帰還を果たしたマイクロトフはその意外に確りとした足取りでゴルドーに諸々の報告を行なった。
その無事な姿を見てゴルドーはややうろたえてはいたものの、上辺ではやはり「良く戻った」とその帰還と、伝え聞いた活躍を褒めた。
実際、白騎士団が調査をないがしろにしていた村の事件を解決したわけである為、帰還早々の事情を知らないマイクロトフの報告はそれに抵触しっぱなしのものだった。これではまずいといち早く察した副長によって、詳細は後日書面にてと言う事になり、万全ではない団長を慮ってと、報告の面会は呆気ないほどすぐに打ち切られた。
「そうか……俺はまたゴルドー様にとって余計な真似をしていたんだな」
苦笑を漏らす自団長に、副長も口許を歪める。
「事後報告の書類は私にお任せ下さい。マイクロトフ様はどうか体調を万全に帰す事にのみ集中を」
「わかった」
短く答えて、マイクロトフは実際殆ど力のこもらない手を握り締めた。
―――よく、ダンスニーが握れたものだ。
我ながら、火事場のなんとやらとは良く言ったものだ。
妖花にとらわれていた間の事は、実はおぼろげにしか覚えていない。しかし、その最後の場面だけは強烈に記憶に残っている。あれほどの激しい怒りは忘れようと思っても忘れられないだろう。
叶わぬ想いに対する絶望を、翻弄された怒り。
そして同時に、あんな悲しい事は無かった。
―――カミュー。俺は、おまえを……幻とは言え。
妖花のそれを切り伏せた感触は、人のそれとは全く違う。だがあの時マイクロトフは間違い無く愛すべき青年に剣を振り下ろしたのだ。
違うとは解っていた。別物だと。
その青年の姿を騙った事すらにも怒りを覚えたのだから剣を向ける事に躊躇いは無かった。しかし、何度も脳裏で繰り返されるあの瞬間。
燃えるような狂おしい眼差しで自分を見つめていた青年の姿がダンスニーによって打ち破られるその瞬間が、記憶の中枢にあって離れない。
「マイクロトフ様。顔色が優れませんな……早く休まれた方が良い」
「ああ…」
答えたものの、虚ろな呟きは虚に向かって吐き出されたも同然だった。
その部屋の主になってから一ヶ月と少し。まだ使い慣れないうちから長く離れてしまったために、そこに戻った時の違和感は否めない。だが青騎士団長の私室、そのベッドの寝心地は悪くない。そこに身を横たえるなり襲ってきた疲労と倦怠に、奈落に落ちるかの如きの急速な眠りにのまれたマイクロトフだった。
そして夢も見ない深い眠りから覚めたのは、深夜も深夜、全てが夜の闇に落ち、城内がしんと静まりかえった時分だった。
闇の中、身を起こすと馴染んだ気配が肌に染みる。このロックアックス城が醸し出す厳寒な気配。戻ったのかと、何気なく思った。しかし。
ずっと胸にわだかまるしこりのような違和感が消えない。
通常、妖物に幾日にも渡ってとらわれ、死の縁まで行ったとすれば、肉体的にも精神的にも後遺症が残ってもおかしくない。
しかし鍛え上げられた頑強な肉体は、体力の低下を残すのみで、今は着実に回復しつつある。そして騎士として育まれた精神力は、妖物による惨い体験に打ち勝つ強さを持っていた。
流石はマチルダ騎士団の一角を担う、青騎士団の団長である。だがどれほど強くあろうと、決して脆い部分が無いとは言い切れないのが人間である。ましてや、マイクロトフは未だ年若い青年であり、そして心の奥底には熱くたぎる想いを抱えて生きているのである。
カミューへの溢れんばかりの思慕。―――それによって妖花にさえ惑わされるほどの、マイクロトフの全てとさえ言える想い。
昼間―――帰還して医務室へと直行させられたマイクロトフだった。出迎えた副長の表情を見てしまっては、否やなど言えるはずも無く、黙ってそれに従った。
他の部下たちは邪魔であろうと、室外で待機していたらしい。他の者が入ってくる気配は無かったのに、不意に戸が叩かれ静かに開かれた。そして真横に立っていた副長が言ったのだ。
