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* * * 読書雑記(2006年) * * *




2006年は漫画も含め累計182冊という過去最高の冊数の本が読めまし
た。今年も好きな著者の本に偏っていますがかつて読んだことの無い著者の
本にも挑戦しています。興味ある本はまだまだ尽きそうにありません。  

2006年の読み納めは講談社青い鳥文庫の「ステップファザー・ステップ」で
す。既に別の出版社のものを読んでいますが、この本の豊富な挿絵とルビに
引かれて購入しました。中身は子どもから大人まで楽しめるユーモアミステ
リです。主人公は中学生の双子とプロの泥棒という不思議な組み合わせです。
これからも宮部みゆきにはこのようなシリーズもどんどん書いて欲しいもの
です。                               

養老孟司著「まともバカ」という文庫本がだいわ文庫から販売されていると
いうことで仕事帰りの僅かな時間で購入しましたが、あとがきの近くを良く
見ると「脳と自然と日本」「手入れ文化と日本」を元に編集しなおして文庫
化し改題したものだということが判りました。この元となる本は既に読了し
ているのでこの文庫を買うまでもなかったかもしれません。この改題という
のはなかなか曲者です。特にインターネットなどで検索した場合、そこまで
載っていないことも多く注文してしまうこともあります。この文庫の場合は
2冊をまとめているので仕方が無いかも知れませんがなるべく変えないで欲
しいものです。年もおしつまった12/29読了です。         

「ロシア好色昔話大全」はA.N.アファナーシエフという1850年代に
活躍したロシアの歴史家、民俗学者が集めた民話集です。もちろん題名が示
すように下ネタ満載の裏話であり長い間封印されて来たものですがソビエト
崩壊とともに世に出たものだそうです。そういった意味では貴重な著作です
が日本で発行されているジョーク集などに比べると荒削りというか直接的に
過ぎるというのかどうも味わいが今ひとつです。当時のロシアの世相を知る
一端としては極上の一冊だと思われます。               

「安政大変」は出久根達郎らしい一冊です。安政の大地震を全編の基軸にし
て市井の人々の生き様、哀歓を描いた7編の掌編集です。        

中公新書「昆虫−驚異の微小脳」は最新の生物学の成果がてんこ盛りの素人
向けの本です。難しい説明も結構入っていますが読み方を間違えずに文中の
太字を中心に見ていけば美味しいどこ取りが出来ます。1立方ミリメートル
にも満たない小さな昆虫の脳がどれだけの機能を持っているのかをこの本で
は明らかにしてくれます。単眼と複眼の能力、情報伝達、匂いの認識、景色
記憶、空間認知、飛行能力などr戦略の微小脳を持つ昆虫の素晴らしさをいろ
いろな視点で明快にしてくれます。最近は人の脳についてはブームのように
なって沢山の本が出ていますが昆虫の脳の研究についてはこの本くらいしか
見たことがありません。対比して読むと一層楽しめると思います。    

祥伝社黄金文庫の「藤沢周平が愛した風景」はその名が示す庄内・海坂藩と
藤沢周平ゆかりの人々を訪ねる藤沢ファンには楽しい一冊です。勿論海坂藩
の風景や食べ物を紹介している著者の作品の中でも鮮明な印象を残す数々の
フレーズがあちこちに登場して作品を想起させてくれます。藤沢周平の心の
中に生き続けた海坂藩はいまや多くの読者の中にも現実の藩として実在する
ことになりました。ことほどかように作品に実在感を与えたことにより登場
人物までもが実在の人物のようにあり続けファンの心を今でも離しません。

村田久著「山を上るイワナ」を読み終えました。土日が用事で埋まっていた
り雨で釣りに出掛けられない時には釣り文学が心を癒してくれます。いつも
思うのは釣り文学には外れが少ないということです。大釣りした話ばかりが
登場するわけでもありませんがユーモアや釣りをとりまく自然の描写すべて
が釣りとの相乗効果を上げているようですが、共感出来る釣り文学には上品
さがあるということも大きな要素だと思います。この本も悪くありません。

呉善花と井沢元彦の対談「やっかいな隣人、韓国の正体」はぜひ読むべき一
冊です。日本人がどのように仲良く付き合おうと思っても、考え方が全然違
う韓国人に日本人の感覚では付き合えないと言うことを肝に銘じるべきだと
いうことをこの本は明確に示してくれます。話せば判るや誠意を持って臨め
ば必ず判ってくれるという考え方そのものが韓国人には通じていないという
事もあるということを知っておくべきです。韓流ブームで日韓は友好関係に
あると思っている人には衝撃的な内容だと思います。正しい知識は大切です。

「大極宮3」は京極夏彦/大沢在昌/宮部みゆき各氏いわゆる大沢オフィス
の売れっ子作者3名のひとりごと&対話&出来事を一冊にしたものです。元
ネタは「大極宮」の公式HPです。宮部みゆきのゲームネタなどマニアック
なネタが多いのでこの本の評価もなかなか微妙です。とりあえずこの3名の
ファンでゲームや妖怪などに興味があれば読んでみるのも良いかもしれませ
ん。活字数は多いので読むのには結構時間が掛かります。        

杉浦日向子の2006年の最新作、最後のエッセイとなる「杉浦日向子の食
・道・楽」を読み終えました。食と酒にまつわる薀蓄満載です。著者の愛用
の酒器・小物の写真とともに語られる四季のエッセイはしみじみとしていま
す。                                

夢枕獏作「神々の山嶺(下)」を読み終えました。ヒマラヤ8000m峰へ
の登攀がいかに過酷で常人には縁の無い天上界の出来事であるのかが良く判
ります。それでもそこに登って見たいという欲望が沸々と湧いて来るのは何
故なのでしょうか。『人はなぜ山に登るのか』という昔からの疑問に果たし
て答えはあるのか、この本でもそれに真正面から取り組んでいます。   

ソ連崩壊を世界で最も早く推測していたアナリスト、エマニュエル・トッド
の2002年の著書「帝国以後」では最早アメリカが世界に冠たる国家では
なくなっていることを具体的に示しています。またこれからの世界の構図を
描き出してみせます。鍵となる指標は出生率と識字率だそうでイスラム社会
を含めた世界の構図が浮き彫りになってきます。傾聴に値する内容ですが、
惜しむらくは文章が相当回りくどい表現となっていて読みづらいことです。

「花ごよみ」は耽美作家にして画家、チェリストでもある山口椿氏の秘蔵の
逸品です。大雑把に分類すれば本書は秘本の類ですが、博識な著者は芝居や
俗謡、浄瑠璃、今様、歌舞伎踊歌など諸書の古典を素材にして素晴らしい芸
術作品を作り上げています。もっとも読むこちら側にこれらの素養が無いた
めに、秘本としてさえ十分に楽しめないことは誠に残念です。      

磯野貴理子が以前に「早く起きた朝は・・」だったかで絶賛していた夢枕獏
の「神々の山嶺(上)」を読み終えました。結構分厚い本ですが8000m
峰登頂にからむ謎をめぐる山岳小説は息も切らさぬほどどんどん引き込んで
時間を忘れさせてくれます。どこまでが虚でどこからが実なのか判りません
が新田次郎の小説以来の久々の山岳小説での感動です。後編が楽しみです。

尾崎一雄著「美しい墓地からの眺め」のような古い本を発行している講談社
文芸文庫は評価出来ますが文庫300ページ足らずで1200円はやはり高
いですね。この小品集に収められている「虫のいろいろ」を見れたのは収穫
でした。地元山北町近くの下曽我に住んでいたということで本の中にもこの
地名が随所に出てきます。今ではあまり流行らない文体だとはおもいますが
芥川賞受賞作品「暢気眼鏡」もなかなか味わいがあります。       

いしいひさいち「武士道残飯物語」たまにはこのような本をのんびり読んで
ストレスの解消が必要です。4駒マンガです。明るく笑えます。     

知恵の森文庫「エッシャーに魅せられた男たち」読み終えました。絵画とい
うジャンルからは少し外れますが緻密で不思議な版画としてエッシャーの名
は良く知られています。このエッシャーファンが日本に広がった経緯やこの
画家に魅せられた人々の軌跡とエッシャーの魔力が、深く関った人たちによ
って切々と語られます。エッシャーの代表作15点も収められていて興味を
持って読み進めていくことが出来ます。もっともこの本にはそれぞれの作品
をどのように味わうのかなどの説明は一切ありません。自分で感じることが
全てだという主張があります。作品をもっと大画面で解説付きで見たいとい
う人は朝日新聞社から出版されている「エッシャーの宇宙」がお勧めです。

「養老孟司のデジタル昆虫図鑑」を見て私もスキャナで昆虫のデジタル画像
を撮ってみようかという気になりましたが、読み終えたのが11月も後半で
は既に被写体の昆虫がいなくなってしまい残念乍ら試すことが出来ません。
家庭用のスキャナで簡単に昆虫の実物の綺麗な写真が撮れることを編み出し
たのはノンフィクション作家である山根一眞さんだということで、巻末には
二人の対談と作業方法が記載されていて参考になります。普通に考えるとデ
ジカメでもスキャナでも同じようにデジタルで写るだけのように思えますが
被写界深度が深いスキャナで撮るとピントの合う範囲が広くなるということ
で厚みのある昆虫でも綺麗に撮れるということらしいですが自分で試してみ
ないと実感としては判りません。しかしこの本を見る限りではどの昆虫も素
晴らしい仕上がりとなって各ページを飾っています。写真家の栗林慧は自作
の特殊撮影装置を使って迫力のある昆虫の生態写真を撮りましたが、我々の
ような素人でも手軽に出来そうなスキャナ撮影という手法はもっと活用され
て良いように思えます。                       

文春文庫「藤沢周平のすべて」は藤沢周平への弔辞や思い出をいろいろな人
が述べたものです。対談や小菅留治全俳句、著作全65冊リスト、完全年譜
まで揃って藤沢周平ファンには欠かせない一冊となっています。     

