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* * * 読書雑記(2019年) * * *
2019年はちょうど100冊の本を読むことができました。
以下はその感想、コメントです。来年も楽しめる本を1冊でも
多く紹介出来れば良いと思います。
今年100冊目となった本は『半七捕物帳 江戸探偵怪異譚』
岡本綺堂昨/宮部みゆき責任編集の新潮文庫です。『半七捕
物帳』は講談社のものや全6巻の光文社文庫本などを過去に
読んでいますが、宮部みゆきがどのような掌編を選ぶのかと
いう興味もあって購入した本です。8編が納められています
がいずれも特徴があって良い選択だと思います。底本が光文
社文庫なので、お勧めは全6巻の光文社文庫本です。
中野信子「あなたの脳のしつけ方」は2015年11月に出
版された同書単行本の文庫化です。2019年9月に出た新
刊です。頭脳明晰な人の啓発本はどうしてもエリート臭が抜
け切れない所がありますが、この本ものっけから著者の自慢
話で始まります。そこを気にせずに素直に読めば我々凡人に
も少しは役立ちそうな心構えや取り組んだ方が良い習慣など
が得られます。当然、著者の専門分野である脳のクセを踏ま
えた上での提言なので説得力があります。章立ては集中力の
付け方、記憶力の向上、判断力、もて力、アイデアの鍛え方、
努力する方法、強運の付け方、愛情力に分けて易しく解説し
ています。他の啓発本にあるような努力すれば誰にでも出来
るといったうさんくさい話は無く、生まれつきの能力や努力
を継続できるのも個性、個人差があるということを前提に提
言しておりこれまでこのような啓発本に失望していた人には
一読の価値があるかと思います。
小学館ライブラリー「西鶴諸国ばなし」を読み終えました。
300年以上前の作品ですが現代語訳なので読みやすいです。
挿絵も西鶴筆です。35編から成っています。奇談、怪談、
諸国四方山話、民間伝承などを各種古典故事を踏まえて縦横
無尽に編纂、創作したものといった所です。故事や当時の風
物などに疎い我々には注釈が強力にカバーしてくれています。
それらが完全には理解できなくても話の筋は判りやすいので
困ることはありません。同じ奇妙な作品といっても下記で取
り上げた「里山奇談」とは趣も重厚さも格段に違います。
COCO/日高トモキチ/玉川数著「里山奇談」は角川文庫
230ページ程の小冊子です。掌編41編から成る不思議な
伝承や怪異を淡々とした筆致で描いています。山野を渉猟し
て昆虫や動植物を探索する「虫屋」「生き物屋」達が語る物
語は読み手を引き込む吸引力があります。「アイとハシとサ
カ」は結界にまつわる話ですが、昔親から畳の縁を踏んでは
いけないと聞かされた人もいるかと思いますが、縁(ヘリ)
も境なのでそのような由来が腑に落ちる話として特筆されま
す。続編も予定されていそうな後書きなので期待したい所で
す。今年のベスト15には入れたい一冊です。
三島由紀夫「戦後日記」読了しました。著者の23歳頃から
死の3年前頃までに日記形式で発表されたエッセイを年代順
に収録した中公文庫の1冊です。当時を代表するスタア作家
の華麗なる日常と、小説から映画・演劇まで同時代芸術への
鋭い批評が盛り込まれています。新婚旅行中の動向まで克明
に書いているのは露悪趣味なのか過剰演出なのか、そのよう
な事も含めて話題性のある作家の日常の判る貴重な一冊です。
この本のあとがきでも渇望されていた三島由紀夫の自決9ヶ
月前にインタビュー収録された音源から起こした未公開イン
タビュー全文は2019年11月に「告白」というタイトル
で講談社文庫から初公開されました。こちらも併せて読みた
いものです。
2019年11月刊行の中野信子「悪の脳科学」は何と集英
社新書1000冊目となる記念の一冊の様です。因みに先日
読んだナイツ塙の「言い訳 関東芸人はなぜM−1で勝てな
いのか」が987冊目だったようです。
「悪の脳科学」は藤子不二雄Aの漫画『笑ウせぇるすまん』
を今の言葉でいえばリスペクトして出来上がった一冊とも言
えそうです。「尊敬する」意味合いよりも「影響を受けた」
という意味合いが濃いかも知れません。主人公の喪黒福造の
人を破滅に導く誘惑、だましの手口は、脳科学者である著者
の視点から見ても理に適ったテクニックであると言います。
漫画とコラボしたコンパクトな新書は実に読みやすい一冊で
す。心の正体や、騙されやすいメカニズムなどが解明されて
いきます。
今、読んでいる「僕たちは、宇宙のことぜんぜんわからない」
は平易な語り口と面白いイラスト、詰め込んでいない紙面な
どどれをとっても簡単に読み進めそうな本なのに、なかなか
読み進めていません。中身は超難解で重力とは何か、空間の
ゆがみとは何か、宇宙は何で出来ているのかなどが書かれて
います。興味のある内容なので頑張って最後まで読みたいと
思います。今年は100冊読めるか微妙になって来ました。
文春文庫「昭和史の10大事件」は宮部みゆきと半藤一利の
対談集です。意外な組み合わせに感じましたが、歴史認識や
立ち位置が似ているような気がします。よく考えたら宮部み
ゆきについてはその作品でしか人となりを知りませんでした
が、この本では宮部みゆきの歴史認識が素直な言葉になって
いるのでよく判ります。私にとっては残念な事に宮部みゆき
も相当な自虐史観の持ち主のように感じられました。半藤氏
はそもそもの目線が日本人目線とは思われず理解ができませ
んが、宮部みゆきは半藤氏によく同調出来ています。読んで
みれば判ると思いますが日中戦争を侵略戦争と決めつけ所謂
戦犯についても見方が一方的です。人道に対する罪という話
を延々としていても米国の原爆に対する意見は一言もありま
せん。半藤氏が生涯を語る際の日本の歴史の話には我が国の
人が我が国の過去を思量し反省している風は微塵もみえず、
「彼の国」の話をしているようにしか感じられませんが宮部
氏のコメントも言葉の端々のニュアンスは上から目線で我々
祖先全員を悪者扱いしているのではないかと感じられてしま
うのは私だけの偏見でしょうか。今、口直しといっては何で
すが三島由紀夫の「戦後日記」を読み始めています。日本人
としての立ち位置の違いは歴然です。
「はんぶんのユウジと」は壇蜜さんの初めての小説です。本
書は独特な感性を持った著者ならではの緩やかな毒とユーモ
アが混じる5編の掌編からなります。ユウジ、イオリ、ユウ
リ、タクミ、リカ、コウキ、イチカ、トウコ、店長、ミキ、
などの主役、脇役が連作短編のように視点を変えて登場しま
す。ほんわりとした口当たりでは無いですが文中の時間の流
れが壇蜜さんの雰囲気とマッチしています。著者の更なる進
化を期待したいところです。
「フレディ・マーキュリーの恋 性と心のパラドックス」は
