丸 富(駒ヶ根)
蕎麦屋としては、一つの究極の姿を目指しているように思える。平成12年に、先代からの暖簾を守っていた飯田市内の店を閉め、自然環境豊かな駒ヶ根高原へ移転してきた。あの長坂の「翁」が甲斐駒ケ岳の麓に店を移したように、「丸富」も同じように清冽な空気と豊かな自然水を求めて、木曽駒ケ岳の山麓で新たなスタートを切ったのである。
自然林に囲まれた赤いトタン屋根の素朴な木造の建物。静かにクラシック音楽のかかる店内は、木製のテーブル席のみ。高い天井や太い梁、板張り床などすべてが木製で、とても居心地がよい空間である。
ソバは、飯田で営業していた時と基本的には同じで、「白檜曾乃蕎麦切り(しらびそそば)」(1050円)、「朝日屋」(945円)、「雫」(945円)の3種類。「しらびそそば」は、下伊那郡上村下栗産の蕎麦を手刈り、天日乾燥、この玄蕎麦を自家製粉し生粉打ちしている。極細打ちで、すばらしい風味と喉越しのソバである。
「朝日屋」は、駒ヶ根産玄蕎麦を中心に各地のものをブレンド、荒く挽いた粉を二八の配合で打っている。やや黒っぽい太打ちで、外皮の香りが強く、味わいがある。田舎ソバ風だが、ゴワつく感じはあまりなく、ぬめりのある食感である。
また究極のソバ「雫」は、原則予約制、玄蕎麦を丁寧に手挽きした粉で打たれた田舎ソバである。中細打ちで、粗挽きらしいモチモチした食感があって、蕎麦本来の風味がすばらしい。
これらのソバに合わせるツユは2種類。鰹節を使った濃口のツユと鯖節の薄口のツユが用意されていて、洗練された上質な味であるが、いずれも塩分が強すぎるのが残念である。
ソバ前酒は、銘柄不明だが「昼の湯呑み酒」と称している。その名のとおり湯呑みで供されるが、ほのかな吟醸香のあるフレッシュな日本酒である。他には「山三正宗」、「キリンハートランドビール」など。
酒の肴は、季節の「野のもの料理」、「焼き味噌」、「そばがき」などがある。野のもの料理では、ゼンマイ、ワラビなどの山菜や地元の野菜を使った「季節の煮物の盛合せ」がおいしい。その他、「山のクレソンサラダ」、「虹ますのスモーク」と地の食材にこだわっている。
店主の理想を追い求める姿を反映している、感動的な蕎麦屋である。
味4、雰囲気5、対応4、CP3 計16
調査時期 平成17年7月24日
丸富(長野県駒ヶ根市赤穂23−180 0265−83−3809 11:30〜15:30 18:00〜予約のみ 火曜休み)
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市川一茶庵(本八幡)
JR総武線の本八幡駅近くにあって、昔ながらの蕎麦屋らしいたたずまいが感じられる。ここは、あの足利一茶庵直系の由緒ある蕎麦屋で、数多くの暖簾分けの店からなる禅味会グループの中心店である。
店内は、すべて畳の座敷席。いくつかの部屋に仕切られていて、喫煙可能な場所とそうでない座敷に分かれている。黒ずんだ柱や天井を眺めていると、昔懐かしい日本の木造家屋を訪れた感じがして、とても居心地がよい。
ソバは、細打ちの「おせいろ」と太打ちの「深山(田舎)」の2種類。冷製の「おせいろ」(700円)は、一茶庵らしい蕎麦の風味を生かした喉越しのよいソバ。「深山」のほうは、黒っぽく噛んで味わう太打ちソバである。合わせるツユは、甘味を抑えていて、鰹節のダシが利いた味である。双方のソバを食べ比べることができる「二色そば」(750円)があるのもうれしい。
また、種物すべてに、お好みで細打ちと太打ちのソバを選ぶことができる。名古屋コーチンを使用した「ひな鳥そば」や「親子そば」は、鳥肉のダシが旨みを増しているし、合鴨使用の定番「鴨南そば」もおいしい。
酒の肴も揃っていて、「鴨わさ」、「焼鴨」、「鴨の角煮」などの鴨料理や「山芋磯和え」、「板わさび」など蕎麦屋らしいつまみで、一杯飲むのも楽しい。定番の酒は「黒松白鹿」だが、その他の銘柄も数種類用意されている。
店員の接客もよく、老舗らしい気配りが行きとどいている。風格を感じさせる蕎麦屋である。
調査時期 平成14年6月17日
市川一茶庵(千葉県市川市南八幡3−5−16 047−378−1614 11:30〜15:00 16:30〜20:00 火曜・第2・第4月曜休み)
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土山人(芦屋)
関西にある本格的手打ち蕎麦屋としては、きわめて秀逸な一店。芦屋という場所にふさわしい洗練された店の雰囲気、おいしい酒と肴、そして一級のソバを楽しむことができる。
ジャズやボサノバの音楽が流れる店内には、16人は座れると思われる木製の大テーブルと4人掛け、6人掛けのテーブルが配置されている。案内された席に腰を落ち着けると、やはりソバだけ食べて帰るには惜しい気分になる。
まずは、エビスビールや銘醸日本酒、本格焼酎などを飲みながら、多彩な酒の肴を楽しみたい。日本酒は、大阪の「秋鹿」をはじめ、「大黒正宗」、「竹泉」、「酔鯨」、「天狗舞」など全国の地酒が厳選され置かれている。
肴のほうは、「出し巻玉子」、「鶏つくね」、「天ぷら」など定番料理の他、季節の創作料理がいろいろとメニューに載っている。夏に食べた「焼穴子のみどり酢あえ」は絶品。燻製した穴子、貝柱と、おろしたキュウリ、辛味大根との味のハーモニーがさわやかで夏にはふさわしい。