連続無差別殺人事件を題材としたミステリー「名もなき毒」は宮部みゆきの
新刊本です。物語にはシックハウス症候群、土壌汚染、ストーカーなど現代
の社会問題も織り込まれて意外な展開、結末を迎えていきます。深刻な内容
の割には、巨大コンチェルンの娘婿といった位置づけの主人公をめぐる人の
和と暖かいまなざしによって救われています。             

お笑いタレントがもて囃される世の中なので、お笑い哲学者が現れても何の
不思議もありませんが、お笑いの王道を行く著者の文章は詭弁や屁理屈を学
ぶのには最適です。本は文春文庫「簡単に断れない」土屋賢二著です。  

杉浦日向子著「うつくしく、やさしく、おろかなり−私の惚れた「江戸」」
には著者が江戸のあれこれを書き綴った文章27編が収められています。 
十分に楽しんで読むことが出来ますが、日向子調のくだけた文体ではなく、
極めて真面目な江戸の紹介資料となっています。歴史もこんな調子で教えて
くれれば誰でも歴史好きになりそうな、判り易くて歯切れの良い文章です。

比較的寡作の作家ですが高任和夫の著書はどれも素晴らしい出来で、読み始
めるといつも引き込まれてしまいます。「起業前夜(上・下)」も人物の魅力
満載の企業小説です。司馬遼太郎は勝ち組を描くケースが多く経営者向け、
かたや藤沢周平は市井の名も無い者に光をあてるのを得意としていることか
ら、一般社員の読者層が多いとか言いますが、高任和夫の描く主人公は一見
すると会社からはみ出した負け組み社員のようにみえますが、実は既存組織
に囚われない新しい資質を持った超優秀な社員が主人公となっています。小
説を楽しんで読んでいるだけで、組織に生きるのに必要な人の和や企業倫理
などが自然に身に入って来ます。難しい事は何も考えなくても証券会社の内
幕が面白いように判った気になります。                

ひぐち日誠「釣り坊主、今日もゆく」は本職の坊さんが書いているようです。
中身はめちゃくちゃ面白いです。不満は一冊目の「釣り坊主がゆく」が絶版
になっていることです。山と渓谷社は売る気が無いんですかね。因みに古本
だと定価1600円の所、今だと時価5000円もします。嗚呼!    
山と渓谷社といえばもう一言文句を言っておきたいのは小林路子の画集「き
のこ」を品切れのままにしているのも噴飯ものです。山と渓谷社での品切れ
に加え大手出版社、大手古本書店でも見掛けることがありません。しかし、
探し回った結果、唯一池袋『ジュンク堂書店』には10月末時点で在庫が残
っているのを発見しました。入手するのであれば早い者勝ちです。    

岡本綺堂の怪談集「影を踏まれた女」には15の短編が収められています。
古今東西の怪奇小説に造詣の深かった氏ならではの抜群の構成と平易な語り
口で80年経った今でも内容は全く古びていません。氏の代表作「半七捕物
帳」もそのうちに全編を買って読んでみたいと思っています。      

乙川優三郎著「さざなみ情話」の帯には『遊女ちせを身請けするために、ひ
たすら仕事に打ち込む船頭の修次。社会の底辺にありながら、けっして希望
を捨てずにけなげに生き抜く人々の姿を静謐な筆致で描く長篇時代小説。』
とあります。強がりでない地に足の着いた本当の勇気を与えてくれる、胸に
しみる感動の一冊です。                       

講談社現代新書の「はじめての<超ひも理論>」によると宇宙は一本のひも
から生まれ、私たちが今生きているこの世界はなんと50回目の宇宙である
という衝撃的な理論が登場します。この本はSFでもなければ怪しい宗教本
でもないだけにその内容は大いに興味を引く所ですが流石に最先端の宇宙論
だけあって説明は判っても常識的には理解が出来ない所が8割です。それで
もこれ以上は易しく説明することは出来ないのでしょうね。皆さんも眠気と
戦いながらでも読んでみて下さい。きっと得る所はあると思います。   

筒井康隆氏の「わたしのグランパ」は文庫の大きな活字で150ページほど
の小冊子です。誰かが宣伝していたとおり痛快な侠気溢れた好読み物となっ
ています。昨今、話題になっているいじめ問題や地上げ問題もこのように解
決出来たならいいだろうと思えるほど見事に解決していきます。そういった
意味では現代物のファンタジーといえるかも知れません。        

赤瀬川原平/東海林さだお/奥本大三郎の対談「うまいもの・まずいもの」
と筒井康隆氏の「わたしのグランパ」は06/10/26の帰宅時間に東海
道線が茅ヶ崎附近の踏切内でのショベルカーの落下横転事故の影響で延々4
時間も車内で足止めを食って帰宅までに5時間も掛かっている間に読み終え
てしまいました。さすがにこれだけ読み続けていると疲れます。食通3人の
鼎談にしてはあまり面白く感じられなかったのも疲れのせいかも知れません。

「ロウフィールド館の惨劇」は英国女流ミステリの第一人者ルース・レンデ
ルの書いた長編の一冊です。角川文庫からはこの著者の文庫が既に20冊以
上も出されていますがなかなか衝撃的な題材です。事件の概要や原因が最初
に示されているので手に汗握る推理物とは違いますがこれはこれで楽しめま
す。                                

宮部みゆきの冒険ファンタジー「ドリームバスター3」読み終えましたが、
どうも中途半端な終わり方です。折角一冊にするならもうちょっとまとまり
のある編集は出来ないものなのでしょうか。第四巻に期待させるのは結構で
すがこれではあんまりな未完の状態です。せめて次回は早く出して欲しいも
のです。どうも「SF Japan 2006 autumn」にある続編の
ドリームバスターの「時間鉱山」を買って読めと言わんばかりのタイミング
で雑誌が売り出されていますが、新聞や雑誌に連載されているものまで購入
していたらキリがありません。                    

小説家、評論家、戯曲、エッセイ、古典と実に幅広いそしてだいぶ風変わり
な作風の橋本治が三島由紀夫について語った「三島由紀夫とはなにものだっ
たのか」は第一回小林秀雄賞を受賞したほどの評価を得た作品です。それに
してもこれほど似合わない組み合わせも考えられません。確かに三島由紀夫
も橋本治もともに東大出の優秀な小説家、評論家ですが方や純文学、一方は
文学の異端といってもおかしくない変な芸風を持った独特の視点で切り込ん
でいくので論理の展開も三島+橋本の相乗効果で一層難解になっている部分
もあります。それでもやはりそこは流石の橋本治、なかなか鋭い視点から三
島由紀夫の生き様、文学について語っています。この本を読むと三島由紀夫
の著作についての見方も変わります。そう言った意味では貴重な評論です。

映画にもなって評判の小川洋子作「博士の愛した数式」を文庫で読み終えま
した。映画がヒットしたのはむべなるかな映像的に眺めても良い出来です。
普通なら一億までの間に存在する素数の個数の数である5761455個、
220の約数の和が284で284の約数の和が220となるという友愛数
の関係、28の約数を足すとやはり28になるという完全数の関係、そして
この完全数を背番号に持つ元タイガースの江夏、さらにはメルセンヌ素数、
オイラーの公式、こんな素材が小説になるとはとても思えませんがそれらが
見事にストーリーとなって、おまけに悲しく暖かい愛の物語にまでなるなん
て著者に脱帽です。数学もこの本の主人公である博士のように教えてくれる
とますます面白くなりそうです。                   

「<狐>が選んだ入門書」タイトルを見てこれはまた読む本が増えてしまう
と心配してしまいました。匿名書評で名の知られた「狐」の著書なら絶対に
良い本を紹介しているに違いありません。予想通りの出来ですがあまり興味
の無い分野の本や入手出来そうも無い本がたくさんありそうなのでそれほど
には心配することは無さそうです。この本を読むだけでも啓蒙される事柄が
たくさんあるので紹介されている本よりも先ずは先にこの本がお勧めです。
著者は山村修、ちくま新書で230ページほどです。説明は平明ですが博識
に支えられた引用傍証は素晴らしい限りです。入門書の紹介本といって侮れ
ない「狐」渾身の一冊です。                     

講談社現代新書「悪女入門」はフランス文学者である鹿島茂が悪女になりき
れない女学生向けのテキストとして書いた指南書です。というと軽く聞こえ
ますが、フランス文学に詳しい著者が「マノン・レスコー」「カルメン」「
姉妹ベット」「椿姫」「サランボー」「ナナ」「マダム・エドワルダ」など
の有名な文学作品のエッセンスを凝縮した一冊です。『ファム・ファタル』
がこの本を読み解くキーワードです。「恋心を感じた男を破滅させるために
運命が送り届けてきたかのような魅力を持つ女」という意味だそうですが、
そのようなキーワードで読み解く文学作品はそれぞれが怪しい魅力を放ち始
めます。僅か250頁程の冊子ですが男女双方のためになる一冊です。  

養老孟司と阿川佐和子が阿吽の呼吸で読ませてくれる「男女の怪」は男女の
愛について、性格、言葉、美意識、遺伝子、脳についてなどさまざまな話題
について楽しく語っています。養老孟司の対談集は多数出版されていますが
さすが阿川佐和子は対談上手です。養老孟司の話を上手く盛り上げています。

今の韓国を知るのに好適な一冊です。色眼鏡で韓国を語る人は国内外に溢れ
るほどいますが呉善花が語る韓国には傾聴すべき内容があります。本著「反
日・親北をやめられない韓国の暴走」は2005年に出版されたほぼ同名の
著書を文庫化したものです。朝鮮半島の今後をみる上でも参考となる一冊で
す。                                

集英社文庫「私のギリシャ神話」は阿刀田高の描くギリシャ神話のエッセン
スです。数々の神話、伝説を40枚以上のカラーの名画とともにわかり易く
我々に教えてくれます。正調ギリシャ神話は込み入っていて実に分かりにく
いですがこの本はいいとこ取りなので判り易く楽しめる一冊となっています。