竹内久美子の久々の新刊です。最近、性的マイノリティの中
でも特にLGBTへの理解や権利擁護などの話題が多く報道
されるようになって来ましたが、この本で主に取り上げてい
る同性愛者の数は実は少数者と言えないほどかなりの比率で
いるようです。冷静に考えれば同性愛者同士では子孫が繁栄
しないのでいずれ淘汰されてしまってもおかしくないという
のが遺伝子的にみた正論のはずですがいつの時代にも一定の
比率の同性愛者がいるという現実をみると、そこにはなにか
遺伝的に見て優位な状況があるはずです。この本ではそのよ
うな疑問の解明に動物行動学者が真摯に取り組んでいます。
浅川純の「カイシャを辞めて就く仕事」読了しました。著者
は元日立製作所勤務という経歴をベースに企業小説を書いて
いますが、この著書はあえてカイシャイン小説と銘打ってい
ます。サラリーマンという言葉が既に時代遅れとなった感が
あるからだそうです。とは言ってもこの本自体が平成7年の
初版という時代の産物ですので平成31年も過ぎ令和の時代
となった今からみると「カイシャイン」という語感も古びて
感じられます。本著のスタイルは典型的な企業小説だと思い
ますが、出向先からの復帰のめどが無くなった会社員が調査
を頼んでいた探偵の仕事の片棒を担ぐ羽目になるというあら
ぬ方向へと話が展開していきます。最後の最後にあざやかな
謎解きが待っています。
「カフーを待ちわびて」は原田マハの鮮烈なデビュー作です。
絵馬に書いた言葉がきっかけで平凡な生活を送っていた主人
公に人生の転機ともなるような状況が訪れます。恋愛物語に
絡み合うように島の生活基盤が根底から覆るような騒動も勃
発し、物語は進展していきますが、最後に全てのからくりが
明らかになり主人公は新たな地で元の平凡な生活に戻るかに
思えたその時、最後のどんでん返しが待っていました。第1
回日本ラブストーリー大賞を受賞した作品だけあって読後感
は爽やかです。因みにカフーとは沖縄の方言で「幸せ」とい
う意味だそうです。
ナイツの塙宣之が書いた「言い訳 関東芸人はなぜM−1で
勝てないのか」は集英社新書からの近刊です。題名通りの内
容ですが、お笑いとは何か、漫才とは何か、色々と考察がな
されています。笑いの変遷や最近のお笑い芸人の状況などが
よく判る一冊です。
「くらべてわかる甲虫1062種」は山と渓谷社から出され
ているいわゆる図鑑です。しかしただの図鑑ではありません。
昔の図鑑は手書きから始まって写真に変わってもまだ現物と
の乖離が大きく平べったい印象しかありませんでしたが最近
はデジタル撮影技術が進歩したお陰でたとえ2〜3mmとい
う極小の昆虫でも5cmを超えるような大型の甲虫でも一点
のピンボケも無い立体的で自然色で生きているのと寸分も違
わぬ写真が楽しめます。これによって種間の細かな違いも明
確に判るため似たような種の識別には強力な力を発揮します。
この図鑑には甲虫のサイズ、生息地域、季節、採集可能場所
などに加えて種間の違いも明記されているため確実に識別が
可能となります。この本には日本で見られる甲虫類の主な種
が載せられていますが、驚くべき事はその多彩さにあります。
色彩、形、サイズなど細かく眺めていて飽きるということが
ありません。もしも神様がこれらの生物を作ったとしたら何
と優れた異彩の芸術家だったのだろうと思わずにいられませ
ん。現在、人類は1種しかいませんがこの本では1062種
もの生物たちが生彩を放っています。
「若人よ蘇れ・黒蜥蜴」には三島由紀夫の3つの戯曲が納め
られています。他の一篇は「喜びの琴」です。三島由紀夫は
いつまで経っても新刊が出続ける特異な作家です。これらの
戯曲は全集には入っていますが岩波文庫から出るのは初めて
です。初版が2018年11月です。題名を見ても判るよう
に「黒蜥蜴」は江戸川乱歩の同名小説の翻案で一番楽しめる
のではないかと思います。他の2編は時代背景の関係もあり
今ではなかなか上演されることも無いかと思いますが三島文
学では戯曲が高く評価されているようなので興味のある方は
ご一読下さい。
泡坂妻夫「毒薬の輪舞」読了しました。約30年前に書かれ
た推理小説です。精神病院で続発する毒物混入事件を型破り
の刑事が潜入捜査して事件を追います。実は最後の最後まで
事件と呼べるのか判らないような怪しい出来事しか発生しま
せん。しかしその中に作者が緻密に盛り込んだ大きな謎が潜
んでいます。キーワードは佯狂(ようきょう)です。実はこ
の本の体裁自体にも仕掛けがあったのですがうかつにも購入
して読み終わって解説を読むまで気がつきませんでした。
ホンマでっか!?TVで有名な脳科学者・医学博士中野信子
の「メタル脳」読了です。この人も色々な顔を持っていそう
な人です。元MENSA会員、サイコパスという著書を読む
とご本人ももしかしたら本物かもという疑いも抱かせ、経歴
をみれば大学院の学位を音楽研究で取得し、フランス国立研
究所では高磁場MRI研究センターに勤務していたなど異色
の経歴も目につきます。そんな著者の近著ですが、本物のメ
タルを熱く語っています。メタルにも色々な所謂、流派とで
もいうようなものがあることを初めて知りましたがそんな我
々のような素人にもよくわかるように書かれています。少し
でもメタルに興味がある方は読んでみて損は無いと思います。
「新聞記者・桐生悠々 忖度ニッポンを「嗤う」」は私にと
っては残念な一冊です。桐生悠々の関東防空大演習を「嗤う」
は当然、大昔から知っていますが、買う前の予想通りにこの
本は桐生悠々とはかけ離れた思想の持ち主が書いた偽物だと
私には思えてなりません。Jアラートが鳴って国民保護に関
する情報が発令されて頑丈な建物や地下への避難が出来ない
場合に、頭を保護して身をかがめる事の無意味さは国民全体
が瞬時に悟ったと思いますが、それを桐生悠々と結びつけて
鬼の首でも取ったかの如く、いきなり戦争反対原発反対、沖
縄の基地問題などに結びつけるようなアジテーションは一部
の報道によくある手法です。反戦を唱えるのであればその前
に隣国が近年どれだけ近隣諸国に脅威を与えているか、我が
国の防衛を云々する前に声を大にして言うべきことが記者に
はあることを自覚すべきです。桐生悠々は国際感覚に敏感で
したが、この記者には国際感覚のかけらも感じられません。
この本(初版)では117ページに『悠々の死後、日本は太
平洋戦争に突入』とありますが勿論、昔から桐生悠々を知っ
ているような人ならここで『嗤う』ところです。
谷沢永一の本を読むのも久しぶりです。「私の「そう・うつ
60年」撃退法」は「人間「うつ」でも生きられる」を改題
したものだそうです。人間、鬱になってしまったら本を読む
気力も無くなるそうなので、危ない自覚のある人は元気な内
に読むことをお勧めします。人によって症状や撃退法は違う
ようなので自分に合った対策を早めに見つける子とが大切で
