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ビオラ製作 =ステップ・バイ・ステップ= 2ページ目
ヘンリー A .ストローベル著
(§・・・)訳文中にあるこのカッコ書きの注釈は、理解しやすい文にするために訳者が入れたもの。原文の直訳だと分かりにくい表現や修辞句、省略部分なども、
文脈や前後関係から判断して補助的に入れた注釈もある。 また、読みやすく分かりやすい日本語にするため、一語一句の正確さより正しい著者の真意を伝えることを優先し、つとめて意味が理解しやすい訳になように心掛けた。 訳者の知識範囲を超えた難解な語彙や、意味不明なラテン語などの外来語は原語を添えた。また、ほとんど日常的に日本語化している簡単な英語については、そのままカナ読みで表記した語もある。 |
P-18〜19 ビオラ製作ステップ・バイ・ステップ用実物大図面
左上 : 余分な図面が入っているから、本から完全に離して利用しなさい。
上 : 私が実際に使っている金属板の型の周囲をなぞって取ったから、型紙のコーナー部がやや鈍い感じになっている。(§スマートで、品のよい形に修整しなさい。)
この図をコピーして、線を切り抜いて利用しなさい。P-17の3つのスクロールパターンも同じ方法で取ってある。
中 : バスバーをここに描いたが、実際は当然反対の左側に位置する。
P−21 (§)は、訳者の入れた注釈 (*)は、末尾に訳者の解説および注釈をいれたもの
(写真左上) オレゴン州セイラム在住の良き友、トーマス・ラダック氏製作によるすばらしいビオラ。
(写真右上) 小型のターティス・モデル。
(写真下) オットー・エルディスによる「一部切られた」型(写真はP.23)は、エレキギターのように(§ボディの)右肩が「噛み取られて」いることにより、ハイポジションの操作性がよいことで知られている。
カルロス・フューネス製作によるビオラには、非対称の美が取り入れられている。これは1986年、オレゴン州ポートランドで開かれたアメリカ・ヴァイオリン協会会議の際、その製作者展示コーナーで、私の隣に展示されていた。
最近のものとして、ディビット・リビナス製作による写真のような、音響学的な考察と操作性とを組み合わせた、革新的な美学をもってつくられたものもある。
その特徴的なデザインで、彼は演奏技術上の妨げにならないように、内容積を(§低音の増強のために)増やしながら、かつ指板を右に寄せ、駒に対するC弦の角度を増して(§弦の駒に対する張力増→声量増)、駒と指板のかさ(§質量)を低く押さえることなどで、その目的にアプローチしている。
P−23 [幾何学的図形の構成]
上の図は、弦楽器製作者オーティス・A・トーマス氏からおくられたもので、ここには氏の許諾を得て掲載した。これは、自分自身のモデルをつくろうとする人なら、だれもが励みになり、一助になるだろう。
代表的なヴァイオリンの外観より幅広く、たっぷりしている。興味ある実例として示されたもので、まだ私は経験していないが、コンピューターを超えて簡単に学べそうだ。
これは、彼の手描きの図面をコピーで縮小したものである。昔の製作者たちが、どのようにコンパスや直線定規を使いこなし、異なった数々の『ゴールデン』モデルの変種を作り上げてきたのか、説明する一助になると私は考えている。
描かれた円、弧にそって基本的なアウトラインがその姿、形とともに設定され、コーナー細部やサウンドホールなどは芸術家たちの手によって書き込まれている。
「形は、製作時に修正する」。
(私の著作:『ヴァイオリン製作者の技芸と法則[Art&Method Vinlin Maker]』T章も参照)
彼のノートから、作図する特徴をいくつか簡単に言葉を替えて、上げてみましょう。
中央ふたつの同心円は、ボディの(§上下)両端からつながる(§左右一対の、1:2の大さな三角形の)黄金分割により割り当てられている。上部、および下部の「弧」、その原点は内円の頂点から導く。
下部の幅(§ロウアー・バウツ)は、ボディの長さの5/3(§3/5の表記ミスか?[
大きい方の6割の意か?])、上部の幅(§アッパー・バウツ)は下部の幅の4/5(§3割)の比率であり、上下にある二つずつの円の直径はボディ幅の2/3(完全な5割)である。
