言霊


「好きだよ」
 と簡単に告げられる言葉に、つい疑問を持った―――。
「それは本気か?」
 と思わず問うてみると、目の前の男はぽかんとしてマイクロトフを見た。
「え? なに?」
「本気かと聞いたんだ。軽々しく聞こえたものでな」
「…ひっど…!」
 それはひどいよマイクロトフ! とカミューは傷付いた素振りで喚きたてた。
「すまん」
 詫びるものの、嘘は言っていないと思いじっと見つめ返すと再度問うた。
「で、さっきの言葉は本気だったのか?」
 するとカミューは酷いとなじったわりには、即答をせずに腕を組んで考え込んだ。おいおい? とマイクロトフは怪訝な気分を覚えて顔を顰める。
「カミュー?」
 不機嫌も顕わに名を呼べばカミューはハッとしたように顔を上げた。そしてその顔をくしゃりと苦笑に歪める。そしてひょこっと頭を下げた。
「ごめん」
「なにがだ」
「言われてみれば、さっきのはちょっと本気が薄かったと思う」
 素直なのは良い事だが、白状するにはあまりに情の無い言葉にマイクロトフの機嫌はずどんと音を立てて下がった。ところがカミューの方はと言うと何故だかニヤニヤと嬉しそうである。
「そっか、マイクロトフはその違いをちゃんと分かってくれるんだな」
「なに?」
「うん? ごめんねマイクロトフ―――好きだよ」
 にやけた顔で言われたのに、その言葉はさっきの言葉と全然違う言葉に聞こえて、マイクロトフは咄嗟に己の顔を片手で覆った。
「…マイクロトフ?」
 どうしたの、と覗きこんでくるのから顔を逸らしてマイクロトフは眉を寄せる。今まで自覚はなかったが、案外繊細に出来ていたらしい己の耳が赤い。だがまぁ、鈍いよりはましだろうと思ってマイクロトフは取り合えず今は耳も隠してカミューから逃れることに決めた。



end



2002/11/21