「遺伝子が解く!女の唇のひみつ」は竹内久美子の既刊単行本「小顔・小ア
ゴ・プルプル唇 私が答えます2」の文庫化ですが再読しても面白いです。

別冊宝島編集部編「僕たちの好きな宮部みゆき」は宮部作品の勘所を集大成
した魅力の一冊です。いろんな語り手がいろいろな宮部みゆきを語っていま
す。作品ごとの主要登場人物の紹介や巻末の作品年表、単行本、文庫それぞ
れの表紙写真など見ているだけで楽しめます。難をいえば作品の紹介が少な
く特にミステリ、ファンタジーなどでは読んだことの無い人には何を言って
いるのかさっぱり判らないような解説もあります。既に宮部作品を20冊位
は読んでいる人にお勧めです。                    

奥本大三郎訳「完訳ファーブル昆虫記第3巻下」には狩りバチとゲンセイと
いう昆虫についての観察記録が載せられています。昆虫の生態を調べるため
に少ない機材にもかかわらずさまざまな工夫をこらしています。この本一冊
だけでも見習うべき点がたくさんあります。              

図鑑「栗林慧ひみつの瞬間写真館 魚・カエル・鳥」を読み終えました。こ
のシリーズの4巻目です。ヒヨドリやメジロ、はたまたフクロウが空中で静
止している写真がなにげなく掲載されています。うっかりするとそのまま読
み飛ばしてしまう所です。しかし普通に写真を撮れば当然、羽がぶれている
はずのところです。そういった意味で1枚1枚の写真がすごいです。   

久々に小林路子の本が出版されました。「きのこの迷宮」は98年に出版さ
れた「なにがなんでも!きのこが好き」」を大幅加筆訂正した上、カラーの
口絵8点を添えたもので、画集「きのこ」が絶版となっている現在、著者の
きのこの挿絵が見らる数少ない貴重な一冊です。やはりきのこの仙人の描く
きのこには味があります。願わくは画集「きのこ」を早く復刊させて欲しい
ものです。この本は古本でも探していますが見つかりません。現状では見た
い方は図書館に行くしかありません。                 

史上最強の生物と言われているクマムシについての初めての和本が登場しま
した。その名も「クマムシ?!」岩波科学ライブラリーで2006年8月に
初版が発行されました。熱湯にも放射線を浴びても電子レンジでえチンして
も乾燥しても空気が無くても死なないという伝説は本当なのか科学者が挑ん
だ結果が110ページ程の小冊子にまとめられています。残念ながらこの本
を読む限りではだいぶ幻想が崩れてしまいますが真実を知ることは明日への
知的興味を掻き立ててくれることにも繋がります。まだまだほんの一部しか
解明されていないので条件によっては途方も無く長生きするのかもしれず、
今後の研究が期待されるところです。なんといっても興味深い生き物です。

杉浦日向子作「YASUJI東京」はしばらく前まで入手出来ませんでしたが増刷
されたのかたまたま書店で見かけて早速購入しました。二十代後半でこの漫
画を描いている割には既にその描く内容はあまりにも老成しています。安治
の不思議な存在感が著者に重ねあわされてこの本にそのまま現れています。

桐野夏生の本を久々に読みました。「リアルワールド」は同じ高校に通う4
人の女友達がちょっとしたきっかけからとんでもない結末へと向かってしま
うこわい物語です。解説にあるように著者の小説では「OUT」「グロテス
ク」「魂萌え!」など『四人の女性』が主役になるケースが多いようです。
この物語では友人それぞれが持っている心の闇や視点が良く描かれていてこ
れぞ桐野ワールドの本領発揮といった一編となっています。       

島泰三の力作「親指はなぜ太いのか」は直立二足歩行の起源に迫る中公新書
の2003年の新書です。霊長類の手の形と主食との関係を調査して人類の
二足歩行の起源に迫ります。これまでにもさまざまな説が出されていますが
この「口と手連合仮説」にはかなり説得力があります。但し個人的にはこの
仮説にも、大きな欠点があるように思えます。それは人類起源がもし本書の
通りだとしたら、その後短期間で主食を変えてしまった理由が判らないのと
主食を変えたにも関らずに手の形や歯の形がそれ以降ほとんど進化(退化)
していないことがこの仮説を逆に支持出来ない反証のようにも思えてしまい
ます。過去の説も含めて良く纏まっているので、最新の知見を得るためにも
一読お勧めの本です。                        

「栗林慧ひみつの瞬間写真館」第三巻の植物を読み終えました。キツネノチ
ャブクロから吹き上がる胞子、ホウセンカやカタバミから飛び散る瞬間の種
など見たことの無い静止画に驚かされます。終に第四巻も購入してしまいま
した。第四巻は魚・カエル・鳥です。                 

「アリからみると」は栗林慧写真・桑原隆一文の絵本(図鑑)です。この本
の眼目は海を見つめるトノサマバッタです。こんな写真を写せる機材が凄い
です。                               

「栗林慧ひみつの瞬間写真館」が全4巻で金の星社から販売されています。
図書館で良く見かける厚さ1cm程の図鑑といった外観ですがそれもそのは
ずで奥付附近を見てみると図書館用堅牢製本としっかりと書いてあります。
第一巻の昆虫1、第二巻の昆虫2の2冊を見終えました。写真が主で説明は
補足ですが、最新の知見に基づいて書かれているので説明も貴重です。昆虫
写真といえば海野和男が有名ですが栗林慧(さとし)は機材を工夫して今ま
で見たことの無いような1/50000分秒という瞬間写真や超被写界深度
のマクロ撮影で、あたかも空中に静止しているかのような飛んでいる昆虫や
いろいろな生態写真を提供してくれています。この図鑑でもよくこんな写真
が撮れるものだと判る人にはわかる貴重な写真が満載されています。わずか
30ページ程の本で3000円程もするので図書館で借りて読むのが良いと
思います。もしも栗林慧の本を一冊買うとしたら5000円ほどしますが、
「栗林慧全仕事」がお勧めです。                   

奥本大三郎著「完訳ファーブル昆虫記第3巻下」が既に刊行されていますが
その前の第3巻上をやっと読み終えました。何度読んでいてもファーブルの
著作は飽きるということがありません。科学的な探究心にあふれた著作であ
ることは勿論ですが、やはりこれが上質な文学になっているからだと思いま
す。外国文学には警句やちょっとした洒落た喩えが文中にちりばめられる事
が多いですがこの本も例外では無く、読む楽しみを増してくれます。いつも
昆虫記を読んでいて思うのは、進化論者からの反論を聞いてみたいという事
です。狩り蜂がいかに進化していったのかファーブルは進化論に懐疑的です
が、確かにどのように進化したら現在のように繊細で複雑な手順を踏んで狩
り蜂が餌を仕留め、どのように幼虫が適応していったのか不思議でならない
箇所が多数あります。進化論には疑いを持たなくてもそのような疑問を持っ
ている読者はいっぱいいるものと思われますが、そのような疑問に正面から
応えてくれている書物を見たことはありません。誰か応えて欲しいものです。

フレドリック・ブラウン著、星新一訳の「さあ、気ちがいになりなさい」が
異色作家短篇集として再刊されました。1962年に刊行された本にしては
内容が古びていません。この著者と訳者の組み合わせについてはかなり以前
にサンリオ文庫から出された「フレドリック・ブラウン傑作集」が既に有名
ですが、実は「さあ、気ちがいになりなさい」を増補して出来た本が傑作選
です。と言うことでSF好きにはお勧めの一冊です。          

田中正明著「パール判事の日本無罪論」が文庫になって発行されています。
東京裁判でただ一人無罪を唱えた法学者であることは知っていてもその中身
を見たことは無い人が大半だと思いますがこの本はそんな私たちに判決文の
要旨を判り易く教えてくれます。靖国問題を語る前にはぜひとも読んでおき
たい一冊です。                           

阿刀田高著「黒い自画像」は不思議な味の短編集です。アイデアにも作風に
もますます磨きがかかってじっくりと楽しめます。           

星新一著「なりそこない王子」「宇宙の声」を続けて読み終えました。「宇
宙の声」の方はショート・ショートではなくてファンタジーです。    

杉浦日向子著「江戸へようこそ」は吉原細見と黄表紙(戯作)を主な題材と
した江戸紹介本です。この本では黄表紙「金々先生栄花夢」を詳細に説明し
てくれていますが、単純に読むと単に邯鄲の夢を下手にパロディ化しただけ
にしか見えないそれぞれの駒に実にいろいろな仕掛けが隠されていることが
判ります。当時の人にはおおいに受けたのだろうと思われますが我々現代人
が読み解くには相当豊富な雑学の知識が必要になります。国文科でない我々
が簡単に読むことの出来るこの文庫はそういった意味で貴重です。    

井上ひさし著「ふふふ」は薄田泣菫の「茶話」のようなコラム集です。博識
に支えられたコラム集には薀蓄が満載されていて読み応えがあり感心させら
れることがたくさんあります。                    

「藤沢周平 心の風景」はその名の通り藤沢周平の愛した風景をたくさんの
カラー写真付きで紹介しているものです。藤沢周平ファン必見です。   

半七捕物長の作者である岡本綺堂は怪談でもその手腕を如何なく発揮してい
ます。「鷲」には不思議な物語十編が収められていますがどれも時代背景が
よく設定されていて読み応えがあります。               

往年の名作テレビドラマ「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」を手がけたこと
で既に世間には定評のある久世光彦の著書「飲食男女」はなかなか味わい深
い短編集です。食べ物とちょっと色っぽい男女の話がつまっています。春夏
秋冬の季節に盛られた「二階の女」「桃狂い」「とろろ芋」「煮凝」という
ラインアップを見てもおおよその雰囲気はつかめるものかと思います。  

「遺伝子『不平等』社会」池田清彦/小川眞理子他には男と女の狭間、教育
のパラドックス、心の在り処、命を誰が決めるのかなどの重たいテーマがそ
れぞれの立場から自在に語られています。時に発言が過激になるのは池田氏
のこだわりによる所が大きいと思いますが、4名の対談相手も池田氏に劣ら
ず結構過激な発言です。                       