下部の対になった円は、下の弧・接線の垂線上に(§中心があり)、上部は大きな黄金分割三角形・斜辺の接線に置かれている。上下、ボディ幅を定めた後、その上に半円が描かれ、左側の大きな円とともに、それらの接線が中央部アウトラインの曲線となる。
不合理な(§無理数的な)黄金分割と論理的な音楽上の比とは、本質的な関連はないが、ここでは、ほぼ適合しているといえる。あえて、ここで音楽的意義に注目しなくても、一方では、哲理や建築様式の中に多くの実例が存在し、用いられてきている。
トーマス氏の著書に・・『この図案を描く手法に私が取り組むのは、音響上の理由や過去の製作者たちの[失われた秘密]を追求しようとするものではない。
フイドルの調弦をするときのように、調和のとれた比率を、[作曲]するごとく楽しんでいる。そして、中心を決めるセンスを感知しながら行うことが好きだし、やっていて幾何学はとにかく象徴的、道理、また我々を含めた調和をもたらす。』と記述されている。
[ リブ(側板) ]
・始める前に VMSS(本書の姉妹版[Violin Making Step By Step]の略、以下VMSSと略す)P.21を見よ
・リブの切り出し VMSS P.21を見よ おおむねリブの必要な長さは、「スモールビオラ寸法一覧」P.16を参照。最初、幅はおよそ42mmにします。
[私の例で、もし下部のリブ一片をとるなら、その左右を一組として必要な長さはおよそ510mm必要になる。]
・リブの厚さづくり VMSS P.21を見よ
・リブ材の選定 〃 すべて正確に、41mm幅で仕上げること。
・曲げる工程 VMSS P.21-22を見よ
・中央リブ VMSS P.23を見よ リブをあらかじめ約145mmの長さに切る。
・上部リブ 〃
もし、クランプ用の当木が必要なら、45mm厚の柔らかな木をバンドソー(帯鋸、もしくはミシンノコ)で切り抜く。 リブは、およそ200mmの長さに切る。
・下部リブ VMSS P.23を見よ
クランプ用の当木は、45mm厚の柔らかな木からバンドソーで切り抜く。
・リブのテーパーづけ (だんだん薄くする) VMSS P.23-24を見よ
41mm幅を一定に保ったまま、各ブロックのところだけは0.5mm以内で(§薄く)減らします。
・ライニングの切り出し VMSS P.24を見よ
私は、このケースにはライニングにヤナギを用いているが、(§その材質についての)問題はない。スプルースでも良い。ライニングは、最終的には7×22mmになる。多くの人たちが7mmより広く、8mmが良いともいっているが、私はリブの柔軟性が高まることを期待している。
長さは、あらかじめ55、120、そして200mmのものが、それぞれ4本ずつ必要になる。
・ライニングの取り付け VMSS P.24を見よ
私は、このブロックの各コーナー部に(§ライニングを差し込む)ほぞ穴を彫っていない。構造上、(§彫ることが)望ましいかもしれないが、どうしても必要というものではない。
・リブ外側の仕上げ VMSS P.24を見よ
[バック(裏板)]
・始める前に 『ヴァイオリン製作者の技芸と方法』P.36-42、そしてP.48-63を読んで下さい。
・裏板の木 VMSS P.25を見よ
・裏板のはぎ合せ 〃
・裏板アウトラインの線引き VMSS P.26を見よ
・裏板の切り出し VMSS P.26-27を見よ
・(§作業)台 = (§削り枠)VMSS P.27を見よ
・アーチングの荒取り VMSS P.27-28を見よ 本書P.9-10を再読。
現存する楽器からアーチング断面ガイド(§ゲージ)をつくるなら、『チェロ・メイキング・ステップ・バイ・ステップ(以下CMSSと略す)』
P.19に記載されている方法を参照しなさい。
・パーフリング VMSS P.28-29を見よ
パーフリングについての追記:つぎの写真はパーフリングの溝を彫るひとつの方法で、ドリルプレス(§=ドリルスタンド?)に1.6mmのルータービットを取り付けておこなう。
この方法は一般的に用いられ、VMSSにも写真は載せていないが記述してある。ビットを上げたり下げたりする補助として、私はバックプレート(§下に敷く板?)でガイド(§調整)している。
写真右上 : パーフリング溝の彫り込み