すがこの本はその一助にはなるかも知れません。
阿刀田高他の書いた「密室殺人事件」はまだこんな密室トリ
ックがあったのかと思える様なバラエティに富んだ密室アン
ソロジーです。短編8篇が収められています。
「ひみつのしつもん」は岸本佐知子の新刊ですが本の帯にも
あるように奇想天外、抱腹絶倒の岸本ワールドは未見の方に
は先ずは本屋での立ち読みがお薦めです。変な本だと思えた
ら買って損はありません。ひょっとしたらこの本一冊で人生
の見方が変わるかも知れません。
櫻井よしこの近刊である「愛国者たちへ」を読み終えました。
このような憂国の書に真摯に耳を傾ける風潮が沸き起こらな
いのが現状日本の最大の問題です。十年一日の如く野党は国
を滅ぼそうとしているかの如きどうでも良い瑣末な問題ばか
りをわざと問題化してばかりで国会は空転しっぱなしです。
与党も一部の反発を恐れて言うべき事もいわずに近年は表面
上の平和を保っているかの幻想を国民に与え続けています。
中国の脅威、韓国の脅威、北朝鮮の脅威、米国の脅威、など
世界は日本に脅威を与え続けています。何も言わない日本が
あたかもいじめに遭っている被害者の様な立ち位置にずっと
留まっていて良いのか国民も良く考えなおすべき時期です。
そんな危機感を改めて惹起してくれるのがこの本です。
宮部みゆき「あやかし草紙三島屋変調百物語伍之続」読了し
ました。久々の宮部みゆきです。主人公が依頼人を介して百
物語を聞くという趣向の続きものです。1話ずつ完結する物
語なのでこの本で27話まで続いた事になりますが主人公に
大きな転機が訪れる最後の話で「了」となっているので百話
いかずにこれでシリーズ完結かも知れません。好きなシリー
ズだったのでこれで完結となると少し残念です。
谷沢永一「こんな人生を送ってみたい」を読み終えました。
かつて我が国に重要な歴史的業績を残した文壇人、業界人、
その他各界含め著者がお薦めの15人を取り上げ解説してい
ます。岩崎弥太郎、広瀬武夫、岡倉天心、原敬、渋澤栄一、
菊池寛、谷崎潤一郎、松下幸之助などの業績が良く判る一冊
です。
原田マハ「リーチ先生」読了しました。約600ページとい
う大部の文庫本です。阿刀田高の解説にあるようにこの小説
は史実と創作が融合されて本当の歴史小説のように出来てい
ます。そのような小説作法が良いかどうかは意見の分かれる
所でしょうか、やはり結果的に興味を持って読めるのであれ
ばよしとするしかないと思います。良く出来た小説です。
「国民国家のリアリズム」は国際政治学者である三浦瑠麗と
作家にして前東京都知事の猪瀬直樹との対談です。憲法改正、
自衛隊、トランプ時代の国家戦略、国家ビジョンなど幅広い
テーマで話し合いがされています。2年前の著作ですが安全
保障などに詳しい2人の対談は一読の価値がある一冊です。
櫻井よしこ「頼るな、備えよ 論戦 2017」読了しまし
た。2年前の本なので政治、国際情勢は既にとても進んでい
ますが、この本で提言された危機意識は今ではこの時点以上
に深刻化しているのではないかと危惧されます。本書の章立
ては以下の通りです。多くの人と情報共有したい一冊です。
1.膨張する「異形の大国」。2.日本よ、アジアのリーダ
ーたれ。3.パックス・アメリカーナの終焉。4.「トラン
プ化」する世界を生き抜く。5.「半島」の危機。6.騒乱
の時代へ。
ケント・ギルバート著「日本人だけが知らない本当は世界で
いちばん人気の国・日本」読了です。日本人の礼儀正しさや
勤勉さ、正直さなどを礼賛している本かと思いきや、歴史を
遡って、現代の世の中では偉人とも看做されず、名前さえも
忘れ去られているような世界に誇れる人を取り上げています。
何人かを例に挙げてみると以下の様になります。「不死身の
分隊長」と呼ばれた舩坂弘、「ミスター半導体」とも称され
る西澤潤一、飛行体「桜花」を設計した三木忠直、「ヤクル
トの父」代田稔、「フジタ・スケール」を考案した藤田哲也、
「世界一のファスナー」創業者の吉田忠雄、「宅急便」の小
倉昌男、果たしてあなたはこの中の何人を知っているでしょ
うか。更には御手洗毅、山田寅次郎、杉山龍丸、石岡瑛子、
篠田桃紅、などなど何の人なのか判らない偉人の紹介です。
上野千鶴子の大ヒット作「スカートの下の劇場」新装版読了
しました。初版からすでに30年が経過していますが著者の
提言がどのように実現したのかしなかったのか歴史的検証も
含めて楽しめる内容です。男女平等が叫ばれていた時代に男
女の見方には非対称性がある事をいち早く提言しています。
またセクシュアリティにはどんな「本質」も「自然」も無く
歴史的な変化を蒙る事を具体例とともに示しています。解説
でも述べていますがこの書は下着を通してみたセクシュアリ
ティの文明史となっています。
吉木誉絵(よしきのりえ)著「日本は本当に「和の国」か」
読了しました。デビュー作だそうです。高校をアメリカで過
ごしたという異色の経歴を持つ著者が日本の一番有名な神話
である「古事記」を丹念に読み解き、和の伝統に迫る論考は
一読に値します。惜しむらくは最終章となる第五章の最後の
20頁程です。現代における食品ロス、資源乱獲、放置林な
どについて語っている部分の素材の資料の選定や切り取り方
が酷いです。あまりにも一方的な見方の素材を集めたうえに
漁獲量予想の統計処理で伸び率だけをみて断罪するなど前章
までの丹念な論考がぶち壊しです。惜しい一冊です。
読んでみたいと思っていた「蜂の寓話」をやっと読み終えま
した。読了までに4ヶ月位掛かっています。全400頁程で
すがとにかく読みにくいです。訳者のあとがきにもあります
が、『彼の風刺的レトリックは誤解を招きやすだけでなく、
はじめ風刺の対象だと思われたものがいつのまにかぼやけ、
風刺のほこ先が微妙にはね返ってくるという特徴をもつ。』
というあいまいな書き方が読む者に大変な混乱を起こさせま
す。著者はバーナード・マンデヴィルです。サブタイトルは
「私悪すなわち公益」です。確かに個人の正邪、損得は公の
正邪、損得とは相容れない事も多いのは確かです。物事の多
面的な見方を学ぶのに有益な一書かも知れません。個人的に
はロシュフーコーなどの寓話が判り易くて好みです。
原田マハ「奇跡の人」読了しました。奇跡の人、ヘレンケラ
ーと奇跡をもたらしたサリヴァンに材を得て同じ時代の日本
の青森県を舞台にした感動の物語です。何と10万部突破と
帯にあります。主人公の名は介良れん(けられん)と去場安
(さりばあん)です。盲聾唖の少女を気品と知性と尊厳を備
えた人間に育てようと奮闘する家庭教師は伊藤博文公肝いり
の帰国子女で弱視の女性です。舞台設定が抜群です。
中野信子「キレる!」読了です。脳科学から見た対処法を指
南してくれます。メカニズムに基づいた解説には説得力があ
ります。まわりから良い人と見られている人は一読する価値
