「文学横浜の会」

 上村浬慧の旅行記「Bruges(ブルージュ)は中世の街」


@Time Trip したのはテロ事件の起きた日

ABrussels … 中世と現代の共存する街

BBrussels … 中世と現代の共存する街 … 芸術の丘

2002年6月16日


CBrussels … 中世と現代の共存する街 … タウンバス

 中央駅に繋がったレストランは、うなぎ床のように細長い半円のカウンターのまわりに、二人用のテーブル席が隙間なく並んでいた。ウェイターはみなお腹の突き出た年配の小父さんたち。でも動きはすこぶる敏捷で愛想もいい。大げさな身振り手振りで愛嬌をふりまく。奥の方にひとつだけ空いていた席を見つけ、スパゲッティーとベルギーワインで遅目の昼食。隣の席を横目で見たら、ビジネスマン風の男性…そのテーブルには大ジョッキのビールにクラブサンドウィッチ、その上、スパゲッティーの大盛りにたっぷりの野菜サラダ。それらをあっという間に平らげて…更になにやら注文。彼は口をもぐもぐさせたまま携帯片手にレポートをめくり、誰かと話しはじめた。携帯電話は、この国でもフルに利用されているようだ。それにしてもこの人の胃袋はいったいどうなってんだろう。わたしはこの店の普通サイズスパゲッティーでさえ持て余し気味だというのに…。

 とにかく食後のコーヒーを頂き、お腹が一杯になったところで店を出る。駅前通りを横切り、Galeries St-Hubert(…前にもちょっと触れた…ギャラリー・サンデュベール)入り口の前を通ってタウンバスのスタート地点に向かう。

 このGaleries St-Hubert(ギャラリー・サンテュベール)はアール・ヌーヴォー様式のブティック街で、ヨーロッパ最古のショッピング・アーケード。南北に150メートルにもおよび、いつもたくさんの人々で賑わっている。3つのギャラリーがあって、Galerie du Roi(王のアーケード)・Galerie de la Reine(女王のアーケード)には高級ブティック・高級カフェがあり、Galerie des Prince(王子のアーケード)はGalerie de la Reine(女王のアーケード)から西側に30メートルほど延びている。その少し先に新名所になっている例のジャンネケ・ピス(小便小僧の少女版)があるのだ。

写真 ギャラリー・サンテュベールの中央駅側入り口 72Kバイト

 タウンバスは屋根のないバスで、Grand-Place(グランプラス)・王宮・最高裁判所・Parc du Cinquantenaire(サンカントネール公園)・Parc du Laeken(ラーケン公園)などを回る。料金は乗る時に支払う。約2時間で795BF(日本円で2000円くらいかな?)。各席にはガイド用のイア・フォーンが付いている。席へ案内してくれるboyがいて、ガイドはどこの国の言葉がいいかを訊いて来る。Japanといえば選ぶchannelを教えてくれるし、鼻歌まじりでセットもしてくれる。とても親切だ。Japanese を…と頼んだら、「タノシイタビヲ…」なんて片言の日本語で言ってくれた。あとはイア・フォーンを耳に当て、ガイドされるまま首を右に振ったり左に振ったりして、シートに座ったまま市内観光をすればいい。

 このバスに乗って思ったことがある。それは、初めての街でどこを訪ねようかと迷ったら、まず市内観光のバスに乗るのがいいということ。無駄のないガイドコースの中から、ゆっくり訪ねてみたいところを選び、あとで自分のスケジュールに合わせてのんびり行ってみるといい。ツアーでなければ是非お薦めの旅行の楽しみ方だ。  

 ここからは、タウンバスの中からみたBrussels(もちろんバスに乗る前に訪ねたところはカット)。一緒にバスに乗っている気分になれるといいのだけれど…

 タウンバスは、まずGrand-Place(グランプラス)・芸術の丘周辺をさっと回り、サンカンテネール公園へ。

 サンカンテネール公園はベルギー建国50周年を記念して造られた公園で、入り口の記念門はパリの凱旋門を思わせる。それもそのはず、この門はフランス人建築家シャルル・ジローがルイ16世様式で建てたというのだから。高さ45m、横30mの巨大モニュメント。てっぺんに国旗を持って馬車の上に立つベルギー人、柱の基の部分には、ベルギーの各州を象徴する人物のブロンズ像が立っている。

写真 50周年の記念門(凱旋門) 44Kバイト

 その両側にサンカンテネール博物館、王立軍事歴史博物館、南側に王立美術史博物館などがある。王立軍事歴史博物館の前には、数基の砲台が銃口を空に向けて配置されていた。なんとも不気味な感じだ。この種の博物館としては世界屈指のものだとかで、Brussels市のアピールしたい博物館なのだろうが、テロ事件直後のせいかどうしてもカメラを向ける気にはなれなかった。

