第61回原宿句会
平成6年10月19日

   
兼題 鮭 萩 文化の日
席題 秋日


            東 人
古書市に師の処女句集文化の日
秋の日を眉間に携帯電話かな
胴長ぐつに嵩を受け止め鮭を打つ
マーガレットサッチャーがゐてこぼれ萩

            希 覯 子
縄電車終着となる秋入日
漫画好き講談好きや鮭番屋
助産婦に叙勲の沙汰や文化の日
作務僧の萩の落花を掃かで去る

            利 孟
新聞の隅の人の名文化の日
鮭番屋薪割り土間に放らるる
二つ割りして尾頭の鮭焼けり
山萩や終バスうなるバス溜り

            法 弘
秋日濃し裸婦に膝抱くポーズさせ
鮭突くや舳先に燃ゆるアセチレン
近道の萩をこぼして雲厳寺
ボロ市に露帝の勲章文化の日

            白 美
指移す綾取の琴秋入日
賜の文字の煙草の小箱文化の日
掬ひとる遡上の鮭を水車
禅寺の願主の木像萩こぼる

            千 恵 子
無冠にて生きるも又よし文化の日
秋の陽を受けて平に忠魂碑
月光の川幅狭め鮭のぼる
萩こぼる小指のマニュキア丁寧に

            京 子
先陣を争ふ鮭の背鰭かな
居酒屋の紫煙の中の文化の日
「豆千代」と表札掲げ萩の花

            美 子
乾鮭を包むローカル新聞紙
未使用の古伊万里に遇ふ文化の日
雨弾く着物で巡る萩の寺
清々と乾く墓石秋入日

            萩 宏
山城に続く石段こぼれ萩
文化の日駅舎のなかのコンサート
鮭千尾上り急流塞き止めん
退社時に上着をはおる秋日かな

            千 尋
色街の日影返して鮭のぼる
ゆき違ふ萩の裾かな木挽町

            英 樹
文化の日するする伸びる枝鋏
登り来て白萩浮かぶ露天の湯
先生の瀧の絵巻や文化
知床の激流遡る鮭の群れ