があります。
最近テレビでも宣伝している「まなの本棚」は今年7末に出
版されたばかりですが私個人としては珍しく発売後1ヶ月も
しない内に読み終えてしまいました。著者は15歳となった
女優の芦田愛菜です。年間100冊以上も読むという著者の
本との出会いや好きな本の紹介、本を題材にした対談など盛
り沢山です。芦田愛菜の本棚の一角が判る好著です。
「蜂の寓話」がいまだに読み切れません。もう何か月か経っ
ていますがまだ3/4程です。私の読解力が無いのは確かで
すが、それに輪を掛けて難しい翻訳となっているのが主な原
因です。二重否定の長文はどこまで否定しているのか理解す
るのが大変です。有名な本なので是非とも完読したいと思い
ます。
原田マハ「翔ぶ少女」は阪神淡路大地震を材に取った震災後
の復興家族の物語です。家族とはいっても身寄りを亡くした
医師とふた親を亡くした孤児3人の奇妙な構成です。医師の
名字は佐元良(さもとら)、主人公となる3兄弟の長女の名
前は丹華(にけ)です。芸術を専門とする著者ならではの愛
嬌のある命名です。実は佐元良医師には腕の良い外科医の実
子どもがいますが震災を期に絶縁しています。復興支援の慌
ただしい中、心疾患を抱える佐元良医師が倒れるという危機
に遭遇した3兄弟が取った行動とは?。感動の一冊です。
三浦瑠麗の2年前の著書「「トランプ時代」の新世界秩序」
読了です。トランプさんが大統領になってすぐに発売された
挑戦的な著作です。著者ならではの冷静な分析には傾聴する
価値があります。日本の為政者の今後の対応が一層問われる
世の中になりましたが、2年経っても政治家の動きは相変わ
らず緩慢なようにしかみえません。残念なことです。
原田マハ著「キネマの神様」「常設展示室」の2冊読了です。
前者は第8回酒飲み書店員大賞という訳の判らない賞を受賞
したと本の帯にあります。本当にキネマの神様はいるのか、
映画趣味のギャンブル好きな父親とふとした事がきっかけで
一流会社の課長職を擲って無職となった娘が、映画雑誌社を
基盤にして映画ブログを仲間と共に立ち上げます。引きこも
りの映画オタク、ブログの英訳をする親友の強力によりブロ
グのアクセス数は上昇していきますが、そんな中突然現れた
のはブログへの書き込みに挑戦的に反論する英文ローズ・バ
ッドです。映画への愛と家族愛を賛美して止まない感動の一
冊に仕上がっています。後者はまだ文庫になっていませんが
どうしても読みたくてハードカバーで買ってしまったも短編
集です。美術に関する短編はやはり良く出来ています。
岩谷テンホー著「大盛!!みこすり半劇場 くい込み」今回
もおおいに笑わせて戴きました。よくもこれだけ連載を続け
てネタが尽き無いものです。
中野信子の本を続けて読みました。「脳科学からみた「祈り」」
は潮出版社出版です。2011年初版で2018年には既に
32刷です。脳科学と祈りは相容れない様に思えますが著者
はあえてこれを科学的に結び付けて論じる試みを行っていま
す。偽薬の効果も実際にはある程度あることは実証されてい
ますので、真剣に祈る事も効果が無いとはいえません。色々
なヒントを与えてくれる本として活用できるのではないでし
ょうか。
脳科学者である中野信子の著書数種が最近、良く本屋さんで
平積みされています。「科学がつきとめた「運のいい人」」
は本屋さんに置いてなかったのでネットで購入したものです。
著者曰く、運のいい人はいい加減に生きる。運のいい人は積
極的に運のいい人とかかわる、運のいい人はライバルの成長
も祈る。などなど主張しています。著者の主張なので仕方が
ないですが、事例の取り上げ方などに恣意的な所が多過ぎる
ような気がします。たまたま成功した人を取り上げて、失敗
から成功を導いた例などはその最たるものです。おそらく確
率的には失敗した事にめげずに続けた挙句、生涯日の目を見
ずに人生を無駄にした人の方が圧倒的多数だと思います。ま
た、もっとも気になったのはチベット人民への中国弾圧に対
してダライラマ法王が中国擁護の如き言辞を発した事例を取
り上げて、中国の暴挙に何も触れずにダライラマを褒めたた
えている事です。裏返して読めばダライラマに倣って中国の
暴挙にはおとなしく従うのが良いと言っているかの如きです。
「孤独の意味も、女であることの味わいも」は国際政治学者
として政治家たちと討論する姿をよく見かけるようになった
三浦瑠麗が明かす生い立ちや生き様を綴った衝撃的な著作で
す。この時期にこの本を出す事の理由が良く判りませんが著
者が長年抱えて来た葛藤を吐露した必見の一冊です。今年の
5月15日に初版が出て6月末には既に5版です。
原田マハの著作は本当に沖縄物が多いですね。「太陽の棘」
の舞台は終戦後の沖縄です。実話を元にした物語だそうです。
沖縄の画家たちが暮らすニシムイ美術村に赴任した若き軍医
と芸術家たちとの交流の物語です。
7月21日は参議院選挙です。皆さん選挙に行きましょう。
橋本徹/三浦瑠麗の「政治を選ぶ力」はこの時期にぴったり
の本かと思いましたが、残念ながらこの時期に投票先を選ぶ
助けにはなりませんでした。せめて維新の会を後押しする位
の方向性は持っているかと思いましたが、特定の政党を推す
手助けにもなりませんでした。橋本氏は「雄叫び」でもなく
「きれいごと」でも無い「腹黒の政治」を推奨しています。
確かに今のように難しい世界情勢では、したたかなかじ取り
が政治家には大切かと思われます。政治に科学を取り入れる
ことや、国民投票の是非、消費増税、安全保障、憲法9条な
ど様々な課題に対して政治学者として、また政治家経験者と
して真剣に語り合った内容は我々が政治に向き合う際の参考
になります。
上野千鶴子は東大名誉教授として先日、東大の入学式で祝辞
が話題になりましたが、その著者による「おひとりさまの老
後」は80万部というベストセラーとなっているそうです。
共感できる部分もある一方で、やはりこれだけの考え方しか
出来ないのだなあと思わせられる部分もあって個人的評価は
まあまあといった所です。皆最後はおひとり様というのは同
感ですが、おそらく特に男性はその年代までに女性と同じ様
に同好の士といった仲間を作る事が難しい生き物です。また
最後はおひとり様とはいってもシングル礼賛といった論調に
は違和感を覚える部分が少なからずあります。
「マンハッタン物語」はその名の通りマンハッタンを舞台に
した短編集です。リンカーン・ライムシリーズで有名なジェ
フリー・ディーヴァーをはじめ著名な作家による珠玉の15
篇が収められています。個人的には最初の2篇がお薦めです。
「壇蜜ダイアリー」一気に読了です。「壇蜜日記」シリーズ
は公式には1〜4で完了の様ですが、この本が実質5冊目の
壇蜜日記です。時折見せる警句めいた言葉が壇蜜さんの持ち
味です。曰く「生きているとは、綺麗事ではない。」「どこ
