もとは関東の食べ物であったはずのおでんは、関西に伝わって、味覚の肥えた大阪人や京都人の舌によって育てられて広まり、日常的な食べ物として定着していった。
そして、関西で特有の発達を遂げたおでんが今度は逆に関東へと伝えられ、今ではいわゆる「関西風おでん」がおでんの主流となっている。
私が東京にいるときに好んで通っているおでん屋も、塩や薄口醤油ベースの関西風味の店が多い。しかしながら、関西風おでんはやはり現地で味わうべきと、毎年、最低1回は必ず大阪などへおでんを食べに行くことにしている。
大阪ミナミは道頓堀の繁華街のはずれ、日本橋の近くにひっそりと店を構えているのが、おでん屋「よかろ」である。店のまわりは薄暗いホテル街で、いかにも場末のおでん屋という体で赤ちょうちんを灯している。引き戸を開けて中へ入ると、おでん鍋から立ち昇る湯気と客同士の静かな会話が、ほのぼのとした雰囲気を醸し出している。カウンター10席ほどと申し訳程度のテーブル席、それに奥座敷が4人分ほどの小さな店である。
カウンターの一番端の席に座り、さっそくビールとおでんを注文する。例によってロールキャベツとダイコン、あとはヒロウス、ユバ、高野ドウフ、ハンペンなどを食べる。ロールキャベツは手づくりらしく、爪楊枝でキャベツが留められている。爪楊枝をはずして一口食べてみると、挽き肉の味わいが口の中いっぱいに広がっておいしい。その他のおでん種もだし汁がしっかりとしみ込んでいてよい味である。おでんの具の種類が豊富で、ニンジン、サツマイモ、カボチャなどあまりおでん種として見かけないものも鍋に入っている。
次に、この店の名物「ドテ焼き」を注文する。白味噌で煮込んだスジ肉だが、肉の旨みと味噌の甘みが調和していてとてもおいしい。
お酒は、熊本の「美少年」を置いている。ビールを1本飲んだあとは、この日本酒を燗で飲む。すっきりとした味わいで、おでんとの相性もまずまずだった。
おでんの具と同じく客層も多彩な店である。サラリーマン、若い女性グループ、カップル、これから出勤の水商売とおぼしき女性など。テイクアウトでおでんを買いに来た客もいた。
こうして様々な人々に親しまれているのも、家庭的な雰囲気のためだろうか。この日この店を切り盛りしていたのは、親子とおぼしき二人の男。店内に飾ってある写真から、他に女将さんが店に出ることもあるらしい。
いずれにしても、人情の街大阪で、こんな家庭的なおでん屋にめぐり合えたのも何かの縁なのだろう。
よかろ(大阪市中央区島之内2−9−9 06−6211−2713 日曜・祝日休み)
酒蔵奉行所通信第12号(平成9年2月20日発行)掲載文を修正
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