第12回原宿句会
平成3年10月1日

   
兼題 赤蜻蛉 水澄む 芋
席題 新米


  東 人
搖れるたび銀の底みせ芋の露
水澄むや寺の噴井の底に銭
風止みてカレーの匂ひ今年米
風あれば上へ上へと赤蜻蛉

  玄 髪
水澄みて退院の日の薄化粧
芋を剥く童女らの眉くっきりと
新米を磨ぐ娘のうなじ母に似て
雲はらう風の広さや赤とんぼ

  内 人
赤とんぼ群れ飛ぶ先の大伽藍
双の手に新米盛りて知る重さ
一人寝のふと起き出して芋茹でる
それぞれに色も形も小芋かな

  千 惠 子
新米を食んで瑞穂の人の幸
新米のキララに飢ゑの時遠く
新米の水加減は母の教えしこと
寝静まる里に水澄む月夜哉
赤とんぼ中空風を恣いまま
あかとんぼこんな昔もあったよな
故郷のある人羨まし芋の月
茫々の祖母のことなど衣かつぎ
水澄んで月天心に動き初む

  白 美
尾を筆に水の輪作る赤とんぼ
八つ頭嬰児も眠る藁莚
水澄みて投打石の二段飛び
登校の子の列乱す赤とんぼ

  美 子
今年米水控え目に電気釜
うかうかと芋のぬめりを吹き零す
まず二キロ新米を買う暮しぶり
赤とんぼ交る稜線翅の音

  利 孟
衣被指先ちろと舐りたり
水澄むや木道来る声のあり
塩粒の形確かに芋喰らふ
新米や夫還える刻炊き始む

  京 子
今年米「ひとめ惚れ」よと呼ばれ初め
赤とんぼねらいて動かぬちさき指
かろき身の陽に透きとおり赤とんぼ
小芋湯葉炊く手さばきの小気味よさ

  香 里
皮むきて滑りころげる芋いっぱい
水澄て柄杓をとりて茶を点てる
新米をそっととぐ手のうれしさや
味しみる芋の匂ひや御裾分け

  健 次
訪れし田舎みやげの今年米
水澄みて光直線に水底に
ふうふうと大鍋囲み芋喰らふ
夕焼けのなかの竹垣赤とんぼ

  希 覯 子
百選の名水にして水澄める
新米や錦と名乗る米どころ
から松の揃ひ樹齢や秋茜
衣被衣が纏へる浪の花

  明 義
刈り芝に夕陽砕けて赤蜻蛉
赤トンボ二匹の舞に高笑い
影法師長く延びゆき赤蜻蛉
従兄弟来て昔に還える今年米

  外 人
夕暮れに行先き気ままな赤トンボ
白い雲ススキゆらゆら赤とんぼ
パター打つラインの上の赤トンボ