でも寝てしまう、と書くと短所。どこでも寝られる、と書く
と長所。」「肝を冷やすには怪談よりも破産や不祥事につい
て考えるに限る。」味わい深い言葉が何気なく載っています。
「ゴッホの手紙」下巻も一気に読み終えました。僅か37年
で短い生涯を閉じたファン・ゴッホの最後の日に持っていた
手紙までが第652信として掲載されています。一見正常に
も思える手紙ですが、不安定な様子は手紙のはしばしから窺
い知る事ができます。もっとも死の真相については事故説な
どもあるので何とも言えません。弟のテオドルと共に自分達
の絵画の価値を高めようと最後まで奮闘した甲斐もなく結局、
生前は願いが叶う事もなく不遇の内に終わったゴッホの絵画
は今やとんでもない高値となっています。このような経緯を
みていると一体、美術品の値段とは何なのだろうと思います。
岩波文庫「ゴッホの手紙」は全3巻ですが今回は中篇に当る
弟のテオドル宛の手紙です。ゴッホとゴーガンとの仲や作品
の出来具合、ゴッホ自身の懐具合、生活の様子、印象派の将
来像、日本への憧憬など様々な点が語られており、ひまわり
を眺めているだけでは決して窺い知ることの出来ない貴重な
資料となっています。ゴッホに興味のある方には必見です。
植木理恵はあの人気テレビ番組「ホンマでっか!?TV」の
レギュラーですが本当に頭の良い人だと思います。話す内容
が理論的で説得力があります。そんな著者の「本当にわかる
心理学」を今回読み終えました。興味本意ではない心理学の
本ですが、我々素人でも興味を持って読める心理学が判る本
になっています。
小学館文庫「ロマンシエ」は原田マハの近著です。単行本の
内容に、何と本作にリンクして開催された東京ステーション
ギャラリーでの展覧会の図録に寄稿した掌編小説を加えて文
庫化したといういわく付きの代物です。そのような無謀とも
いえる壮大な仕掛けが出来るというのは何という自信家、野
心家でしょう。余程の自信が無い限りそもそもそのような構
想さえも浮かばないだろうと思います。内容は著者の得意と
している美術分野が舞台ですが、どたばた、お笑い、そして
セクシャリティを絡めた青春物ともいえるストーリーです。
行きつく先がもう一人の主役とも言うべき小説家、羽生光晴
の掌編、そして東京ステーションギャラリー館長による小説
と展覧会との連動企画実現に至る裏話があとがきに記載され
ています。
壇蜜さんがメインキャスターとなって世界各地を巡るNHK
BS特集番組3本をもとに書籍化した「死とエロスの旅」が
本書です。ネパールのカトマンズ、メキシコのマヤ、アステ
カ、タイのバンコクそれぞれの国の生と死の儀式、風習を追
いながら壇蜜さんがコメントしていく風景が浮綴られていま
す。足かけ6年という年月を掛けた旅だったそうです。生と
死が遠くなってしまって久しい日本と、未だに生と死が身近
にある近隣諸国との落差がどこから来るのかその一端が垣間
見られます。生と死やエロスに近い壇蜜さんの真摯な取り組
みがこの本のテーマを引き立てています。適役です。養老孟
司の「身体巡礼ドイツ・オーストリア、チェコ編」に通じる
様な死生観を振り返ってみる為の好著かも知れません。
「杏の気分ほろほろ」は人気俳優である杏のエッセイ集です。
朝日文庫からの出版です。この本を読むとこんなにも多くの
作品で主役級の働きをしていたんだということを改めて思い
出させられます。本人に能力があることは勿論なのでしょう
が努力が出来ることが成功のカギとなっているように思えま
す。この本を読んでも誰も杏さんにはなれませんが物事の考
え方といった点では参考になる点が多々あるように思えます。
芸人ヒロシの著作です。だいわ文庫「ヒロシの自虐的幸福論」
を読んでみました。人生ってこんなものだという事が実感出
来る一冊です。自然体で独特のユーモアを交えて書かれたそ
れぞれのエピソードはやはり自然体で読むことが出来ます。
疲れ気味の人には少し気持ちが楽になる一冊かも知れません。
先日読んだ米原万理の新刊は佐藤優編集作品でしたが、今回
その佐藤優の近刊「いま生きる「資本論」」を読んでみまし
た。新潮文庫版の300頁程の作品です。公開講座をもとに
書き下ろした「資本論」の講義です。肝要な部分に注目して
生きた資本論を提供しようとする著者の試みはある程度成功
していると思いますが、それでもやはり我々一般読者には難
しいと感じられます。
「座右の寓話」は古今東西の寓話を元に時に一部を切り取っ
たり改変したりしてより判り易く物の見方、考え方を読者に
提示し考えさせてくれる本です。本書の良い所は寓話の当初
の教訓だけでなく、別の見方も教えてくれることです。様々
な事を考える事ができて参考になります。読み易い本です。
著者は戸田智弘、出版元はディスカヴァー・トゥンティワン
という会社です。
原田マハ「夏を喪くす」は講談社文庫から2012年に出さ
れたものですが、実は2008年に同社から「ごめん」とい
うタイトルで出されたものを改題しただけのものの様です。
節操の無い改題は止して欲しいものです。この本には4篇の
中短編が収められており、その内の2編が上記タイトルです。
残りの2編は「天国の蠅」と「最後の晩餐」です。いずれの
作品も人生の経験を十分に積んだ働き盛りの女主人公の物語
です。人生の中盤で遭遇する様々な問題に対する葛藤や決意
など考えさせられる人もいるのではないでしょうか。
池田清彦「生物学ものしり帖」読了です。生物に造詣の深い
著者の渾身の一冊だと思います。少し難しい専門的な内容も
時折顔を出しますが、概ね面白く興味深い生物雑学を気軽に
与えてくれる好著です。このような生物の雑学エッセイは色
々と出回っていますが、おそらく最新の生物学の知見を多数
取り込んだ本著は一見の価値があると思われます。2019
年5月初版です。お薦めです。
養老孟司「ヒトはなぜ、ゴキブリを嫌うのか?脳化社会の生
き方」は今年の3月に扶桑社から出た新書です。タイトルを
見てすぐに購入しましたが、何とこの本は2001年に刊行
された「脳と自然と日本」をリメーク(加筆修正、改定)し
たものでした。新刊どころかかなりの旧版です。実は養老孟
司の本にはこのような改題した新刊がたくさんあって注意が
必要です。「まともバカ」という文庫がありますが、この本
は「脳と自然と日本」と「手入れ文化と日本」を編集して改
題したもので、今回の新刊は私の知る限りでは「脳と自然と
日本」の2回目のパクリです。
橋本治という作家はすごい論客だと思いますが一般人の間で
はあまり知られていないように思われます。「桃尻娘」の様
な型破りの著作だけが注目を浴びていますが今回読んだちく
ま文庫の「これで古典がよくわかる」は実に判り易く古典と
いうものを紹介してくれる啓蒙書となっています。令和にな
って万葉集が俄かに脚光を浴びていますが、およそ古典を読