―――カミュー様。
直ぐにでも来るだろうと思っていた。
帰路の馬車に揺られながらずっとその事を考えていた。何しろカミューは親友だ。マイクロトフの帰還を喜び、姿を見せないはずは無い。
彼の事だから、もしかするといつものように散々こき下ろされるかもしれない。団長になったばかりでなんと言う体たらくだと、手酷く叱られるかもしれない。それもいい。
再び会えるのならそれでいいと思った。
やはり自分のこの想いは許されざる、明かされざる想いなのだから、これまでと同じく胸に秘めていれば良い。そう決意していた。
だからカミューが怒るのなら黙って怒られようと、この無様な姿に呆れたのなら、面目無いと頭を垂れようと。そしてこれまで通り親友としていられるように―――。
なのに、振り返ってみて、久方ぶりにまみえた青年は予想以上の表情をしていたのだ。
見慣れた穏やかな微笑はもとより、怒りどころか表情の一切が消え失せた青白い顔で、呆然とマイクロトフを見つめていたのだ。それを見た刹那、マイクロトフは胸に重い痛みを感じた。
―――…カミュー。
どうしたんだと、そのつもりで名を呼んだ。
だが青年はその瞬間、確かにびくりと震えた。その琥珀の瞳が揺らいで、真横に引かれていた唇が、僅かに開いて戦慄いた。そして。
―――マイクロトフ。
この秀麗で洗練された青年らしくない、酷く不安定な声音で呼び返してきたのだった。
この親友は、己の身を心から案じていてくれたのだ。その不在に心を痛めていてくれたのだ。頬が削げ、明らかに憔悴したとわかるほどに。
気付けばその愛しさに、青年の身を抱き締めていた。
これ以上何を望む。
これほどカミューはマイクロトフに重きをおいている。
そしてこうして傍にいる、それ以上を望むのは強欲ではないか。
もういい。
会えればそれで良い。
そう思って一連の想いを断ち切った。あの妖花を切り伏せた瞬間さえも頼りにして、カミューへの想いに決着をつけた。
つけた、はずが。
かつえた想いが、満たされないと叫ぶ。
違う、と。
妖花の幻惑に翻弄され、思い知らされた深い想いを、隠し切ることなど出来はしないのだ。以前のように振舞う事は、もう無理なのだ。
それこそ違和であり、現在と、数日間に及ぶ別離の前との徹底的な差であった。
闇の中、身を起こしたまま彫像のように固まっていたマイクロトフは、緩々と息を吐き出すと、片方の手の平で目元を覆った。
そのまま夜明けまで眠れず過ごしたマイクロトフだったが、定刻になると我知らず起き上がり服を着込み始める自身にはつい苦笑を漏らした。
早朝訓練。
まだ一介の騎士見習いであった頃から。いや、それよりずっと以前、剣を握るようになってから繰り返し続けている日課は、些少の事ではさぼる気になれないらしい。
妖花にとらわれていた間も片時も離れず傍にあった愛剣ダンスニーを手に持つと、マイクロトフは部屋を出た。汗をかけば少しは気も紛れるだろうと―――。
「マイクロトフ様!」
驚くべき事に、青騎士たちはマイクロトフが不在の間も早朝訓練を行なっていたらしい。常と変わらない顔ぶれが訓練場には居並んでいた。
「皆熱心だな」
そう言って、マイクロトフがダンスニーを持ち上げると、青騎士たちは揃って目をむいた。
「何をなさるおつもりですか!」
「ま、まさか訓練をなさるとか、言うつもり……なんですか?」
「そのつもりだが」
答えると青騎士たちは益々目を見開いて、次には勢い良く首を左右に降った。
「何を考えているんですか。あなたはまだ安静の身ですよ?」
「ああ、とは言え体がなまるのは避けたい」
無茶はしない。そう言うと青騎士たちは呻き声を上げてどうするべきかと思案を巡らせた。だが、この頑なで真面目な団長を止める術があろうかと言う結論に辿り着いたらしい。
「本当に無茶はなさらぬなら宜しいでしょう。出来ればご自身の訓練より我らの指導を中心にお願いします」
