番外桜の通り抜け句会
平成10年4月9日 大阪造幣局長官舎

   
番外  桜の通り抜け吟行句会


  雄 三
桜見て桜見て過ぐ通り抜け
桜には桜の叫び通り抜け
花の雨造幣局をひた濡らす

  麻 紀
久闊や花の重さの通り抜け
花万朶火宅の雨の通り抜け

  東 人
腰かがめ抜ける楊貴妃ざくらかな
緋毛氈片付けてゐる桜守
寄り添へば甘さかをらす花の雨

  紫 野
通り抜け招待状に花の印
花雫一滴加へ立見酒

  千恵子
咲き満つる花に重たき夜の雨
佇つ人の青ずむまでの花明かり
傘畳む手にも桜の雨しとど

  敬 新
局長は福耳花は福禄寿
傘右へ左へ花の通り抜け

  満寿枝
花影泛く旧淀川や夕あかり
花散らす雨も一会や通り抜け

  順 子
ガス燈に雨の桜のけぶりたる
花衣濡れてつやめく通り抜け
桜見し後に手にする姫小判

  享 子
花冷えや天井高き貴賓室
花に色染めたるしべの赤さかな

  輝 子
花の客送りつつ雨詫びにけり

  絢 子
散り初めし花が雨呼ぶ通り抜け
花びらを叩く雨粒通り抜け
百態の花見てゐたり通り抜け

  希覯子
人容るる隙なきテント花の雨
恙なく養老桜咲きにけり
江戸種の浪速に根付く福禄寿

  綾 子
べらぼうめ此の土砂降りを花見かな
青ざめし欝金桜や旅鞄
通り抜け荒き川波花越しに

  利 孟
前夜より燈の入る露店通り抜け
突き当り花の中へと戻りけり

  成 子
受付に名を告げてゐる花の雨
もやひある小舟の桶に花筏

  美奈美
手当てさる雨の桜も八分咲き
桜蕊降りて荒れたる通り抜け
灯に浮ける城や下りの花見舟

  山 河
いつの間にか歩幅の揃ひ通り抜け
雨避けし手廂に乗る花一片
ぼんぼりを背の温もりに花の中

  白 美
手量りに手毬桜のなほこぼる
雨粒を房にいだきて八重桜

  やす子
花びらを床机に浮かせ雨走る
早々と店片付けて花の雨

  隆
楊貴妃に隠れて一重桜かな
麒麟とも普賢とも言へ花蕾

  梅 艸
夜目遠目花の内なる君なりき
紅時雨幹黒々と通り抜け
大蔵が財務となる日の桜かな

  浩 史
由来説く人に集まり観桜会

  希和子
傘傾げ納まる写真花の冷え
花雪洞の灯りてよりの人出かな

  杜 子
灯の入りて花の下影さらに濃き
ほろほろと車窓を滑る春の雨

  滋 也
悠久の川流れゐて桜満つ
雨降れば雨も又よし通り抜け

  誠二郎
雨激し欝金桜の薄緑
花の道知らぬ同志の笑み交す

  新 子
弧をゑがく下枝重たし花の雨
花見人造幣せんべいおみやげに

  笙
咲き重り雫の重き菊桜
露帯びて小枝に重き菊桜

  美恵子
観桜会傘の雫を抜けてゆく
琴の音を俯きて聞く八重桜

提携 「俳句文芸」誌上句会掲載