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* * * 読書雑記(2007年) * * *
2007年は累計179冊の本が読めました。本年もまた未読の本が増えた
ような気がします。書斎に或る7架の本棚がそろそろ一杯になって来ていま
す。奥行きのある4つの書棚にはハードカバーの本は前後2段、文庫本は3
段にして使用していますがそれでもそろそろ限界です。2008年はもう少
し場所を増やす必要がありそうです。
開高健の絶筆「珠玉」は短編三部作です。人生の「珠玉」、この世の「宝」
とは何かを3つの宝石を絡めて描いた各短編には著者の豊富な体験や感性が
ふんだんに盛り込まれています。
「東京観音」は写真家の荒木経惟と江戸風流人の杉浦日向子の観音めぐりの
写真集&対談です。写真はすべて白黒の観音や石仏ばかりなので一見すると
暗〜い本ですが、そこを廻る二人が突き抜けた二人なので写真とは対照的に
内容は異常にテンションが高くて明るい本です。
幻冬舎から新しく出た文庫ということで斎藤綾子著「マイウェイ」を早速、
購入しました。内容を読み始めてこれが僅か1年ほど前に発行された同社の
「ハッスル、ハッスル、大フィーバー!! 」のタイトルを変えたものだと
いうことがわかりました。解説が違ったり時には部分的に書き換えがあった
りすることもあるので二度読んでも良いですが、タイトルだけは変えないで
欲しいものです。買いだめを沢山していると、もうタイトルが違っただけで
とりあえず買ってしまったりするので、止めて欲しいものです。それにして
も文庫版の出るのがむちゃくちゃ早いです。寡作の作家ですが独特の作品を
待っているファンは多いと思うのでもっといろいろ書いて欲しいものです。
日高敏隆「生きものの流儀」は動物学の大家が哲学書に掲載したエッセイで
す。意識、愛、心、命、幸福などの難しいテーマについてそれぞれやさしく
コメントしています。本当は難しいテーマばかりなので哲学者ならば難しく
こたえる所でしょうが、そこが著者の持ち味で淡々とした心に沁みるような
話となっています。
アイザック・アシモフといえば有名なロボット三原則』を提唱するなどSF
物を数多く手がけているSF界の巨匠であり、また安楽椅子ものミステリー
「黒後家蜘蛛の会」でも有名ですが科学の啓蒙書も多数手がけているそうで
す。新潮文庫「アシモフの雑学コレクション」 はそのような本の一冊です
がいろいろな分野の雑学をそれこそ山のように集めた一冊です。一話が一行
から3行くらいなのでとても読みやすいです。なんだか知識が増えたような
気になります。
「藤沢周平未刊行初期短篇」はその名の通り藤沢周平の未発表だった昭和3
7年から39年にかけて「読切劇場」「忍者小説集」などに書かれた14篇
の小説が収められた珠玉の一冊です。今の藤沢周平の完成された著作に比べ
て荒削りな筋のものや書ききれていないストーリーなどが気になる作品も幾
分かはありますが、この最初期のものにして既に良く練られた構成の武家物
には感歎せざるを得ません。関係者の長年の探索の末に原本を探し出し茲に
刊行の日の目を見ることが出来たのは我々にとっては僥倖です。
ご存知の童話「星の王子さま」をフランス文学者としての奥本大三郎が訳し
た絵本が白泉社から発行されています。この本の読みどころは登場人物の話
し方(言葉遣い)にあると本のあとがきに書いてあります。訳者がいちばん
注力した所だと思います。なにげなく読みきってしまう所ですが違和感無く
読めるところに言葉遣いの工夫が現れているのだと思います。
鯨統一郎著「異譚千早振る」は古典落語を題材にひねりを加えて歴史を違っ
た角度から切り取って面白く見せてくれるという二重の楽しみがあります。
古典落語の題材はご存知のものばかりです。粗忽長屋、千早振る、湯屋番、
長屋の花見、まんじゅう怖い、道具屋、目黒のさんま、時そばの8篇です。
あとがきの参考文献に落語百選が記載されていて本文読了後に読むよう注意
事項がありますが、これらの古典落語を知らない人は予めもとネタを読んで
おいた方がどのように題材を加工しているかが良く判って良いと思います。
米原万里の辛口エッセイ「真夜中の太陽」読み終えました。内容は婦人公論
やミセス誌などに掲載された社会時評を主としたコラムです。著者の主張は
概ね納得できるものが多いですが、日本政府への批評や過去の歴史認識など
ではかなりに独断と偏見が見られます。この著者にしても残念ながらあまり
公平な見方は出来ていないように思われます。このあたりのトーンの違いは
たとえば山本夏彦の辛口批評と比べてみると鮮明です。
岩谷テンホー著「みこすり半劇場鉄板!!」読み終えました。表紙からいき
なり笑えます。税込みわずか380円で約500篇の4駒マンガが読めると
いうのは大変安いです。凄いのはこれだけの量があるのに笑えない四駒マン
ガがほとんど無いことです。残念なのはこのシリーズがすぐに絶版、品切れ
になることです。もっと増刷して欲しいものです。
新書本を2冊読み終えました。文春新書と朝日新書です。一冊目が竹下節子
著「カルトか宗教か」頭の良い著者なんだろうと思います。題名が示す内容
を熟知している上に良くこのような書物を書くときに陥りそうな危険な独断
や偏見とも無縁のように思えます。無闇に断定や断罪する事無く非常に慎重
な書き方をしています。良い本です。この著者には他にもいろいろな著作が
あるようなので今度機会があったらそれらも手にとってみようと思います。
2冊目は養老孟司/池田清彦/吉岡忍による「バカにならない読書術」です。
第一部は「養老流」本の読み方ということでちょっとうがった本の見かたが
展開されています。第二部は読み好者の3人による鼎談です。米国が判る本
、価値観を変える本、科学を楽しむ本、ミステリー、マンガ、哲学、時代小
説、写真集など各テーマに沿って薀蓄とともにお勧めの本の紹介がされてい
ます。またまた読みたくなってしまった本が増えました。魔都TOKYOの
夜景写真集「東京デーモン」などは今日本屋でちょうど見た写真集ですが、
鼎談でも的確な指摘がしてあって感心させられました。
講談社青い鳥文庫から出版されている宮部みゆき「今夜は眠れない」はルビ
が付いている上にかわいい挿絵まで入った豪華版です。とはいっても定価は
760円と決して高い訳ではありません。私も「今夜は眠れない」は昔別の
出版形式のものを読んだことがあり2度目の購入ですが、青い鳥文庫の本は
読みやすくてお勧めです。
手塚治虫漫画全集は全400巻ありますがやっと362巻目を読み終えまし
た。362巻目は有名な「火の鳥L」です。「火の鳥K」が212巻目なの
で随分と離れています。「火の鳥L」から「火の鳥O」とブラックジャック
の19巻目から22巻目は初期配給の全300巻に入らなかったのでこんな
に飛んでしまっています。前の巻も読み返したい所ですがなかなか時間が無
くて読み返しが出来ません。
阿刀田高「ことば遊びの楽しみ」には回文、いろは歌、駄洒落、なぞなぞな
ど日本文化の一端を担う言葉遊びの楽しさが詰まっています。日本語はこの
ような言葉遊びに適した言語でありそれが文化に強く結びついていることが
この本を読んでいると良く判ります。500文字を超える回文などめったに
見られない文章も見られます。
杉山恵一「ハチの博物誌」青土社刊は日本版のファーブル昆虫記です。著者
は虫屋と自認しているだけに”ハチ”を語らせると話が面白いです。とくに
狩りをするハチについてのその描写はファーブル以上の所もあります。また
日本の風土で語られるハチの博物誌は古き良き時代の日本の自然風景が満載
で描写は釣魚大全のように懐かしさと楽しさが渾然一体となっています。
本文の章と章の間で語られる蜂の雑学は本文に比べて小さな字体で書かれて
いますが、いずれも傾聴に値する、造詣の深い余韻に富んだ好編となってい