 ここでトイレタイム。砲台から目を背けて近くの古びた建物にカメラを向ける。 

写真 王立美術史博物館 52Kバイト

 ここは、ヨーロッパの古代から現代までの装飾美術、工芸美術を収蔵している。それぞれの時代のものを様式別に展示している。そのほか、イスラム芸術・東南アジア・極東アジアの美術品などもあるが、ヨーロッパのコレクションは特に素晴らしく、見応え十分とのこと。

 次に行ったのはラーケン王宮の周辺。バスは、EU15カ国を代表する実物1/25のモニュメントがあるテーマパークや、1935年、1958年の万博会場になったエキスポパークなどに沿って走る。ガイドに合わせて目を向け体を動かす。なんと忙しかったことか…!

 エキスポパークには1900年のパリ万博から移築した日本館や、レオポルド1世の命で建てられたという中国館などがある。

写真 日本館 48Kバイト

写真 中国館 60Kバイト

 それらのモニュメントのガイドに耳をすましながら進んでいくうちに、パアッと目の前が開けてきた。そこに現れたのが、今までのとは格段に違う巨大モニュメント。 

写真 アトミウム 44Kバイト

 このアトミウムは1958年の万博のために建てられた記念塔で、高さ102m、球の直径18m…ってことは…身長180cmの人を十人縦に並べたくらいなんだ…と溜め息が出た。球と球をつなぐチューブは長さ29m。鉄の分子を1690億倍にしたものなのだそうだ。とにかく大きい。

 このモニュメントの周り一帯がラーケン公園。アトミウムの超モダンな姿と広大な自然とがなんともいえない幻想的な印象を与える。

写真 ラーケン公園 52Kバイト

 よく整備された公園では、可愛らしい小鳥たちが訪れる人々を怖れることもなくのんびりと過ごしていた。

 ラーケン公園のこんもりした森の向こうに現国王のお住まいラーケン宮殿がみえる。しかし宮殿は遠くから見るだけで中を見学は出来ない。

写真 ラーケン宮殿 56Kバイト

 バスは宮殿のご門の前で折り返し、復路は、中央駅の西側にあるホテル街を進む。

 BrusselsはEU本部やNATOがあるため、ヨーロッパ各国からの関係者が頻繁に訪れる。また世界中の企業がここにオフィスを持っているせいか国際会議も数多く開かれる。ニュースなどで報じられることが多いから、みな周知の事実だろう。そのため、ホテルの数は400を超えるという。そういったホテルの外観も、中世風あり、現代風ありと様々だ。この辺りはまさに中世と現代とが共存しているホテル街なのだ。    

写真 Le Dome(ホテル ル・ドーム)外観がゴシックとアール・デコ様式 48Kバイト

写真 Crown Plaza(ホテル クラウン プラザ)内装がアールデコ調 56Kバイト

写真 Sherton(ホテル シェラトン)近代建築 64Kバイト

 Grand-Place(グランプラス)界隈や芸術の丘周辺とは対照的に、これらの建物群は、ここBrusselsが現在ヨーロッパ連合(EU)の要の都市であることを主張するかのようにそびえていた。

 中世から近代・現代をミックスしながらトラベルしたバスの市内観光は、中央駅のスタート地点に戻って終わる。

 バスを降り、ホテルで荷物を受け取って、もう一度Brusselsの街を見ながら、中央駅まで15分の道を歩くことにした。

 途中で、なんとも心和むレプリカに出会った。その意図するところは分からないが、台座から降りた彫像が台座の足元で寛ぐ人たちと並んで腰を下ろしている。アイスクリームを頬張っているご婦人たちと奇妙に溶け合っているのだ。 

写真 市街地のレプリカ  84Kバイト

 4時のシティーレイルに乗ってBrugge(ブルージュ)に向かう。

 乗った車中の、通路を挟んだ隣のボックスには老夫婦。ご主人の方は頭の禿げた細身の紳士。真ん丸なメガネを鼻先までずらして熱心になにか本を読んでいた。わたしたちのボックスに、女性ヌード写真があちこちに載っている大衆新聞が放り出されたままなのを見て、奥様の方が「どうしようもないわね」という顔で首をすくめ、笑いかけてきた。白髪の素敵なご婦人。時折その奥様と意味もなく頷き合いながらの50分。窓外の風景もさることながら、空気のように干渉し合わないお二人の様子に、彼らはどこまで行くのだろうなんて想像しているうちに、あっという間にBruggeに着いてしまったのだった。

(Lie)


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