写真左下 : 注射器を用い、溝にニカワを流す
[パーフリングをボディを組んでからする人は、ハンド・ルーター(§小型の手持ち式)やフレキシブル・シャフト・ツール(§回転部のモーターと、ビットを装着する作業グリップ部がセパレートになっていて、フレキシブル・シャフトで繋がっているもの)を使う。その場合は、案内装置(§ガイド・アタッチメント)を装着する。]
[「獣の皮でつくられたニカワの、熱く溶かしたものだけ」の方法として、パーフリングの場合には、この写真が示すように例外的な方法として使える。私は、いまだに溶けたニカワを小さな筆にひたして使っているが、手早く作業するのに便利だし、こぎれいに仕上がりる。] →P.27
・アーチングの仕上げ VMSS P.31-33
私は、このビオラについてはスタイルとエッジ周辺の柔軟性をもたせるため、ヴァイオリンよりやや幅広目に深い溝(§channel=パーフリングのところの溝?左図はヴァイオリンの参考図)をとっています。
読者が(§本器の)アーチング・ガイドを見ればお分かりとおり、エッジからの最大深さが、上下リブ部にそっては12mm、中央リブ部でおよそ8mmになっている。
[丸ノミで削るための深さの目安として、板の厚さをおよそ3mm(中央リブ部にそっては3.5mm)になるようドリル(§スタンド)をセットし、そのラインに沿ってガイド・ホール(§目安穴)をあける。
別の方法としては、ピン・ルーターのようなドリル・プレスに、丸い(中子取り用)ビットをつけても使える。
写真を見て分かるように、これでどのような板の動きも、溝の探さも自在にセットできる。実際の溝彫りには丸ノミを使う。機械的な仕上げにはご用心を! 丸ノミやカンナ掛けの後は、すべてスクレーパーで整えなければならない。]
写真 : 裏板の内側をくり抜く前に、アーチングの左右対称をチェックするため、キャリパーを用いて測定。
・裏板の中彫り VMSS P.33-34を見よ
・裏板の板厚 VMSS P.34・36を見よ
これはヴァイオリンのときと同様、実際は皆さんの使う木にもよりますが、若干、厚目にします。エッジもスタイルにもよりますが、ヴァイオリンより0.5mmほど厚目にする。VMSS
P.34厚み等高線図を参照。
・タップトーン (たたいた音) VMSS P.36
差異: タップトーンは当然ヴァイオリンと異なり、低くなる。私の板の削り具合は、単純に五感(六感かも知れない)にたより、クラドニー(Chladni?)パターンは参考にしていない。目下、私の裏板はC♯(ピアノ中央ドの右上の黒鍵)にしている。
注意: ここで私が言及したタップトーンは、(§ヴァイオリンより)音階で5度の差、私の使った木(§の質)、私のモデル(型)、そして私の解釈の結果である。
皆さん白身の、独自のビオラを目的に推薦するものではない。しかし、製作者それぞれが将来の参考にしたり、比較するためのデータとして、少なくとも書き留めておくべきものである。
・組立順の選択
バック板厚が決まったところで、ひとつの選択がある。
私たちは、まず表板をつくるつぎの章に進むことができるが、(§その前に)表板にアウトラインをトレース(§線描き)し、完全なものにしてアウトラインを整えから、内側の型を取り外す。
そうすると、ブロックやライニングの形を整えたり、板の削り具合の範囲のように、(§その整えた形を)表板の内側にトレースすることもできる。別々の裏板と表板、それを同時に作業することもできるし、(§二枚の)関係を合わせて調子をみることもできる。
これは、VMSSの類似性と同様の目的で、続けて記述した。
[またはこの時点で型を抜き、表板の線描きやカービングをする前に、ブロックやライニングをトリミングして、裏板をリブ(アッセンブリー)にニカワ付けすることもできる。(実際、私はこのビオラはそうした。)
これは、少なくとも作業の進行がつかめし、もし私がしたようなオプションとして、皆さんが心合わせのピンを打つ(§黒檀のクギ)穴を空けるなら、この時点が具合がいいと分かるでしよう。]
→P.28 [フロント(表板)] まず、VMSS
P.37を見よ
・裏板の木 VMSS P.37を見よ
私は、エンゲルマントウヒ(*1)とアラスカトウヒ(*2)両方の表板用良材の手持ちがあったので、ここではエンゲルマントウヒを用いた。
