骨
うつ伏せに眠っている、マイクロトフ。
むき出しの背がなんだかそそる。
うつくしく筋肉の載った背が、呼吸で緩慢に上下に揺れている。
その背の、上。首の付け根のあたりにつと指先で触れた。
揃えた三本の指先に、彼の背骨のおうとつが感じられた。
大きな枕を胸元で抱え込むようにして眠っているから、とくに盛り上がったその骨が薄く皮膚を伸ばして突き出している。
その骨を指先でくるむように撫でて、カミューは背筋をそのまま下へと辿った。
真っ直ぐな背骨。
骨太な丸みをなぞりながらゆっくりと。
だが腰の辺りで毛布に阻まれてしまった。
「………」
立てた指先で毛布の端をぐい、と押す。
が。
「カミュー?」
起きてしまった。
「何をしているんだ……くそ、何時だ?」
「まだ日は変わっていないよ」
枕の横に肘をついて頭を起こしたマイクロトフは、眠い目をしばたかせて横目にカミューを睨んできた。
だが更に起き上がろうとする彼の、肩を掴んでカミューはそれを止めた。
「寝ていろよ」
「カミュー?」
肩の丸みの近く、鎖骨が指先に触れた。
鍛えられて固くても柔軟な筋肉とは、どうしても違う硬質な感触を指先で撫でる。
マイクロトフは怪訝な声を出したが、眠いのだろう。大人しくそのまま再びうつ伏せになる。
カミューは、その肩を掴んでいた掌で、背中をさらりと撫でた。起き上がるために立てていた肘がそのままだったから、肩甲骨が綺麗に浮き上がっている。
ゆっくりと、まるで今にも翼が広がりそうなその骨を撫でて、カミューはまた背骨へと掌を移した。
「カミュー」
「いいから、大人しく」
「くすぐったい」
ぶつぶつと文句を言うマイクロトフを宥めつつ、カミューは再び背筋に沿って腰へと下りる。だが今度は毛布の上から彼の身体をなぞった。
もう片方の手を加えて、腰骨の形を左右から確かめる。
そこだけは肉付きの薄い場所は、強めに押さえると掌の下で毛布と一緒に皮膚が動いて、ゴリゴリとした手触りを伝える。
「…いったいおまえは何がしたいんだ」
「んー……骨」
「ほね?」
「そう」
頷いてカミューは漸くマイクロトフの横に寝そべった。
そしてごそごそと毛布を手繰り寄せて、彼の素肌に腕を絡めるとぎゅうっと抱き締めた。
「カミュー?」
やっと間近に覗き込んだマイクロトフの顔は、眠気もあってかとても憮然とした表情を浮かべている。その鼻先に軽く口付けてカミューは笑った。
「だからさ、マイクロトフ」
「なんだ」
「骨まで愛しているよ」
呆れたような溜息は、照れ隠しに違いない。
end
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2004/03/23