ます。因みにこれらのタイトルは蜂事放談、虫屋考、蜂の生物学、泥壁の秘
密などとなっています。すばらしい出来で現在でも十分に通用する本なのに
出版後20年も経つと入手が困難となってしまうのは残念でなりません。
星新一「明治・父・アメリカ」は永らく入手できませんでしたが新潮文庫か
ら復刊されました。読みたかった本だったのでありがたいです。豪華な作り
の本は在庫を抱えるのも大変なので仕方がありませんが、せめて文庫本と新
書版については品切れ、絶版禁止にして欲しいものです。星新一の本の中に
まだ入手出来ていないものがあります。早く文庫で1001話のショート、
ショートのすべてとその他の星作品が読めるようにして欲しいものです。
「ミステリーはユーモアとともに」赤木かん子編はポプラ社のミステリーセ
レクション全10巻の中の2巻目です。泡坂妻夫の作品が入っているのを見
てそれなら面白そうだと思ってインターネットで注文したものです。この本
には泡坂氏以外に2名の著者の作品が収められていますが、案に違わずいず
れも面白く読むことが出来ました。編者は児童文学評論家という肩書きです
がミステリーにも造詣が深いようです。図書館あたりに揃えておくと手に取
った子どもたちが自然にミステリーに興味を深めていくようなそんな作りの
本です。
岩谷テンホー著「みこすり半劇場ハリケーン」を読み終えました。この四駒
漫画は読み始めるとあとを引くほど面白くてつい読みすぎてしまいますが、
一冊の中に470篇もの四駒が収められているので読みではあります。
開高健の「ロマネ・コンティ1935年」は僅か200ページ程の掌編です
が字が小さいので読み出があります。もっとも字が小さいだけではなく内容
が複雑、文体も多岐に亙っていてこの本が知的好奇心の塊になっていること
の方が主な原因かも知れません。この本の読みどころについては文庫の解説
が的確に指摘しているので興味ある方は解説からの立ち読みがお勧めです。
新潮選書「逆立ち日本論」は養老孟司/内田樹の対談集です。養老孟司には
対談集の著作が多いですがその中でもこの本は抜群の出来です。普通は養老
氏の発言が多いですがこの本では養老孟司は合いの手を入れることに徹して
いて内田氏から多くの発言を引き出しています。この著者は今回始めて知り
ましたが専門となるユダヤ人問題だけでなくさまざまな社会問題について極
めて判りやすく的確な発言をされています。一見の価値のある対談集です。
出久根達郎「死にたもう母」僅か2日ほどで読み終えてしまいました。献血
しながら読んでいたのが早かった要因です。タイトルだけみると暗い話のよ
うに思えますが、予想に反してしみじみと読ませてくれ、時には微笑を誘え
るような話題もあります。内容は著者の近辺の話題を綴ったエッセイです。
岩谷テンホー著「みこすり半劇場タイフーン」を読み終えました。この四駒
漫画のシリーズはたくさん出ていますがほとんどが絶版になっていて読めま
せん。今回は2006年度に文庫本で2冊刊行されているうちの一冊です。
タイトル通りの下ネタ満載なので真面目な方にはお勧め出来ませんがお笑い
大好き人間には堪えられない一冊です。
出久根達郎「セピア色の言葉辞典」にはなつかしい言葉や既に死語になって
しまった言葉がタイトルだけで100近くも納められています。「さつまの
守」「南京袋」「お膝送り」「殿様」「ちゃら」などの表題のもとに様々な
薀蓄が詰まっています。なかなか読み応えのある一冊です。
「ぼくには数字が風景に見える」はサヴァン症候群の著者ダニエル・タメッ
トの自伝といった本です。著者は自閉症に近いアスペルガー症候群の患者で
すが他人に理解されにくい境遇であった子ども時代の気持ちや行動から始め
て世界に出て多くの世の中の人の為に役立っていくまでの様が何の虚飾もな
しに淡々と語られていきます。円周率22,500桁を暗誦してギネス記録
を打ち立てたり世界10カ国の言語を習得するなどサヴァン症候群特有の天
才的な能力を発揮する著者の生の声が聞ける貴重な本です。
出久根達郎「世直し大明神」は女飛脚人が主人公の江戸庶民小説です。前作
に「おんな飛脚人」があるのでシリーズものといっていいと思います。気楽
に読める読み物です。
養老孟司/井上和雄/茂木健一郎共著、竹内薫司会の各分野の先端を走るメ
ンバーの対談「脳+心+遺伝子VSサムシンググレート」は知的興味満載の一
冊です。脳、遺伝子、そしてサムシンググレートへと知の融合が始まります。
いったいいつになったら人間は自分というものが判るのでしょうか。
里見ク著の「文章の話」読了しましたが評判ほどには良い内容とは思えませ
んでした。昭和12年に書かれた内容なので、流石にいろいろな文章読本が
その後出されている今日からみると幾分かの陳腐さは否めません。しかし、
誕生点の図や喧嘩統計図などのアイデアには独自なものがあります。これら
をみるだけでも有意義だと思います。如何にも岩波文庫という一冊です。
最相葉月は「青いバラ」「絶対音感」などの意欲的な作品を書いていて前か
ら読もうと思っていた著者の一人ですが、星新一の予言を読み解いた作品「
あのころの未来」をやっと読み終えました。この著作では星新一のショート
ショート60篇以上について触れていますが実に良く読みこなしています。
我々はこの作品によりはじめて星新一作品の多くがその後の社会問題や世相
をいかに先取りしていたかに気づかされます。これを明確にしたことが著者
の大きな手柄ですが、このような先見性と着眼点が著者の持ち味です。
竹内久美子が週間文春などに書いた動物行動学に関する質問、回答集を一冊
の本にまとめた「千鶴子には見えていた!」は本のタイトルにもある透視で
有名な「千鶴子」の話題をはじめとした50篇近くの興味深いテーマで構成
されています。竹内流の独特な解釈が合っているかいないかは判りませんが
動物の行動を解釈するにはこのようないろいろな発想というものが不可欠で
あるような気がします。生物学に興味の持てる本です。
養老孟司/加藤磐根共著「脳と墓T」ではなぜ人は埋葬するのかを世界各地
のミイラや葬送の仕方から解き明かしていく科学書です。200ページ弱の
読みやすい本ですがなかなか知りえない埋葬に纏わる知識満載です。
「文化防衛論」は60年代末に三島由紀夫が遺した論理と行動の書、および
「国家革新の原理」のテーマのもとで学生と行った対談が収められています。
三島由紀夫が死ぬ2〜3年前の著者の思想を知る上で参考になる一冊です。
藤沢周平の「海坂藩大全」下巻には短編11作品が納められています。藤沢
作品で文庫本になっているものは大半は読んでいますが、今回読んだ本を含
めて数えてみたらハードカバーと文庫を合わせて78冊を読んでいました。
「藤沢周平の世界」という全30巻のぺらぺらのビジュアルシリーズはまだ
積んだままですが全集を除いて一般に手に入るものはほぼ読破しました。
桐野夏生著「残虐記」は少女監禁事件を題材にした作品ですが『グロテスク
』と同様に実在の事件をさらに二重、三重にもひねって奇怪な作品に仕上げ
ています。著者の代表作の『OUT』からにしてもそうですが著者の描く世
界はなぜこうも異様な妖しさと棘を含んでいるのか不思議でなりません。
山口椿の「幾夜へだてつ」は江戸時代の大奥スキャンダル『江嶋生嶋事件』
を題材にした著者の本領が発揮された独特な物語を始めとして大枠で3篇の
妖異絢爛遥悦の物語が連作短編のような形で紡ぎ出されています。小題では
其噂色聞書(そのうわさいろのききがき)、茲江戸梅雨達引(ここにえどつ
ゆにたてひき)、乱髪夜紅尽(みだれがみよるのべにづくし)、明烏花濡衣
(あけがらすはなのぬれごろも)小夜衣累之草紙(さよごろもかさねのそう
し)など妖艶な題が続いています。内容はこれらの題からご想像下さい。
10/6は鯉釣りに魚信がないまま待ち時間の間に浅羽通明著「ナショナリ
