第73回原宿句会
平成7年9月18日

   
兼題 秋の水 雷鳥 アキレス腱
席題 虫

        

            東 人
島のごとく魚影黒ずむ水の秋
秋の蚊のアキレス腱を刺しにけり
音の合はぬ虫のすだけり永田町
鳥も寄りつかぬ雷鳥監視員

            千 恵 子
聞き分けつ聞き分けかねつ虫の闇
解剖図照らす満月アキレス腱
雷鳥にやまびこ返る静寂かな
引く水脈のゆるむ早さや秋の水

            健 次
角切りや踏んばる勢子のアキレス腱
笹舟の船足早し秋の水
北岳の雷鳥語る父は老い
虫しぐれ静まり人の来るを知り

            白 美
雷鳥や肩に重ねる子のリュック
水澄みて投網高々はねあげて
鈴虫や言葉余して封を閉づ
体育の日まだしたたかなアキレス腱

            法 弘
きしむ櫓の渦の巴に秋の水
虫鳴くや背中あはせの墓の間
らいてうや女も登るけものみち
涼しさよ番町お菊のアキレス腱

            京 子
堰に入るまでのやすらひ水の秋
雷鳥の羽色淡める山の風
運動会並ぶ稚なきアキレス腱


            義 紀
身に入むやアキレス腱の古き傷
霧の尾根より雷鳥が飛び出だし
白玉の酒にホロ酔ひ虫の夜
秋水や湖底にアキ缶赤き文字

            利 孟
牛小屋の裸電球虫時雨
秋水の桶に糶られて錦鯉
雷鳥の濃き霧といふ檻の中
朝秋の矢場黙礼のアキレス腱

            美 子
魚の膚癒して迅し秋の水
雷鳥の夜は月光の色となり
アキレウス腱を浸せり秋の水


            希 覯 子
黄金の鯉太りけり秋の水
爽やかやアキレス腱の予後もまた
虫時雨無人の駅の燈暗し
探鳥や雷鳥姿無きままに

            香 里
秋水の岩すれすれにカヌー漕ぐ
澤の井の仕込み始まり秋の水
虫時雨我声よりも大きけり
雷鳥の声する方に姿なし

            萩 宏
雷鳥や雲の動きに目もくれず
暴走の爆音過ぎて虫の声
水澄みて君の瞳に僕がいる
棒倒しアキレス腱を引き落とし