それは白くて明るく、私が堅くて密だと感じているアラスカ・トウヒより、およそ10%ほど板厚を厚くした。私は、この地方オレゴンの木を用いてよい結果を得てきた。とくに、この表板の成長割合は、中心線で1年1mmから、エッジ部分で1年2mmと変化しているものである。
私の使うこの木片は、もともと2ピースのチェロ用裏板として、セットで切り出したもの。それで、私は「一枚板(One piece
front)、またはイギリス人のいう{完全な胴(whole
belly)}」の表板にした。
(§どうしても一枚板でなくてはならない、という)強引な理由ではないし、一枚の裏板より多く使われていることはないが、読者は、多分2ピースの表板を使うだろう。
普通、使われる2ピースの表板では、年輪の目のつんだ方を、中央のはぎ合せにする。(それは、通常、木はどのような生育をするのか、ということから。)
一枚板の場合、どのように置くべきか。目のつんだ年輪だから、必ずしも堅くて密度が高いということではないように、明確な答えはない。私は、年輪の目が粗い方をバス(§低音)側に置いてきたが、実際、このすばらしいスプルース材では(§左右の)差がほとんどなかった。
・表板のはぎ合せ ・アウトラインのトレース ・表板の切り出し (裏板の項を見よ)
写真:表板の内側は、リブ(§アッセンブリー)を乗せてアウトラインをトレースする準備として、カンナ掛けをしておく。 P.28 右段
・アーチングの荒取り(裏板の項を見よ)また、VMSS P.37も参照。
「胴(§表板を削ること)は、ごく簡単だろうが、実は、そのやさしさの中に難事が待ち構えている。あたかも、すぱっとリンゴを切るように、研ぎすましたノミが、ほんのわずかすべっただけで、回復不能なダメージになりかねない。」 ヘロン・アレン著『ヴァイオリン製作:今と昔』1885年より
・パーフリング ・アーチングの仕上げ ・表板の中彫り など(裏板の項)VMSS参照。
・サウンドホールをマークする VMSS P.38,43-44を見よ
表板、上のエッジから212mmに、鉛筆で薄くストップライン(§?字・内側の横線=ブリッジ中心の位置)の横線をマークする。中型サイズのビオラでは、およそ220mmになる。
ヴァイオリン図面上ではサウンドホール・パターンが平面で表されているため、下の丸部分がアーチングのために、実際よりエッジ近くに見えてしまう。
サウンドホールの完全サイズのコピーをとり、アーチのついた表板上に置き、中心線とストップを合わせる。その結果、この特徴的なモデルでは、下の丸が縁からおよそ16.5mmになるはずだ。
・サウンドホールの切り抜き VMSS P.44を見よ
・表板の板厚 (裏板の項も参照) VMSS P.45を見よ
溝(§エッジ・反り返り部分の溝)のもっとも深いところは、板厚のもっとも薄いところに近く、この場合で2.5mm。
(これがサッコニー(Sacconi:イタリア系の製作者か?)では異なり、彼は溝で3mm、表板、その他のところでおよそ2.5mmである。)
私が使う軽いエンゲルマン・スプルースでは、サウンドホール周辺の溝で3.3mm残し、アッパー、ロウアで、およそ2.8mm、溝の内側はちょうど2.5mmにしている。
[ ボディ(本体) ]
・型抜き VMSS P.48を見よ
・内側の仕上げ VMSS P.49を見よ
このビオラの上下ブロックの整形は、長円より四角張った切り方がよく、注意して下さい。私は、ブロックが小さくても弦を張って十分に耐えられる(§構造上の)考えから、そのようにした。
皆さん白身の独自のものをつくるときには、もっと月並みな形や、自由にやりなさい。
ブロック、それに表板、裏板の両方が仕上がったら、裏板をリブに仮止めしてみる。(心合わせの目釘を使う) そして、上に乗せたブロックやライニングの内側周囲をトレース(線描き)する。
そこで裏板を外し、そのラインに沿って板厚を適切に仕上げる。こうした細部は、名工たちの楽器が際立っている。
表板もこれを繰り返す。
そこで、ナイフを使ってライニングの断面を三角に仕上げる。ライニングの木目が逃げ(§余分に割ってしまうようなこと)はないだろうが、必要なら、切る方向を反対にすれば問題はない。