「READERS' CHOICE BEST13 of ゴルゴ13」は単行本にして120冊以上に及
ぶ、ご存知さいとうたかをのゴルゴ13シーリーズの中で読者に人気の高か
った作品ベスト13を一冊にした本当の意味でのベスト版です。単行本全巻
を揃えるのは無理でも厚さ6.5cmに及ぶこの本一冊を持っているだけで
も結構マニアックになれます。興味のある方にはお勧めの一冊です。13話
が詰まっていても1890円とお買い得の値段です。          

養老孟司著「考える人」は10年ほど前に出版された本ですが内容は古びて
いません。脳とは何かをずっと追い続けている著者のエッセンスはこの本に
も十分に盛り込まれています。                    

早坂隆著「世界の日本人ジョーク集」は中公新書から2006年に出された
新着ジョークです。日本人が世界からどのように見られているのかが著者の
エピソードと共によく判ります。民族色がよく現れていた思わずうなずいて
しまいます。                            

夏目房之介著「孫が読む漱石」読了です。名作「坊ちゃん」誕生からすでに
100年も経っているそうです。これだけのロングセラーとなっている本に
ついての批評は多いですが孫である夏目房之介が真剣に読み込んだ漱石像が
わかりやすい形でまとまっています。                 

養老孟司著「脳のシワ」は鯉釣りの間に読み終えてしまいました。鯉の吸い
込み釣りだと一投すると魚信があるまで1〜2時間は閑になるので読書には
もってこいの時間です。読み終えてやっと気がつきましたが、この本は「I
KNOW YOU 脳」という本を改題して新潮文庫から発行したものです。
養老孟司のように多数の本を出している場合、既に読んだ内容かどうか判断
するのも難しいので出来れば改題での出版は控えて欲しいものです。新聞で
の広告でも判らないしインターネットでの検索でも改題まではなかなか判断
出来ません。この本は判りやすい内容のコラム集といったものなのでお勧め
です。                               

東條英機の孫である東條由布子編「大東亜戦争の真実」は東條英機の宣誓供
述書です。靖国神社の分祀問題を論じる前にこのような本を良く読んで先の
戦争は何故起こったのか、これからの外交政策をどのようにしていくのかを
考え直してみることが国益に適うのではないかと考えます。もういいかげん
に「ためにする」議論はやめて将来の日本の発展、国益をよく考えて真面目
に外交と教育を考え直す必要があります。我々愚昧な国民への啓蒙の書です。
現代の我々に比べて東條英機がいかに日本の将来、さらにはアジアの開放を
真摯に考えていたかがこの一冊で判ります。また意外に思えますが、戦争に
いたるまでの間、日本は大国からの度重なる挑発を受けていたにもかかわら
ず東條英機は最後の最後まで戦争を真剣に避けようとしていた事が判ります。
時を経て、今また原油高、エネルギー危機が叫ばれていますが産油国、石油
輸出国が日本への輸出を禁止したらと考えると昭和16年12月の当時が考
えやすくなります。日本は相変わらず鉄鉱石や石油などの資源を持たざる国
です。エネルギー問題、外交問題を考える良い機会です。        

丸谷才一著「輝く日の宮」を読み終えました。源氏物語には「輝く日の宮」
という巻があったというテーマを軸に、女性研究者の恋の行方と源氏の謎を
いろいろな文体で解き進める多層的な物語です。文庫で500頁程にも及ぶ
大長編を読み解くには解説で鹿島茂が指摘しているように再読するか、若し
くは先に解説を読んで勘所をつかんでおくのが賢いかと思います。素晴しい
作品だと思いますが、やはり現代人としては旧かなづかいで所々躓きそうな
ところがマイナス評価になりそうです。玄人にとっては絶対お勧めの一冊で
あることは泉鏡花賞を受賞していることからも判るかと思います。読み応え
のある一冊であることは間違いありません。              

いしいひさいち氏が著名な思想家34人をパロディにした「現代思想の遭難
者たち」を読みました。マンガなのにこんなに難しい本は初めてです。漫画
の部分は半分くらいは判るのですが説明の所は90%以上さっぱり判りませ
ん。それでもそれぞれの思想家についての重要なキーワードやエピソードが
満載で、哲学のパロディのつぼにハマった漫画には文句無く笑わされます。
因みにこの本は『手塚治虫文化賞』を受賞しているそうです。      

「日本人の正体」は気心の知れたテリー伊藤と養老孟司が本音で語り合った
日本復活の起爆剤となるかもしれない渾身の一冊です。日本の経済成長から
サムライの復権、果てはオバサン道まで話は自在に進展していきます。この
本は04年に発行された「オバサンとサムライ」の新書版です。     

骨董とは縁の無さそうな奥本大三郎の著書である「東京美術骨董繁盛記」を
読み終えました。出版社からの要請を受け全18軒の美術商、骨董店を回り
見聞した古美術の世界を紹介しているものです。専門外とはいえそこは作家
だけあって読ませる文章です。本人の言によれば昆虫標本の売買と自称、硯
の収集家であるそうなので、それらとの関係も含めて読むと一層味わいが増
すかもしれません。                         

養老孟司著「無思想の発見」では日本の「無思想」という思想について考察
した特異な書です。どうしてもこのような議論は宗教色や哲学色に染まり勝
ちですがこの本ではもっと現実に即して議論を進めています。      

杉浦日向子監修「お江戸でござる」はNHKの番組で取り上げた江戸の智恵
を一冊に纏めたものです。なかなか読まないで積んでおいたら、いつのまに
か文庫本が出ていました。江戸のあれこれを知るにはとてもいい本です。 

清水馨八郎著「大東亜戦争の正体」はかなり過激な戦争認識論を展開してい
ます。こういう本を読んでいると正しい歴史認識を持つと言うことがいかに
難しいかということが良く判ります。また教育の力がいかに大きいかという
ことも判ります。この本では日本礼賛のあまり結構無理のあるこじつけをし
ている箇所も多々あるように感じられますが、このような本を読んでいない
人にとっては啓蒙の書となるかも知れません。どのような意見を持つのも自
由ですが一番やっかいなのは聞く耳を持たない人や国家だと思います。世の
中には話し合いで解決しないことは山ほどありますが、国家間で解決しない
問題の一解決手段として戦争があるという意見にうなずく人、真っ向から反
対する人、あくまでも話し合いで解決出来ると信じる人など個人や国家の考
え方はさまざまです。実は人類のそのような考え方の違いがある限りいかに
努力しても戦争は無くならないだろうという虚無的な意見もあります。この
本は大東亜戦争を正確に検証した本ではありません。いかに著者が正確に検
証を行ってもそれを信じる人、信じない人がいます。そういった意味では歴
史の真実とか正体を知ることは難しいことです。この本ではそういった検証
部分は省いて著者の信じる真実を元にかの戦争の正体を描き出そうとしてい
ます。それにしてもこのタイトルにある戦争の呼び名一つをとっただけでも
その人の戦争観が判る言葉があるということだけでもこの論争に解決の無い
ことが伺われます。                         

「希望のしくみ」は養老孟司と仏教家であるアルボムッレ・スマナサーラの
対談です。養老孟司の話も時として難しくなりますがこの仏教家の言葉も易
しそうでいてやはり理解し切れない部分があります。あたりまえのことを二
人して話し合っただけのようにも見えるし、深遠な思想について語っている
ようにも見えます。私個人としては前者の意見でこの本の評価は低いです。

奥本大三郎の「完訳ファーブル昆虫記第2巻下」読み終えました。ツチハンミョ
ウという過変態する変わった昆虫の変わった生態についてファーブルが持ち
前の好奇心(研究心)と粘り強い観察によりその全容を明らかにしたまさに
力作です。それにしても奥本大三郎氏の監修訳は岩波文庫のファーブル昆虫
記の良さを10倍くらい増強したおそらく世界最高のファーブル訳です。 

集英社新書「富士山宝永大爆発」永原慶二著は下記「燃える氷」の参考図書
にもなっていますが、それが判ってから買った訳ではなくて、たまたま同じ
時期に読んだに過ぎません。私の住んでいる場所がこの本の主題である被災
地そのものであり、いつも釣りに出掛ける場所が富士山の降灰により決壊の
大被害を与えた大口堰であり、生まれが災害の中心地である御殿場だという
くらいの関係です。この本では富士山噴火の直接の被害だけではなく長期に
亘る復興の歴史、為政者の施策を中心に書かれています。それにしても降灰
の処理の大変さ、重機の無かった時代にどれほどの被害を与えるかが如実に
判ります。田畑だけでなく山野まで灰に覆われてしまうと農作物だけでなく
救荒植物や飼料の入手、副業のための資料の入手までが長期間出来なくなり
生活そのものが崩壊します。また灰を川に流して処理することで大水が出た
場合には堆積した土砂により下流での洪水や堰の決壊が発生します。さらに
降灰の少ない地域でも近郊からの農産物の提供が無くなったり交通への影響
などインフラ基盤に与えるダメージは大きなものがあります。1707年に
最後の大爆発がおきてから2007年でちょうど300年となります。休眠
中の富士山が再び目覚めるのはいつの日かちょっと心配なところです。  

高任和夫著「燃える氷(上)(下)」読み終えました。2003年の新刊です。
日本沈没を彷彿とさせるサスペンス物です。新エネルギーであるメタンハイ
ドレートは日本経済を救うのか、東海大地震、富士山大噴火と次々と起こる
自然災害に元商社マン、難民救済のプロ、雑誌の記者、政府官房まで絡んで
事態が進展していきます。なかなかの力作だとは思いますが掘削船の沈没の
原因解明の行方、商社マンの家族、都市機能の復旧の状況など中途半端に終
わってしまっている箇所も多く少し不満が残る所です。全体的にはお勧めの
一冊です。                             

宝島社文庫から出ている「藤沢周平の本」は著者の全65冊の解説書です。
これはこれで良く纏まっていると思いますがやはり紹介だけでなく本編を一
冊でも読んでみるのが良いですね。                  

