第一部

筑波大学の秘密

其の壱

 

筑波大学。元は東京は文京区にあった、東京教育大学がその前身である。東京のど真中にあった大学がなぜこの様な田舎に移転してきたのだろうか?そもそも、なぜ大学があるのだろうか?

国立の研究施設さえ移転させれば拠点都市に要求される条件は十分に満たせるように思える。

「拠点都市には、不要の民間人がいない方が好まし」と前章で述べたが、大学生は不要の民間人ではないのか?むしろ有事には民間人以上に邪魔なだけの様にも思える。

日本は現在志願兵制度である。有事には当然兵隊の数不足が予想される。「学園都市」も有事には、霞ヶ浦の駐屯地から、拠点防衛の兵員がやって来る筈である。しかし、霞ケ浦の駐屯地の自衛官たちは、北関東南部全体を守らなければ成らないのである。当然、「拠点」の防衛のために避ける兵力にも上限がある。しかし、拠点には、有事には、すぐさま必要兵力をそろえなければならない。

有事には、徴兵制などがしかれると思われるが、拠点の防衛だけは早急に行わなければ成らない。徴兵を開始して、それが体制を整えるまで、どんなに急いでもはか一ヶ月はかるだろう。これでは遅すぎる。つまり、「学園都市」には、すぐに兵隊に流用できる人間を多数置いておかなければならないのである。

また、有事には研究施設などが真の姿をあらわし、司令部や、通信連絡、情報収集、暗号解読、兵器や、医学医療品の研究、開発、製造、自給用食糧の生産、などの施設となる事を前章までに書いてきたが、平時はただの研究施設である。そこで働く人たちも、平時では、本来の仕事である研究業務に取り組んでいる。彼らが、隠された本来の任務に就くのは、有事のときだけである。当然、研究施設に配置されている人員は、資金等の面でも平時を基準とされているはずである。

つまり、ここでも兵器の研究、開発、製造等の助手をする人手や、司令部、情報収集、分析、通信、連絡その他諸々の方面でも補助的な仕事をする人手の不足が起こるのである。これらも有事にはすぐさま徴用できなければならない。

有事の人手不足をどの様に補うか?

有事には、重要な任務に就く研究所の職員を兵隊になんか出来ない。大体其方も人手不足なのである。

では、研究所とは余り関係無い国の施設を一つ二つ移転させるか?これも良くない。あくまでも「研究学園都市」なのである。研究と関係の無い国の施設を移転させても怪しまれるだけだ。

また、研究所にいる公務員は大抵「研究オタク」のような人間である。余りだらけたり弛んだりする事は無い。大体、研究費や研究機材さえ十分にくれてやれば研究に没頭して、不祥事も余り起こさず大人しくしている人種である。

しかし他の、いわゆる普通の公務員は違う。「親方日の丸」にあぐらを掻きだらけきっている。「ノーパンしゃぶしゃぶ」や「援助交際」などに現を抜かしている公務員を使って本当に役に立つのか?ちゃんと秘密を守りきれるのだろうか?「研究学園都市」で不祥事を起こされたら一大事である。可と言って、研究所と違って、研究費を与えると言うような有効な対処方法も無い。

大体、半分は体力も無い、中年叔父さんである。兵隊などに使えるわけがない。補助的仕事とはいえ、当然理系の知識が要求される。それらを中年叔父サンに覚えさせるのも一苦労である。つまり、他の公務員は不向きなのである。

また平時は、公務員なのだから税金から金を払わねばならない。本当に有事に役に立つかもわからない公務員を平時にも置いておくのは金の無駄である。

兵隊は、若く健康な人間でなくてはならず、補助的な仕事につくのも、頭がまだまだ柔らかく、従順な人間、そう、やはり若い人間のほうが良いのである。これに理系の知識があれば言うことは無い。さらに平時には余り国の金を投下しないで済む施設。

この条件にぴったりの施設がこの世には存在する。

そう、大学である。

こうして、研究学園都市に、有事の「人員補充施設」として大学を建設する事が決定したのである。

しかし、大学なら何でも良いわけではない。理化学系の大学なら補助要員にはなるが、兵隊としては使えない。理系の大学生はえてして体力が無い。体育大学や文系の大学では、兵隊には出来るが、補助的な仕事には使えない。つまり移転させるのは、両方が存在する総合大学でなくてはならない。

ではなぜ新設せずに、教育大学を移転させたのだろうか?

次にそれを述べることとしよう。

なぜ新設せずに「東京教育大学」を移転させたのか?

 其の弐