第120回原宿句会
平成11年6月4日

   
兼題 鱚 虹 葵
席題 梅雨


  東人
裾ほつるるホテルの国旗梅雨に入る
白鱚の夕日啄むごと釣られ
伊勢みちの四通八達銭葵
虹立ちて白波湖の碧を消す
托鉢僧いそぐ余呉湖や虹懸る

  利孟
鱚子売り傘でおほひて足りる店
虹失せてはや山影の耶蘇の村
稚児の手を引きて弓手の色日傘
朝礼の繰り返す辞儀花葵
梅雨逃げといひて単身見舞かな

  希覯子
立葵鑑識課員紺づくめ
朱鷺の子の餌をねだりをり梅雨に入る
鱚釣りや大ぶりの鱚買ひ足して
船宿に鱚一夜干し託しけり
虹懸る東京湾を半跨ぎ

  美子
虹薄れゆくまで眺め主婦の貌
上人の耳たぶ柔き花菖蒲
猥雑な街区あちこち銭葵
日本地図迫り上がり来る梅雨入りかな
昼ランチちなみに夜は鱚揚げむ

  笙
研ぎたての刃にかさこそと鱚の骨
伸びるだけ伸びて垣根の立葵
青きもの房に混ぢへて枇杷実る
「虹立つ」と声の華やぐ農夫かな
尻尾から始む水浴び子せきれい

  法弘
紙ヒコーキ放つや虹をくぐれかし
カチューシャは唄ふよララと梅雨晴れ間
早苗饗や人の頭大のにぎり飯
咲きのぼる葵や我に子三人
釣る気などさらさらなしに鱚釣るる

  千恵子
虹消えて男ゆつくり歩き出す
香水をつけ締め直すイヤリング
咲きのぼる葵の花に遅速かな
補聴器の母を遠ざけ梅雨ごもり
時どきに襲ふ眠気や鱚を釣る

  武甲
廃坑の砂礫の中の立葵
軒下の巣のかまびすし梅雨の入り
鱚舟や初心者多きツアー客
夕虹や町を清めし通り雨
紫陽花や雨の気配に色を増し

  白美
青簾居酒屋今日も客の満つ
鱚焼きて常より早き夕餉かな
片虹の過疎の村より立ちのぼる
腕時計少しずらして梅雨に入る
板塀に添って葵の立ち並ぶ

  箏円
休診日の私服まぶしき立葵
雑魚はづし白鱚釣りと言ふばかり
番鳥低くよびあふ入梅かな
鉢植ゑの蕎麦の花今真盛り
夕虹や旅の余韻をひきずりし

  翆月
木洩れ日に浮く虹二重滝見台
潮に網群れ遠巻の鰆漁
梅雨に入る潮の動かぬ船溜り
色散らし明るき野辺の立葵
竹の葉に白銀の鱚焼かれをり

  正
大吟醸今宵は鱚の一夜干し
ナイヤガラ国境渉る虹の橋
立葵徳川慶喜の屋敷跡
さくらんぼ才色兼備の三姉妹
遠近の犬の声聞く梅雨晴間