第110回原宿句会
平成10年8月3日 新幸橋ビル

   
兼題 月下美人 百足 箱庭
席題 夏布団


  東人
ビー玉を敷き箱庭の川つくる
安眠ののち狼藉の夏蒲団
刻を待つ月下美人を卓上に
音もなく仕掛花火の瀧落つる
ひくひくと百足虫の足の裏返る

  千恵子
百足出て夜の女子寮灯りたり
陽にこぼれ風にこぼれて百日紅
朱き橋置いて箱庭らしくなり
夏掛けを足でたぐりて眠り継ぐ
咲き充ちし月下美人の重さかな

  美子
踏まれゐて罪の一字となる百足
箱庭の雑草常の丈に生ふ
風呂上がり月下美人に呼ばれけり
一角に一族の墓桃熟れる
渾身の蝉の叫びに子の目覚む

  法弘
  白美さん誕生日を祝ひ
美しく生れしは罪や白蜥蜴
箱庭にこの世の雨の大いなる
髭男月下美人を嗅ぎにけり
星よりも星らしく咲く花火かな
通夜客のさざめいてゐる百足かな

  隆
日盛や土偶の叫ぶ博物館
暗室や月下美人の浮き出づる
三人で二枚を使ふ夏蒲団
箱庭や砂丘が動く粒が飛ぶ
いちいちの意志を統べたる百足虫かな

  利孟
萎えながら月下美人の香の豊か
脂粉の香かすかに宿の薄蒲団
語部の吐息や闇を這ふ百足
箱庭の泊りへ寄せて沖の舟
日に灼かれやかれて増ゆる百日紅

  白美
箱庭や高さ等しき森と人
夏布団足元にある朝かな
銭湯の百足虫も憩ふ脱衣籠
酒瓶に月下美人を幽閉す
白日傘柄に彫られたる流れ雲

  武甲
夜半より雨落つ月下美人かな
引越しの珍客気取る百足かな
夏休み返上二文字を掲ぐ部屋
夏蒲団足で押しやる寝相かな
箱庭に学ぶ災禍の歴史かな

  健一
朝顔の大輪紫紺天位賞
箱庭に色を加へて初紅葉
朝方は足に斜めの夏ぶとん
ひらき初む月下美人に人の声
腕捲りして追ひ切れず百足這ふ

  希覯子
新聞紙咄嗟に丸め百足虫搏つ
夏掛けをかたへにおきし夜を重ぬ
「孫の手」で大百足を仕留めけり
箱庭や電線地下の待ちづくり
薄命の女王花ゆえ賞しめる

  笙
ふうはりと腹だけ守り夏ぶとん
箱庭の仕上げは動かぬ小犬かな
散りながら色様々に大花火
女王花音なき音をたてて咲く


  正
夏布団はだけて夢の覚めにけり
月下美人秋田は美人の多き町
箱庭の名勝地より優れけり
河童忌やトロッコに乗る夏休
回復の遅き景気や百足虫の歩

  箏円
箱庭やガーデニングと言ひ換へて
月下美人遙かに響く胡笳の音
我が体の重さだけなる夏蒲団
巧みなる百足蟲の足や意を持たず
ひゆるひゆると妖精翔をり揚花火