「花 や」(錦糸町)

 JR錦糸町駅北口から歩いて、さほど遠くないマンションの1階に店を構える。付近は下町情緒が漂う感じだが、そんな中にあって瀟洒な店構え、店内も白を基調として清潔感がある。店へ入ると、左手に電動石臼、右手に打ち場の小部屋があり、自家製粉手打ちの店であることがわかる。カウンター6席、テーブル12席とあまり広くはないが、間接照明と軽音楽がごく静かに流れる店内はとても落ち着く感じである。
 酒と肴が充実していて、そば前のまず一杯が飲みたくなる。ビールや焼酎も厳選されているが、ここではやはり銘酒揃いの日本酒を飲みたい。新潟の「緑川」、山口の「獺祭」、山形の「上喜元」、福井の「黒龍」、そして珍しい静岡の「国香」など定番の他、限定仕入れのお薦めの日本酒も用意されている。陶器の片口でたっぷりと供される。

 合わせる酒の肴がまたなかなか渋い品揃え。「いくち」というあみ茸の醤油づけや、チーズのような「豆富の味噌づけ」、「いかの塩辛」、「酒盗」など珍味の他、「栃尾の油揚げ」、「いかの丸干し」、「じゃこおろし」、「鯖のスモーク」など魅力的な料理がメニューに並ぶ。
 メインの蕎麦は、細打ちの「ざるそば」と太打ちの「田舎ざるそば」の2種類を供している(いずれも750円で汁なし追加は550円)。
 「ざるそば」の方は、みずみずしく、蕎麦の風味が際立っている。なめらかな食感で、喉越しもよい。一方「田舎」の方は、やや黒っぽく、ゴワゴワとして、噛んで味わうタイプだが、口当たりは比較的なめらかで、ツユにもからむので食べやすい。ツユ本体は、洗練されていてキリッと締まり、ややしょっぱめである。
 また、「つくねと玉子のつけ蕎麦」(1000円)がおいしい。鴨つくねと温泉玉子が入った温かい汁に冷製のソバをつけて味わう。半熟玉子が良質、鴨肉のつくねは絶品である。そして、鴨ダシのしみ出したつけ汁を、後でそば湯で割って飲むとこれがとても旨いこと。
 平日の昼間は、ほとんどのソバを100円引きで食べることのできるサービスもある。店を仕切る若い店主には、一生懸命おいしいものを提供しようとする姿勢が見えて共感がもてる。

味4、雰囲気4、対応4、CP4 計16

評価時期 平成17年2月21日

データ 墨田区太平2−3−4 03−3829−4137 11:30〜14:00 17:30〜21:30(L.O.) 日曜・祝日休み(土曜は昼のみ)

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「三日月」(東京八重洲)

 東京駅からそれほど遠くないオフィス街の谷間の裏通りに、ひっそりと暖簾を掲げている。外観は一面黒い板壁に覆われていて、ちょっと見では、蕎麦屋とはわからない。しかし店内へ入ると、予想外に明るくモダンな空間が広がっている。明るい薄茶色の壁や木目調の天井、テーブルと椅子も木製で統一感と清潔感がある。24席ほどだろうか。
 ここでは2種類のタイプのソバを味わうことができる。「もりそば」(1枚800円、2枚1500円)は「翁」系のみずみずしい中細打ち。香りはほどよく、なめらかで喉越しがよい。
 また、「里山そば」(1枚900円、2枚1700円)は田舎風の太打ち。蕎麦粉は細打ちと同じようだが、きしめんのような太い平打ちになっているのが特徴。しかし、見た目の割にはなめらかな食感である。いずれも丸い編上げ笊に盛られて供される。合わせるツユは、やや炭の香りを感じる、キリッと締まった洗練された味である。

 そば前の酒と肴を楽しむのもよい。日本酒は「豊の秋」、「四季桜」、「黒龍」、「志太泉」、「大雪渓」など地方の銘醸酒が揃っている。酒の肴もそれほど種類は多くないが、蕎麦屋らしい品々が用意されている。コクある甘さの中に唐辛子の辛味が利いた「にしん甘露煮」、熟成してまったりとした味わいの「味噌漬け豆腐」、上質の鱧のすり身を使用した蒲鉾「はも板」、ダシがよくしみ込んでやや甘めの「玉子焼き」など、いずれも酒が進む一品である。
 場所柄、サラリーマンの利用も多い。大都会の喧騒の中にあって、彼らにはオアシスのような存在の蕎麦屋ではないだろうか。

味4、雰囲気4、対応4、CP3 計15

評価時期 平成17年3月14日

データ 中央区八重洲2−10−7 03−3516−6801 11:30〜14:30 18:00〜21:00 土日・祝日休み

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「源四郎」(神保町)

 神田神保町の交差点から、裏道を少し歩いたところにある山形ソバの店である。本店は山形県大石田町の次年子(じねんご)地区のいわゆる「そば街道」にある蕎麦屋、その支店として平成17年に店を構えた。本店と同様に、地元大石田産の玄蕎麦を石挽きして、天然水で打ち込むという、こだわりの本物のソバを供している。
 「そば切り(板そば)」は900円(大盛1100円)。大きな長方形の箱板に盛られたソバは、太くて黒い典型的な山形のソバである。シコシコとしっかりとした固さがあって、蕎麦の風味がとても高い。薄口辛口のツユに今一つからまないが、口中での外皮のザラつく食感が心地よい。食事としてのボリュームは十分である。

 他に、温かい「きじそば」(1200円)が名物。きじ肉そのものはやはり淡白な味だが、肉の旨味ダシの溶け込んだ汁がおいしい。「きじ汁」(300円)と「そば切り」を注文して、つけソバにしてもよい。
 夜は、軽い肴をつまみながら、山形の地酒を楽しむことができる。日本酒は「朝日鷹」、「初孫」、「上喜元」、「出羽桜」などが用意されていて、コップに並々つ注いでくれる。肴の方も山形の郷土料理である「玉こんにゃく」、「いも煮」などもあってうれしい。
 また、100パーセント蕎麦粉のそばがき「かいもず」やソバを食べる前に供される次年子産の「赤かぶ漬け」もおいしい。
 店内はそれほど広くなく、テーブル席と座敷席合わせて20人ほどが入れるだろうか。東京に居ながらにして、本格的な山形の板ソバが楽しめる貴重な店である。

味4、雰囲気4、対応3、CP4 計15

評価時期 平成18年3月17日

データ 千代田区神田神保町2−10−8 03−3556−1400 11:30〜14:30 17:30〜20:30 日曜・祝日・第2・4土曜休み
第1・3・5土曜は昼のみ

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