星新一が訳した「竹取物語」は200ページにも満たない小冊子です。川に
鯉釣りに出掛けてあまりにも閑がありすぎて丸ごと一冊読み終えてしまいま
した。判り易い訳です。石作の皇子、庫持の皇子、右大臣の阿部の御主人、
大納言の大伴の御行、中納言の石上の麻呂足はそれぞれ「み仏の石の鉢」、
「蓬莱の黄金、白金の枝」「火ねずみの皮衣」「龍の首の五色の玉」「つば
めの子安貝」を手に入れることは出来ませんでしたが、私の仕掛けにはみご
と70cmオーバーの丸々太った鯉が来ました。胴回り60cm以上です。

ご存知、究極のスナイパーゴルゴ13の仕事に取り組む姿勢を題材に一冊に
まとめた漆田公一著「ゴルゴ13の仕事術」は商談、経費、接待、時間、資
格などのビジネスに関りのあるいろいろな観点で秀才、凡人、バカ、ゴルゴ
のそれぞれの対処法を比べて仕事に資する要件を明確にしようとした良く出
来たビジネス書です。普通のビジネス書のように眠くならないだけでも見つ
けものです。                            

食卓に関するジョークを集めた開高健著「食卓は笑う」には古今東西の笑い
が収められていますが、世界共通の笑いというのは無いようで、面白いのや
面白みが今ひとつのものなどがやはり混在しています。これもまた読む人に
よって面白かったり面白くなかったりするので、気になる方は一読下さい。

「春のとなり」は泡坂妻夫の著書としては異色です。推理物が大半でその他
には奇術本と家紋の話があるくらいで今回のように昭和20年代の神田界隈
を舞台とした青春物をみたのは初めてです。どこまでが著者自身の青春その
ものなのかは判りませんが淡々とした筆致で描かれている昭和27年の神保
町には懐かしさを感じさせる雰囲気があります。            

夏目房之介著「おじさん入門」には著者のいろいろな日常や考えが描かれて
いてファンには楽しめるのでないかと思いますが雑文の集まりなので読み流
す程度で良いと思います。                      

大森荘蔵/養老孟司の対談その他10名程度が脳や身体、快楽、五感などに
ついて論じた論考を集成した身体の発見シリーズです。それほど古い本では
ありませんがあまり目新しい知見が見えないのと、論考が多岐に渡ってしま
っていてテーマが絞りきれておらず一冊の本として推すにはちょっと物足り
ません。養老孟司の対談だけについても今ひとつといったところです。  

フリーマントル著「待たれていた男」の上下巻を読み終えました。外国の著
者はどうしてこのような国際規模の物語を描けるのか不思議です。事件の解
決を追う英米露の情報戦には手に汗握る緊迫感と心理戦が交錯して読ませま
す。主人公の家族の行方も含め後半を楽しみに読みましたが、良く考えると
この本はシリーズ物なのでどんなに苦境に立とうが最後は主人公側が大逆転
してハッピーエンドになることが判っているだけに、そこだけが少し物足り
ない所です。                            

「杉浦日向子の江戸塾」は師匠杉浦日向子と弟子である北方謙三、宮部みゆ
き他との対談集です。ただし対談とは言っても、そこは格が違うので江戸の
隠居である師匠が江戸の日常生活を現代人に教えているといったそういった
一冊です。本当に見てきたように何でもポンポンと回答を返してくれる師匠
の早世が悔やまれますね。                      

黒井千次の最新作「一日 夢の柵」には1996年から2005年にかけて
の作品12篇が収められています。特に大きな事件がおきる訳でもなく日常
のさりげない断面を掬い取ったような掌編ばかりですが、読むときの年齢に
よって味わいが違うだろうという予感のする作品群です。10年後、20年
後にふたたびこの本を手にしているかも知れません。          

乙川優三郎著「武家用心集」には8つの短編がおさめられています。どれも
味わい深いものですが、なかでも「しずれの音」は胸を打つものがあります。
美しい日本語を生かし切った確かな筆遣いがこの短編集にも感じられます。

リチャード・E・シトーウィック著「共感覚者の驚くべき日常」には共感覚
者といわれる驚くべき人達が登場します。本の帯には「ミントを味わうと円
柱を感じた。ポケベルが鳴ると赤い色が見えた」という文句が載せられてい
ます。実際にこのような感覚を持つ人は10万人に一人程度いるそうです。
著者はこのような共感覚を調べることで脳の不思議に迫ります。そして驚く
べきことにこのような共感覚を起こす脳の機能自体は正常でしかもすべての
人が持っているものであると提唱しています。但し通常はその認識が意識に
登らないために皆気づいていないらしいです。現代社会では意識することが
すべての物事の始まりのように思われているところがありますが、人は意識
で動くわけではなく情動により動かされているのかもしれないとこの本では
認識を変えさせてくれます。そういった意味で貴重な本です。この本を読ん
で初めて納得出来たのは、かのランボーはおそらく共感覚者だったという話
です。ランボーの本を中学だったか高校だったかに読んだ時にどうしても理
解出来なかったのは私の頭が悪いせいだけではなく、理解しようとしたこと
自体が間違っていたということのようです。無理からぬことのようです。 

星新一著「声の網」つい最近、改版初版として角川文庫から出版されたもの
です。このオリジナル版が出されたのが1970年だということなのでもう
35年以上も昔に書かれた本ですがコンピュータ全盛の今の時代を見越して
書かれたかのような視点を多く提示していることに驚かされます。12ヶ月
にわたって1階から12階の住人を主人公にした連作短編の主題には電話が
使われていてこれを携帯に置き換えて読めば古びた箇所はまったくありませ
ん。淡々としたストーリーのようですが裏に秘められたモチーフは時代をす
るどく指摘する実は怖い物語です。                  

桐野夏生原作の「カクテル・ストーリーズ」は出版社があおばコミックスで
あることから判るように森園みるく原画の漫画です。原作者が桐野氏である
ことから判るように危険な恋の物語満載です。             

いまや世間では「国家の品格」で有名な藤原正彦氏の「古風堂々数学者」を
読み終えました。この本を読むと著者がどのようなひととなりであるのかが
良く判ります。いまどき珍しい古風然とした人物のようです。国家の興亡を
憂い、教育の廃頽、武士道精神、子育て持論などを縦横無尽に展開します。
その多くは共感出来る内容です。両親とも作家である家系の血を受け継いで
いるせいか文章は切れがある上にユーモアさえ漂います。父である新田次郎
氏の本は50冊以上読んでいますが、この著者の本にものめり込みそうです。

韓国出身の著者、呉善花が韓国人の感性と都会人の感覚を持って各地の風景
や歴史、伝統、信仰などを再発見していく紀行文が「日本浪漫紀行」という
名前で新書にまとめられています。日韓の民族性の違いなどに着目した著書
では定評のある著者ですが、この本などをみると著者は今や日本人より日本
に詳しい民俗学者になりつつあるようです。              

「必笑小咄のテクニック」米原万理著を2日で読み終えました。この著者の
本は前から読みたいと思っていましたがやっとはじめて読むことが出来まし
た。感想を正直に言えばこの著者にしてこの程度の出来かといった失望の方
が良いという評価より勝っています。決してこの本がつまらないという訳で
もないですが、「必笑小咄」とまで言い切る程の出来ではないです。この本
の参考資料にもなっている「ポケット・ジョーク1〜22」なんて大昔に読ん
でいるこちらとしては今更つまらない笑いのテクニックの解説などされても
面白がることにはなりません。このような分析の仕方もあるんだと感心する
ことはあっても大いに笑うには解説はやはり不要です。         

白洲正子著「かくれ里」は吉野、葛城、伊賀、越前、滋賀、美濃などの世に
知られていない隠れ里を訪ねる紀行エッセイです。日本の古い伝承、風俗、
歴史、お能、仏像・絵画などの美術品に造詣の深い作者ならではの神秘的で
幽玄な世界を丹念に各地から掬い上げて判り易く提示してくれます。   

「ハッスル、ハッスル、大フィーバー」は題が示すようにパチンコを題材にし
た斎藤綾子の2006年の新作です。著者自身が主人公の独身作家のように
本当にパチンコにはまり込んでいるとしか思えないほどその熱気が伝わって
来ます。それにしてもパチンコ台の機種や画面の演出の豊富さには驚かされ
るばかりです。パチンコをやらない人にもこの本だけで十分に楽しめます。

スティーヴン・J・グールドの「マラケシュの贋化石(下)」を読み終えまし
た。生物進化の謎にせまる名著「ワンダフル・ライフ」だけの著者だと思っ
ていましたが、ドーキンスと同じように奥が深いですね。養老孟司もそうで
すが何かを極めた人は楽しく読める科学エッセイを書くのが上手です。  

「黄色い本」は「チボー家の人々」を題材にした高野文子のマンガ本です。
他にも3篇のストーリーが含まれますが、この本は全体的に少し判り難い本
です。何らかのメッセージをそれぞれ含んでいそうですが、単純なストーリ
ーのようにも見えます。                       

鳥飼否宇著「昆虫探偵」はカフカばりに昆虫に変身してしまった作者が探偵
助手として数々の昆虫界の難事件を解決していくという、ありえないシチュ
エーションでの連作短編です。昆虫相手のトリックにはファーブル昆虫記も
真っ青になりそうなくらいにマニアックな昆虫の生態が登場します。それも
極めて学術的な最新の生態の知見が満載されているというなんとも変わった
本です。探偵助手の名前が葉古小吉(もちろんファーブルのもじり)なのは
愛嬌ですが主要な登場人物?の名前にはペリプラ葉古、シコロパκ、ヴェス
パμ、G・パル*、などなど学名さえもが使われる凝りようです。更に各章
には蝶々殺蛾事件、哲学虫の密室、昼の蝉、吸血の池、生けるアカハネの死
、ジョロウグモの拘、ハチの悲劇などなど判る人には判るパロディ満載です。
この本最大の謎は解説にある『トゲアリがクマバチの娘〜』というフレーズ
です。                               