「わかった」
深く頷くと、漸く青騎士たちも納得したらしい。気を取り直して剣を握ると、青騎士団特有の早朝訓練は始まったのだった。
だがその訓練は早々に中断される事となった。
何が彼をこの城内の最下層にある訓練場まで導いたのかは不明だ。だが虫の知らせと言うのが実際にあるならば、まさにそれだろう。
ここ数日眠りの浅かった赤騎士団長は、やはりその朝も気だるい身を夜明けと共に覚醒した意識のまま過ごしたのであった。
「呆れた……」
心底から呆れた口調でカミューは目前の男を見下ろした。
嫌な予感を感じて、よもやと訓練場まで出向いたカミューを迎えたのは、ここ数日間の気鬱を払拭するような覇気ある青騎士たちの掛け声と、それを指導するマイクロトフの姿だった。
昨日大事をとって馬車での帰城を果たした男が―――帰城するなり医務室に直行した男が―――ゴルドーへの報告も早々に切り上げて部屋での安静を強いられた男が―――。
青騎士たちも青騎士たちである。自団長の容態は聞いて分かっているだろうに、何を嬉々として指導を受けているのか。
マイクロトフ、と訓練場の入り口で名を呼ぶと、男はそろりと振り返りカミューの強い眼差しを受けて声を詰まらせた。
それきり、無言で身を翻したカミューを、マイクロトフは慌てて追い掛けてきた。結果、無茶な真似を止めさせることは出来たが、追い掛けて来た男を待つ事もせず、足早に私室まで戻った。そして、少し遅れてその部屋の扉が叩かれたのである。
椅子に座るマイクロトフに対して、カミューは立ったまま苛立ちを抑えずに睨みつける。
「自分の体力を過信するのも大概にしろ。おまえは死にかけたと聞いたがそれはわたしの聞き違いだったのか?」
「いや……」
その通りだ。
低い声の応えに、カミューは目を眇めて小さな溜め息をついた。
変わっていないようにみえた。
昨日、変わらぬ無事な姿を見て心から安堵した。だから疑わなかった。
必ず体調を戻して、以前のようになるのだろうと。
マイクロトフは一本気で無鉄砲だが、馬鹿な無茶はしない男だと知っていたから、そうなるのだろうと信じて疑わなかったのだ。
それがこんな―――決して体に良いとは思えない行動をとる。なまらない為と言っても程度がある。今朝垣間見たマイクロトフの必死さは、限度を超えていた。まるで何かに追い立てられているかのような必死さ。それはもしかして就任したばかりで事件を起こした我が身を責めているのだろうか。
「マイクロトフ。何を焦っている」
「……焦る?」
「ああ、もしかして今回の事件で団長の地位を退けられるとか思っているのではないだろうな? 帰城して直ぐさま以前と同じ働きをしなければならないと、そう考えているのではあるまいな」
男の黒い双眸を見つめてカミューは問う。だがそれは無言でかぶりを振るう動作によって否定された。
「なら、何故こんな無茶をするんだ」
返答は無かった。
マイクロトフは黙り込み、ぴくりとも動かない。
「マイクロトフ」
「俺は―――」
強い語調で再度問いかけようとすると、当のマイクロトフに阻まれた。カミューは言葉を飲むと、俯いてこちらを見ようとしない男が続ける言葉を待つ。すると再び低い声が響いた。
「……俺は…」
膝の上にあった武骨な両手がぐっと握りこまれる。
「カミュー……もうこんな風に俺の世話など焼かなくていい」
そして立ち上がると、苦く笑って出て行こうとする。それを一瞬ぼんやりと見てしまったカミューだったが、慌てて引きとめた。
「待て」
だが男は立ち止まらない。そんな態度にカミューの目の前が赤く焼けた。
「逃げるのかマイクロトフ」
するとその言葉にマイクロトフの身体が震えた。そしてがばっと振り返ると、その食い縛った歯列から呻き声が漏れた。
「俺がいつ逃げた!」
その怒声に肌がびりびりと震えた。だがカミューは怯まずその瞳を真正面から見据えた。
