凍 る 熱
神経が焼き切れそうなほど、思い焦がれる。
―――炭化しそうなほどの激情。
想うだけで、感情が昂ぶって涙すら滲む。
―――溺れそうなほどに浸蝕されている。
どうしてこれほどまでに、ただ一人の存在ばかり考えてしまうのだろう。
―――全て奪い攫われてしまった。
指が震える。
もう、剣すら握れない。
駄目だ。
アイツガイレバアイツダケガ全テニナル。
他ニハ何モ見エナクナル。
モシ、アイツガイナクナレバ、モウ生キテイラレナイ。
―――だけど。
『俺はお前なんか要らない』
そう言って酷薄に笑う表情すらもう愛しくて。
どうすれば愛してもらえるのか分からずに、ただひたすら外聞もなく縋るしかできないのだ。
+ + + + +
ある日を境にマイクロトフの態度が変わった。
それはカミューだけに分かる変化だった。
不意に冷たくなった。
いつもなら優しく髪を撫でてくれるのが、ない。
指を絡めてくれるはずが、無情に突き放される。
どうして、と問うても返事はない。
無言だけが答えだった。
「マイクロトフ…」
名を呼べば一応は振り向いてくれる。でも。
「なんだ」
用があるのならさっさと言え、ないのなら呼ぶな。
黒い瞳がそう告げている。
「今晩の……夕食は…」
「仕事がある。執務室で食う」
「ならその後は? 仕事が終わった後は何か―――」
「なんだ」
哀しくて、それでもその瞳を見詰めてカミューは訴える。なんとかしたくて、現状を変えたくて、以前のように戻したくて。
「……最近、二人で過ごす時間が……とても減ってしまったよ、マイクロトフ」
「それで、仕事で疲れた後に部屋に来いと?」
「あ……っ」
カミューは俯いた。
マイクロトフのつく溜息が重い。
「そう言うわけではないんだ―――すまない…」
消え入るようにカミューは言う。
だがそんな風にして俯いてしまったカミューの髪を、不意に優しく撫でる掌の温もり。
「カミュー」
落とされた囁きは低い。
「謝る必要はない。だが、俺も最近はひどく忙しい。それは、お前も分かっているはずだろう?」
「あ、あぁ…」
「だが、お前の望みなら叶えてやりたい」
「え?」
カミューは驚きに伏せていた目を開き、マイクロトフを見上げた。しかし、その耳に触れた言葉はそんなカミューを戸惑いに突き落とした。
「今夜は俺の部屋で待っていろ。ただし―――服は脱いでおけ」
「…え……?」
言われたことの意味が分からずカミューはただ瞬く。
「分かったな? カミュー」
ぽん、と頭をひと撫でしてマイクロトフの掌が遠のく。
「マイクロトフ…?」
去って行く男の背を戸惑いつつも見詰めながら、カミューはそれでも久しぶりに一緒に過ごせるのかもしれないと言う期待に打ち震えた。
だが、夕食を終えてからいざマイクロトフの部屋を訪れると、最前の戸惑いが蘇る。
主の居ない静まり返った部屋に立ち竦み、カミューは自分の身体を見下ろした。
―――服は脱いでおけ。
その言葉の意味するところを考えてカミューは赤くなった。
しかし、そんなまるで待ち侘びているような浅ましい姿でいるなど、カミューには耐えられない。でも言ったとおりにしていなかったらマイクロトフはどうするのだろう。機嫌を損ねて一緒に過ごしてくれないかもしれない。
カミューは、まず上着を脱いでみた。
だがそれ以上は手が動いてくれない。
誰も居ないのだから脱ごうが脱ぐまいが関係ないが、誰も居ないからこそ服を脱ぐのもおかしな話でかなりの抵抗がある。
しかしカミューの脳裏にはあの冷たいマイクロトフの瞳が過ぎる。
ぎゅっと目を瞑ってカミューはシャツの釦に指をかけた。
―――マイクロトフが、言ったから。
脱いで待っていろと言ったから、そうする。
そうしてシャツを脱ぎ捨てると、途端にひどく心許無くなって、わけもなく部屋の中を見回してしまう。
ここまでで良いだろうか? でも服とは、上着やシャツだけを言うのではない。
ところが、そうして逡巡している間に扉が音もなく開いた。