私は、このライニングにはたまたま柳材を用いた。これを切るには強くて堅いが、削っていて逃げることはない。ブロックやライニング用として選ばれた木は、まずそうした危険はもない。
[表板用ライニングのトリミングは、リブに裏板をニカワ付けする後まで待ってもよい。]
・裏板のニカワ付け ・ラベル ・表板のニカワ付け など VMSS P.49−50を見よ
・サドル VMSS P.50を見よ 違い:サドル寸法の違いに注意。 一覧表を参照
・エッジ(縁) VMSS P.51を見よ
写真:表板をニカワ付けする準備が整う。
[ ネックとスクロール ]
ネック寸法は重要なため、16ページ寸法一覧を熟知するようにしなさい。背景として、『ヴァイオリン製作者の技芸と方法』(*3)も読みなさい。
・切り出し VMSS P.53−54を見よ
弦とペグ1から4は、ここでは当然EADGではなADGCと呼ぶ。
ビオラにはよくあることだが、そのスクロールにはいろいろ異なるデザインの変化が見られる。ヴァイオリンやチェロに比べ、コントラバスには独特のスクロールがあるが、ビオラにはお勧めできない。
「大きめのヴァイオリン型スクロール」か「小さいチェロ型スクロール」のどちらか一方をお勧めしたい。
チェロ型ビオラ・スクロールの大きな特徴は、ペグボックスの脇がネックより外側に、「片持ち梁(§〈建築〉壁側の支えだけで、大きく出っ張った梁)」のように出ている。
当然、このペグボックスとスクロールの後ろ側も広くする。その関係を詳しく説明すると、両側の根元の角度を、ネックの面と一致させる角度にとる。
(§綴じ込みの)実物大図面のように、これは往々にして、ネック(§の根元=ほぞ穴への差し込み部)とほぼ平行にしてきた。
これは、差し込みの問題解決となり、かっては、より高くこの勾配をつけたが、そうするとペグボックスの下部が弱くなる。スロープを低くとると、ビオリストたちに受ける、より有望な方法になるだろう。ストラディバリのビオラやチェロスクロールは、たいていがネック面と合う正しい角度になっている。
次の写真にある1672年のビオラスクロールは、実際、後ろに向かってほんのわずか低く傾けてある。同じページの、私の初期のビオラでは尋常ではなく大きな勾配をつけてある。
現行の実例ビオラでは、私はヴァイオリンスタイルのビオラスクロールを刻むように選択した。もちろんペグボックスは狭く、渦巻きも細くつくった。
実物大のスクロール側面パターンは、もうひとつのタイプと同じ型紙である。私は、実物大図面中にふたつの異なったパターンをひとつにして示したが、一方がチェロスタイルで、もうひとつがヴァイオリンスタイルになっている。
どの図面も、すばらしく精密に描かれているとはいえないが、しかし、大半が私のデータのようなものだから、皆さんが望むほどの彫刻には『必要十分』でしょうか。また、私の図面より、皆さんの目をより以上たよりにしています。
もし、皆さんがチェロスタイルのスクロールにするときは、VMSS中の「彫刻するための教訓」にしたがって行すすめて下さい。
・ペグボックスの中掘り VMSS P.54を見よ
・渦巻き彫刻 VMSS P.54-57を見よ P.20実物大図面も参照
・指板 VMSS P.57-58を見よ
ネックと指板の寸法 : これらすべてビオラに関しては異なる。寸法一覧を参照。
Cストリングの下を、(§指板の表面を少し)平面にするチェロスタイルは、当節、一般的ではなくなっている。でも、この小型ビオラでは、そんなことは関係ない。
(事実、私がこのビオラで使った唯一の理由は、たまたま、このスタイルの古い、すばらしいものをストックしていたからだ。しかも、その弾きごこちは非常に満足できるものだった。)
A線(高音)側の方向へ指板を少し傾けることは、このビオラでは必要ないし、(幅のある)ビオラでは、弓の余裕をなくす原因ともなる。
・ナット VMSS P.59を見よ
ナットの、弦間隔は『ヴァイオリン製作者のための用いられる寸法測定』P.12「指板型取り」の項を参照。
・ネックの取り付け VMSS P.59−60を見よ 寸法一覧も参照
・ネックの仕上げ VMSS P.60−61を見よ
[ 準備すること ] VMSS P.62を見よ
・ペグ(糸巻き) VMSS P.62−64を見よ
