第５３回原宿句会
 平成６年５月８日
　 　
　　　　初夏の佃島吟行


　 　　　　　　　　　　東 人
舟よりも小さき船宿藤は実に
日覆ひの裾を地に止め佃島
船杭の芯まで乾く薄暑かな
薫風や帽子をかざす少女像
聖路加の正午打つ鐘青嵐

　 　　　　　　　　　　利 孟
初燕膝で動きて佃煮屋
　佃島に天安あれば
天の字の髭長く書き夏のれん
両岸に渡しの趾や柿若葉
ちゃんばらの弓手が握るラムネかな
甘酒のお茶子そろひの花エプロン

　 　　　　　　　　　　杜 子
船乾く匂ひも夏や佃島
どくだみやたはしの乾くポンプ井戸
引き潮の芥曳きゆく薄暑かな
店先でえらぶ塗り箸日の盛り
葉柳に髪吹かれゐるベンチかな

　 　　　　　　　　　　千 恵 子
信号に黄の無く水門夏に入る
座売りする佃煮老舗夏近し
天安の破れ暖簾や万太郎忌
佃煮をグラム買ひせる薄暑かな
表札に屋号も並べ柿若葉

　 　　　　　　　　　　白 美
風が漕ぐ係留船の五月かな
木下闇写楽の命果てし地と
立ちて聞く箸の講釈南風
冷蔵庫車庫より大き佃島
若葉風シャツも干されて古燈台

　 　　　　　　　　　　浄
実桜や川面に映ゆる硝子窓
打ち水や住吉様に鉦響く
カラカラと矢車高し誕生樹
大川端スピード違反のボート疾く
鉢植ゑの薔薇匂ひけり佃島

　 　　　　　　　　　　伸
新緑や汐の濁りの船溜り
川風に混じる汐かぜ夏祭
見上げゐる眼鏡に映りさくらんぼ
ばらばらに連れ立ち初夏の佃島
ビルの端の影のつながり夕薄暑
提灯のロープ張り足し夏祭