ハッとして振り向けばマイクロトフが立っていた。
「マイクロトフ」
途端に満たされる心に、喜色を浮かべてカミューは歩み寄ろうとした。だが、マイクロトフの瞳は冷たく凍ったままで、踏み出した足がつい止まる。
「あ……その…」
「なんだ、まだ、脱いでもいないのか」
「えっと」
なんと答えれば良いのか分からずカミューは言葉を無くす。そこへまたマイクロトフの重い溜息がわだかまった。
「折角、早めに仕事を終わらせてきたのに―――カミュー、俺がなんと言ったか分かっていなかったのか」
「服を、脱いでいろと……」
「そうだ。俺は確かにそう言った。なのにどうしてそうしてくれていないんだ?」
「脱ぐ…途中だったんだ」
「そうなのか?」
「うん」
こくりとカミューは頷いた。
すると、マイクロトフは椅子をひいてそこに座った。
「あ……マイクロトフ…?」
「どうした? 見ていてやるから脱いでみろ」
「でも…」
「出来ないのか? だったら今夜はもう構わん。部屋にでも戻れば良い」
「まっ……脱ぐ……から」
「なら早くしろ。俺は疲れているんだ」
無情な言葉に、それでもカミューは必死で応えようと、震える指先を叱咤した。
マイクロトフの冷たい視線が、ただただ―――つらかった。
服が乾いた音を立てて全て床に落ちた時、カミューは居たたまれなくなって目を閉じた。
「…マ…イク……」
声さえまともに出せず、立ち尽くすばかりでどうしようもない。そこへ、ふとざらりとした温もりが触れた。遮るものもなく外気に曝された肌に、触れた温もりはひどく心地良く、目を薄らとあけてみれば直ぐ傍にマイクロトフが微笑みを浮かべていた。
「恥ずかしがる事などないだろう? こんなに綺麗なのに」
すっ、と背筋をマイクロトフの手袋に包まれた指が擦り上げた。
「…あ……っ」
「ほら」
ぴくん、と背を逸らせた弾みで上がった顎を捉えてマイクロトフがこそりと笑む。
「キスして欲しいか?」
「…あ、うん…っ」
肌寒さにか、それとも背を愛撫する指先の余韻にか、震えながらカミューはくちづけを乞う。だがマイクロトフは笑みを浮かべたままゆっくりと首を左右に振った。
「まだ、駄目だな」
少しだけ動けば今にも触れそうな近距離で、だがマイクロトフはくちづけを与えてはくれない。カミューはどうして、と瞳で訴えた。
「俺は、疲れているんだ。だからな、カミューからしてくれ」
言ってマイクロトフはカミューからパッと手を離すと、身を離して背後の寝台へと腰掛けた。取り残されてカミューはうろたえる。自分からしろと…? 途端に顔が火照るのが自分でもわかった。
だいいち、マイクロトフはまだ手袋さえ脱いでいない、まったく衣服に乱れはないのにカミューはといえば全て脱ぎ去った姿だ。この状態で誘えと言うのか。
理性は拒否を訴える。元からそう熱心ではないカミューだった。いつもマイクロトフから求められるままに身体を開いてきたのだ。自分から誘って事に及ぶなど無かったとも言える。しかし―――。
求められなくなるとひどくもの寂しいのだと気付いた。
熱い眼差しではなく、冷たい眼差しでは、見詰められればられるほど逆に肌が火傷しそうに感じるのだ。どうしてかなんてカミューには分からない。ただ素っ気無い態度の全てがカミューを焦燥に絡め、戸惑いに突き落とすのだ。
だから、そうしろと命ぜられれば理性に反して体が動こうとする。
ふる、と震えてカミューが一歩踏み出した。
「マイクロトフ……」
手を伸ばして、指先でマイクロトフの頬をとらえて上体を屈める。
上から、被さるようにして唇を合わせた。だがマイクロトフは薄く唇を開いただけで、なんの反応もかえしてくれない。カミューは焦れて、自ら舌をさし込むと必死でマイクロトフを求めた。
「…んっ……」
指をマイクロトフの髪に絡め、腕は首に回し、まるで今にもしな垂れかかりそうな勢いでカミューはマイクロトフに縋り付く。
「おねが……い……っ」