ズム」の後半の100ページ程を読み終えてしまいました。新書なので持ち
歩くにも手頃なサイズです。この本は日本のナショナリズムを数々の著作や
史実に基づいて多角的に論じた意欲的な作品です。位置づけとしては思想史
ということで固めの本ですが吉本隆明、司馬遼太郎、本宮ひろ志、小林よし
のり、小泉純一郎、小沢一郎、石原慎太郎を始め300人を超える人々と、
それに匹敵する数多くの参考文献、この中には『沈黙の艦隊』『坂の上の雲
』『男一匹ガキ大将』『新ゴーマニズム宣言』『日本の唱歌』『菊と刀』な
ど多彩な作品が真面目に論じられています。変わり行く世相を見据えて公平
な視点で日本の行方を見つめ直すのに良い素材となること請け合いです。
藤沢周平作品の主要な舞台である海坂藩に関係する短編21作品を集成した
「海坂藩大全」の上巻を読み終えました。藤沢作品は何度読み返しても矢張
り味わい深いですね。
乙川優三郎著「夜の小紋」は既刊「芥火」を改題したものです。寡作な作家
ですがこれからも着々と書きついでいって藤沢周平のように心に響く多くの
佳作を残していって欲しいものです。
阿刀田高著「新装版ブラック・ジョーク大全」読了です。新装版でない方の
「ブラック・ジョーク大全」は20年ほど昔に読んでいますが内容を覚えて
いるはずもありません。出来の良いのも、いまひとつのものもありますが、
総じて出来は良い方です。この本に納められた作品は約500作品もあるそ
うなのでまずは何作品か立ち読みしてみて面白いと思ったら買うようにすれ
ば良いと思います。
松本清張「日本の黒い霧(下)」は帝銀事件、レッドパージなどの歴史的な
大事件の謎を追った著者の力作です。これらの事件にも米国が関係した可能
性が極めて高いことが判ります。平成の世の中になってもいまだにアメリカ
の属国の地位を脱しきれていないわが国ですが、この本で取り上げられてい
る昭和20年代はまさにマッカーサーを始めとする米国の影響下にどっぷり
と漬かっていた時代であったため捜査の矛先が高圧的に変えられたり鈍らさ
れたりしているのではないかということは十分に考えられます。著者は予断
を持たずにさまざまな状況証拠、物的証拠から謎を検証していきます。正に
ノンフィクションでありながらフィクションさながらの迫力があります。
気分転換にいしいひさいち氏の「ワシらを野球に連れて行け」寝しなに読み
ました。最近発売された本ですが内容は古い時代の四駒マンガです。時期の
ものなので流石に今となっては笑えないネタもあります。
養老孟司が「小説推理」という雑誌に6年間連載した小文を纏めた本が「小
説を読みながら考えた」約40作品、300ページです。本人もあとがきで
触れているように全てが推理小説の紹介、感想を書いたものではありません
が、それにしても良く本を読んでいます。各地での講演、世界各地での虫取
りなど忙しい毎日を送っている中で、書評委員での仕事での固い内容の読書
、趣味のファンタジーの読書、そしてこの推理小説の読書などを通して取り
上げている本の中には興味を引く本がたくさんあります。出来うればもう少
し本の内容を詳しく説明してくれたら良いなと思う所は多いですが書評専門
の書評ではないので仕方が無いところですね。どちらかといったら社会時評
みたいな内容の小文もあるところは儲けものだと考えた方が良いかもしれま
せん。
奥本大三郎訳「完訳ファーブル昆虫記第5巻下」読了です。これでやっと全
20冊の内の半分となりました。この単行本の原本は『すばる』紙上に連載
されているそうですが翻訳を始めてから正味17年で15冊ほどまで原稿を
書き終えたということです。奥本氏に余計な仕事が入らずになんとしてでも
早く全巻を完訳して我々読者に提供して欲しいものです。本当にこのシリー
ズは「ファーブル昆虫記」の金字塔です。
久しぶりに松本清張を読みました。「日本の黒い霧(上)」は50年近くも
昔に書かれた米国が関係したさまざまな事件の背景を抉った問題作ですが、
今でも十分に読み応えのある傑作です。下山事件、造船疑獄、ゾルゲのスパ
イ事件などの有名な事件の核心にせまる著者の調査能力は単なる作家の域を
越えて感歎するしかありません。社会派作家の本領が遺憾なく発揮されてい
る一冊です。読み始めた下巻が楽しみです。
奥本大三郎訳「完訳ファーブル昆虫記」第5巻上を読み終えました。糞虫の
巻です。糞虫(スカラベ)については第一巻で既に登場していますが40年
ほどが経過してからの糞虫研究への再挑戦といった趣です。研究熱心なファ
ーブルの本領が十分に発揮され、新たな知見に満ちています。ファーブル昆
虫記といったらやはりスカラベが真っ先に思い浮かべられるほど有名ですが
1巻目では良く判っていなかった糞球作りの様子が新たな実験道具と研究に
よって明らかになっていく様子は自然観察方法の良い手本です。本当にこの
集英社刊「完訳ファーブル昆虫記」全10巻20冊が完成した暁には昆虫界
の貴重な財産となること確実です。岩波文庫版の昆虫記を夢中で読んだのは
30年以上も昔ですが、良い訳者と良い校訂、良い挿絵と写真にめぐまれた
ファーブル昆虫記の傑作はやっと5巻10冊、半分が刊行された所です。こ
れを読める私たちは良い時代に生まれたことを感謝しても、し切れることは
ありません。
技術評論社刊「真空管ラジオ・アンプ作りに挑戦!」はその昔のラジオ少年
にとっては堪えられない一冊です。ST管による5球スーパーラジオ作りは
いまや高級な趣味となってしまったようで概算見積もり5万4千円、パーツ
集めも大変なようです。品薄なのは真空管だけではなくベークソケット、バ
リコン、パディングコンデンサ、中間周波トランス、シールドケースなどの
主要な部品の大半が簡単には手に入らないようです。この本では購入可能な
店屋や真空管の歴史、シャーシ加工手順、必要な工具類、ハンダ付けテクニ
ック、カラーコードの読み方、秋葉原パーツ店紹介、絶滅コレクション、パ
ーツ入手のための骨董ラジオの選び方、修理法、真空管規格表、ソケット接
続図更には真空管ラジオ関連サイト紹介と至れり尽くせりの記事満載です。
昔さんざんはまった真空管ラジオを懐かしく思い出しました。
丸谷才一「闊歩する漱石」読み終えました。著者の薀蓄は留まる所を知らず
に漱石を論じます。ヨーロッパの19世紀の文学史、物尽くしの観点、富士
山論などなどまさに縦横無尽に闊歩しているのは著者自身です。
野村胡堂の「銭形平時捕物控(1)」を読み終えました。やはり名作です。
今読んでいるのは嶋中文庫版ですがこの社の文庫も絶版が相次いでいて、今
手に入るのは全15巻の内の7巻のみです。書店によっては既に1冊も入手
出来ない書店もあります。07年1月には出版社が解散手続きを始めたとい
うことなので店頭から姿を消すのは時間の問題です。そうは言っても人気シ
リーズなのでこれまでと同じようにまた別の出版社からそのうちに出版され
るものと期待しています。
宮部みゆきの比較的新作の「ドリームバスター4」を読み終えました。この
4巻目は”時間鉱山”を舞台にした少年アクション・ファンタジーです。著
者には社会派小説、江戸人情噺、超能力ものなど幅広いジャンルの著作があ
りますが、この手のSFものはゲーム好きの著者の息抜きか余技といった感
じがします。発想は自由で壮大ですが、そのせいで4巻目になってもいった
い全体で何巻までで完結するのかさっぱりみえず、どうも他のジャンルと比
べると間延びした感が否めません。
高任和夫の文庫新刊「債権奪還」読了です。大手銀行を早期退職した主人公
が酒びたりの生活からあるきっかけによって見事に新しく社会復帰するとい
う理想の、現実社会の常識からすれば格好良すぎる物語です。派手なストー
リー展開こそありませんが、かつての商社勤めの経験を生かした人生訓がそ
こかしこにちりばめられており、少なくとも組織で働いた者であれば共感出
来るような何かがこの本には確かにあります。
