山形の蕎麦を味わう旅

7月18日(火)

 一晩中降り続く雨音とむし暑さで、けっこう寝苦しい夜だった。朝5時半頃、露天風呂へ。露天風呂といっても、屋根があるので、雨が降っていても入浴ができる。渓流沿いにあって、川の流れる音と山の緑が心地よかった。
 7時半頃に朝食が運ばれて来る。温泉玉子、納豆、海苔、塩鮭、山菜のほかローストビーフまで出てボリュームたっぷりだった。

 午前9時頃、雨の中を出発。白布温泉9:10発のバスで米沢駅へ。米沢10:11発の新幹線「つばさ」でとりあえず山形へ。山形へ到着してみると、大雨の影響で、山形から先の新庄方面の運転ダイヤが乱れている。また、山形でもにわかに滝のような激しい雨が降り出し、そのまま駅に足止めになってしまった。仕方なく、駅ビルの土産物コーナーなどをぶらついて時間をつぶす。しばらくして、雨が小止みになった合い間に山形の街へ出る。
 お昼も近かったので、そのまま蕎麦処「庄司屋」へ直行。山形でも創業がもっとも古い老舗である。「合もり板そば」を食べる。山形のソバには珍しい、洗練された細打ちの真っ白な「さらしな」と香り高い中太の「せいろ」が箱板に一緒に盛られている。ボリュームも十分あっておいしかった。食べ終わって、店の外に出ると、また激しい雨。今度は蕎麦屋の軒先でしばらく足止めとなる。雨がやんでも、あちらこちらの排水溝が溢れ出ていて、道路が水浸しになっている。街中を歩きまわる気もせず、山形駅へ戻る。

 不安定な天気で、屋外はどこへ行っても楽しめそうもなかったので、山寺の後藤美術館へ行くことにする。山形12:41発の仙山線で山寺へ。さいわい山寺では雨が上がっていた。駅から歩いて、後藤美術館へ。

   山寺駅(左)と後藤美術館(右)

 後藤美術館には、山形県河北町出身の後藤氏が収集したヨーロッパ絵画とガラス工芸品などが展示されている。絵画は、フランスのバルビゾン派の作品を中心に、ヨーロッパ各国の風景画や肖像画をコレクション。日本ではあまり知られていない画家の作品も多く、なかなか興味深いものだった。見ごたえのあるサイズの油絵が多かったのもよかった。また、ガラス工芸のほうは、エミール・ガレやドーム兄弟、ティファニー工房などのアールヌーボー様式の作品が収集されていた。館内は、ほとんど人がいなかったので、ゆっくりとこれらの展示品を鑑賞することができた。なお、この後藤美術館のある一帯は、「風雅の国」と呼ばれ、他に芭蕉記念館などの施設がある。仙山線が通る谷を隔てて対面には、険しい山に抱かれた山寺の数々の伽藍を望むこともできる。
 山寺駅に戻って、山形方面へ戻ろうか悩んだ結果、天気のよさそうな仙台方面へ行くことにする。山寺14:57発、仙台15:50着。いつもの仙台ロイヤルホテルへ予約なしでチェックイン。しばらく休んでから、仙台の街に繰り出す。藤崎デパートで日本酒を買ったりしてから、文化横丁の「源氏」へ。この日最初の客になってしまった。生ビールと日本酒2杯を飲み、飲物を注文するごとに供される刺身や冷奴のお通しの他、いつものとおり「めひかり焼き」を肴とする。相変わらず落ち着きくつろいで飲める店である。

 2軒目は、おでん屋「三吉」へ。新政の冷酒を飲み、おでん各種をつまむ。息子とおぼしき2人の若者がおでん鍋の前に立ち、名物オヤジは離れて彼らを監督していた。
 この2軒ですでに結構酔っ払っていたが、さらにベルギービールの店「ダボス」へ。ヒューガルデン・ブロンシュ、カンティヨンなどを飲みながら、店長と話し込んでしまった。これで、今度こそ帰ろうと思ったが、ここまで来ると酔った勢いで、ホテルへの帰り道、途中の中華料理屋で、冷し中華と餃子を食べて帰ることになる。

7月19日(水)

 前夜の酒が残り二日酔い気味で、なかなか起きることができなかった。午前9時頃にホテルをチェックアウト。朝食は食べる気にならなかった。仙台9:41発の仙山線の快速で再び山形へ。列車は少し遅れて山形へ到着した。山形11:09発の奥羽本線、新庄行きの新幹線に乗って大石田へ。大石田駅から歩いて、この日も蕎麦処「来迎寺そば・作兵衛」を目指す。一昨日同様、夏の強い日差しが照りつけるなかを30分近く歩く。泥流の流れる最上川に架かる橋を渡ってしばらく行くと、ようやく「来迎寺そば」の看板がみえる。一見、普通の住宅に見える建物の1階が蕎麦屋になっている。

 玄関で靴を脱いで上がると、正面に注文と会計をする窓口がある。メニューは板そばの普通盛と大盛、にしん煮だけである。「板そば普通盛」を注文する。座卓が並んだ広い座敷で待つことしばし。運ばれて来たソバは、いかにも山形らしい黒くて太い田舎ソバだった。ボリュームのあるソバをしっかりと噛んで食べる。付け合せのお新香がまたおいしい。知り合いの家でソバをもてなされたような、家庭的な雰囲気の蕎麦屋である。大石田周辺には、他にも数軒の行ってみたい蕎麦屋があったが、さすがにこの暑さでは、歩きまわる気力もなかった。大石田の駅へと戻る。駅では、列車の待合時間に、アイスクリームを食べて暑さをしのぐ。

 大石田13:46発。再び山形へ。今度は山形市内の蕎麦処「羽前屋」へ行くことにする。山形駅から歩いて15分ほどだった。広くて小ぎれいな店内。天ぷら付きの板そばである「天付羽前」を食べる。太めの田舎ソバはボリューム十分だが、やや蕎麦の香りが弱いような感じがした。今回の蕎麦の旅の最後を飾るには、今ひとつの味わいだった。それにしても、3日間で5軒の蕎麦屋の「板ソバ」を食すことで、あらためて山形ソバの旨さを再認識した。また機会があれば、山形へソバを食べに来たいものだと思った。
 帰路は、山形から新幹線「つばさ」で、早めの時間帯に帰ってきた。

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