杉浦日向子の「ニッポニア・ニッポン」は先日までは入手不可となっていま
したが増刷したのか戻り品が在庫になったのか判りませんが兎も角ネットで
注文することが出来、有隣堂で購入出来ました。僅か200ページ弱の漫画
本なのでほんの1〜2時間で読み終えてしまいました。なんでこんな江戸時
代の日常をさりげなく描くことが出来るのか読者みんなの謎です。あるいは
特定の出来事についていえば、その一断面の切り取り方には実に特異なもの
があります。大事件ではないけれども昔こんな出来事があったんだよという
ご隠居さんの昔話のような現実感をもった描写が読者を懐古に誘います。 

奥本大三郎訳「完訳ファーブル昆虫記 第2巻上」を読み終えました。この
本ではハチの本能、猫の帰巣本能、アリの帰巣能力などに関するファーブル
の考察が語られています。現在の常識からは、ずれている考えもありますが
ファーブルの真理を求めていく手法には学ぶべき多くの知見があります。 

阿刀田高が若者向きに書いた「短編小説を読もう」は判り易い短編小説の入
門書です。取り上げられている短編小説、作家も妥当な選択だと思います。
巻末の主要参考図書も大いに役立ちます。あまり本を読んでいない人にお勧
めの一冊です。                           

高野文子の漫画「ラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事」を読み終えました。
この本は月間プチフラワーという雑誌連載のマンガを単行本としたものです
が、初期の手塚作品のような味わいの作品です。            

カブトムシは一年中どの時期にでも羽化させることが出来るんですね。今回
読んだ岡部優子著「カブトムシに会える森」には素人でありながら羽化の季
節を自在に操作する術を模索、実現した『ぐんま昆虫の森』のおじさんと呼
ばれている小野里秀雄氏の試行錯誤の日々と、寒い冬に動くカブトムシの成
虫を見て喜ぶ子どもたちの笑顔があります。里山の復活やNPO活動を考え
る上で良い参考資料となる一冊です。                 

高信太郎著「マンガよりぬき江戸川柳」は古川柳とそれに合った漫画を添え
た息抜きの一冊です。有名な川柳がたくさん出て来ます。また、ちょうど良
い古川柳が無い場合には著者がそれに見合った楽しい自前の川柳を載せてい
ます。これもなかなかの出来です。古川柳で意味が良く判らなかったものが
2、3ありましたが、大概は判り易いものです。わかる人には判るような古
川柳がだいぶあります。もう少し蛇足で説明を加えても良かったのではない
かと思います。表だけの意味で流してしまう人もかなりいそうです。   

「宮部みゆきの江戸レシピ」は料理本コーナーで売っているので宮部ファン
でも気づいていない人がいるかもしれません。宮部みゆきの江戸時代小説に
は味わい深い料理がたくさん出て来ますが、想像するだけであったこれらの
料理の数々を一流の料理人が実際に作ったものです。著者も料理を味わった
そうですが、原作本の抜粋と料理の写真と料理法の解説文がうまくマッチし
て一層味わい深い一冊としています。登場作品は「あかんべえ」「あやし」
「初ものがたり」「日暮らし」「幻色江戸ごよみ」「本所深川ふしぎ草紙」
「かまいたち」「ぼんくら」の諸作品です。一度本を手にとってみて下さい
。本当に美味しそうな料理写真と料理の解説が並んでいます。      

星新一の本をまた一冊読み終えました。「白い服の男」には10編のショー
ト・ショートが収められています。この本にはかなり過激なテーマの短編が
集中しています。アイデアはいつものように奇抜なものが満載です。   

「寿命を決める社会のオキテ」は最新の進化論を適用したダーウィン・プロ
グラムの成果である「進化論の現在」シリーズ7冊の内の一冊です。著者は
リチャード・ウイルキンソン、翻訳者は竹内久美子です。120ページほど
の薄い本ですがなかなか難解な部分もあります。この本は最後にある訳者の
解説から読むのが判り易く纏まっていて良いと思います。        

「十六夜華泥棒」という味なタイトルに誘われて山内美樹子著の連作短編の
推理小説を読みました。捕物帖というと十手持ちが主人公となるケースがほ
とんどですが、この本の主人公は笠森稲荷の茶汲娘で美人画モデルの鍵屋お
仙です。なかなか楽しく読ませてくれますが先達の捕物帖に比べると話の展
開に無理があるような点が目立ちます。その代わりと言っては何ですがスト
ーリーが画一化されていないという点で革新的ではないかと思います。  

黒井千次という作家がいる事を最近の書評で初めて知りました。「石の話」
はこの著者の30年以上にわたる諸作品9編を一冊に纏めたものです。全体
の基調は小市民の日常にひそみ見込みそうな何気ない違和感を切り取って一
話ずつ仕上げていったといった感じです。大きなイベントが起こるわけでも
無く、意外な結末が待っている訳でも無いですが話柄もさまざまでこのよう
な本もたまにはいいかなと思います。難は講談社文芸文庫の値段が高すぎる
ことくらいですね。普通の文庫サイズで厚さ1cm程で1200円です。 

杉浦日向子の漫画「百物語」はまさに江戸の怪をその雰囲気ごと現代に持っ
て来たかのような味わいのある物語に仕上がっています。恐ろしいというよ
りも何か身近なあやしい雰囲気をさりげなく掬い取って来たかのような優し
い雰囲気が底流に流れています。きっと江戸の人々も恐れとともに上手に怪
と日常付き合っていたのではないかと思わせるようなそんな一冊です。  

進化生物学の泰斗スティーヴン・J・グールド「マラケシュの贋化石(上)」
を楽しく読み終えました。この本では往時の科学者が生きた時代背景を当時
の資料に綿密に当たった上で、現在から見た評価では無く、当時の時代にあ
っていかに彼らが優れていたのかを、あるいはどのように間違った結論に達
してしまったのかを判り易く解き明かしてくれています。知的啓蒙書です。
下巻を読む楽しみは「完訳ファーブル昆虫記 第2巻上」を読んだあとにしよう
と思います。                            

細谷正充編「江戸の満腹力」には時代小説には定評のある池波正太郎、乙川
優三郎、竹田真砂子、宮部みゆき、山田風太郎、山本一力、小泉武夫、澤田
ふじ子の8名の珠玉短編が納められたお得な一冊です。表題で判る様にいず
れも食を題材にした時代小説です。江戸で食といえば蕎麦、初鰹、おでんと
いうことでこれらは勿論のこと、蕪汁、蜜柑、酒、乳酪、南蛮料理と様々な
趣向で次々と名文とともに料理が出されます。まさに江戸の満腹力です。 

高野文子の描くマンガは本当に一冊、一冊画風、題材ともに違います。不思
議な作家です。「おともだち」はハードカバー箱入りの豪華本です。中身は
「盛子さまのおひなまつり」、「上海の街角で」、「春ノ波止場デウマレタ
鳥ハ」、「ボビー&ハーシー」、「ディビスの計画」という何とも風変わり
な章立てです。独特な雰囲気については立ち読みでもしてみて下さい。説明
は難しいですが一言で言えばノスタルジアといったところですね。    

最近映画化されて急に有名になった「チョコレート工場の秘密」をやっと読
み終えました。本を購入してから既に2年以上が経ってしまいました。著者
のロアルド・ダールは奇妙な味の短編作家として有名で既に8冊ほどの本を
読んでいますがこの著者の絵本を読むのは初めてです。実は絵本作家として
も多くの著作を残しており定評がありますが、たしかにエンターテイメント
としてはこの「チョコレート工場の秘密」は極上です。映像化向きですね。
しかしストーリーとしては最初からだいたいの結論は見えてしまっているの
で著者の代表的短編小説である『あなたに似た人』などの素晴らしさを体験
してしまっている読者にとっては、短編作家という固定概念をすっかり捨て
去って単なる絵本作家として純粋に物語を楽しまないと肩透かしを食わされ
ることにもなりかねませんので注意が必要です。            

『芸術は爆発だ!』という有名な言葉が記憶に深く刻み込まれている芸術家
岡本太郎の著書「芸術と青春」を読み終えました。青春時代の回想、有名な
両親(歌人:岡本かの子、漫画家:岡本一平)の思い出、女性のモラルなど
について書かれた随筆です。岡本太郎の芸術観を理解する上で一助になる本
です。しかし、2006年現在からみると50年も前に書かれた本である為
に女性のモラルなどの記述についてはさすがに内容も考えも古びているとし
か良いようが無い部分も目立ちます。当時の時代背景を考えた上で読めば、
当時としてはとんでもなく吹っ飛んだ考え方ではあります。       

林誠人著「TRICK新作スペシャル」はテレビ放映された脚本を元に小説
化したものです。TVそのまんまなので大いに笑えます。TVでは見落とし
ていたギャグも本ではたっぷりと味わえるのでやはりお得です。山田奈緒子
、上田次郎、矢部謙三、山田里見のキャラの秘密が巻末に30ページ以上も
付いているのもうれしいですね。                   

「大江戸観光」杉浦日向子著は江戸についての散文、薀蓄、珍奇などをてん
こ盛りした文庫本です。本当に、江戸を語り伝えるために生まれて来た様な
著者が二十一世紀になる15年前に二十一世紀を展望する小文がありますが
21世紀を無事に迎えて5年もしないうちに亡くなるとは誰も想像もし得な
かった事です。江戸は遥か昔に過ぎ去り、江戸を洒脱に語ること当代随一だ
った杉浦日向子が逝ってからも時は無常にも足早に過ぎ去って行きます。 

お笑い哲学者だと思っていた土屋賢二による「ツチヤ教授の哲学講義」これ
はまじめな哲学の講義です。とはいっても内容は土屋賢二氏が担当している
大学の講義を元に本にしたものなので内容は我々素人向けに判り易く説明が
されています。言い回しが易し過ぎて本当にこれが哲学の入門書かと疑う向
きが無くもないですが兎も角も判り易い哲学の本です。この本の大きな特色
は従来の訳の判らない哲学者の哲学的問題を俎上に載せて一つ一つ判るよう
に説明してくれている所です。通常の本は訳の判らない学説をやはり訳の判
らないように別の言葉で説明してくれるだけで何の益もありませんがこの本
は違います。全230ページの手頃な厚さですが判らない所はほとんどあり
ません。これは良い本です。                     