米原万里「愛の法則」はホットな新刊です。この本は著者が各地で講演した
講演集です。「愛の法則」「国際化とグローバリゼーション」「理解と誤解
のあいだ」「通訳と翻訳の違い」などの様様な分野に翻訳者である著者なら
ではの経歴や薀蓄をちりばめた傾聴すべき貴重な一冊です。
久しぶりに谷沢永一の本を読みました。いろいろ買いだめはしているのです
がつい他の著者の本を優先して積んだままになっていた著者の本の内の一冊
「大人の国語」を読了しました。600ページ近くある本なので読みでがあ
ります。文章読本の類なので余計に難解です。なかなか為になる本です。
J・グールドの代表作「ワンダフル・ライフ」は文庫で約六百ページという
大部の本です。生物進化の画期的な証拠がカナダのバージェス頁岩から見つ
かったのは100年程前ですがそれが明らかになったのは何と1980年に
近くなってからです。本書はその経緯とこの化石群の持つ重大な意味を判り
やすく教えてくれます。化石というと大型恐竜ばかりがもてはやされますが
進化の観点からはこの化石群以上の発見は他に無いことが良く判ります。
特に明確な訳もなく扶桑社刊「キミがこの本を買ったワケ」を買ってしまい
ました。そこそこ楽しめましたが、もう少しひねりが欲しかったというのが
実感です。これだけの題を付けた割には中身は期待に反して案外と平凡に流
れています。一冊だけ売るだけの題名付けであれば大当たりですがシリーズ
物にするとしたら2冊目の続編はもういいやっていった感じです。
岡野玲子の「妖魅変成夜話4」が第3巻から4年の時を経てようやく刊行さ
れました。あまりに間が空くので岡野玲子の新刊本のチェックが遅れ3月に
発行されていたのに5ヶ月も遅れて新刊発行に気づいたほどです。養老孟司
などに比べると佳作の作家ですが、この画風では多作はとても出来そうにあ
りません。水墨の技法を駆使した漫画がじっくりと味わえる一冊です。
奥本大三郎が書いているということで世界名作おはなし絵本シリーズの中か
ら「シンデレラ」「ねむりひめ」「ながぐつをはいたねこ」の3冊を買いま
した。これらのシリーズは昆虫学者としての奥本大三郎ではなくてフランス
文学者としての奥本大三郎による著作です。インターネットの本屋での検索
を行うと同じ著者による全然違う分野の本や解説だけを書いているケースな
どがあり注意が必要です。大きな本屋が近くに無い場合にはある程度は仕方
が無いですね。入手し損なってあとで古本で見つけるのは手間も余分な金も
掛かるケースが多いのである程度は見切りでの購入です。
「ねむりひめ」は王子さまと王女さまの結婚式で終わりかと思ったらその後
が原作にはあるようです。この本は原作に忠実に描いてあります。次の日は
「ながぐつをはいたねこ」も僅か15分程で読了です。
池田清彦著「科学とオカルト」を釣りの合間に読み終えました。題名だけを
みるとあやしい本のようですが出版社が講談社学術文庫であることから判る
ように真面目な本です。あとがきでは養老孟司がこの本を推奨しています。
先日「K2非情の頂」という本を読み終えたばかりですがK2への8人目の
女性登頂を果たした東海大学関係者の登山記録が「K2 2006」です。
日本人女性としては初登頂となります。この本は「K2非情の頂」のような
ドキュメンタリータッチの本では無くチーム登山の記録といった類の地味な
本です。個人別高度記録、支援隊行動記録、装備一覧、高所食料一覧、輸送
梱包、発電機、気象記録、医療看護、高所順応トレーニング、衛星画像提供
、環境保護、会計などなど今後後に続く人への教科書的意味合いを持った本
に仕上がっています。登頂までに14時間余、下山開始後に酸素が切れかつ
無謀とも取られかねない8200mという高所でのビバーグ、19時間をか
けてのアタックキャンプへの下山など十分に魅力的なノンフィクション長編
が出来そうですがそれはまた後代に期待しましょう。
北大路魯山人はCMなどでもおなじみとなっている趣味人ですが角川グルメ
文庫「魯山人の食卓」は料理人である氏の名著です。とは言っても良い料理
は良い食材が第一で一流処でなければよい料理は味わえないという金持ち臭
にはとうてい賛同出来ません。汽車の駅弁や旅館の料理は不味くて閉口する
とまで言い切る著者の本はこの一冊で満腹といったところです。
「本の背中 本の顔」は出久根達郎の本に関する掌編集です。古本屋ならで
はのさまざまな話題を集めていて本好きにとっては楽しい一冊です。
学研M文庫「岡本綺堂 妖術伝奇集」は800ページ余もある読み応え十分
な文庫本です。内容も充実していて玉藻の前、青蛙神などは思わず引き込ま
れそうになるほど面白い読み物に仕上がっています。
日本実業出版社の「天然石と宝石の図鑑」を読み終えました。カラーページ
満載で綺麗な宝玉類は眺めているだけでも楽しめます。鉱物図鑑なので性質
や化学組成まで判ります。ツタンカーメンの装飾品の青にはラピスラズリが
使われているとか、アレキサンドライトという宝石は自然光か白熱灯かの種
類によって緑色から赤色に色を変えるなどどうでも良いような薀蓄も満載で
す。この本を読んでもいまだに判らないのは高度10のもっとも硬いダイヤ
モンドをどうやって磨く事が出来るのかという単純な疑問です。
いしいひさいち著「ComicalMisteryTour2 バチアタリ家の犬」はこのシリーズの
2冊目の4こま漫画です。いろいろな推理小説のパロディものです。知らな
い題材のものでも面白いですが、知っている推理小説は深く味わえます。
あまりにも有名な「ガリヴァ旅行記」スウィフト著をちゃんと読みました。
どうもこの手の本は子ども用の読み物などどこかで読みかじっていたりして
すっかり読んだような気がしていますが、もちろんこれまでちゃんと読んだ
ことはありません。小人国、大人国をはじめとしてよく知られた物語ですが
300年近くも昔に書かれたこの本が文学作品として秀逸なのは楽しい物語
の中に当時の英国の政治 (戦争、奴隷制度、植民地主義) への皮肉や風刺を
こめた作品性の故でもあります。子どもの時には純粋に物語性で楽しめて大
人になってからはその優れた作品性で改めて楽しめるといった意味では矢張
り一流作品です。さらにこの本のアイデアを元にして、あの有名なアニメの
『天空の島ラピュタ』や沼正三の長編小説『家畜人ヤプー』などが生まれて
います。そういった意味でもすごい作品です。ポータルサイト「Yahoo!」の
名前が生まれるきっかけも、開発者集団が自分たちをフウイヌム国に登場す
る種族にちなみヤフーと呼んだことに由来するそうです。今回読み通してみ
て初めてこの本では鎖国中の日本の踏み絵まで出てくることを知りました。
通読したことの無い大人の読み物です。
ワールドトレードセンターへのテロ攻撃では2749名が犠牲になっていま
す。この事件に関する本はたくさんありますがこの本では攻撃から崩壊まで
の102分の間に居住者や救助に当たった警察や消防の行動や防災体制など
を関係者への丹念なインタビューや通話記録などを元に解き明かしたもので
す。何が生死を分けるのか少なくともその一端が判る教訓となる一冊です。
「9・11生死を分けた102分」はジム・ドワイヤー著文藝春秋刊です。
出久根達郎著「続御書物同心日記」の舞台は300年ほど前の江戸場内にあ
った「紅葉山文庫」ならびにここに勤める御書物同心が通う本屋などで発生
する事件をめぐる連作短編です。著者の本業が古本屋なので業界の内輪話に
は説得力があります。本好きには楽しい読み物に仕上がっています。
「人間は考えるFになる」は土屋賢二と森博嗣の対談ならびにおまけに土屋
氏の珍しい短編推理?小説が付いたものです。対談は楽天的な森氏と対照的
な土屋氏という異色の対談ですが作家、教授という共通項もあります。
テレビにも良く出演している料理家の小林カツ代は多くの料理本を書いてい
ますが「料理上手のコツ」は料理の基礎となる切り方、火加減、下ごしらえ