むのはハードルが高いのでこの本などはよくタイトル通りの
役割を果たしていると思います。もっと読まれても良い本で
す。個人的には古典や有名な文学書に取りかかるのに最適な
のは文庫で出ている漫画だと思っています。
大町文衛「日本昆虫記」を読了しました。何と昭和34年に
初版発行、平成31年4月に改版初版発行という由緒ある古
典昆虫エッセイです。まだ昆虫たちが生活のすぐそばにあっ
た良き時代の昆虫たちの生態や人との関わりが綴られていま
す。著者の熱い思いが伝わってきます。虫の父というエッセ
イでは久々に『こはいかに』というフレーズを見て懐かしい
思いをしました。今ではほぼ100%『こはいかに』などと
いう言い回しを見掛ける事はありませんが、昔の講談などで
は劇的な場面で良く見ました。『恐い蟹』が『こはいかに』
の当て字だということに気付くのにはかなり時間が掛かりま
したが、さすがにこちらの当て字は死語となりました。
養老孟司も既に81歳、ヒット作の『唯脳論』から既に30
年も経つそうです。養老孟司の一般刊行物の大半は読んでい
ますが、そのせいか最近はどこかで聞いた様な話が多かった
ように思いますが近作『神は詳細に宿る』は一味違います。
かなり本気度を出して近年書いたものを集めた論説集です。
その分、内容が捉えにくい所がありますが一読に値する内容
です。本の帯には以下の様に記載されています。『私たちは
これからどこへ向かうのか?進化理論、科学信仰、戦争体験、
国際情勢、気候変動、市場経済……日本を代表する解剖学者
が、あらゆる現象を解剖する。『唯脳論』から30年。ニヒ
リズムに陥らないための現代社会の手引き』
原田マハを立て続けに2冊読破です。「あなたは、誰かの大
切な人」「風のマジム」はともに女性賛歌というか勇気や愛
や力を与えてくれる好読み物です。前者は短編6篇から成り
ますが、いずれもかけがえのない人との繋がりの物語です。
後者は実在の起業物語に材を得て、沖縄の新たな地場産業と
してさとうきびを原料にしたラム酒を作り上げるまでの物語
です。主人公のまじむ(真心)と沖縄の風が作るさとうきび
を掛けたタイトルも悪くありません。読者をどんどん引きつ
ける正にストーリーテラーと呼ぶに相応しい筆者の面目躍如
たる物語に仕上がっています。
米原万理「偉くない「私」が一番自由」は文春文庫の最新刊
です。『国家の罠』で作家デビューした佐藤優の編集による
米原万理らしさがギュッと詰まった傑作選です。今回初公開
という米原万理の卒業論文「詩人ネクラーソフの生涯」は必
見です。既にして作家としてのきらめきが随所に感じられる
力作です。この本一冊で色々な米原万理を垣間見る事が出来
ます。
「小暮真望版画作品集第五集 自然美への賛歌」は小暮真望
という作家の版画作品集です。シルクスクリーンの作品は実
に美しい各地の風景を切り取って独自の作品に仕上げていま
す。自然を描いた作品は作品は追番で600番以上もありま
すが私が数えた範囲では380作品程度でした。しかし初期
作品を中心に約150作品が完売しており全国に相当な支持
者がいるようです。近年の作品でも神田やぶ蕎麦にも飾られ
ているそば畑の作品などは既に完売となっています。気にい
った作品は手に入れておこうと思って私も新宿での展示即売
会で1枚、東京駅大丸での即売会で1枚、作品を購入して飾
っています。今後も目の離せない版画家です。
「織田作之助と蛍」どうみてもマニアックなタイトルですが
著者は仏文学者でファーブル昆虫館館長の奥本大三郎です。
虫に関する随筆集です。広津和郎、芥川龍之介、南方熊楠、
牧野信一、開高健、ファーブル、高橋由一、三島由紀夫、
夏目漱石、ジュール・ルナールなどなど虫と様々な著名人と
の知られざる繋がりを紹介してくれています。じっくり味わ
うのに良い本です。
和田依子著「庭で飼うはじめてのみつばち」は誰でも蜂蜜作
りが出来そうな気にさせてくれるミツバチの飛び始める春先
には興味をそそられる一冊となっています。実際に始める為
の一通りの知識を与えてくれます。用具一式の販売店、蜜を
出してくれる花々の説明、心構え、用語集、気を付けなけれ
ばいけないことなど盛り沢山ですが僅か130頁弱と言う扱
いやすい体裁です。関連本なども載っていますので本格的に
始めたい人にも親切に仕上がっています。
蒲松齢著「聊斎志異(下)」を読み終えました。解説によれ
ば「聊斎志異」は全部で491篇もあるそうなので岩波文庫
上下巻に納められた92篇はごく一部ということになります。
下巻も上巻同様に興味深い神仙奇譚が掲載されていますが、
残虐な内容を含むものも多くあり、およそ不思議な見聞や妖
怪狐狸による騙しの話の多い日本のものに比べると国柄の違
いは歴然です。その様な点も含めて味わうのも一興です。
今年も順調に本を買いまくっています。自宅の在庫は一向に
減る気配もありません。読書時間に充てる時間が十分に取れ
ないのが理由の一つですが、休みが長くても結局読めないの
できっと隠居してからも読めないのではないかと思います。
世の中には速読術などもありますが、やはり本はじっくりと
読みたいですよね。せめて高価な本はちゃんと読みたいとは
思っていますが未だに1万〜3万超の本も何冊か未読のまま
です。
中国の古典である「聊斎志異(上)」読了です。岩波文庫か
ら出ている古典の定番だけあって購入時に既に19刷です。
神仙、狐、鬼、化け物など妖怪変化や怪異譚の集大成です。
全2冊に92篇の物語が収められています。バリエーション
に富む語り口の穏やかな怪異譚は流石です。著者の蒲松齢は
中国・清初期の時代の作家だそうですがこの時代の中国文学
には啓発される点が多々があります。
「小原古邨木版画集」は345点もの作品が掲載される大判、
重厚な版画集です。6000円(税抜き)もしますが古書価
格をみると早くも1万円を越える値段がついています。これ
が版画かと思えるほどの素晴らしい作品ばかりで、ため息が
出るほどの出来栄えです。まだ新刊本として書店で購入出来
ますので興味のある方は早めに購入しておきましょう。本物
の版画を手に入れる事は出来ないので、お気に入りの作品を
版画集を元に私的に自宅で額に入れて飾っておこうと思って
います。
「ゴッホの手紙」は岩波文庫改版です。3巻から成っていま
すが今回読み終えたの上巻のベルナール宛の手紙です。狂気
のゴッホ像ばかりが喧伝されていますが、この本を読むとゴ
ッホの絵画に対する思いや思想が良く判ります。不遇のまま
亡くなった画家ですがこのような美術に対する見方がゴッホ
再評価のきっかけともなっているのではないかと思います。
久々に谷沢永一の本を読みました。「歴史通」は「正義の味
方の嘘八百」の増補改訂版です。改題されていると余程注意
していないと元の本が判らずに無駄買いすることがあります
が、「正義の味方の嘘八百」が既に入手出来なくなって久し
