旅師が評価する東京の蕎麦屋(多摩地区)
「無 庵」(立川)
東京の洗練された蕎麦屋の風情としては申し分のない店である。店主の趣味人らしいこだわりを感じる民芸調の落ち着いた店内は照明を落とし、小さな音量でモダン・ジャズが流れている。ソバだけを食べて帰るには惜しい、落ち着いた雰囲気で、思わず一杯飲みたくなる。
日本酒は「東一」、「酔鯨」、「天界」など時々入れ替えがあって、それほど種類は多くないが銘酒ぞろい。
酒の肴には、竹べらに載せられた香ばしい「焼みそ」(500円)やボリュームのある「だし巻玉子」(700円)、一品料理のようにアレンジされた「そば豆腐」(600円)などがよい。
とりわけ、「そば豆腐」がタダものではない。ある時はノレソレ(穴子の稚魚)に青豆ソース、
またある時はトマトにレモンゼリー、メカブにウニなどがトッピングされている。冬は白菜のあんかけソースにホタテの貝柱というのも絶品。
また、これらの肴の他、「合鴨ロースト」、「鴨たたき」など鴨料理も充実している。
そして、酒も肴も、趣味的な民芸陶器を使って供されるところが、風情あってよい。
メインのソバのほうは、やはり「あらびきせいろ」(800円)を味わいたい。以前の「せいろ」と「田舎」の中間のような感じ、極細打ちで、蕎麦の風味、喉越しともにすばらしい。荒挽きの割にはゴワゴワとした食感はない。合わせるツユは洗練されたバランスで絶品、ダシのきき方が申し分ない味わいである。
蕎麦懐石を名乗るだけあって、「蕎麦游膳」という、蕎麦料理のコースも評判のようである。
立川は、21世紀の多摩の中心都市として、近ごろ駅周辺の開発が著しいが、駅からわずか5分ほどの場所にこのような趣ある空間があることはすばらしい。じっくりと腰を落ち着けて憩うことのできる蕎麦屋である。
味5、雰囲気5、対応4、CP3 計17
評価時期 平成18年1月13日
データ 立川市曙町1−28−5 0425−24−0512 11:30〜14:30 17:00〜21;00 日曜休み
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「車 屋」(八王子市越野)
野猿街道沿いにあって、一見、ごく普通の和風レストラン風である。しかし、南会津郡只見町の旧目黒邸を移築したという藁葺き屋根の立派な建物の中で供されるのは、おいしいソバを中心とした料理である。店内はテーブル席と座席に分かれているが、 断然座席のほうが落ち着く。年期の入った柱と太い梁、天井も高くて気持ちがよい。まずは「そばがき」を肴に、「田酒」、「春鹿」などの日本酒を飲む。「そばがき」は、とろろが入っているみたいにフワッとしてやわらかい。ソバは、究極の「水そば」もあるが、やはり正統派の「せいろ」(900円)や黒っぽい田舎風の「出羽の細切り」(1000円)がおいしい。蕎麦の香り高く、滋味あふれるすばらしい一品である。
味5、雰囲気5、対応4、CP3 計17
評価時期 平成12年2月14日
データ 八王子市越野619 0426−76−9505 11:00〜15:00 17:00〜19:00 水曜・第3木曜休み
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「よしむら」(吉祥寺)
吉祥寺の井の頭通り沿いにあるが、駅から離れていてあまり目立たない店である。店へ入るとBGMにコルトレーンなどのジャズが流れていて驚かされる。店内もカウンターと木製のテーブル席が並び、あまり蕎麦屋らしからぬ雰囲気である。
メニューをみると、「天狗舞」、「東北泉」、「酔鯨」などの各種地酒、酒の肴は、だし巻や天ぷらなど蕎麦屋の定番の他、地鶏、合鴨、黒豚、豆腐などを使ったオリジナル料理が豊富である。「冷豆腐」は、水分を飛ばしたか硬めの豆腐にトンブリがのっていて斬新。「黒豚薄切り巻き焼」は、オクラやエノキを豚肉で巻いたもの。ついつい居酒屋の気分で、腰を落ち着けて飲み食いしてしまう。
こうした感じの店でどんなソバが食べられるのだろうかと思いながら一杯やったあと、注文したソバを見てびっくり。みずみずしい輝きを持ったおいしそうなソバである。
