第三部

農林団地の秘密。

其の壱

 

学園都市の南の端に位置する通称「農林団地」。

農林水産省関係の研究所が集中するエリアをこの様に呼ぶ。

ここは言うまでもなく、有事の食糧生産プラントである。

農水省関係の研究所は、つくばでも最も広大な土地を有している。これはもちろん農業の研究を行うため、また有事の食糧生産のために、広大な実験農場が必要と言う理由もある。

つくばの周りには広大な農地が広がる。自給自足ができるため、とはいえ、つくばの中には食糧生産施設は要らないようにも思える。有事には、周りの農地から、買い上げたり、直接食料を取り上げたりすればよいのである。

しかし、有事には、近隣の農地は、戦場になることも考えられる。その様な所では、農業生産もままなるまい。

また田んぼの泥濘は人口の堀のようになる。敵が攻めて来た時に、わざと田んぼを水浸しにし、泥濘としたらどうだろう。敵は泥濘に脚を取られ、進軍なども思うように出来なくなる。有事には、わざと農業生産は無視して、この様な作戦を取ることも考えられる。当然、農作物は期待できなくなる。この様な危険性のある農地からの、食料を当てにしては自給自足もままならなくなる。

つまり、周りの農地が戦場になっても、食料の自足が出来なくてはならない。そう、そのための農林水産省関係の研究所でもあるのだ。ここは国の施設ということで、外部からは遮断されている。またここは回りの農地と違って、守られるべき施設の一つである。有事でも食糧生産量が落ちることは考えられない。

ここの農地は、当然高度に自動化されたシステムを備えている。外部向けには、「農業就業者の低下」、「高年齢化を見越しての研究」、「農業の生産効率の向上」、を名目にして、自動運転のトラクターや、工場のように整備された農業施設。バイオテクノロジーなどを応用した新種の生産、などが行われている。確かにこれらの研究は、その様な一面にも役に立っている。

しかし、農水省関係の研究所に勤めている人たちも、有事には、兵器の研究開発などに従事する。自給のための食糧生産に人を回したいのは、山々だが、やはり有事には優れた研究者は兵器開発などにまわしたい。このために、農業の自動化を熱心に研究所内で勧めているのである。こうすれば、少ない人数で、最大限の生産効率をあげることが出来、食料の自給にも心配は要らなくなるのである。農業の自動化、効率化の研究の影にはこの様な面もあるのである。

しかし、外部から見える広大な農地は、この研究所のほんの一面でしかない。そう、食料の自給自足という面以外にも、恐ろしい秘密を内包しているのである。

其の弐