メインのソバは、当然のことながら、石臼による自家製粉を手打ち、2種類のソバに仕上げている。
「細挽せいろ」(850円)は、みずみずしく、風味抜群のソバ。ツユをつけなくなくても、蕎麦特有の香りを十分楽しむことができる。もちろん、喉越しもとてもよい。一方、「荒挽田舎蕎麦」(850円)は、同じ細打ちながら、野趣に富んだザラつく食感。「細挽せいろ」とは対照的な、しっかり噛んで味わうソバである。
合わせるツユは、カツオの香りが強く、ややしょっぱいが、ソバの味わいを生かしている。薬味は自分でおろす本わさびか辛味大根おろし。ぜひタイプの異なる2種類のソバを食べくらべて、それぞれの特徴を堪能してほしい。
民芸調の陶器類、編み笊なども風情があり、すべてにおいて洗練されている。お昼時に行列ができるのも仕方の無いこと。実力、人気を兼ね備えた蕎麦屋である。
味5、雰囲気4、対応4、CP3 計16
評価時期 平成15年8月3日
土山人(兵庫県芦屋市川西町7−3 0797−35−8100 11:30〜14:30 17:30〜21:00 月曜休み)
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百 丈(川越)
江戸時代からの古い町並みが残る小江戸・川越、その美観地区からさほど離れていない、市役所の斜向かいに暖簾を掲げている。建物の外観は、レトロな雰囲気の銅板張りで、蕎麦屋としてはユニーク、なかなか風情がある。
店内の壁やテーブル、椅子などは明るい色合いの木材を使っていて、一見喫茶店のような感じもする。正面には打ち場、そのさらに奥に厨房がある。2階にも客席がある様子。
福島県の会津地方、山都町産の蕎麦粉で打たれるソバは、十割ソバとつなぎ入りのソバの2種類。冷製の「もりそば」、「十割そば」とも700円(大盛1000円)で、いずれも香りがとても高い。太さはあまり揃っていないが、全体的には中細打ち、一本一本ソバの角が立っていて、コシもしっかりとしている。
合わせるツユは、甘味の少ないキレのある味。薄めのツユなので、ソバの香りを殺さず、相性がよい。ソバの量もボリュームがあって、十分満足できる。
ソバを食べる前に、瓶ビールや「一ノ蔵」、「日高見」などの日本酒で一杯やるのもよい。酒の肴の種類は少ないが、こだわりの品々。福島会津地方の郷土料理「こずゆ」や「青豆とうふ」、宮城名産「笹かまぼこ」、新潟栃尾地方の栃尾揚げを使った「油揚ステーキ」などが用意されている。
「こずゆ」は東京ではあまりなじみがないが、さいの目に切った里芋や人参、椎茸、糸蒟蒻、豆麩、貝柱などを薄めの出汁で煮込んだ素朴な汁椀である。あっさりとした味で、酒の邪魔にならず、食べやすい。
小江戸散策の途中で、立ち寄りたい蕎麦屋である。
味4、雰囲気3、対応4、CP4 計15
評価時期 平成15年9月15日
百丈(埼玉県川越市元町1−1−15 0492−26−2616 11:00〜19:30 木曜休み)
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と き(北新地)
大阪キタ屈指の夜の街、北新地・堂島地区。高級クラブやバー、割烹料理店が立ち並ぶこの地にふさわしい外観で、しっとりと店を構えている。蕎麦屋であることを知らなければ、一瞬入ることを躊躇しそうだ。
店内はテーブル席のみで、26人ほど座れるだろうか。木製のテーブルと椅子、床はフローリング、壁にも木の板を張りめぐらせていて、小ぎれいな落ち着いた雰囲気である。BGMには、ジャズや軽音楽が静かに流れている。
石臼自家製粉で打たれるソバは、「十割そば」と「二八そば」の2種類。冷製の「十割」(1000円)は、黒っぽい色の細打ちソバ。やや短く切れているが、ザラつく食感と香りの高さが心地よい。合わせるツユは、甘味がが少なく、ソバの香りを生かしている。薬味の繊細な刻みネギも、関西の蕎麦屋らしくてよい。一方「二八」(1000円)のほうは、同じく細打ちだが、上品でなめらかな食感。香りも十分で、喉越しもよい。
平日のお昼時は、これらのソバに、のり巻半本(通常は1本1000円)がサービスされる。こののり巻が何ともおいしい。具として巻かれている玉子焼、鰻、イカなどが絶品のハーモニーである。
夜は、ゆっくり腰を落ち着けて、旨い肴と酒を楽しむことができる。特に、甘くなくふっくらとした「出巻玉子」や発酵してまったりとした味わいが感動的な「豆腐味噌づけ」をつまんでいると、ついつい酒が進んでしまう。その他、「にしんの昆布巻き」、「山椒じゃこ」、「岩のり佃煮」などもよい。
日本酒のほうは、燗酒が宮城の「浦霞」、冷酒は珍しい石川の「池月」や新潟の「八海山」、「久保田」、「鄙願」などのラインナップである。
大阪の街中の本格的手打ち蕎麦屋としては、はずすことのできない一店である。
味4、雰囲気4、対応4、CP3 計15
評価時期 平成15年10月28日
とき(大阪市北区堂島1−3−4 06−6348−5558 11:30〜14:00 18:00〜2:00(土曜は17:00〜20:00) 日曜・祝日休み)
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