細打ちのせいろである「吉祥寺」(700円)は、香り高く喉ごしがよい。同じく細打ちながら、黒っぽい田舎そばの「開田」(750円)は、やはりツヤがあって風味豊か、噛んでいると特有のゴワゴワ感もある。いずれも、あきらかに上質のソバである。ややしょっぱいが、洗練されたとツユとの相性もよい。また、「地鶏せいろ」、「合鴨せいろ」、「黒豚せいろ」などを味わってみるのもよいだろう。
居酒屋風の見かけでは判断できない、なかなか侮れない蕎麦屋である。
味5、雰囲気3、対応3、CP3 計14
評価時期 平成13年6月2日
データ 武蔵野市吉祥寺南町2−29−8 0422−43−1717 11:30〜15:00 17:00〜21:30 月曜休み
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「吉祥寺砂場」(吉祥寺)
吉祥寺の東急百貨店西側には若者向きの飲食店が賑やかに軒を並べているが、そんな中にあって、この蕎麦屋は、大人の隠れ家的な雰囲気を持っている。ビルの地階にあって、店内は、落ち着いた和風のテーブル席と座席が広がっている。「砂場」という名前のとおり、日本橋室町や赤坂の系列店と似たタイプのソバを出す。
冷たいソバには「もり」(500円)と「別製ざる」(600円)がある。「もり」は、蕎麦の香りを感じ、喉ごしもよい。「別製ざる」は、白っぽいさらしな系のソバで、ほのかな甘味としっかりとした歯ごたえが特徴である。ツユは、江戸前ソバ特有の甘辛くて濃いものである。
この店では、ソバを食べる前に、ぜひお酒を楽しみたい。冷酒は新潟の「香織」と香川の「綾菊」。新潟酒らしい淡麗な口当たりでほのかな吟醸香を感じる「香織」、コクと酸味が味わい深い「綾菊」とも良質で、
ソバを味わう前の食前酒としては好ましい。
また、酒の肴には、蒲鉾、鴨ロースト、わけぎぬた、あさり煮、もやしのサラダの5種類が少しずつ盛られた「お通し盛り合わせ」(1000円)がお薦めである。室町や赤坂の店と異なり、ゆったりとくつろげるところがよい。
味3、雰囲気4、対応3、CP3 計13
評価時期 平成12年4月12日
データ 武蔵野市吉祥寺本町2−15−32 0422−20−9808 11:00〜15:30 17:30〜25:00 火曜休み
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「坐 忘」(西八王子)
西八王子の住宅街の中にあって、黒板塀に囲まれたたずまいが目立っている。茶室のにじり口のような障子戸を開けて、頭をぶつけないようにと気をつけて中へゆっくり入る。店内は、板張りの座敷のみ。5つの座卓で18席ほどである。
照明を落とした薄暗い店内の雰囲気には、好事家的な演出が施されている。壁面は、江戸時代の古書の写しと思われる壁紙で覆われている。天井から吊り下げられている藍染めのタペストリー。片隅には、箱庭に枯山水が造られている。演出過多気味ではあるが、落ち着けることは確かである。
肝心のソバは、「せいろ」(700円)にはあまり蕎麦の香りを感じず、むしろ「田舎」(700円)のほうが黒っぽく香りも高くて印象深い。また、「手挽きそば」(1000円)というソバもあって、こちらもやや黒っぽく風味はよい。いずれのソバも中細打ち、コシがあって、滑らかな喉ごしである。
ツユは若干薄めでバランスはよいが、ややコクが足りない気がする。
他には、これら3種類のソバを同時に楽しめる「三色せいろ」(1300円)、種物では、活穴子を使用した「穴子天せいろ」(1700円)などもよい。穴子はサックリとした食感があっておいしい。カリッと揚がった骨の部分も一緒に供され、塩か天ツユをつけて食べる。
一杯飲みたい客のために、日本酒プロデューサー、関谷健二のオリジナル酒が各種用意されている。酒の肴は、「天たね」、「天ぬき」、「出汁巻玉子」、「巣ごもりそば」、「鳥わさ」などこだわりの品が用意されている。
最後に、蕎麦でつくったわらび餅など、蕎麦菓子がサービスで供されている。
味3、雰囲気4、対応4、CP3 計14
評価時期 平成15年3月17日
データ 八王子市千人町3−14−11 0426−61−2945 11:30〜15:00 17:00〜21:00 水曜休み
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