ペグと、ペグボックスの底との間には少なくとも2.5mmほどの余裕をもたせる。もしD線がこすれるぐらい余裕が少ないと、Gペグでは使えないことになる。
・エンドボトム(エンドピン)VMSS P.64を見よ
・ポスト(サウンドポスト) VmSS P.64−65を見よ
ビオラのポストの直径は6〜7mm。ビオラでは、初期の(§シーズニングのような?)「安定期」の後、やや長めのポストが必要になる。季節的な湿度の変化がポストの長さに影響するので、再調整の必要がでてくるからである。
・弦 VMSS P.65を見よ
弦の選択には、膨大な範囲の可能性と、主観的な要素とがある。皆さんは、演奏者としてそうした範囲の中から選ぶことで、(§経験則を)育てる一助となるでしょう。
大半のものがガットやパーロン(perlon*4)を好むが、現在のメタル(*5§金属製)弦の中には音色、安定性、そして耐久性のよい、非常にすぐれた可能性をもったものもある。
すぐれたファイン・チューナー(§アジャスターの商品名か?)は非常に便利だし、そして控えめな黒のつや消しで、軽くて完全な金属製だし、グラスファイバー製のテールピースも金属弦とともにたいへんよく機能する。
ファイン・チューナーは、普通のスチール弦に対しても必需品となる。それらはペグにも合っていて、また細目のペグだったら、メタル弦の新しいよいものにも使うことができる。
・テールピース VMSS P.65および、上の弦の項を見よ
・ブリッジ(駒) VMSS P.66−70を見よ 『ヴァイオリン製作者のための用いられる寸法測定』P.12「ブリッジ先端の形」も参照。
寸法一覧のビオラブリッジ、弦間隔とゆとりのデータを見れば分かる通り、これらは当然、ヴァイオリンとは異なる。
別の楽器でも、ブリッジの脚の幅は、通常サウンドホールの上の、ふたつの丸のあいだの空間にほぼ等しく、正しい位置におかれたバスバーに対しても(§ブリッジ左脚が)マッチしているはずである。
イラスト 実例ビオラブリッジ
[ ニス仕上げ、その他 ] VMSS P.77-78を見よ
木の表面をなめらかに−− VMSS「模範的なニス仕上げ工程」の中で、ニスを塗る前にペーパーを掛けることや、あるいはペーパーやスクレーパー掛け以前に、濡らして乾かし、キメを立たせることなどを提唱してはいけない。
これは、より「手彫り」らしい外観にするつもりだったと説明できるが、しかし、それでは万人に受け入れられるとは限らない。
それも、木の手触り次第だし、製作者白身のスクレーパーにたいする熟練度合いもあり、そのために、はなはだしく粗かったり表面が波打ったりする結果になることもある。
皆さんは、ペーパー掛けするか、スクレーパー掛けにしてなめらかにするか。いずれにしても、濡らしたり乾かしたりして、つぎの作業に入る前に、繰り返してペーパー掛けするかスクレーパー掛けをしっかりやる。
とりわけカエデにおいては、よりなめらかな表面にすることは当たり前のことだ。
ニスに関するその他の注意
私が記述したVMSSやCMSSをはじめとして、このビオラでも、同じ素材や同じニス塗り工程で行っている。
これは、私にとっては非常に満足しているが、いままで指摘してきたように、オイルニスの色出しはやや不確かであることや、気難しい材料次第で、ときおり早く色あせするようなことも起こる。
VMSSの「ワニスの章」を注意深く読むこと。
もし、そうしたことが問題になりそうなら、原液着色の艶だし(透明度はやや低い)か「耐光性」のアニリン染料で色づけされている、良質のアルコールニスを使うことを考えなさい。使うのに多少不便なところもあるが、これはよい色にする確かな手段になるはずである。
すごく耐久性があり、透明な販売目的のアルコールニスとして、アメリカではベレンス・ヴァイオリン・ニス(Behlen's Violln
Varnish)があるが、これは、アルコールに精製したシュラック(*6 shellac)、マスティック(*7 mastlc)、サンダラック(*8
sandarac)などの樹脂からできている。
あとがき
この小冊子の完成に際し、個人的な覚書のようになってしまったこと、また、このヴァイオリン製作者のためのシリーズも終わろうとしていることなど、皆さんからはお許しいただけることと信じています。
