎麦の風味も十分生きている。また、同じく中細打ちの「粗挽きそば」(600円)は、黒っぽい色で、粗挽き特有のざらつく食感。こちらも二八の割合で打たれているが、やや短めの仕上がりである。いずれのソバも、大盛はプラス200円、追加1枚は400円と良心的値段。
 そして、土日のみ供される「手挽きそば」(700円)というのもある。手挽きした蕎麦粉十割で打たれ、黒っぽくかなり目が粗い細打ち。二八の「粗挽きそば」に勝る高い風味、野趣あふれるざらつく食感が心地よい。合わせるツユは、甘味少なく、やや薄め、ダシがよくきいていて、洗練されたツユである。ソバの香りや風味を殺さないので、相性はなかなかよい。

 平日は昼のみの営業だが、土日は夜も営業しているので、ソバを食べる前に酒と肴を楽しむこともできる。日本酒は各地銘酒が揃っていて、合わせるつまみもとてもおいしい。白髪葱と柚子味噌を付けていただく「鴨ロース味噌付け」、ふわりとして甘味がちょうどよい「玉子焼き」、つるっと口の中でとろける「生湯葉刺し」、あっさり塩でいただく「蓮根海老しんじょう」、蕎麦の実が香ばしい「焼茄子のそば田楽」などなど。いずれも美味である。
 お昼時はご飯ものとのセットも出していて、とても混雑している。人手がやや足りない印象も受ける。これだけおいしいソバを出しているのだから、ご飯ものは止めてもよいのではないだろうか。また、店内が禁煙になっていないのも気になる。せめてお昼時だけでも禁煙にしていただけないだろうか。

味4、雰囲気4、対応3、CP4 計15

評価時期 平成16年10月12日

データ 三鷹市下連雀4−16−48 0422−42−3520 11:30〜17:00(平日) 11:30〜16:00 17:00〜20:00(土日・祝日)
不定休

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「素朴庵」(矢川)

 JR南武線の矢川駅から歩いて数分のところに、ひっそりと暖簾を掲げている。店内へ入ると、すぐ左手にガラス窓で仕切られた打ち場があり、客席はさほど広くないスペースに何か所かテーブルが配置されている。16席というところだろうか。
 この店では、「更科」(840円)、「せいろ」(735円)、「田舎」(840円)と3種類の十割ソバを供している。「更科」は、真っ白ではなく薄茶色で、輝くようなみずみずしさが特徴。細打ちで短く切れているが、シャキッとしたコシがある。また「せいろ」は、エッジのあるしっかりとした細打ちで、風味が高い。ところどころに黒い外皮のホシが入っている。
 そして真骨頂はやはり「田舎」である。細打ちながら、かなり黒っぽく、硬くてゴワゴワとした食感で、いかにも素朴な味わい。しかし、口の中でよく噛んでいるうちに、蕎麦の風味が増してくる。
 これら3種類のソバを食べくらべることのできる「三色」は1365円、2種類を選んで「ニ色」にすることもできる。大盛はプラス200円である。合わせるツユは、けっこう濃くて熟成感があるが、もう一つキレがなく、まったりとした印象を受ける。

 この店らしい一品としては、「素朴そば」がある。ツユは、大根のオロシ汁にカエシを自分で調整しながら、お客が好みの濃さにつくり、これにソバを浸して食べる。鰹節や鯖節の風味がないので、本当に素朴な味わいだが、かえってソバの旨味がはっきりとわかる気がする。
 この他、種物では、「かき揚天せいろ」がお薦め。海老や小柱がたっぷりと入ったボリュームのあるかき揚が添えられている。また、そば前に酒と肴を楽しむこともできるが、個人的には、ソバだけでも十分満足できるように思える。
 夫婦二人で切り盛りをしているようで、混雑してくるとやや人手が足りない感じもするが、素朴を地で行くマイペースなこの店らしいので、ゆったり腰を落ち着けて待ちたい。

味4、雰囲気3、対応3、CP4 計14

評価時期 平成17年1月5日

データ 国立市谷保6721−1 042−571−0019 11:00〜15:00 17:00〜20:00 不定休

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「そば菜」(西国立)

