第四部

なぜ「研究学園都市」として建設されたのか?

前項でも述べた有事には拠点となる都市の条件をもう少し詳しくまとめてみよう。

1・住民の大半は、国家が管理しており、国家がその人物を良く掌握しており、さらに口の堅い人物。すなわち国家公務員かそれに順ずる人々と、そしてその家族で無ければならない。

2・その中でもさらに、有事には兵器の研究開発。戦略の組み立て、通信の傍受、暗号の解読、など高い知能と知識が必要な仕事にすぐさま従事することができる人物。

3・建物、施設の大半が、国家,もしくはそれに順ずる組織の所有物であること。

4・有事には、内部にあるものを、戦略コンピュータ、通信施設、兵器開発製造施設、食糧生産などにすぐさま流用できる、装置、施設(大型汎用コンピュータ、科学系実験施設、工作機械、農地、温室etc)がある建物であること。

5・また、上記のものが、建物、敷地内にあっても、さほど不自然でない施設であること。

6・外部からの出入りを規制しても、さほど不自然でない建物であること。

以上の6点がそろっている都市を建設しなければならないのである。

もし、拠点となる都市を多摩ニュータウンのようなベットタウンとして建設したらどうなるだろうか?

住人のほとんどが民間人になってしまい、住民を緊急時早急に国家の管理下に置けなくなってしまう。1、2の条件を満たす住民だけを生活させるのはとてもではないが不可能である。

また、建物の大半を国家の所有物にすることも不可能である。大体住宅街の真中に4の条件に合う物があったら完全に不自然である。

3,4,5,6の目的に合った建物を大半にすることもとてもではないが不可能である。

よって、多摩ニュータウンのような都市建設は、目的に合わない。

では首都機能の一部移転と言うのはだろうか?

これは一見目的に合った都市を造れそうな気がする。

住民の大半を国家公務員などにできるし、建物の大半を国家の管理下にも置けるだろう。

しかし、拠点となる都市は、あくまでも、日本を、東京を守るための都市なのである。首都機能の一部移転では,当然行政組織のどれかを移転せねばならない、行政組織は、拠点都市が守るべきものの一つである。それが、最前線となる、拠点都市にあったら、本末転倒であろう。

しかも、2の条件を満たす公務員といえば、ほとんどが、キャリアと呼ばれる公務員になってしまう。移転してきた官庁にいるのはキャリアだけ、という状態では、あまりにも不自然である。

大体、丸の内にある官庁に、工作機械、実験施設があるだろうか。中央の官庁にそのようなものがあること自体が不自然である。

移転する官庁が、文部省や運輸省なら、その不自然さはなおさらであろう。

大体キャリアたちは国の中心部にいる人間たちだ。そんな連中が自分の身を危険にさらすはずがない。むしろ自分達の身と立場を守るために拠点を作るのである

よって、首都機能の一部移転も目的に合った都市には出来ない。

ではどうするか?

様は、1〜6の条件に合った施設、組織を集めれば良いのである。

1〜6の条件に合った施設、組織とは何か。そう、国立の、しかも理化学、農学系の研究施設である。

まず建物、施設のほうは、3〜6の条件をぴったりと満たしている。

またそれらの施設で働く働く人々は、1〜2の条件を満たしている。国家の研究機関で働く彼らは、当然公務員ではある。いわゆる「研究オタク」である。基本的に頭がよく、また真面目で、勤勉、不祥事などとは余り縁がない。さらに、学者なので一般的に口も堅い。

これらの施設を集めれば、1〜6の条件に合う都市が完成する。

そのために拠点となる都市は、「東京にある研究施設を、計画的に近郊に移転させることにより、東京の過密緩和を図り、また、研究機関を集約することにより、研究機関、研究者同士の交流、協力を密にして高水準の研究、教育を行う拠点となる場所を建設する」を名目として、「研究学園都市」を隠れ蓑に建設されることになったのである。

ではなぜそれは筑波山麓に建設されたのだろうか?

なぜ筑波山麓に建設されたのか