や調味料、ちょっとした料理のコツが満載のうれしい一冊です。固い桃の皮
をむくにはどうしたら良いか、ふっくらピカピカ黒豆の煮方などなど薀蓄に
富んでいます。
長辻象平は魚類生態学の専門家であり「江戸釣魚大全」「釣魚をめぐる博物
誌」などの学術書の著者として認識していましたが本所深川七不思議と生類
憐みの令を題材にした「闇の釣人」のような楽しい小説を書いていることを
今回初めて知りました。物語は「置行堀」「明かりなし蕎麦」「足洗え屋敷
」などの七不思議を背景にして闇の釣り人とその志を諒とする支援者、更に
は時代を背景として小人目付から出世街道をのし上っていく公儀代表の役人
を軸に物語が進んでいきます。もちろん主人公の浪人長四郎をめぐる色恋沙
汰も交叉して最後の最後まで楽しませてくれます。
開高健著「新しい天体」は食に関する紀行小説です。著者には「最後の晩餐
」という食に関するエッセイがありますが併せて読むと氏の薀蓄の深さには
感心させられます。いかに食べ歩きをしたかはその巨体を見ても図り知る事
が出来ますがこれだけ言葉を尽くしてその美味を説明出来る人はいません。
鹿島茂著「オール・アバウト・セックス」は文藝春秋に連載された書評と関
連した対談を一冊にしたものでエロスを主題にしてこれだけの範囲と規模の
ものを纏めた資料としては当今一級資料といえるのではないかと思います。
名代の文学者であり書評家である著者がこの手の解説を始め出すとその薀蓄
は奥深く留まる所を知らず、文学の香りさえ漂うようになります。その辺り
が単なるエロ本と違う所です。深さとしては既著「セーラー服とエッフェル
塔」の方が目からうろこと言ったポイントが多く感心するところ大でお勧め
ですが、この本はエロスの探究といった点では既著に遙かに勝っています。
いつものことですがこの所2冊続けて書評を読んでしまったのでまたぞろ読
みたい本が増えてしまいました。
「書評家<狐>の読書遺産」は匿名書評家<狐>である山村修の最晩年の書
評集です。68冊が取り上げられていますが本を愛して読み込んだ著者なら
ではの本の選択、取り上げ方をしています。決して高い本では無くどちらか
といえば一般人には無名の<文庫>が採録されているのがうれしいですね。
取り上げられる本は文学書ばかりではなく漫画も含まれ、また新訳も積極的
に取り上げるなどカバーされる範囲は広範に亙ります。フランスの小説家で
あるバルベー・ドールヴィイの邦訳についてあの鹿島茂が毎日新聞に書いた
書評をたしなめる著者の文章などはかつての匿名<狐>時代に定評ある多く
の文学書に噛み付いた時の著者の片鱗が窺えて大いに楽しめます。惜しまれ
る人ほど早く逝ってしまうのは世の習いなのでしょうか。
問題の書であるジョセフ・コンラッドの「闇の奥」を読み終えました。この
本は英語圏の大学で20世紀に最も読まれた作品だそうです。ベルギー国王
レオポルド2世が1885年〜1908年に掛けて行ったコンゴ侵略は果た
していかなるものだったのか、コンラッドが描いた『闇の奥』の意味する所
とは何かを80ページ程もある訳注と解説で迫ります。同じ出版社である三
交社から出ている「『闇の奥』の奥」 藤永茂著と併せて読むとより一層、
それが明確に浮かび上がります。これほどの事件が歴史の闇として今世紀に
おいてもいまだに闇の奥に閉じ込められていることそれ自体を認識するだけ
でもこの本を読む意義があると思います。「『闇の奥』の奥」は「闇の奥」
の意味するところ、また現在におけるアフリカの状況を知るための良い手引
となっています。一流物理学者だった著者がその栄光を投げ捨ててまで訴え
ようとしているものがこの本に凝縮されています。
この2冊を合わせて当然、今年のベスト10の上位にランキングさせるべき
本ですが、あまりにも悲惨でランキングという安易な枠組みには納まり切れ
ない現実がそこにあります。別枠で推薦しておきます。
早坂隆著「世界の紛争地ジョーク集」読了です。著者のジョーク集シリーズ
の一冊です。お国柄によってバリエーションの異なるもの、登場人物が変わ
るだけのものなどさまざまですが、笑いは平和に結びついています。笑える
世の中の大切さが判る一冊です。
中公新書「コーヒーが廻り世界史が廻る」はコーヒーの歴史を淀みなく一気
呵成に描ききったと思われる渾身の一冊です。これほど雄弁に楽しくコーヒ
ーの歴史を綴った書き物を始めて見ました。感心することしきりです。
いしいひさいちの四こま漫画「ComicalMisteryTour4長〜いお別れ」は傑作
ミステリのパロディです。原作を知っているものはその面白さが判りますが
読んでいない本が多いので面白さは半分ほどです。なんと87編が収録され
ているそうです。いしい氏も忙しいだろうによく読んでいるものです。
元NHK職員、番組プロデューサーである中田整一著「盗聴二・二六事件」
は歴史でも有名な「二・二六事件」の際になんと関係者の電話が盗聴、録音
までされていたという衝撃的な事実を追ったドキュメンタリーです。20枚
の録音版の内容と関係者に対するインタビューをもとにして丹念に当時の緊
迫した状況や謎を浮き彫りにしています。後の戦争へと繋がるきっかけとな
る軍部独走へと、事件をきっかけにして誘導しようと奔走する為政者の動き
もしっかりと見て取れます。昭和11年が近くに感じられる一冊です。
古生物学者であるスティーブン・ジェイ・グールドは多くの科学エッセイや
啓蒙書を書いています。「フルハウス−生命の全容−」では四割打者がいな
くなった理由をトレンドの見方から解き明かします。生命はバクテリアのよ
うな低級なものから人間のような高級ものへと”進化”していくという一般
に世間で思われているような誤った進化観を判り易く正してくれます。バカ
の壁が近年大流行しましたが、グールドの判りやすい喩えの中にも”壁”が
登場します。技術の上限の壁や生命の複雑さに関する壁など話を聞いてみる
といかに我々が”常識”と思われているものに囚われているか判ります。
「男と女、二つの性がある理由」は奥本大三郎/長谷川眞理子が往復書簡の
体裁をとって新聞に連載した、性にまつわるいろいろな話題をまとめた一冊
です。方や進化生物学者、方や昆虫学会の重鎮にして仏文学者という取り合
わせなので話題は哺乳類、鳥類をはじめ昆虫界、そしてもちろん人類中心に
動物全般に亙る雄と雌との間における行動や考え方の不思議を取り上げてい
ます。気のせいか見ているとどうも奥本大三郎の方が討論では分が悪いよう
に見えます。人類においては雌が基本形で、さまざまな条件をクリアしてや
っと雄となることが出来るそうなので、形勢不利なのは致し方無いのかもし
れません。
かの有名なデカルトの「方法叙説」読了です。この本では本論のみで3つの
『試論』が省かれているためにタイトルも『方法序説』ではなく「方法叙説」
としているとのことですが、解説で養老孟司が書いているように氏の人生に
多大な影響を与えた本ということで絶賛しています。しかし残念ながら私に
とっては特にこのデカルトの物事の考え方に感動や共感を覚えることはあり
ませんでした。本を読むのにはその人の人生のタイミングが大切だという事
がよく言われます。私にはどうも時期も考え方も合っていなかった様です。
因みに養老孟司がこの本を読んだのは大学の医学部を卒業する歳だったそう
です。本文が112ページしかない本なので興味のある方は一読下さい。
現在、米原万里の「発明マニア」という本を読んでいますが時事ネタ満載で
大変勉強になります。ネタとなる相手が首相であろうが大統領であろうが歯
に衣着せぬ明快な論調でユーモア、諧謔、諷刺を交え一刀両断、諸悪の根源
を独自の”発明”でもってみごと解決に導いてしまいます。3〜4ページで
一話完結する、とても読み易い本です。おまけに著者本人のイラストによる
”発明図”まで1件ごとに付いているので発明アイデアとしても楽しんで読