 JR南武線の西国立駅から歩いて5分足らず、立川病院の前にこじんまりと店を構えている。店内も決して広いとは言えず、カウンター7〜8席、テーブル10席ほどだろうか。BGMには軽音楽や環境音楽が流れ、やや照明を落とし、調度品や装飾品ががきれいに整頓されていて、清潔感のある落ち着いた空間が保たれている。
 この店で一番のお薦めは、店名を冠した「そばなせいろ」(950円)である。毎日、ご主人自らが常陸秋そばの玄蕎麦を石臼で手挽きした粉を使って、数量限定で打たれている。ソバは、冷水でしっかりと締められ、見た目にもみずみずしく美味しそう。けっこう粗挽きで、短く切れている部分もあるが、細打ちで、蕎麦特有の香りは抜群。ツユをつけなくても十分楽しめるほどである。食感は、粗挽きらしいざらつき感とぬめり感があって、口中に旨味が広がる。

 また冷製ではもう1種類、「板せいろ」(750円)というのも用意されている。木製の平板に笊を敷いた上に、山盛りに盛られたソバは、とても繊細な極細打ちで美しい。風味も高く、食感、喉越しともに申し分がない。高い技術を感じることができる。合わせるツユは、以前は塩分も高めだったが、ほどよく改善され、辛口でキレのあるバランスのよいツユである。
 ソバを手繰る前の酒と肴もなかなか多彩である。日本酒は「手取川」、「神亀」、「佐久乃花」など地方の銘酒10種類ほどが用意されている。肴のほうも、「鴨ロース焼」、「巻き湯葉刺し」、「刺身こんにゃく」をはじめ、かなり品数が多い。
 店は、ご夫婦二人で切り盛りしている様子。確かなソバ打ち技術で、地元客のリピーターも多そうである。

味5、雰囲気4、対応4、CP3 計16

評価時期 平成18年1月22日

データ 立川市錦町1−20−15 042−522−7558 11:45〜14:30 17:30〜21:00 第2・第3月曜休み

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「たなか」(ひばりヶ丘)

 西武池袋線のひばりヶ丘駅からそれほど遠くない住宅地の中にある。外観はごく普通の住宅で、門扉の左脇には「田中」という表札が出ている。開け放たれた玄関で靴を脱いで家に上がると、テーブルが数か所に配置された洋間に案内される。田中さんのお宅にお邪魔している感覚である。20人ほどは入れるだろうか。
 メニューは、基本的には、冷製の「御膳せいろ」と温製の「かけ」の2種類(各500円)。「御膳せいろ」は、中細打ちでみずみずしいソバ。香りもまずまずで、しっかりとしたコシと喉越しが心地よい。合わせるツユは、甘辛のバランスがよく手堅い感じ。薬味は、刻みネギと辛味大根。
 一方、「かけ」のほうは、ほのかな柚子の香りと鰹ダシの風味が際立っていて、とても芳しいかけ汁が印象的。喉越しのよいソバとともに、最後まで飲み干してしまう。

 サイドメニューには、「海老の天ぷら」、「野菜の天ぷら」、「自家製玉子焼」などがある。「海老の天ぷら」は、中ぐらいの大きさの海老5匹があっさりとしたオイルで揚げられている。プリプリと食感と甘味があっておいしい。抹茶塩でいただくと味が引き立つ。また、見た目にも美しい「自家製玉子焼」は、ふんわりとした食感、かなり甘味が強いので、デザートとしてもいただけそうである。
 デザートとして、「そばがきぜんざい」、「大納言ブランデー漬け」なども用意されていて、女性客には人気のようである。
 接客は、3、4人のオバさんたちがテキパキとこなしているが、昼時はあわただしく、落ち着かない感じもする。
 この店には酒は置いていない。純粋にソバだけを楽しんでもらおうという店主の意向だろうか。近所にあったらよいなと思える蕎麦屋である。

味4、雰囲気3、対応4、CP4 計15

評価時期 平成17年1月11日

データ 西東京市ひばりが丘1−15−9 0424−24−1882 11:00〜16:00 月曜・第1・第3火曜休み

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