「逃げているだろう。質問に答えろ。何故無茶な真似をする?」
「俺に構うな!」
カミューは絶句しマイクロトフを見た。
青い騎士服の肩は震え、握られた拳は更に戦慄いている。きつく寄せられた眉の下、その眼差しも苦痛を感じているかのように細く歪められている。
そして低く暗澹たる声が響いた。
「……俺は…もう団長だ。いつまでもおまえに構われていては―――示しがつかん。だからもう…構わないでくれ」
苦しげに吐き出された言葉は、しかしカミューには別の言葉に聞こえた。
構ってくれ。
助けてくれ。
その時カミューは思い出した。
マイクロトフがその胸に抱いていただろう想い。妖花にとらわれどんな体験をしたかは知らない。しかしそれは男の想いにどんな変化をもたらしたのだろうか。
それを確かめる術がひとつだけある。
「―――マイクロトフ。そうは言っても、わたしにはおまえを見放せない理由がある」
その理由を見せるから。
そう言ってカミューはマイクロトフに待てと言い置いて身を翻した。背後の寝室に続く扉を開けながら、カミューは男が立ち去らない気配にとりあえず安堵する。
そして寝室の窓辺にずっと置かれていたそれを手に取った。
マイクロトフは寝室から戻ってきたカミューがその手に持つものをみとめて、愕然と息を飲んだ。
「カミュー……それは…」
「驚いたかい?」
カミューが手に持っていたのは、それを託した時と同じ花瓶に、淡く揺れる赤い花束だった。儚く萎れかけてはいたが、枯れるには到らずに花弁を美しく広げている。
「強い花だよ―――わたしの期待に応えて、頑張って咲き続けてくれていたんだ」
ほら、とカミューは花瓶をそのままマイクロトフに向けた。
「枯れさせなかった。おまえが戻るまで、な」
そして見上げた青年は、どこか怒っているような表情をしていた。そして見ろ、と。その手に取って確かめてみろ、と差し出されたそれをマイクロトフは受け取った。
ぼんやりとしながら花瓶から一輪抜き取ると目の前まで持ってきてくるりと回す。光りをはじいた赤い花は輝かしく生命の強さを訴えていた。
まさか、と声無く呟いたが、萎れかけたその姿は紛れも無くマイクロトフがカミューに託したそれであった。あの唄に感動を覚えて買い求めた、あの花だった。
「…カミュー」
「これが、理由だ」
そしてカミューはマイクロトフの手から、その一輪を抜き取った。
「何のために苦労して枯れさせずにいたと思う。他でもないおまえが、わたしに戻るまで枯れさせないでくれと言ったからだ」
そう言って唇を噛むカミューは、俯いて花を持つ手をだらりとおろした。
「おまえが戻らなくて心配した」
「………」
「おまえが無事かどうかも分からなくて、嫌な夢を見たり食事が出来なくなったり……さんざんだった」
「カミュー」
「人をこれだけ振り回しておいて『構うな』と? 冗談も休み休み言えマイクロトフ」
きっと睨み付けてきたカミューの白い頬がいつの間にか蒼ざめている。そこから立ち上る怒りの気配は、いまだかつてマイクロトフが見た事のないものだった。
穏やかでも理性的でもなければ戦闘時の爛々と輝くようなそれでもない。ただ純粋な怒りの感情を露わにした、その眼差し。薄い琥珀の色が怒りを含んで、燃えるような赤みを宿している。
マイクロトフの知らないカミューの顔。
妖花でさえこんな顔はしなかった。
「カミュー……」
「こんな花を託され、あんな唄を聴いたわたしが、おまえを構わずにいられるものか」
そしてカミューは間近でマイクロトフを真っ直ぐに見つめてきた。
そして不意にその手が伸びて、強張るマイクロトフの頬に触れた刹那、カミューの目が哀しみに揺れた。
「無事に戻ってきてくれて本当に嬉しかったんだ。なのにそんな悲しい事を言ってくれるなマイクロトフ」
「カ…ミュー……」
マイクロトフの喉はからからに乾いていた。
触れられた頬が熱い。だが意識の奥で警鐘が鳴り響く。