いつの間にか昂ぶってきている自身に抑えがきかず、カミューは薄らと涙を浮かべながらマイクロトフに抱きついた。肌が、そんなマイクロトフの騎士服の表面に擦れて淡い痛みを作る。
「仕方ないな」
マイクロトフの呟きにカミューはハッと顔をあげる。途端に軽く立ちあがった自身を掴まれて息を詰めた。
「あ…んっ」
「もうこんなにか……?」
ひどく冷静な声でそう言われてカミューは目の前が真っ赤になった。
「だってマイクロトフ…っ」
どうして良いのか分からない。
何故こんな目にあわされるのかも分からない。
だがわかっている事はひとつだけ。カミューは今、どうしようもなくマイクロトフだけを求めているのだった。
そんな、涙を滲ませて訴えるカミューを、だがマイクロトフは眇めた瞳で暫く観察するように眺めてから、ふとその目を軽く見開いた。
「カミュー?」
心持ち、声に愉快そうな色が含まれ、カミューは逆にその声に身を竦ませた。
「…なんだ……?」
そろりと窺うとマイクロトフが優しく微笑んで、ふわりとカミューを抱き寄せた。そして耳元で小さく囁いた。
「俺が欲しいんだろう?」
その、直接的な言葉にカミューがかあっと赤くなる。その肯定の印にマイクロトフは満足そうに笑った。続けて耳に染み込ませるように囁いた。
「だったら、な……俺のをしてくれ」
「え…?」
唐突な言葉にカミューがぼんやりとしていると、不意にマイクロトフの親指がカミューの唇を撫でた。手袋の乾いた感触がざらりと撫でつける、それが何を意味するのか。
わかるだろう? とマイクロトフが微笑む。
その魅惑的な笑みにカミューは陶然としながら、言われた言葉に戸惑う。
「…あ……そん…な……」
「出来ないか? なら、仕方がないな。服を着ても良いぞ」
そして出ていけと。
カミューは『嫌だ』と即座に考えた自分を、もう否定はしなかった。
飲みきれずに口の端から滴るそれ。いつしか飲み込むのもつらくなるほどの大きさになったものを甘く噛み、舌を這わせいっそ無心で奉仕を続ける。だが。
マイクロトフが何も言葉をかけてくれない。
静かな室内で、自分が立てる水音だけが響いているのを聴くことにそろそろ耐えられなくなってきたカミューだった。そろりと涙に煙る目で見上げると、冷ややかに見下ろしてくる黒瞳に出会った。
―――あ……。
ずきん、と胸に鋭い痛みが走った。だが、同時に身体の中心を高温の熱に貫かれもする。だがそうして視線が絡んだ刹那、何かがそこに閃いた気がした。かと思うと、突然に髪を掴まれ後ろに引かれ、痛みに微かに呻き声を漏らした。
「もう、良い」
マイクロトフの足元に跪いている体勢だったのが、それで崩れる。
「や……あ、痛…」
引き上げられてカミューは慌てて膝立ちになった。マイクロトフはそんなカミューの耳に顔を寄せると掠れた声で囁いた。
「さて、どうしたい」
「欲し……」
髪を引かれる痛みよりも、肌をさらしたまま放り出された体の疼きの方が何より勝る。朦朧としながらカミューは訴えていた。
「マイクロトフ……お、ねが……」
「カミュー、本当に仕方がない奴だな」
酷薄に笑ってマイクロトフはそんなカミューを立ち上がらせ、つま先からじっとその姿を眺め上げた。全身赤く染まって、しっとりと汗に濡れている。ぴくぴくと足が震えるさまが、常の怜悧な印象を覆してことさら隠微に見せていた。
「そうだな……自分でやってみるか?」
「な…に……?」
「自分でしたら俺からもしてやる。出来るなカミュー?」
そんな事を言われてカミューに頷ける筈もなかった。
これ以上焦らされたらおかしくなってしまう。
「い、や…ぁ……っ」
掴まれた髪を引かれる痛みなど、この疼きの前にはさほども感じられない。カミューはがくがくと震えながら再びそこへ座り込んでしまった。
「マイクロトフ…っ……ど…して……っ」
こんなにも求めているのに。
だがその問いはあまりに愚かで、そして意味が無かった。
「カミュー、嫌ならこれまでだ」
「…そん…なっ」