私は、今、60歳になりますが、神の恩寵によりいたって健康なため、成すべきことの多くを残すことができました。
ここ十年間、私は、多くのしかるべき学生たちに、ここオレゴンにある私のヴァイオリンショップを通して余分な楽器を分け与えたり、ヴァイオリン製作者のための有益な本を書くことに大半を費やしてきました。
そのため、幸いにして世界に広く、たくさんの製作する友を数えるようになりました。
この本も、当然、印刷されるし、私も校正したり適当な内容のものを付け加えることもしなければなりません。加えて、哲学的人間学や自伝的な部分の別の本を書く関係で、そのための『時間を分割』して準備をはじめたところです。
もっと多くの楽器をつくる時間も欲しいし、旅行にも行きたい。この、自分が選んだ技芸から少し離れた勉強もしたいと考えています。
私は、直接的な手段でヴァイオリンメーカーになったのではありません。けれども、私はいつも美しいものをつくったり、その効用を探求し続けて釆ました。私がそうであったように、子供も同様、フイドルに魅了されます。
私の、初歩のヴァイオリン・レッスンでは、すぐに成果があがり、ほとんど飽きさせることはありません。彼らもいずれは擬いなく弦楽器製作者となるべき可能性があり、そうした種子を撒くことにもなっているでしょう。
大学を出てから、軍の将校として三年の兵役後、(まったく私の第一志望ではなかったのですが、スコットランド赴任中は楽しく過ごしました)。
さらに上の大学に進み、その後、他へ転身。かなり長期間、副業として電子工学の技師となり、それが私にとっては最初の「職歴」になりました。
サンフランシスコでの技師として送った永い年月を通じ、ヴァイオリンをつくることも学びました。たいはんが独学でしたが、アーネスト・ワイルド氏、とりわけレオン・ラフオッサ氏、それにロバート・スコピル氏などの製作者たちからも助けられ、励まされました。
(ヴァイオリンづくりについて、私自身が自分の学習を十分に管理していなかったら、これらの本を書くことなど決して思わなかったことでしょう。)
徐々に、ヴァイオリンづくりは私の第二の「職歴」として引き継がれ、それが「パートタイム・ビジネス」になって、1983年には「フルタイム」で自分のヴァイオリン・ショップを自営するに至りました。
この事業には、同じ志向の妻、それに息子たちの援助もあり、いまもって続いています。
私のすべての読者に、仲間たちに、そして友人たちに、最大の幸運と感謝の意をこめて・・・。
ヘンリー・ストローベル 1996年著
訳者・
注釈
§1 エンゲルマントウヒ(Engelmann) 北米ロッキー山脈、マツ科、軽くて柔らかい材質。
学名Picea engelmanii
§2 アラスカトウヒ(Sitka)北米、太平洋沿岸に産するマツ科、家具・建材用材。 学名Picea sitokensis
§4 パーロン(perlom) (独読み)ペルロン=西ドイツEnka社製ナイロンの商品名。 ドミナントなどのナイロン弦コアとして使われている。
§5 メタル弦 著者はこの項で、メタル(metal)とスチール(steel)両方の記述をしているが、前者はピラストロのクロームコアのような金属巻弦を指し、後者はムクのスチール弦のことを指しているのではないかと訳者は推測する。
§6 シエラック(shellac)1acを精製して薄板状に固めたもの。1acは、ラックカイガラムシ(昆虫1ac
insect)の雌が木の枝に分泌する樹脂状物質で、ワニスや赤系天然染料の材料。
§7 マステイク(mastic)乳香(コショウポクmastic tree)から採る樹脂、薫香またはワニス用。
§8 サンダラック(sadarac)サンダラック・ツリー(マオウヒバ アフリカ北西部産、ヒノキ科の常緑樹Etraclinis
articulata)から採る淡黄色、もしくは褐色の芳香性の樹脂。gum juniperともいう。
§3 右の図は、姉妹書『アート&メッソード』に記載されていた、スクロールの幾何学説明にあったもの。
古代ギリシャ建築様式にあるエンタシス柱頭部イオニア式と、まったく同じ原理で描かれていることを知り、訳者は大きな感動を覚えた。
このように、ヴァイオリンは元来備わった美しい形のものだけに、つくるものにとっては、形よくきれいに彫らなければならないことをあらためて痛感する。