第124回原宿句会
平成11年10月5日

   
兼題 秋風 団栗 椋鳥
席題 落とし水


  東人
落し水落ちて太郎の川太る
団栗の落ちて山湖の閉ざさるる
二文字に減る肩書や秋の風
秋深し研磨のつづく糸切歯
椋鳥の影団々と夕日喰む

  千恵子
喧噪に膨らむ一樹椋鳥の群
夕暮の砂場どんぐり埋めてあり
胸に手を組んで寝る癖おけら鳴く
水引の花に一粒づつの雨
秋風を聞いてゐる貌牧の馬

  箏円
秋の夜や平家を語る女人琵琶
団栗や洗濯機なかひとり独楽
秋の風諸行無常を声音する
笛の音や秋風にまがふ子守唄
椋鳥や幼稚園児の遊戯の輪

  笙
穂から穂へ重さ伝へて黄金波
身の丈に合はぬ袴の小団栗
秋風を蹴つて子鷺の初飛行
高みから一気呵成に落し水
椋鳥の群かしましく野を渡る

  希覯子
千枚田天の田よりの落し水
大役を了へたる水音落し水
森羅万象色なき風を迎へけり
竹楊枝団栗独楽の心棒に
椋鳥の群れ茜の空を暗くして

  白美
団栗の地蔵の供華に一つ落つ
秋風や長持にねむr婚衣裳
むく鳥や駅に座したる高校生
秋の雲カーテン全て取りかへる
落し水溝の埋まる印ばかり

  翠月
ひとすぢの光を曳いて落し水
団栗の独楽の思ひ出てのひらに
椋鳥の大樹に騒ぎ雨報らす
汚れなきことこそ誇れ白桔梗
秋風に着物姿の渋き色

  正
放射能届かぬ高み椋鳥渡る
遣り直しきかぬ老後や鰯雲
更ける夜のしじまを破る落し水
団栗や爆ぜてはやがて燃え尽きぬ
なほ残る腰の痛みや秋の風

  美子
秋風とそぞろの神と乗り合はす
椋鳥止まる街の電線撓ませて
遡る鮭の隣のすずこ売り
団栗や欠けたる者の無き家系
若夫婦出足揃はぬ落とし水

  武甲
椋鳥に挑みて跳ねる子猫かな
運休の朱の字の増えて秋の風
秋の夜の母娘の交す長電話
団栗や子の掌中の宝物
作柄に顔綻ばせ水落す