「自分でして見せたなら、してやると俺は言っているんだ。簡単だろう?」
酷薄だった眼差しは一転姿を変え、甘い笑みでそんなことを囁かれる。そうされるなり何故だかカミューの肌の上を快感が小刻みにさざなみ、すり抜けて行った。
「マイクロトフ……?」
縋るように見上げても、マイクロトフは前言を撤回するそぶりなど欠片も見せない。心理的に追い詰められてカミューは目蓋に感じる熱いものにとうとう項垂れた。それでも、震える指先を叱咤して自らに触れようと試みた。途端に髪を引く痛みが失せた。
「そうだ、カミュー……」
「……っ……」
優しく髪を撫で梳かれて余計にこみ上げるものを堪え切れず、ぱたり、とカミューの閉じた目蓋から溢れた涙が頬を伝い、顎先から床へと落ちる。例えようも無い羞恥が全身を赤く染め上げて行くのが分かるのだ。マイクロトフの目の前で自分自身を高めていくその浅ましさが消え入りたいほどの気恥ずかしさを呼ぶ。
「もう……いやだ…」
気付けばそんな弱音を吐いていた。
だが。
自分の手で高めた欲望はそんな弱音など知らぬとばかりに主張を示す。
「ぁ……もう………ぃ…く…―――っ」
涙を振り切ってカミューは震える吐息と共に、自らの掌に精を吐き出した。そして訪れる倦怠感にぐったりと肩を落としていると、またさらりと髪を撫でられた。
「それだけでは、駄目だろう?」
脇を支えられ膝で立つように引き上げられ、白濁に濡れた掌の手首を掴まれる。
「……これで濡らさないと、な?」
掌を後ろに導かれて、流石にぼんやりとしていた思考が慌て出す。
「あ、待っ………ひ…」
「カミューの細い指なら二本くらい平気だろう」
無理やりに自分の指をそこに突き入れさせられて、その痛みに悲鳴が上がる。
「いた…い……や、あっ」
「痛い? どこがだ」
ぐい、と強く捻じ込まされて、本当に痛みを感じるのにマイクロトフの嘲笑の先、今しがた放ったばかりの自身がまた欲望に立ち上がり掛けている。
「気持ちが良いの間違いだろう」
くっ、と笑ってマイクロトフはまたも唐突にカミューの手首を離した。
「…あ」
慌てて、空いた手で縋れば支えてはくれる。だがそれ以上は何もしてくれない。
「出来るだろう? カミューは後ろの方が気持ち良いんだろうからな」
「そ…んな…こと……」
ない、と言おうとして、なら捻じ込まされた指をどうして抜かないのかと、自分自身に問うてみてカミューはまた涙を零した。
「…ふ……ぅ……」
こそり、と白濁を擦りつけるように、中に含ませた指を動かした。途端に感じた快感のうねりにたまらず目を伏せる。すると直ぐそばで、マイクロトフの冷やかな視線を感じた。
「淫乱だな」
胸が冷えた。なのに。
「あ……っ」
言葉が胸に落ちた、その時に指先が掠めた一点から火が点る。脚が震えて膝で立つことがおぼつかなくなり、がくりと倒れ込みそうになる。
「自分の指だけで悦いのなら、本当は誰でも構わないのだろう?」
「ちが……んっ」
寝台に座るマイクロトフの膝に縋りながら、カミューは首を振る。
どうしてこんなに身体が熱くなるのだろう。
与えられる言葉は突き刺さるほど冷たいのに。
―――どうして。
「俺でなくても、その辺の棒でも悦いんじゃないか?」
「マイ……マイクロトフが……い、いい…」
「指だけで気持ち良いんだろう」
「……あ……ぅ…んっ」
気持ち良い。
だけど違う。そうじゃない。
「た…足りな……い。―――マイクロトフ……欲し…っ」
「良いぞ」
「…え……?」
不意の言葉に顔を上げると、マイクロトフは寝台に深く腰を掛け直して、カミューを見た。
「欲しいんだろう?」
「…あ……」
その時カミューは、ぷつりと何かが切れる音を、確かに聞いた。
碌に愛撫もされていないのに昂ぶる身体。
貪欲に求めるばかりの奥底。
そんなものを持て余して、とうとうカミューはマイクロトフの誘いに抗い切れず、赤く染まった身体でマイクロトフの上に乗りあがると自ら腰を落とした。
