第47回原宿句会
平成5年12月2日 原宿オンデン

   
兼題 冬霞 薬喰 笹鳴
席題 漱石忌


            東 人
笹鳴や鎮守の森の破れ幟
名作の朗読テープ漱石忌
街路樹のはやりすたれや冬霞
民宿の振り子時計や薬喰

            千 里
水満ちて紀の川ゆると冬霞
カウベルの音天上に冬霞
鼈甲の櫛に日落ちぬ漱石忌
根津の坂人影長し漱石忌

            利 孟
笹鳴や皮散りやすきクロワサン
ハチ公にキャラメルひとつ冬霞
スコーンに蜜たっぷりと漱石忌
薬喰肩納まらぬ女傘

            香 里
薬喰隣座敷の賑やかに
全集を読み始めをり漱石忌
薬喰周り見渡し箸をつく
漱石忌栞半分に留まりて

            明 義
薬喰暖簾に威張る幟旗
濁水の陽に照り返る冬霞
冬霞富士山占めし車窓かな
薬喰葱の柔さに好み知る

            白 美
紅茶缶コインで開けて漱石忌
肉喰へと児に急かせをり薬喰
冬霞飲みたき人の皆逝きて
笹鳴やそぼろ卵を炒りし朝

            千 尋
踏み固む土の黒さや漱石忌
冬霞まつ毛にたまる日の軽し
にんまりと笑む顔・顔や薬喰
鉢の木の胸まで伸びて笹子鳴く

            美 子
骨盤をどつかと据ゑて薬ぐひ
笹子鳴く大湖も山も従へて
高啼きをせぬ鳩のゐる冬がすみ
ささなきや茶席に上と下のあり

            千 恵 子
境内に古書展ありて漱石忌
動くやう動かぬやうに冬霞
笹鳴きや妻のエプロンいつも白
薬喰ふ宿に猟師の宴かな

            英 樹
山積みの復刻本や漱石忌
冬霞大樹の枝の忘れ傘
笹鳴やまつすぐ進む霊柩車
腹満ちてなほも煮え立つ薬喰

            法 弘
いつになく母のわがまま笹子鳴く
山風の日に日に荒し薬喰
女待たせ山門に入る漱石忌
舟屋より漕ぎ出す小舟冬霞

            玄 髪
手づくり浮ぴくりともせず冬霞
釣糸を垂らす北浦冬霞
研ぎ込みし出刃の手捌き櫻鍋
妻怒り重曹飲む夜漱石忌

            京 子
篠山の風の鳴る夜薬喰
笹鳴きや伊勢遷宮の祝い唄
明け烏一声高く漱石忌
冬霞隼人の国の山やさし

            浄
名刺手に箸休みつつ薬喰ひ
笹鳴きや干し物固く冴え返る
冬霞雀飛び立つ刈れ田かな
願書とり学校めぐりや漱石忌