むことが出来ます。
その発明コラムの一つに”テロを撲滅する方法”なるものがあります。著者
自らが考えていたところ偶々見つけたという”テロを撲滅する方法”のオン
ラインサイトが紹介されています。アドレスはhttp://www.newsgaming.com/
です。このサイトの中に2つのゲームがありその一つ『Play September 12th』
が”テロを撲滅する方法”に相当するゲームとなります。ゲームの解説には
「これはゲームではありません。云々。」とある通りシュミレーションとい
った方が良いかもしれません。若しくは、これがおそらく”現実”だと言っ
てもおかしく無いかも知れません。ゲームは単純です。画面には中東の国の
街の風景と人々の生活があります。一般市民の中に何人か武器を持ったテロ
リストが混じっています。このテロリストをミサイルで狙ってテロリストを
撲滅するというゲームですが、ミサイルで照準を合わせて撃つと着弾までに
時差があるためにうまく撃たないと一般市民も何人か巻き添えになります。
市民の死を悼む人々はやがて自らがテロリストとなって旅立っていきます。
果たしてあなたはテロリストを撲滅することが出来るのか?究極のテロリス
トを撲滅するための方法とはどのようなものなのか?実際にチャレンジして
みることをお勧めします。もちろんお解かりかとは思いますがゲームの題名
の『Play September 12th』はあの9・11テロに因んで付けられた名前で
す。併せて毎日新聞社刊、米原万里著「発明マニア」を手にとってみること
をお勧めします。
養老孟司の「運のつき」はその昔、ハードカバーか何かで買いましたが既に
どこに積まれているのか判らなくなっています。今回は新規に文庫で購入し
た本を読みました。人生について、学問について、死について、主義につい
て、努力・辛抱・根性についてなどなど有意義な人生論が満載です。
岸本佐知子は本当にユニークです。「ねにもつタイプ」を読み終えましたが
はっきりいって変です。そして笑えます。笑える読者もちょっと変かもしれ
ませんがともかく笑いたければ読んで見ることをお勧めします。
岡本太郎の「日本の伝統」は昭和30年代に書かれた本ですがいまだに内容
は古びず読むのに耐えられます。著者の言葉にはインパクトがあるので読ん
でいて元気を与えられます。
中公新書から出ている「君子の交わり、小人の交わり」は養老孟司/王敏の
二人の対談集です。本当に養老孟司の著書には共著が多いです。この本の前
に読み終えた「人生の疑問に答えます」に続いての共著です。この本はそれ
ぞれの国の歴史や文化をお互いに良く知っている者同士ということもあって
相手国を尊重した大人の会話をしており大いに耳を傾けて傾聴することが出
来ます。
「人生の疑問に答えます」は独特の見識を持つ養老孟司/太田光の2人が、
人生のさまざまな疑問に真摯に答えたものです。およそ悩み自体に問題があ
るケースも多く、そのあたりについても他の悩み相談と違ってずばりと指摘
しているところが新しい見方だと思います。
ジェニファー・ジョーダン著「K2非情の頂」は世界第2の高峰であるK2
に登頂出来たわずか5人の女性の生き様をノンフィクションで描いたもので
す。8000mを超える山の非情さは、これらの女性がただ一人として現在
生きていないという一点にだけでも十分に表わされています。5名それぞれ
が登頂後、もしくはその後の8000m峰登山中に亡くなっています。世界
の最高峰エヴェレストは良く知られていますが、K2と呼ばれる第二位の山
はあまり知られているとはいえません。2003年時点でエヴェレストには
のべ2000名ほどが登っているのに比べ標高8611mのK2には200
名もいないのはこの山がいかに人を寄せ付けないかの証です。さらに犠牲者
の比率で言うとエヴェレストの9%台に対してK2はなんと27%、4人に
一人は亡くなっているという恐ろしい高峰です。K2登頂を果たした5名の
女性の関係者に数多くあたり生い立ちから山に向かうきっかけやのめり込ん
でいくさま、家族、友人関係まで含め余すところ無く伝えてくれています。
お勧めの一冊です。
米原万里著「ガセネッタ&シモネッタ」では翻訳業にまつわるあれやこれや
の話題を面白おかしく次々と提供してくれます。タイトルから内容は推して
知るべしです。翻訳者による駄洒落は楽しい作品が満載です。
昆虫写真家の第一人者である海野和男の「デジタルカメラで撮る海野和男昆
虫写真」2600円はオールカラーの貴重な写真集にしてはお手頃な価格で
す。巻末にある機材リストとデジタル一眼レフの撮影テクニックは昆虫写真
や花の写真を撮ろうと思う人には大変ありがたい資料になると思います。
大ヒットしている「世界の日本人ジョーク集」の著者である早坂隆のジョー
ク集シリーズの一冊「世界反米ジョーク集」を読み終えました。掲載されて
いるジョークはもちろん面白いですが、それ以上にお勧めはジョークの合間
の解説です。米国の政治、経済、軍事、宗教、外交などに関する最新の状況
が余すところ無く要領よく纏められておりルポライターである著者の本領が
発揮されています。下手な専門書を読むより遥かにわかりやすいです。
米原万里の文庫本をたくさん仕入れたので端から読んでいます。「ロシアは
今日も荒れ模様」はロシアの酒であるウォトカをめぐる薀蓄が詰まった一冊
です。学者も含めてたいていの日本人の誰よりもロシアに詳しく、ロシア人
の誰よりも日本を知っていると解説者が言う著者の描いたロシアが面白くな
いわけはありません。それにつけてもこの本でも多く引用されている「独裁
者たちへ」という本が手に入らないのは残念です。
皆川博子の「ジャムの真昼」は本の帯によれば「一葉の写真、一枚の絵が呼
びおこすひそやかな官能、秘密のかおり」とあり、表紙や各章扉にある絵や
写真そのものが既に物語を十分に語りつくしているように思えます。これら
をみるだけでもこの本を見る価値はあると思いますが、物語の方も負けずに
その不思議な世界を主張しています。決して判りやすいとはいえませんが、
不思議な世界を描き出しています。
桐野夏生著「ダーク(上・下)」読み終えました。この著者の本を読むたび
にどのような生い立ちの著者なのか気になります。いつもどこかに攻撃性と
鬱屈を抱えたようなストーリーには読者をのめり込ませる迫力がありますが
同時にここまであくの強い主人公を描き出さなくても良いのではないかとの
疑念も沸きます。この本も「OUT」や「玉蘭」を読んだ時のような違和感
とでもいったような現実感とのずれを強く意識させられてました。後編では
筋の展開が加速してますます目が離せなくなっていきます。さわやかな読後
感とは程遠いですがわくわくする物語を読んだという満足感は十分です。
乙川優三郎自選短篇集市井篇「時雨の岡」を読み終えました。しっとりと読
ませる力作揃いです。寡作の作家ですが藤沢周平のように書き継いで多くの
作品をこれからも提供して欲しいものです。
かのエリツィンロシア大統領の通訳も務めたという米原万里の「不実な美女
か貞淑な醜女か」は通訳という職業の舞台裏を描いた笑える初エッセイです。
通訳にまつわる珍談・奇談だけでなく言語を駆使する第一人者である著者な
らではの文法論、文章論や母国語に関する貴重な発言が満載の一冊です。
藤沢周平氏の文庫本で最後まで残っていた「雪明かり」を読み終えました。
実はこの本も昔、読んだはずなのですが一覧に載っていなくて本棚にも見つ
けられなかったので購入しなおしたものです。新版より旧版の文庫の方が安
かったので旧版をインターネットで注文して書店で買いました。この本には
初期短編集8篇が収められており暗い色調のものが多いですが、暗いだけで
は無くてやはりどこかに救いがあります。そこが藤沢文学の良さです。
いしいひさいち著「Comical Mistery Tour3 サイコの挨拶」気分転換の最良で
