第三部

なぜ新たに都市を建設したのか?

 前項では、つくばは、「防衛反撃戦」の拠点となるべく建設されたと述べた。

ではなぜその拠点にわざわざ都市一つを新たに建設したのか?

拠点にするのなら、自衛隊の基地を新設すればよいように思われる。

しかし、当時は、安保闘争などが盛んだった時代である。今でも基地を新設するとなれば激しい反対運動が起こるだろう。当時ならば、もっと激しく過激な反対運動が起こったであろう。

また、ソ連を首都間際の「最終防衛ライン」まで誘い込むと言う作戦は、極秘の作戦なのである。首都の北方の間際に基地を新設すれば、ソ連に無用の警戒心を与え、極秘作戦を読まれてしまう可能性もある。そう、拠点となるところは、外見ではそれとわかってはいけないのである。しかし、拠点となれば、それなりの施設、建造物(司令部、通信施設、病院)などもいるし、平時でも、それなりの人員を配置しなければならない。しかもそこで働く人々は、平時にはそれと判らない建物で、それと判らない仕事をしていなければならないのである。

これらを漫画のように全て地下に隠したりするのはもちろん不可能である。これらのものを隠すのに一番良い方法は何か、「木を隠すなら森の中」、建物や人間を隠すならばそれらが多くある所、そう、都市の中に隠せばいいのである。

ではなぜ都市1つをわざわざ新設したのであろうか?既存の都市を改良して利用すればよいように思われる。

しかし、既存の都市を改良するにも莫大な金がかかる。またある日を境に、北関東の特定の都市にだけ、大量の国の金が投入され、多くの人間がなだれ込んできたら誰でも不信に思うだろう。その都市はいやでも世間の注目を浴びてしまう。これではいけない。また既存の都市には多数の民間人がすでに住んでいる。自分の住んでいる都市がある日を境に突如様変わりし、しかも大量の人間が流れ込んできては、不信に思うし、余計な詮索をするかもしれない。

第一、有事には拠点となる都市は、すぐさま国家の管理下に置かなければならない。当然その都市にある建物、住む人々も国家の厳重な管理下に置かれる。さらに平時には秘密を守れる人間でなければならない。

しかし、民間の建物、民間人をすぐさま管理下に置くのは困難である。また、拠点となる所に、不要な民間建築物があったり、主義、主張、思想などが明らかでない民間人が大量にいるのは、保安上、機密保持上も好ましくない。

すでに述べたように、拠点となる都市にある建物は有事には、作戦司令部などの施設にすぐさま転換できなければならない。また、拠点都市は敵の猛攻にさらされ、包囲されることも予想される。周りの支援なくとも自衛ができるというほうが好ましい。そのためある程度の、自給自足ができることが望まれる。つまり兵器の製造、研究、開発施設は言うに及ばず、医療機関、食料の生産施設も必要になる。しかも平時にはそれと判らない建物、施設でなくてはならない。

つまり拠点都市の建物、施設の大半は機密保持の意味でも、国家の、またはそれに準じる組織の持ち物でなくてはならず。さらに食糧生産ができる農業施設も都市の中、もしくは間近になくてはならないのである。

そしてそこに住む殆どの人々は、主義、思想、主張などが明らかであり、常に国家の管理下にあり人々、しかも有事以外は別の仕事についている人物で、しかも秘密を守りとうせる口の堅い人間で無ければならない。

国家の管理下にあり、主義、主張、思想などが明らかで、しかも口の硬い人物。そう、拠点となる都市の住民は国家公務員でなくてはならない。それも自衛隊以外の。

北関東にこれらの条件を満たしている都市は一つもない。いや、日本中探したってあるわけがない。そう、無いのならば作ってしまえ。こうして都市一つを新設することになったのである。

ではなぜ、その都市は、研究学園都市となったのだろうか?

なぜ「学園都市」として建設されたのか?