兼題 檸檬 鯔 登高 席題 虫 |
東人 羽根を持つもの風に乗り登高す 官職といふ鎧脱ぎ厄日過ぐ 掌に取りて青きレモンの香の痒し 虫の夜や一灯もなき外厠 鯔飛んで沖の漁火繋がれり 箏円 蘊蓄も檸檬のかをりまだ少女 鯔を買ふ隣家はひとりぐらしなり 登高す信濃は長寿の国なれば 戸隠へ夏の名残の鳥の道 久々にひらく句帳や今朝の秋 千恵子 夜もすがら陶土搗く音ちちろ虫 登高や父の遺愛の唐詩選 手榴弾のやうと思ひつレモン選る 鯔泳ぐ川口に潮の薄流れ 芋の葉に露置く朝の訃報かな 白美 催涙弾飛びて檸檬を分かち合ふ 家計簿の収支の合はず虫の声 鯔の飛ぶ港にぽんぽん蒸気入る 登高や小花の色の華やげる 秋祭たぬきむじなの化粧して |
希覯子 鯔跳ねて運河に汐の満ち来たる 遺骨なき兵の墓あり地虫鳴く 虫時雨文学の径九十九折 登高や島を繋ぎて橋架かる 引越しの荷にあるレモン一樹かな 笙 登高や雲は動かず外輪山 投網打つやうに飛び立つ渡り鳥 焼茄子の皮むく爪を黒くして 鯔釣りの舟点々と波白し 日々の彩の移ろひ青レモン 利孟 虫売りの闇見つめゐるばかりなり 鯔飛ぶや入り日明かりを追ひかけて 登高のバスにぎやかに飴回す 御研究所編の背文字秋深む 西海岸某社の名入り檸檬かな 美子 赤き色借着と笑ひ登高す 掌計りの感触確かレモン買ふ 宿敵は我が内にあり檸檬噛む 帰りしなまた食らひ付く鯔の顔 大水が引きて生きぼえ上がる虫 |
法弘 爽やかや美白石鹸泡立てて 鯔飛ぶや日和見といふ主義主張 切株に立ち登高の心かな テポドンが列島跨ぐ厄日かな 檸檬抱く恋に恋する乙女時 正 中庭に檸檬の熟るる城下町 鯔のへそ酒場の壁に大書あり 登高や憂きこと無きにしも非ず 鰯雲子は叱られてお使ひに 歌舞伎町居酒屋裏やちちろ鳴く 隆 図太さを身上として鯔の顎 異教徒の神宿りをり檸檬の木 蜩や地に沈みゆく観覧車 応へなき呼び鈴遠く月の暈 割り切れぬ月日を重ね登高す 健一 虫時雨ついうたた寝の八時過ぎ 浜の味酢味噌に和える鯔の臍 そつと置く輪切りのレモン朝の膳 冷麦の喉ごしの味食の妙 登高のうねる峰先碧き海 |