「時代小説作家ベスト101」は向井敏が厳選した作家101人を最適な執
筆陣が分担して論じた中身の濃い時代小説の紹介本です。惜しむらくは編者
である向井敏が本書の計画をなし終えた直後に急逝されたことです。それで
も何篇かについて作者と執筆者の組み合わせを眺めてみると、そこには向井
敏の並々ならぬ慧眼が反映されている事が判るかと思います。最適の執筆者
を割り当てる為に、僅か一人の作家だけを解説している執筆者もいれば多く
の解説に当たっている執筆者もいます。本書作成の経緯、見所については、
まえがきの3ページがすべてを物語っています。            

「マダム・エドワルダ」は流石に世に名だたる思想家、哲学者であるG・バ
タイユの著作なだけに難解です。エロティシズムの極限を描く著作には迫力
があります。公開討論会を含む5編の小編はどれも独特の濃厚な世界を構築
しています。何かを伝えずにはおかない思索がここには確かに存在します。

高樹のぶ子著「透光の樹」は第35回谷崎潤一郎賞を受賞した作品です。帯
に曰く。「結晶のように透明な恋」を描く大人の愛の物語です。     

星新一著「妖精配給会社」読み終えました。本当に星新一の本はどれを取っ
ても外れといったものがないので安心して読めます。35編はどれも素晴ら
しいアイデアに満ちています。難解なものが無いのも読みやすい要因です。

雑誌ビッグコミックスペリオールに連載されたコラムを編集し直して編集し
た本書「失楽園の向こう側」は橋本治の作品にしてはあまり良い出来だとは
思えません。言い回しがくどい箇所が多く論旨も強引と思われる箇所多数で
す。おそらく故山本夏彦翁であれば1ページで言い切るだろうと思われる話
が数ページも掛けてだらだらと独り言を言っているといった感じです。また
新たな知見といったものもほとんど見あたらずこの著者にしては残念な一冊
です。                               

杉浦日向子「合葬」あっという間に読み終えてしまいました。江戸時代の終
りを告げる上野戦争を題材に当時の若者の死に様をリアルに描いています。
杉浦日向子の描くマンガは決してうまいとは思いませんがその時代の雰囲気
がしみじみと伝わって来る所が味噌です。まるでその時代に生きていたかの
ような雰囲気が感じられるのはやはり時代考証がしっかり出来ているからな
のでしょうがそのような事を微塵も感じさせない所が素晴らしいです。  

江戸川乱歩関連図書では外すことの出来ない『貼雑年譜』を購入しました。
とは言っても勿論入手困難なキキメの稀少本では無く江戸川乱歩生誕100
年を記念した復刻版です。江戸川乱歩推理文庫特別補巻と銘打って講談社か
ら発売されているものですが、それでも4200円と決して安くはありませ
ん。この本は乱歩自身が収集した自伝的資料を纏めたものですが戦後の分に
ついては載っていないのと新聞広告や本人紹介記事、批評類などについては
複製版では読みにくいという理由で割愛されていたりするのでおいしいとこ
取りの復刻版です。それでも広告の切り抜きなどからは当時の雰囲気が色濃
く伝わって来ます。じっくり眺めて楽しめる本です。『貼雑年譜』のエピソ
ードについては喜国雅彦『本棚探偵の回想』に詳しいです。       

2015年には日本でのがんの罹患率は67%、がんでの死亡率が50%に
なると予測されているそうです。中川恵一/養老孟司著「自分を生ききる」
には日本のがん治療・緩和ケアの現状が判り易く解説されています。普通は
この手の本は堅苦しくて文字ばかり多かったりしますが図表も多く、文字も
大きく実に読み易い本です。この本によれば、日本のがん治療の現状はまだ
手術が中心で欧米に比べて放射線治療の遅れが目立つそうです。また、苦痛
緩和のために世界では広く受け入れられている経口でのモルヒネなどの苦痛
緩和剤の使用が極端に少なく、そのために治らない患者に対して苦痛を多く
与えているそうです。また受け入れ態勢の貧弱さやインフォームド・コンセ
ントの定着の問題やホスピスケアの遅れなどが不十分といったさまざまな問
題があることを教えてくれます。このような本を読んで心構えを養っておく
こともこれからは大切かもしれません。                

「利己的な遺伝子」で世間に衝撃を与えたリチャード・ドーキンスの2作目
となる本書「延長された表現型」は前作の考え方を更に適用拡大した意欲的
な作品です。もちろん進化論に興味のある方にはお勧めの一冊ですが、この
本は著者がまえがきでも述べているように我々素人を相手に書いている本で
は無く進化生物学者、動物行動学者、人文科学者などを相手にし、また専門
の学術用語についての知識を持っている事を前提に書いている本です。  
そのために論争の前提となっている議論や用語を知らないと話についていけ
ない箇所も多々あります。また訳者である日高敏隆が言っているようにこの
本を訳すのは大変だったという言葉が裏書するように言い回しが回りくどい
までに論理的だということが特徴です。とても啓発される部分の多い著作で
すがウオーミングアップとしてこの本を読む前にこの著者の別の著書を1、
2冊位は事前に読んでおいた方がよさそうです。用語についてもこのような
本を読むことで多くの刺激を得ること請け合いです。ホメオティック突然変
異、ペイリーの時計、多面発現、コープの規則、ビィークル、スペードのエ
ースの誤謬、K淘汰、群淘汰、オッカムの剃刀などなど最新の知見満載です。

さくらももこ、土屋賢二共著の「ツチケンモモコラーゲン」には二人の人と
なりがよく現れています。それにしてもさくらさんはまるちゃんにぴったり
重なっていて父上のヒロシ氏共々哲学者との間に不思議なコラボレーション
を醸し出しています。                        

杉浦日向子とソ連編「もっとソバ屋で憩う」は東京中心の蕎麦屋123店舗
を1軒ずつ紹介していくこだわりの一冊です。合間合間には当然、杉浦日向
子の手になる薀蓄が満載です。美味しすぎる一冊を読み終えて蕎麦屋に行か
ない手はありません。蕎麦好き酒飲みにはこたえられない一冊です。   

壁シリーズの第三弾となる「超バカの壁」養老孟司著を読み終えました。社
会のいろいろな問題についての質問に真摯に応えている本です。委細を尽く
して述べている部分もありますが、故山本夏彦翁ほどには藝が円熟していな
いので直球で返してしまっていると思われる部分も目立ちます。個人的には
共感出来る部分が大半ですが、いろいろな人に読まれるミリオンセラー作者
にとっては更なる火種の元になりそうな話題も満載で養老ファンにとっては
それはそれで楽しめます。頑固オヤジが少なくなってしまった昨今、今後も
貴重な毒舌パワーを大いに発揮して欲しいものです。          

高野文子の「るきさん」をちくま文庫で読みました。これは判り易い本です。
何気ない日常生活を活写していますがなぜかやっぱり「るきさん」は変わっ
ています。雰囲気の楽しめるマンガです。               

星新一の本も久しぶりです。「ふしぎな夢」は宇宙物、それも子供向け探偵
読み物といった雰囲気を持った掌編を集めています。懐かしい冒険譚といっ
た気持ちを呼び覚ましてくれます。                  

高野文子の本「棒がいっぽん」を読み終えました。これはある程度ストーリ
ーがあるので判り易い方だとは思いますがやはりなかなか一筋縄ではいかな
い漫画です。独特の視点を持っている漫画家ですね。          

これまでにも丸谷才一が一員となる「浅酌歌仙」「とくとく歌仙」などを読
んでいますが、今回5年12月に出た「すばる歌仙」を楽しみました。この
本は丸谷才一、大岡信、岡野弘彦の3人による歌仙です。俳句や短歌などと
同様に歌仙などというものは今の時代、どうみても趣味の極みといった所で
すが、たまにはこのような言葉の遊びに触れてみるのも良いかと思います。

「大極宮2」は宮部みゆき/京極夏彦/大沢在昌の公式HP「大極宮」の中
のコーナーの一部に語り下しを加えて本にしたものです。厨子王(京極夏彦
)のお化け関係、、山椒大夫(大沢在昌)のゴルフとダイエットネタ、安寿
(宮部みゆき)のゲーム関係を中心にマニアックな話題満載です。    

以前にテレビ化された「リカ」を見てすぐに本書を購入しましたがそのまま
積まれたままやっと今回読むことが出来ました。原作は五十嵐貴久です。テ
レビのも凄かったですが原作もラストに向かって怖さが一気に加速していき
ます。単なる後日談だと思ってエピローグを読むと思わず足を掬われます。
もちろん単なるメールから本書のようにそんなに簡単には重大な事件にまで
は発展しないということぐらいは誰でも常識的に判るし、作り話というのは
判っていてもそれでも後を引く怖さです。               

「水曜日は狐の書評」で取り上げていた高野文子の「絶対安全剃刀」を読ん
でみました。17編の短編からなるマンガです。描き方も伝えようとしてい
るメッセージも様々でどのようにとらえたら良いのか判断が難しい所です。
これまで20年間で6冊しか本を出していないという寡作の作家です。また
別の本も読んでみようと思います。                  

藤沢周平の本を久しぶりに読みました。「回天の門」は幕末に活躍した尊攘
の志士である清河八郎を主人公とした物語です。主人公に向ける著者の眼差
しは優しいです。この時代を華々しく駆け抜けた坂本竜馬や西郷隆盛などば
かりが脚光を浴びる中、著者は独特の丹念な調査に基づいて世間にはあまり
知られることの無いこの時代に生きたもう一人の志士の姿を丹念に描いてい
ます。文庫で550ページを超える力作です。             