「は……ん…っ」
快感に萎えた足ではなんの支えにもならず、自重によって深くマイクロトフを咥え込む羽目となる。その衝撃に耐え切れず涙を零してカミューはマイクロトフの胸に縋りついた。
「マイクロトフ…」
だが指はその衣服の表面を滑るばかりで、その渇いた感触がまた己の醜態を否応無く際立たせた。
「や、マイ……ああっ」
ずる、とつま先が敷布を滑って体勢が崩れた。
途端に信じられないほど奥まで貫かれて目の前が真白に焼けた。
「あ……あ………」
腿がびくびくと震える。
もうこれ以上指先一本たりと動かせないと思った。だがマイクロトフの視線は、カミュー自身が動けと言っている。そんな視線を受けると、身体中痺れたような快感に包まれているのに、何故だか心はそれ以上を望み始める。
「…ん……っ」
震える膝に力を込めて腰を上げれば、我が身を貫く凶器がずるりと身を抉りながら姿を現す。だがその全てが抜け切らぬうちに、力尽きたようにまたカミューは腰を落とした。
「や……あ…っ……!!」
だがその為にまた身の内を貫かれる衝撃に背をしならせ悲鳴を上げる。
「…あ……ぁ…」
かくかくと小刻みに震えるカミューを、だがマイクロトフも流石に表情に余裕をなくして見上げていた。いつの間にかその大きな手が頼りない腰へと当てられている。え、と思う間もなく訪れた激しさにカミューは目を見開いた。
「イ、や……やだ……まっ!!」
唐突に突き上げられてカミューの呼吸が一瞬止まる。そしてその白い指先が空を掻いてマイクロトフの肩へと触れ、それが合図だったかのようにマイクロトフは身を起こすと思うさまカミューを責め始めた。
「マイクロトフ、や、ああっ」
片足を抱え上げられ、あられもない格好でいながらマイクロトフに必死で縋りつく。もっと、もっとと請うように腕を男の肩に絡めて、快感によがり狂った。
「もっと…おくに、欲し…っ」
溶けてしまうのではないかと思えるほどの熱さが身体の中を乱暴に責めたてる。だがカミューはそれでも足りないと、もっと奥に情熱を叩きつけてくれとマイクロトフに希う。すると、ことさら感じやすい耳を舌で嬲られた。
「ひ……」
「言え、そうしたらくれてやる。気持ち良いか?」
「…い、いいっ……―――気持ち…いい…っ」
「ご褒美だ」
薄笑いと共に、中心を掴まれて荒々しく扱かれカミューは絶えいるように喘ぐ。
「マイ…ク………フ…っ」
呼吸すらままならなくなって気が遠くなりそうになるその時、強く腰を押しつけられたかと思うと身体の、絶対に届かないような奥底に熱い情熱が叩きつけられた。と、同時にマイクロトフの手の中でカミューの情も解き放たれる。
「アアッ……!」
切ない悲鳴が細くわだかまる。
そしてぐったりと背中から寝台へと倒れ込んだカミューを、だがマイクロトフは構わずに身を引いた。ずるり、と抜ける感触すら鳥肌を呼んでカミューの身体がぶる、と震える。その頭上からふと小さな吐息が聞こえた。
「汚れたな…」
涙に潤んだ瞳でカミューが見上げると、マイクロトフは自分の手袋を脱ぎ捨てた所だった。
カミューの吐精したもので汚れてしまったそれ。
「あ……すまない…っ」
「別に構わん。まあ、今度は汚さないように我慢でもしてくれ」
「…こん、ど……あ、うん…」
言われた内容よりも、また今度があるのかと、その言葉だけが嬉しくてカミューは頷く。情交の後に優しくされなくても、次があるのだと思えばまた身体が喜びに打ち震えるのだ。
もう、どんなでも良い。
そばに居る事を許してくれるのなら。
こうして、抱いてくれるのなら。
どんな事を要求されても、応える。
たとえそれが……無機質な情でも。
形だけでも。
もう、その人なしでは、生きていけないから。
next
イタタタタ
あんまりエロくはありませんが、それだけって初めて書きました
新年の初めっから碌でもないものをお送りしております(笑)
ちなみにこんなものでも感想お待ちしております〜
2002/01/01