いので、今回は少しラッキーです。歴史の見方はさまざまで
すがこの著者も我々に色々な見方を提示してくれています。
以下にサブタイトルを幾つか掲載する事で内容を想像して戴
けたら幸いです。曰く。/日本に貴族はいなかった/調停は
源氏以来の国民思想/三百年の平安を保った人事システム/
三行半の嘘/参勤交代の経済効果/伊藤博文と渋沢永一/軍
部を支持した国民感情/東京裁判は私刑に他ならない/円卓
会議が活力を生む/。早いもので著者没後既に8年です。
岩谷テンホーの4コマ漫画最新刊です。「大盛!!みこすり
半劇場エビ反り」お薦めです。大爆笑出来るのは一部ですが
殆どが素直にあるいは地味に笑えます。1話1円以下の安い
娯楽読物です。
本のタイトルは『ん』です。サブタイトルには「日本語最後
の謎に挑む」とあります。著者の山口謠司氏には『日本語の
奇跡<アイウエオ>と<いろは>の発明』などの著書があり
文献学の泰斗のようです。古代には「ん」という文字は無か
ったことも初めて知りましたが、西洋人は「んー」が嫌いだ
という話や、「日本橋」の英語表記が「NIHOMBASHI」となっ
ていることなど判り易い例から説き起こして「ん」の発明に
至る歴史や経緯を丁寧に探っていきます。このような一般に
知られていない日本語の特質を理解しておく事は最近流行の
単なる英語教育重視の前に抑えておくべき基本の様な気がし
ます。200ページにも満たない新書ですが濃い中身の割に
読み易いのが何より良いです。
阿刀田高「老いてこそユーモア」読了です。ユーモア全般に
ついて多数の事例を上げて笑いの本質を解説した一冊です。
どこかで聞いたユーモアも多いですが、これまで聞いた覚え
のないものもあって為になりました。
「江戸へおかえりなさいませ」は江戸を愛し遊び尽くした達
人である杉浦日向子のエッセイ、漫画集です。当時の世界で
も最大規模の都市であった江戸の生活、死生観などを紐解い
て判り易く語ってくれています。
小松美羽が自身の生い立ちから画家として成長していくまで
の軌跡を辿りながら絵に対する考え方や世界の中で自身の果
たすべき役割について思いの丈を書いた本がダイヤモンド社
「世界のなかで自分の役割を見つけること」という一冊です。
小松美羽には2度会っていますが、描いた絵画に対する思い
や絵の背景などについて語らせるととてつもなく饒舌で情熱
的な人だと思われます。おまけにいかにも芸術家らしく独特
の感性を持った面白い人です。この本では熱過ぎる部分を抑
えてその情熱を真摯に判り易く伝えてくれます。私が著者の
作品である『六道輪廻』を入手してからもう4年も経ちます
が、著者も世界で成長していく中で人間的にも随分成長して
いるのかも知れません。これからも応援したいと思います。
阿刀田高の短編集「影まつり」読了です。全350頁程の本
に12の短編が入っています。奇妙な味の短編を得意にして
いる著者が円熟の芸を見せていますが、味わいは初期短編に
比べてより繊細になっています。あっと言わせるような短編
が見当たらないのが少し物足りないのは初期作品からずっと
見ている読者にとっては仕方が無いのかも知れません。
原田マハ「一分間だけ」は愛犬をめぐる主人公の人生とそれ
をとりまく恋人や出版社での仕事との関わりを優しい目線で
描いた小説です。犬好きの人には感動の一冊だと思います。
「エール! お仕事小説アンソロジー 3」は原田マハを含め
6名の著者によるお仕事応援賛歌です。勿論、エール!1、
エール!2も出版されていますが、今回読みたかったのは原
田マハなので前2作は購入していません。エール!3の6篇
はすべて読みましたが、人気作家の作品だけに」どれも感動
を与えてくれる力作ぞろいです。
ちくま文庫「老境まんが」は山田英生編集の短編集です。主
題は「老い」です。手塚治虫、水木しげる、長島慎二、白土
三平、つげ義春、高野文子などが執筆しています。いろいろ
な老いの形が描かれています。
原田マハの文庫本「でーれーガールズ」「花々」を読み終え
ました。「でーれーガールズ」は著者が小中高を過ごしたと
いう岡山を舞台にした青春小説です。でーれー(すごい)と
いう方言を連発してクラスに融け込もうとする主人公とその
著者の描く漫画に出て来る架空の彼氏を実在の人物と思って
夢中になる友人が、大人になって売れっ子漫画家として故郷
に講演に来る主人公と母校の先生になっている友人として再
会する物語です。著者の専門の美術関係の小説は勿論最良で
すが青春物も泣けます。一読お勧めです。「花々」は著者の
大ヒットとなったデビュー作「カフ―を待ちわびて」のサブ
物語ともいえる感動ストーリーです。連作短編のような構成
となった沖縄を舞台にした物語です。
「羆風」は矢口高雄の漫画です。文庫なのに何と1000頁
という大作です。大正4年12月に北海道の開拓地で実際に
起こった羆(ヒグマ)による6名もの死亡者と3名の重症者
を出した事件の顛末を報告書をベースに書き起こした渾身の
一冊です。関連本としては原作となった戸川幸夫氏の同名の
本のほかに作家吉村昭氏の「羆嵐」があります。「羆嵐」も
お薦めの一冊です。
原田マハの文庫本を集中的に読んでいます。今回は「旅屋お
かえり」です。主人公は”おかえり”こと丘えりかです。人
の代わりに旅をするという設定で人とのふれあいや旅の楽し
さを通じて感動を伝えてくれます。純粋に読んで感動できる
ストーリーとなっています。
河治和香の最新刊「がいなもん 松浦武四郎一代」を読み終
えました。変わった本です。松浦武四郎は初めて聞く名前で
すが、どうも北海道と言う名前の名付け親だそうです。一日
で60キロも速歩で歩き、蝦夷地を6回も踏破し、9800
ものアイヌの地名を記録し、吉田松陰や坂本龍馬などの志士
達とも交流があったというような奇人です。この人の行動記
を女絵師の目を通して面白おかしく描いた一冊です。
「保守の真髄」は思想家、西部邁の文字通りの遺書です。
ニュースなどで御存じの方もいると思いますが2018年1
月に入水自殺した著者の自殺ほう助の罪で友人2人が逮捕さ
れるという事件がありました。その直前までに著者が書き残
した我々へのメッセージが本書です。言葉の字義にこだわる
ことで読みにくくなってしまっていることが憾まれます。
泡坂妻夫「妖盗S79号」が河出文庫から復刊されました。
文春文庫版の初版から何と18年、待った甲斐がありました。
神出鬼没な怪盗を追う専従刑事2名が実質的な主役です。全
体で500頁を越える連作短編12話はそれぞれが独立して
いますが全体としても一連のストーリーとなっています。更
には当時のミステリー分野の状況もストーリーに色濃く反映
しているというマニアには貴重な資料ともなる一冊です。奇
想なトリックの数々も純粋に楽しめるユーモアミステリです。
奥本大三郎「本と虫は家の邪魔」読了しました。対談集です。
