第104回原宿句会
平成10年2月9日 新幸橋ビル

   
兼題 孕み鹿 土筆 山笑ふ
席題 遍路


  東人
遍路杖納めて腕をかるくせり
比叡比良その奥知らず草青む
灰汁抜いていよいよ細き土筆かな
聖火点りて信州の山笑ふ
窪に坐し物深くゐる孕鹿

  隆
つくしんぼ駅長賞のクレヨン画
娘乗る馬の蹄に春の泥
歳時記の電車広告山笑ふ
群翔の目に涸れ川の長さかな
孕鹿森を駆け行く救急車

  利孟
合ひ部屋の敷き合ふ布団遍路宿
睫毛まで潤むまなざし孕み鹿
みちのくの太郎次郎よ山笑ふ
咬み合ひて歯立てぬ仔犬つくづくし
山笑ふ腰を結ひつけゐざり機

  希覯子
沙汰止みの林道工事山笑ふ
孕み鹿母性を宿す眼かな
半身を削られし山笑ひけり
子遍路の運動靴にもも組と
妻に手を貸して土筆の袴とり

  千恵子
近づけばゆるく退りて孕み鹿
春の土落としつ帰る耕耘機
斑雪ジグゾーパズル埋め切れず
つくしんぼ見つけた声や昼の月
にわとりの行つたり来たり山笑ふ

  武甲
土筆摘む土手には一級河川の碑
棟上げの三本締めや山笑ふ
片耳を欹て眠る孕み鹿
合はす手に故人の形見遍路杖
境内の福追ふ熱気鬼やらひ

  美子
母の死を反芻しつつ土筆飯
母逝けり七草爪を切る間なく
孕み鹿ゆつくりと来て顎強し
足元に団地抱へて山笑ふ
見覚えのある骨拾ふ冬の葬

  萩宏
孕み鹿念には念の毛繕ひ
自慢げにこれが土筆と子に教へ
病室のベッド片付き山笑ふ
人目避く遍路笠より破れけり
腹が立つものが消え去る遍路かな

  健一
土筆和へほろりと苦き里の味
人誘ふ首を上下の孕鹿
借景の庭に大きく山笑ふ
大寒や顔ふり向ける風の音
爪先の痺れる歩み雪女郎

  白美
帷子の裾直し合ふ遍路かな
桃色の小椀にひとつ土筆の頭
煎餅を多角に放り春の鹿
水引のごと紐結び山笑ふ
この地にも人住む跡や土筆生ふ

  正
読経を枕に眠る遍路の児
山笑ふ彼方に幸のあるがごと
土筆摘むミレーの村の風見鶏
青丹よし奈良を家とす孕み鹿
如月の産声高く生まれたる

  箏円
歩むごと命の重み孕み鹿
ベランダで本読みてをり山笑ふ
竹山の絃愁々たり冴え返る
海凪ぎてふたり遍路の遠くゆく
野を探る犬の鼻触る土筆かな