「俺は、駄目だ……カミュー。俺は偽物とはいえおまえを切ったんだ……」
「わたしを?」
問われてマイクロトフは、頬にかかるカミューの手を取り、やんわりと外すと瞑目した。
「俺をとらえた妖花は、おまえに化けて俺を惑わした……俺は、逃れるためにそれを切ったんだ」
カミューの息を飲む気配がした。だがマイクロトフはもう告白を止められなかった。今ここで言ってしまわなければ―――何故かそんな焦りにとらわれていた。
溜まってもいない唾を嚥下する。
「俺は、許せなかったんだ。妖花がおまえの姿を騙って、有り得ない表情で俺を見るのが……許せずに、耐え切れずに切り伏せた」
「マイクロトフ?」
「とにかく。このままでは俺はいつか耐え切れずにおまえをどうにかしてしまう。妖花にしたようにおまえを切るかもしれない―――そう言う事だ」
だから、構わないほうが良いんだ。
そう呟いた。
これでカミューは自分を恐れて離れていくに違いない。そう思った。ところが、いつまでたってもカミューが動く気配がない。ふと、気になって目を開けた―――途端、目に飛び込んできたそれに心臓が跳ねた。
「……うわっ、カミュー!」
間近に迫っていた赤い騎士服。
避ける間もなく抱き付かれてマイクロトフは両手を泳がせ、頬と顎に触れた青年の栗色の髪に目を見開く。そして耳元で響いた細い声に息を飲んだ。
「悲しい事を言うなと言っただろう……」
青年の息遣いが肌に触れる。
「わたしの事を愛しているんだろう、マイクロトフ?」
その言葉に、殴られた衝撃を受けマイクロトフは言葉を詰まらせた。だが、青年の言及はやまない。
「そうだろう?」
「あ―――ああ……」
つい、頷きを返した。
すると身を抱く青年の腕の力が僅かに緩んだ。
「だったら、良い。切られてもわたしは良い」
そして身を離したカミューの秀麗な顔が、穏やかに笑むさまをマイクロトフは呆然と見た。
「これまで、おまえに身を切るような想いをさせていたのだからな―――」
カミューはふといつの間にか握り締めていた花を持ち上げた。
「おまえが柄にも無くこれを買って来た時は笑ってしまったが、今はとても笑えないな。なぁマイクロトフ。これはわたしを想って買ったものだな?」
「―――そうだ」
頷くとカミューは満足そうに目を細めた。
「『つきたちの花』か。まさしくわたしに想いを届ける花だったな」
「カミュー、それは」
「おまえの想いは受け取った。だから返す」
そしてカミューはその手にある一輪の花をマイクロトフの胸に突き付けた。
「全く足りないだろうけどね……わたしの想いも受け取ってくれないかマイクロトフ」
そのしおれかけた花を。
しかし今も鮮やかに光りをはじく赤い花を、マイクロトフは呆然としながら受け取った。そしてずっと片手に掴んでいた花瓶を見る。
一輪も欠かさず、枯れないでいた花々の姿は、そのままカミューの想いの表れであると、そう都合の良い様に解釈してしまっても良いのだろうか。
だがその疑問は、再び見たカミューの笑みを見た瞬間全て打ち消された。
穏やかで理知的なカミューの眼差し。だがそこには今優しげではあるが情愛が満ちている。狂わんばかりではないが確固たる情熱が宿っている。
妖花の宿していたそれではない。
カミューだからこそ出来る艶やかな笑顔―――。
「カミュー」
耐え切れずマイクロトフはカミューの身を抱き締めた。
「カミュー……カミュー」
その耳元で、青年が穏やかに囁く。
「おかえり、マイクロトフ」
「あぁ―――ただいま」
END
■選択肢(A-7)に
戻る
めでたしめでたし。
耐え忍ぶ青ってのはなんだか違う気がするんですけど
でも赤のために苦しむのはありかと
この後はちゃんと赤と和解(?)してらぶらぶになるのでしょう
どんな目に遭っても青ってつらい事なんてけろっと忘れてしまいそうです
傍に赤さえいれば全然おっけぇって感じです(笑)
2000/08/30
企画トップ