匿名書評子である狐の4冊目の本となる「水曜日は狐の書評」を読了しまし
た。99年から03年にかけて日刊ゲンダイに掲載された202編をおさめ
ます。これで新たに読みたくなる本が202冊増えたということです。これ
までに出た書評集3冊によってもかなりの本を読まされる結果となりました
がこの本でも興味を抱かせられる本が多数あります。少し悲しいことは紹介
されている202編の内、既に読んでいる本がたったの6冊しかないという
ことです。世の中には良い本がまだまだたくさんありそうです。     

「結晶物語」なかなか良いタイトルです。パラパラとページをめくると豊富
な水の結晶の写真が目を引き付けます。実に綺麗です。眺めているだけで心
が洗われていきます。写真だけなら大いに推薦したい本ですが文章について
はお勧め出来ません。一言でいえば水や結晶に対する一種の宗教です。結晶
の形はその時々の温度や水の微妙な成分の違いなどによってもどんどん形を
変えるものですが、この本では「幸せ」「好き」「きれい」などの良い言葉
を見せた水は良い形の結晶を作り、逆にきたない言葉を見せた水の場合には
結晶が出来なかったり形がくずれたりすると真剣に語っています。更に読者
の実験として同様に言葉の違いによってご飯が腐ってしまったり長持ちした
りするような例題まで載せています。作者の江本勝はI.H.M国際波動友
の会代表という肩書きですが後半の章では結晶が出来なかった水に対して祈
りの言葉を見せたり加持祈祷をした後には綺麗な結晶が出来ることや琵琶湖
で世界平和を祈る行事をしたあとに結晶が出来、水質汚染の元凶だった藻が
発生しなかったというくだりがあります。このあたりになると流石になかな
かその論理を理解していくことは困難です。説明が長くなりましたが結局こ
の本で見るべきポイントは120枚程の結晶の写真、特に前半にある音楽を
聴かせたさまざまな水の結晶のところです。「運命」「結婚行進曲」やユー
ミンの「卒業写真」、宇多田ヒカル「Automatic」、山下達郎「クリスマス・イブ」
を聴かせた水などの結晶写真などはそれなりに楽しめます。先ずは本屋さん
での立ち読みがお勧めです。                     

星新一著「ご依頼の件」を読み終えました。変わった雰囲気の小話が多く載
せられています。著者が言っているように解説不要のショートショート集で
す。この本が出てから既に四半世紀が経ったとは思えないほど現在でも十分
通用するほど内容が古びていません。                 

杉浦日向子の3連荘です。「百日紅(上)(下)」を読み終えました。北斎が主
役のなかなか楽しい漫画です。どちらかというと主役よりも女弟子のキャラ
クターの方が光っています。存在感というか雰囲気が抜群です。     

杉浦日向子の「とんでもねえ野郎」は漫画と20ページほどの対談風の解説
が付いただけのものなので1日もかからずに読み終えてしまいました。この
漫画は明治維新直前の風物を背景にして、飄々とした道場主を主人公にした
物語です。何か特別なテーマを訴える訳でもなく本当に楽しんで作ったとい
うようなほんのりとした風物が描かれゆっくりと昔の時が流れていきます。

今年は杉浦日向子の著作を順調に読み進めています。漫画「東のエデン」は
いろいろな雑誌に掲載された短編9編を纏めたものです。杉浦漫画は決して
上手だとは思えませんがなぜか味があります。文明開花や書生、仙人などを
題材にした諸作はストーリーも特段奇抜でもありませんがそれぞれの雰囲気
を良く伝えて我々をその時代、その世界に引き込んで楽しく遊ばせてくれま
す。杉浦ワールドはなかなか奥行きが深いです。            

宮部みゆきのシリーズ時代物「愛蔵版 初ものがたり」を読み終えました。
主人公は岡っ引きの”回向院の茂七”です。既に「初ものがたり」は単行本
で読んでいますがこの愛蔵版には単行本・文庫本に未収録の「糸吉の恋」が
加えられているので新たに購入しました。宮部ファンにとっては必見ですね。
舞台となる本所深川の絵図面も付いているので7編の事件を絵図面と対で見
ていくと一層味わいが深くなるのではないかと思います。        

新潮文庫編集の「文豪ナビ三島由紀夫」は三島由紀夫入門用のガイドブック
です。最近は有名作品のあらすじだけを紹介した著作が流行していますが、
この本もその系列につらなる紹介本です。そうは言ってもこの本の良い所は
主要な作品の紹介だけに止まることなく、小池真理子や花村萬月の三島への
思い入れの深さをエッセイにしたものや関係する風景とのコラボレーション
などいろいろな角度から作家、戯曲家、ノーベル賞候補者、芸術家でもある
三島由紀夫自身、氏が何者であったかを描き出している所が味噌です。  

1月中に12冊の本を読み終えて順調な滑り出しだと満足していたら、何と
購入した本は既に30冊にもなっていました。今年も本を溜め込みそうです。

著者である柴田哲孝は国鉄総裁にまつわる戦後最大級のミステリーである「
下山事件」の関係者です。かつて松本清張をはじめさまざまな人がこの謎に
挑んで来ましたが決定版とも言えるルポルタージュです。これまでの関係者
の証言や先人の著作を踏まえて著者自身でしか得られない新たな証言を織り
込んで真実に迫っていきます。特に後半部では重要人物である亜細亜産業の
矢板玄との対談、昭電疑獄、GHQ、CIA、キャノン機関、海烈号事件、
白洲次郎、更には吉田茂、岸信介や佐藤栄作などの歴代総理などが様々に絡
んで来る様子が克明に語られています。関係者もほとんどいなくなってしま
った今となっては真実は知りようも無いとは思いますが、少なくとも真実の
一端がここにはあります。昭和史を読み解く資料としても一読の価値があり
ますが、単なるミステリーとして読んでも十分堪能出来ます。      

泡坂妻夫著「写楽百面相」は謎の多い写楽を題材にいろいろな仕掛けを組み
込んだ娯楽読み物です。謎が交錯する中で江戸の情緒や著名な登場人物をも
ふんだんに盛り込んだ実に深みのある長編時代物となっています。    

杉浦日向子著「二つ枕」は江戸吉原遊郭の人間模様を描いた漫画です。江戸
を描かせたら第一人者の著者だけに情緒たっぷりの一冊です。解説は作家の
北方謙三が書いていますがこの中で北方謙三は江戸風俗については杉浦門下
の一番弟子と言っています。それほどまでに杉浦日向子の語る江戸は実在感
に満ちています。ちなみに二番弟子として名乗り出たのが宮部みゆきだそう
です。杉浦日向子恐るべしです。まったく惜しい人が早く逝ってしまったも
のです。本屋の店頭では早くも著者の本が僅少となって入手しにくくなって
来たので絶版にならない内にと思って未入手本5冊ほどをインターネットで
纏めて最近注文しました。余裕があれば杉浦日向子全集を揃えるところです
が、全集にしてからが既に品切れの巻が出ています。          

赤瀬川原平の名画読本は素晴らしい出来でしたが「目玉の学校」ははっきり
言ってさして見るべき内容がありません。目の意外な働きや見方についての
薀蓄?が書いてありますがあまりこれはと思えるような知見がありません。
ちょっと残念です。                         

竹内久美子著「遺伝子が解く!アタマはスローな方がいい!?」読了です。
この本は生き物に関するさまざまな疑問に竹内流の独特な解釈で答える問答
集です。電車の中で読むのにはちょっとはずかしい箇所もありますが最新の
生物学が学べる啓蒙書です。一話ごとに楽しいイラストが付いています。 

映画にもなったので良く知られている渡辺淳一原作「失楽園(上下)」を読み
終えました。今頃になって読んでいるのは先頃読んだ丸谷才一の書評傑作選
「いろんな色のインクで」に紹介されていたのがキッカケです。このような
書評を読むと読むときのポイントや予備知識が得られるので新しい見方が出
来る事があります。単なる恋愛小説として読んでももちろん濃厚な作品です
が、たとえば女主人公の旦那の立場に立った見方などで観点が広がります。

乙川優三郎の著作が相次いで発売されました。先ずは「冬の標」を読み終え
ました。閨秀画家の境涯を描いた直木賞受賞第一作です。ゆっくり読むのに
適した好著です。山本周五郎、藤沢周平を継ぐ時代小説の旗頭です。もっと
たくさん著作を出して欲しいものです。「武家用心集」についてはまた後で
ゆっくり読んでいこうと思っています。                

奥本大三郎著「完訳ファーブル昆虫記 第1巻下」を読み終えました。この
本では主に狩り蜂の生態について説明がされています。岩波文庫の昆虫記で
は判らない豊富で詳細な昆虫の図版がこの全集を一層良いものにしています。

山田詠美の作品「4U」を読み終えました。強烈な個性が各短編集に現れて
います。特に本のタイトルにもなっている4U(for You)は文章のうまさが
際立っています。どの作品をみても独特の言い回しには感心させられます。

星新一著「おのぞみの結末」には11編のショート・ショートが収められて
います。ロボット、秘密組織、脱走犯人、夢、悪魔、精神異常、占い、信者
、死神、UFOなどの題材を借りて人間心理を独特な視点で描き出していき
ます。                               

杉浦日向子の得意とする江戸の暮らしを描いた「お江戸風流さんぽ道」には
初詣、花見、花火見物、相撲、湯屋、時刻、食べ物、祝い事、乗り物、風流
などが項目別に詳しく説明されています。もちろん語り口はなめらかで江戸
の住人が自分の周りの風物を説明しているように”見てきたような”語り口
です。著者のうまい所は現代の言葉で適切に昔の風物を活写することで言葉
の選び方のうまさは抜群です。                    

新しい年を迎えました。今年も楽しい本をたくさん読みたいと思います。 
05年は158冊の本を読むことが出来ました。総額16万4千円、一冊の
平均価格は1040円です。買って読んでいない本は手塚治虫全集300巻
から400巻の100冊を除くと文庫、新書合計で480冊ほどあります。

気に入った本があったら読んでみて下さい。

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