す。しかし、この本に出てくるミステリーは知らないものが多かったために
今ひとつ楽しみが薄かったような気がします。
武家篇「男の縁」は乙川優三郎の自撰短篇集です。単行本から採用したもの
が6篇、単行本未収録が2篇から成っていますがこの著者の作品は読み返し
てみてもやはり心和む作品ばかりです。「時雨の岡」と合わせて買ったので
特製カバー付きで棚に飾れます。
創元推理文庫「飛蝗の農場」を読み終えました。2002年度のミステリー
第一位だけあって読み応えがありますが、一度読んだだけでは内容が判りに
くい本です。読み終わって所々読み返すとやっとこの本の構造が判って来ま
す。解説ではサイコロジカル・スリラーのジャンルを塗り替えるほどの新作
だと絶賛しています。あらすじはヨークシャーの農場に謎めいた一人の男が
やって来るところから始まります。最後の結末に向かうまでは何重にも謎が
積み重なりどうなっているんだろうと思わせますが最後に一気に謎が解き明
かされるとともに衝撃の結末へと突き進んでいきます。400ページあたり
まで我慢して読み見通すことができればそのあとは読んだ事が報われます。
中央公論社「藤原正彦の人生案内」は氏が新聞紙上で読者の相談にこたえた
ものを一冊の本にまとめたものです。10歳代から60歳代までの各年齢層
の70余編の悩みに答えている内容は著者も言っているように常識にとらわ
れない型破りな回答のものが目立ちます。よくある相談者寄り一辺倒な回答
では無く相談者にも言うべきことを言い、指摘すべきことはずばりと指摘を
するという氏の基本は完璧を求めないこと、世の中はそんなものだと思って
割り切ること、躾の基本は親の責任などといった点です。「国家の品格」の
著者ならではの歯に衣着せないずばりと言い切った回答には胸がすく思いを
している人も多いのではないかと思います。
奥本大三郎訳の「完訳ファーブル昆虫記第4巻下」を読み終えました。この
巻は蜂に関する考察の総集編です。どの巻を取り上げてみてもその実験手法
には脱帽せざるをえません。自然科学に対する取り組みの手順は今でも十分
に使える考え方です。ファーブル昆虫記がこんなにも永く読み継がれている
のはこのような実験手法に溢れた素人向けの科学書である事とそれにも増し
てこの本が良き文学になっていることにあります。奥本大三郎氏という当今
第一のフランス文学者であり翻訳者、昆虫学者を得たことは日本国民にとっ
て、さらにはファーブルファンにとっては本当に幸せなことです。
いしいひさいち著「Comical Mystery Tour 赤禿連盟」は題名が示すように
国内外のミステリーを題材にしたコミックを中心としたマンガです。原作を
知らなくても結構笑えますが、原作を知っていると題名のパロディ化も含め
て大いに笑えるか、大いに感心させられるかのどちらかです。
3/18は鯉釣りの合間の時間つぶしで丸谷才一「青い雨傘」を読み終えて
しまいました。薀蓄満載の一冊です。旧仮名遣いに違和感がなければ好読物
です。そういえば『丸谷才一批評集全六巻』をはじめとしてまだ10冊以上
も著者の本を棚に積んだまま読み終えていません。
イタリア語の通訳の第一人者である田丸公美子の文庫「パーネ・アモーレ」
はイタリア語通訳奮戦記を中心とした笑えるエッセイ集です。解説を通訳の
米原万里が書いていることからも判るように内容は絶対お勧めの一冊です。
「貧相ですが、何か?」は哲学教授である土屋賢二氏の新刊です。相変わら
ずどのエッセイも満遍なく笑えます。これほどヒット率の高い笑える題材を
続けられるのは凄いことです。これからもどんどん快作を生み出し続けてい
って欲しいものです。
スティーブン・ジェイ・グールド著「ダーヴィン以来」は自然科学を中心と
したエッセイ集です。今や古生物学の重鎮である氏は単なる生物学者に留ま
らず自然観や科学史、進化論の話題をはじめ自然の社会論、人間観、歴史認
識論などを含めた幅広い議論を判り易い例題を引いて我々に示してくれます。
この本に収められている33の全テーマがそれぞれ独立した話題となってい
るので読みやすいという利点はありますがそれ以上に視点のするどさで他の
類似の著作とは一線を画しています。読んで損の無い一冊です。
量子計算の基本原理を初めて示した理論物理学者デイヴィッド・ドイッチュ
の著書「世界の究極理論は存在するか」は本文320頁、2段組、34万文
字という大部の著作です。かの広辞苑収録文字数が一説では1400万文字
と言われているのでそれと比べてもかなりの分量であることが判ります。
読み終えるまで一ヶ月くらいかかったように思えます。内容は多宇宙世界の
存在証明といったら判り易いかと思いますが、量子理論、計算理論、認識論
、進化論など幅広い知識に関しての洞察です。哲学的な考察も相当絡んでい
ますので理解しきれない箇所も多数あります。我々が理解している宇宙の他
にも並行宇宙が多数あるという事自体を心情的に受け入れられるかどうか、
そんな世界を考えることに意味があるのかという疑問を抱くかどうかがこの
本を楽しめるかどうかの分かれ道のように思えます。
仁賀克雄著「切り裂きジャック」読了です。1888年にロンドンで発生し
た事件ですがいまだに研究書が出され続ける特異な未解決事件となっていま
す。この本一冊でこれまでの事件の経緯や容疑者一覧まで判る総集編ともい
える一冊です。
講談社青い鳥文庫版の「この子だれの子」は宮部みゆきの文春文庫版『我ら
が隣人の犯罪』から4篇を採用してイラストも入れ、漢字には振り仮名も付
けた青少年向けの童話タイプの一冊です。特にイラストが効果を盛り上げて
いて文庫版では味わえなかった雰囲気を味わえます。
サマセット・モームの「雨・赤毛」を読了しました。著者の南洋物の短編に
は定評がありますが、今現在これを読んでもそれほどの感動はありません。
人間心理に関する読み物はその後、山ほど現れてそれほどの驚きを与えてく
れることは無くなってしまいました。それでも何しろサマセット・モームな
ので短編の最後の落ちの切れ味の良さは評価できます。「太平洋」も一週間
後には読み終えました。
翻訳家、岸本佐知子の本を初めて読みました。とは言っても翻訳した本では
なくてエッセイ集です。「気になる部分」を読むとこの著者がいかに変わっ
ているかが判ります。サルマタケは知っていても忠臣蔵にもベルばら、フラ
ンダースの犬、チボー家の人々にも興味が無いと言い張る大胆さには大いに
笑わされもし、共感もできます。「小公子」と「小公女」の関係は一体どう
なっているのだろうと悩む著者の持ち味は随所に発揮されて実に楽しい一冊
に仕上がっています。笑いたい人には期待に副える一冊です。
動物行動学者である竹内久美子の「あなたの知らない精子競争」は単行本「
BC!な話」を再文庫化したものなので既に一度読んでいますが新しい知見
に溢れた有益な学術書です。とは言っても動物行動学というのは諸説が入り
乱れている世界で、その世界の中での独自の論なので眉唾っぽい話も沢山あ
ります。そのような箇所も含めてこの世界の動向を楽しく知るにはこの著者
の読み物を措いては考えられません。竹内久美子の本はどれも必読です。
いしいひさいち著「近くて遠山の金さん」読了しました。氏のマンガを読み
こなすには世界情勢を良く知っておく必要があります。まだまだ勉強が足り
なくて笑えない4駒マンガがいくつかありました。でも面白いです。
岡本太郎・敏子夫妻の「愛する言葉」似たもの夫婦とはよく言ったものです。
あれだけ強烈な個性を持った岡本太郎を真正面から受け止めるだけの資質が
言葉の端々から迸り出ています。やはり奥さんも並の人ではありませんね。
元気にさせてくれる一冊ですが甘えていてはいけないなと感じさせてもくれ
ます。それにしても二人の努力で復活した巨大壁画「明日の神話」を東京に
見に行った時に天候が悪くて見損なったのは返す返すも残念です。
