第60回原宿句会
平成6年9月21日

   
兼題 月 桔梗 案山子
席題 子規忌


            東 人
傘差して腕に拳のなき案山子
名月や駅の櫓の竹梯子
一足のわらぢも履けず獺祭忌
桔梗や苑の迷路の誘ひ道

            美 子
案山子立て薬罐の蓋で水を飲む
桔梗やきつぱり裂けし野の気性
厠にて健在なりし子規の忌も
風止みし湖上にヨット望の月

            英 樹
筆先に残るくれなゐ獺祭忌
振り向かぬ案山子の肩を叩きけり
伏して咲く桔梗に雨のしとどなり
羽二重の団子さかなに子規忌かな

            利 孟
案山子祭金の襷の村長賞
糸瓜忌やラベル手書きの燐寸箱
肩を組む夫婦案山子の竹の腕
桔梗や莢にすき間の登り窯

            千 恵 子
子規の忌や親子二代の古書商
名月を言ひ添へて切る長電話
夜来の雨溜めて重たき桔梗かな
故郷は墓あるのみや遠案山子

            法 弘
名月や車庫に引き込む回送車
子規の忌の月明に踏む己が影
竹垣に立てかけられてゐる案山子
桔梗にしやがむは司葉子なり

            希 覯 子
案山子日や畦にロボット巡査立ち
掛暦めくれば桔梗一茶の句
糸瓜忌や聖書持つ娘に寺を聞く
イチローの二百安打や月今宵

            梅 艸
両肩を尖らせ金波に案山子立つ
もへの字に孤愁もあつて案山子かな
我が忌日ふと思ひみる子規忌かな
食卓に桔梗ある日の黒ビール

            白 美
譲られし文机の疵桔梗濃し
臥したれば四角き空に望の月
すこやかなひと少し妬む子規忌かな
巾着田田毎に案山子立ちてをり

            萩 宏
画面にてはじめて知れる良夜かな
空気澄み案山子も一息つきにけり
一本の桔梗咲いて隣留守
糸瓜忌や思い新たに句に浸り

            京 子
縄締めて胸の豊かな案山子かな
破れ屋に愛でられて咲く濃きききょう
熱の子をあやして明かす獺祭忌

            浄
桔梗や裾野に轟く砲の音
案山子より烏が恐き雀かな
子規の忌や熱帯夜が明けにけり

            千 尋
 円月殺法
十六夜の月を吸ひこむ邪剣かな