<秋(二)>
ききょう
「きりきりしゃんとしてさく桔梗かな」一茶
きく
「たましひのしづかにうつる菊見かな」飯田蛇笏
きぬた
「昼砧ゆかしかりける浄瑠璃寺」中村三山
きのこ
「爛々と昼の星見え菌生え」高浜虚子
きり
「白樺を幽かに霧のゆく音か」水原秋桜子
きりぎりす
「きりぎりすながき白昼啼き翳る」山口誓子
きりひとは
「桐一葉月光噎ぶごとくなり」飯田蛇笏
くさのはな
「草の花ひたすら咲いてみせにけり」久保田万太郎
くさのみ
「草の実も人にとびつく夜道かな」一茶
くずのはな
「あなたなる夜雨の葛のあなたかな」芝不器男
くり
「嚇々と大毬栗の口中よ」井沢正江
けいとう
「我去れば鶏頭も去りゆきにけり」松本たかし
こおろぎ
「こほろぎの闇こほろぎの貌浮かぶ」金尾梅の門
このみ
「よろこべばしきりに落つる木の実かな」富安風生
さけ
「もの影のごとくに鮭のさかのぼる」阿部慧月
さわやか
「響爽かいただきますといふ言葉」中田草田男
さんま
「風の日は風吹きすさぶ秋刀魚の値」石田波郷
ざんしょ
「牛部屋に蚊の声闇き残暑かな」芭蕉
しか
「老と見ゆる鹿が鳴きけりまのあたり」河東碧梧桐
しぎ
「立つ鴫を言吃りして見送りぬ」阿波野青畝
しゅうき
「水郷に漕ぐ波に近き秋気かな」志田素琴
しゅうし
「秋思わが老樹の肌をかい撫でて」富安風生
しゅうしょく
「秋の色糠味噌壷も無かりけり」芭蕉
しんそば
「新蕎麦や熊野へつづく吉野山」許六
しんまい
「新米のくびれも深き俵かな」浅井啼魚
しんりょう
「新涼や紫苑をしのぐ草の丈」杉田久女
しんわら
「新藁や永劫太き納屋の梁」芝不器男
すさまじ
「山畑に月すさまじくなりにけり」原石鼎
すすき
「常よりも今日の夕日の芒かな」尾崎迷堂
すずき
「遡る百里の江なる鱸かな」松根東洋城
すずむし
「まだ鳴かぬ鈴虫忘れられさうに」稲畑汀子
すもう
「老いにきと妻定めけりすまひ取」召波
せきれい
「鶺鴒の一瞬われに岩のこる」佐藤鬼房
たなばた
「七夕竹惜命の文字隠れなし」石田波郷
ちょうよう
「重陽の風雨に菊を起こしけり」安藤橡面坊
つき
「月の道子の言葉掌に置くごとし」飯田龍太
つくつくほうし
「また微熱つくつく法師もう黙れ」川端茅舎
つた
「桟やいのちをからむつたかづら」芭蕉
つゆ
「露散るや提灯の字のこんばんは」川端茅舎
つゆざむ
「露寒や髪の重さに溺れ寝る」長谷川秋子
つゆじも
「つゆじもの烏がありく流離かな」加藤楸邨
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