長谷川眞理子著「クジャクの雄はなぜ美しい?」は最新の生物学の知見満載
の一冊です。前に読んだ竹内久美子の本ではクジャクの雌は雄の羽の目玉模
様の数が多い方を配偶者として選ぶとあり納得した覚えがありますが、この
本を読むと伊豆のシャボテン公園で著者らの研究グループが観察したところ
では目玉模様と選ばれる雄とはまったく関係ないという結果がでているそう
です。これは結構ショッキングな結果です。目玉模様を作り出すのには健康
でなければいけないの雌はそのような雄を配偶者として選ぶという話は耳に
快いですが『目玉模様の数と配偶者選びとはまったく関係ない』という説は
受け入れるのに心構えがいります。地動説を信じていた人間が天動説を初め
て聞かされた時の様な気持ちかもしれません。近頃の生物学は日進月歩だと
いうことなのでこのような本も是非読んでみるべきだと思います。雄の戦略
と雌の戦略が拮抗するという話も興味深い話題です。
2月になって連休を迎えやっと2006年の読書一覧を作成することが出来
ました。<2006年に読んだ本の一覧>として下の方でリンクを張ってい
ます。興味のある方はごらん下さい。
桐野夏生著「グロテスク(上)(下)」ともに釣りの合間に読み終えてしまいま
した。同じ題材をベースにしても「東電OL殺人事件」とは切り口が大分違
います。この本の良さは斎藤美奈子が余す所無く綴っています。文庫下巻の
解説を立ち読みしてでもご覧下さい。きっと読みたくなる事請け合いです。
「火打ち箱」はアンデルセン原作の童話です。赤木かん子の訳に高野文子が
独特なペーパークラフトで飾りつけした変わった一冊です。訳者によればこ
の「火打ち箱」は良く探偵依頼の来る本だそうです。『目玉の大きな三ひき
の犬』がキーワードなのに本の名前が「火打ち箱」では見つけられないのも
もっともです。どう結びつくのかは読んでのお楽しみです。
岡本太郎の「強く生きる言葉」もあっという間に読み終えました。これはこ
れで良いですが言葉の片鱗でしかないのでちょっと物足りない気がします。
やはり「自分の中に毒を持て」のように文章になったものの方がインパクト
は強烈です。こちらもお勧めです。
岡本太郎の「壁を破る言葉」は氏の独特の力強い言葉と写真を組み合わせた
箴言集とも言える一冊です。シリーズ一冊目の「強く生きる言葉」も読書中
です。それにしてもページ当たりの単語数が少ない本です。一頁が2〜5行
がほとんどで、尚且つ一行が10〜20文字くらいしかありません。一冊が
200ページも無いので全体で8000文字くらいの勘定で1050円です。
他方、今読んでいる「世界の究極理論は存在するか」は18行/頁×2段組
×27文字/行×327頁=32万文字くらいで3045円です。コストパ
フォーマンスは10倍以上違います。どちらがより心に響くかは読む人次第
ですが対極にありますね。
養老孟司「自分は死なないと思っているヒトへ」は『脳と自然と日本』及び
『手入れ文化と日本』をもとに新編集、改題したものなのでこれらの本を既
に読んでいる人は購読不要です。しかしインターネットで注文するとそこま
で判らないのでこの本ももう一回読んでしまいました。だいぶ忘れているの
でちょうど良かったかも知れません。あちこちで似たような話が出てくるの
でどこで読んだのか判らない部分もたくさんあります。読み易く為になった
気にさせてくれる本です。
米原万里の本は前々から読もう読もうと思っていてこれまでに僅か一冊しか
読んでいないという隠れファンですが「打ちのめされるようなすごい本」の
タイトルでこの著者では買わないわけにはいきません。予想通り歯切れの良
い書評はどれも冴え渡っています。心情的には著者の攻撃的過ぎる筆致には
ついていけない部分も多いですが視野の広い書評には傾聴すべきものも多数
あります。あとは紹介されていた本を読んでこちらが判断するだけです。
名人桂文楽師匠による「古典落語 文楽集」はちくま文庫から出ています。
たまには落語もいいもんです。でもやはり本よりは直に音声を聞いたほうが
味があります。この本には20作余の落語がおさめられていますが文楽でな
ければやれない芸が多数含まれておりそういった意味で貴重な選集です。
デボラ・ゴードン著「アリはなぜ、ちゃんと働くのか」は新潮OH!文庫、
2001年の発行ですが、僅か5年で既に新刊では入手出来なくなっていま
す。仕方が無いのでインターネットの古本サイトで見つけて購入しました。
訳者は構造主義生物学者である池田清彦です。題名にある疑問に答えられて
いるのかと期待しましたが残念ながら答えはありません。しかしこの著者で
ある女性研究者のやることは半端ではありません。調査対象の収穫蟻の女王
は15年から20年も1つのコロニーで生きるそうですが、コロニーの年齢
と抱える働き蟻の数の相関を調べるために226個もの巣を深さ2〜3mも
掘り返して最大1万匹/巣もいる蟻の数をすべて調べたり、調査区域内にあ
る300個ほどのコロニー全てに座標をつけて統計を取ったりしています。
巣には女王蟻のほかにハタラキアリの役割分担として偵察アリ、塚作業アリ
、食料収集アリ、巣保守アリなどの役割があるそうですが、これらの役割は
餌の条件や環境条件によって変わるのか、またそれらを統括している司令塔
は存在するのかなどファーブル並の知的好奇心に溢れた実験、調査を繰り返
しています。多くの謎は残ったままですがそれでも読んでためになる部分は
残ります。そもそもアリやハチなどの社会性昆虫は遺伝子的にみても一つの
コロニーが一匹の生物のような振る舞いをしていると常々思っていた私はこ
の本を見てその感を一層強くしました。生物って何だろうと思わせる身近な
生物それこそがアリなのでそういった意味で興味ある研究成果がここにあり
ます。その後の研究成果も早く見たいものです。
藤原正彦著「心は孤独な数学者」は世界で有名な数学者の生い立ちや生活を
現地にまで出掛けて丹念に追求した珍しい角度から描いた伝記物です。総じ
て悲劇的な面が特記されるのは真の数学者の宿命なのかとも思えます。著者
の藤原正彦は両親ともに著名な作家で本人が数学者だけあって単なる数学者
の伝記に留まらずに良い文学となっていて読ませてくれます。
奥本大三郎訳「完訳ファーブル昆虫記〜第4巻上」読み終えました。原作の
ファーブルを超えた名訳は後世に残る貴重な資料です。岩波文庫版の昆虫記
を昔読んだ人ならすぐに判りますが、こんな贅沢な翻訳書を将来見れるとは
まったく思っていなかっただけに幸せはこの上もないものです。全巻完結ま
でにトラブルが起こらないことを祈るだけです。
集英社be文庫の「大人のそば屋はここにある」には都心中心の美味しそうな
ソバ屋が多数紹介されています。都心に住んでいる人がうらやましく感じら
れるのはこんな本を読んだ時です。それにしても最近の流行のようになって
来た女性による昼過ぎの来店、蕎麦前のお酒、小腹を満たすための蕎麦とか
いうキーワードはあまり聞かされすぎると何かなあと思います。
小林信彦著の「読書中毒」は「本は寝ころんで」「<超>読書法」に続く著
者の文春文庫のブックガイドの第三弾だそうです。さすがベテランだけあっ
て映画から文学まで、古典から現代まで縦横無尽に話は自由自在です。難を
いえばわかる人にはとことん判るが、判らない人にはそれなりにしか判らず
あちこち話が飛びすぎて支離滅裂となではいかなくても面白く無さが増して
いくことです。橋本治もそうですが往々にして頭の良すぎる人は人がどのよ
うに感じるかを考えずに多分、素晴らしいだろう本を書く傾向があるような
気がします。向井敏や谷沢永一などのブックガイドは読者を想定して判った
ような気にさせてくれる分だけ我々素人にはとっつきやすいです。
気に入った本があったら読んでみて下さい。
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