ビートたけし、阿川佐和子、田辺聖子、北杜夫、茂木健一郎、
養老孟司ら計12名が相手です。対談相手によって内容は異
なりますがユーモア、フランス文学、昆虫記の話などどの話
題をとっても対談相手のそれぞれの知性、個性が滲み出る読
み応えのある対談となっています。本のタイトルが如実に示
す通り、個人の趣味の延長である本と虫の標本は持ち主がい
なくなった後は邪魔にしかならないのだろうと思います。
2018年11月15日第一刷ですが誤字が多いのが気にな
ります。青土社の校正は手を抜き過ぎです。
新潮文庫「ランボー詩集」は私がまだ学生時代に必読の書と
言われて読み始めたもののさっぱり判らずそのままお蔵入り
してしまった僅か170頁程の小著です。久々に紐解いてみ
ましたがやはり判りません。それでも養老孟司だか誰かが言
っていた『ランボーはサヴァン症候群だったのではないか』
という視点で詩の一篇である『母音』をみてみると少しだけ
判ったような気になるのが不思議です。共感覚者には文字に
色が付いて見えるという観察がありますが、『母音』の先頭
の「A は黒、Eは白、I は赤、U緑、O青よ、母音らよ」
はまさしくこれなのではないかと連想されます。私が昔よく
読んだマンボウこと北杜夫の『酔いどれ船』などは正にラン
ボーの詩篇に強く影響された小説だろうと思うと感慨深いも
のがあります。それにしても完読までに長大な時間を費やし
ました。何と本の定価は180円です。
2018年に亡くなった俳優、大杉漣の著書「現場者300
の顔をもつ男」は著者の舞台、俳優生活のすべてを著者自身
の言葉で語った記録です。著者の演劇人、俳優としての熱い
思いが綴られています。著者が亡くなる前から評判の高かっ
た本書は品切れ状態が続いていましたが文庫で復活しました。
仕事に対する取り組み方の良い手本となる一冊です。
稀代の絵師にしてチェリストという異能、山口椿の「サドの
館」読了です。所謂、危な絵の類ですが実物よりも遥かにエ
ロスの溢れる他に類を見ない完成度の高さを誇る作品の数々
がこの文庫本一冊に詰まっています。挿絵の合間に込められ
た文章からは著者の美に対する見識を垣間見る事が出来ます。
既に絶版になっているようですが古書価格は200〜300
円クラスからあります。
原田マハ「フーテンのマハ」読了です。原田マハの文庫と新
書は昨年末にまとめ買いしたので当分読むのに困りません。
取材旅行に限らず、食や材を求めての自由旅が好きな著者は
周りの者から「フーテンのマハ」と呼称され、自称もしてい
るようです。自称、超晴れ女という著者の旅行に纏わるあれ
これが記された、著者のファンにとっては嬉しい一冊です。
後半には、著者のメインの仕事である美術関係の取材旅行に
ついても詳しく書かれています。
小松美羽は銅版画の時代から私の中では一押しの画家ですが
モノクロからカラ―の世界に入ってから一気にはじけている
感じです。最新の画集「小松美羽 大和力を世界へ」はそん
な小松美羽の最近の画業を余すところなく伝えています。皆
さんもぜひ実物を購入してファンになりましょう。
神奈川県茅ヶ崎市美術館で2018年9月〜11月に開催さ
れていた古邨の版画は素晴らしいの一言でした。なんとその
古邨の図版集が小田原新幹線側にある本屋さんに置いてあり
即購入してしまいました。小池満紀子著「小原古邨の小宇宙」
です。図版集で見てもとても多色刷り版画と思えない出来栄
えです。定価2160円は個人的には安いと思いますが興味
次第ですね。2019年1月に入って茅ヶ崎市美術館のホー
ムページをみたら何と『小原古邨木版画集』という本が昨年
12月15日から販売されているそうです。こちらは少し高
く6480円です。作品図版345点を掲載しているそうで
す。これもネット本屋で即注文しました。楽しみです。
杉浦日向子「花のお江戸の若旦那彩色江戸漫画」読了です。
単行本未収録カラ―漫画全八話が掲載されています。薬種商
「志摩屋」三代目の福太郎が主人公です。いかにも店を潰し
そうな三代目の飄然とした味が魅力です。
原田マハ「永久をさがしに」「ラブコメ」2冊を読了しまし
た。前者は典型的な青春物語です。有名指揮者の父と主席チ
ェリストの母を持った16歳の少女が主人公です。トワと名
付けた鳴かないカナリアと同様に突然いなくなってしまった
母、ボストンへの赴任が決まった父に替って突然母と名乗る
見知らぬおばさんの登場という急展開に最初から物語に引き
ずられていきます。友情あり涙ありの好読み物です。後者も
本の題名だけみると青春物かと思いきや、何とコメはお米で
す。更に物語ではなく著者とその仲間が自然農法の米作りに
励むエッセイです。おまけにはそれらの行程を友人の漫画家
である、みづき水脈が描いたコミックが掲載されています。
スティーブン・ジェイ・グールド最後の科学エッセイである
「ぼくは上陸している(下)」をやっと読み終えました。読
み始めてから1ヶ月くらい掛かっているような気がします。
読後の感想としては著者の多くの科学エッセイに比べて一段
と読み応えがある、悪く言えば読みづらいという気がします。
科学的・歴史的な正確さを重視した上に、文学的な巧みさな
どが加味された文体は論理重視のために気軽なエッセイとい
う一般読者にとって重要な一点については実現出来なかった
のではないかというのが実感です。本エッセイ集の眼目は本
の題名に現れています。2001年9月11日という日付は
グールドの母が他の祖父が移民としてニューヨークに上陸し
てから100年に当る日であり、それを通底和音として自分
に纏わる感心事について語るという形式になっています。
そうは言っても単なる個人史に終わる事無く、様々な観点で
科学の進歩と歴史を踏まえた好エッセイとなっています。
「儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇」はかつて良くテ
レビにも登場していた弁護士ケント・ギルバート氏の著作で
す。46万部も売れており、2017年売上No.1の新書
だそうです。中国人、韓国人の思考形態、行動様式を知る為
の良い指針となること請け合いです。同じアジアの国なので
話し合えば判るはずだと未だに純粋に信じている人は是非と
も読んだ方が良い本です。現実を見つめずに幻想にとらわれ
ている限り正しい国際交流は決して出来ない事が判ります。
昨年は溜め込んでいた本も大分読み進める事が出来ましたが、
また気になった本を沢山買ってしまって結局未読本の在庫は
減っていません。
2018年はちょうど100冊の本を読むことができました。
本年も楽しめる本や役立つ本を1冊でも多く紹介出来れば幸い
です。
気に入った本があったら読んでみて下さい。
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