第106回原宿句会
平成10年4月13日(月) 新幸橋ビル

   
兼題 フリージア 蜃気楼 農具市
席題 啄木忌


      東人 
農具市手持ち無沙汰に縄をなふ
鉛筆の削れぬ子らや啄木忌
語らひは疲れをいやしフリージア
花冷えや碑銘に官位叙位叙勲
蜃気楼海は大気をふくらませ

      利孟 
裏文字の錆びの焼き印農具市
鍬の柄を楔ですげて啄木忌
海市へと遣唐船のゆらめく帆
ギャルソンにゆだねる椅子やフリージア
近江なる条里新たに麦青む

       千恵子 
蜃気楼消えてあつけらかんの湾
女来てしかと鍬買ふ農具市
蜥蜴出て辺りのひかり乱しけり
城趾で口笛吹いて啄木忌
無造作にフリージア渡し別れくる

       希覯子 
野蒜生ふペンキの垂れしベンチ下
川失せて橋の名残る啄木忌
フリージア重次好みの李朝壷
鍬使ふ所作する人や農具市
おばしまに人寄つてをり蜃気楼

      箏円 
蜃気楼夢覚めてのちも夢を知り
缶ビールかかへ乗り込む春列車
農具市小柄老女の太き指
フリージア深夜の帰宅ひそやかに
老木の倒れて小さき春の月

      隆 
出世せし名刺貰ひぬ啄木忌
肩書きを降ろして貰ふフリージア
水葬の遠きにありて蜃気楼
農具市ハイブリッドが合言葉
万愚節愛は女をつくるとや

      武甲 
語らひの御国なまりや農具市
フリージア渡す娘の笑みを買ふ
客僧の口は「へ」の字に灌仏会
やがて来る嵐の予感蜃気楼
啄木忌紫煙くゆらすジャズ喫茶

      健一 
苔むせる碑に波音の啄木忌
ほろ酔ひの帽子あみだに農具市
蜃気楼待つ身に波の遊ぶ音
辛夷咲く声に弾みの滑り台
フリージア男の部屋の薄化粧

      正 
パソコンと算盤並ぶ農具市
歌姫の浅黄のドレスフリージア
イースターエッグの並ぶ巴里の街
初恋の胸の痛みや啄木忌
駆け抜けるサハラ砂漠の蜃気楼

      白美 
黄金のサハラの砂や啄木忌
宙にある黄道海に蜃気楼
あちこちで押したりひいたり農具市
フリージアエプロンの胸の縁飾り
海深く立ち枯れし樹や蜃気楼

      萩宏 
道具から俄か庭師の農具市
震災の記念パークにフリージア
買ひ置きの電球尽きし啄木忌
遠くから講師の声や啄木忌
我が身こそ覚束なしや蜃気楼

      笙 
蜃気楼艀の嵩を小さくす
旗立てて売り手も若し農具市
品定め香りか色かフリージア
豊頬におくれ毛散らす貝雛
山襞に見えつ隠れつ残り雪