return is impossible - extra
―――キスが、終わらない。
そんな言葉がマイクロトフの思考を埋め尽くしていく。
―――それになんだ、押し倒されて……いる。
場所がベッドの上だったのが幸いしたのか禍したのか。気付けばマイクロトフはカミューに押し倒されていた。
ちょっと待てと思う。
確かに好きだと思ったし、カミューの寝惚け眼の告白は嬉しかったし、軽い口付けを交わすのには何の躊躇いもなかった。しかし、まだ出会ってから三日目の朝なのだ。
「…カミュ……おいっ…カミュー!」
逃げても逃げても追ってくるカミューの唇からかろうじて逃れ、その僅かな隙を突いてマイクロトフは必死で名を呼ぶ。すると少し不満げにカミューがぱちくりと目を瞬かせた。
「なんだい」
「……展開が早過ぎんか」
さっき両想いだと自覚しあったところだろう。ぼろぼろ泣いていたくせに何だその手は、どこを触ろうとしている。
眼差しにそんなつれづれの思いを込めてじっと見上げるとカミューは笑った。実に爽やかで好男子的なその笑顔は十中が八九、向けられた相手を虜にするだろう。そしてその笑顔が言うには。
「出会ってからの時間なんて関係無いさ。出会った瞬間からマイクロトフには百パーセントの愛情を捧げてるんだからね」
だから今欲しいと。臆面もなく言い放たれてマイクロトフは顔を赤くさせながら口ごもった。
「あれ、疑ってる? 一目惚れだったんだけどな」
そう言って微笑む顔は本当に魅力的である。だがこの数日で彼の人となりを何となく分かり始めて来たマイクロトフには、それが見た目通りのものでは無いと分かっていた。
「疑ってはおらんがな……ハッキリ言えば俺は一目惚れなんぞしとらん」
その瞬間、見るからにカミューは「ガーン」とショックを受けたような顔をした。
「マ、マイクロトフも最初から好きだったって言ってくれたじゃないか…っ」
「確かに言ったが、自覚したのは昨日の夜だ」
「ででででも」
いつの間にか二人とも起き上がって、カミューはわたわたと慌てつつ、マイクロトフはどっかりと座りこんで憮然としつつ。だがそこでふと思いついたことにハッと顔を上げた。
「だいたい、俺はカミューの事を殆ど知らんな、そう言えば…」
「そんな、何でも教えてあげるよ。聞きたいことは何?」
年? は言ったっけ。出身地? 誕生日とか? とあれこれと焦って並べあげるカミューにマイクロトフはたまらず笑った。
「カミュー。俺は別にそうしたことに興味は無い……ただ、そうだな、誕生日だけ教えてくれるか?」
「え、あ、うん……」
そして告げられたその日付に「そうか」とマイクロトフは頷いた。
「過ぎたばかりか。残念だな」
なら来年は今年の分も祝ってやろうというマイクロトフだったが、対するカミューはなぜか不自然に小刻みに震えていた。
「カミュー?」
不審に思って声をかけた途端にがばっとばかりに抱き着かれ、その勢いのままにベッドの上に再び押し倒された。
「な、なー!!」
「うわー、愛してるよマイクロトフ! やっぱり大好きだ、止まらない!!」
「な、こら! よせ!!」
「駄目! よさない!!」
恋にとち狂った男の情熱は確かに止まらない。来年も一緒にと無意識にか遠まわしに告げられて感動したならば尚更。
だがさっきよりもずっと明るくなってきた窓の外に、無自覚に口説いてしまっていたマイクロトフの方はたまったものでは無い。
「カミュー!」
「大好きだよ、本当に。大切にするから、もう絶対離さないよ」
「人の話を聞けーー!!」
「終わったら聞くから」
「何がだ、何をだ、う、うわぁっ……!」
そして、夜が明けていくのであった……。
good end ?
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2002/10/16