第85回原宿句会
平成8年9月12日

   
   森利孟帰京歓迎句会
兼題 星月夜 去来忌 胡桃
席題 蝗


            東 人
水音の澄みては途切れ去来の忌
後肢持てば硬直蝗焼く
わし掴みして一つづつ胡桃割る
体折り曲げて薬を掘りにけり
お台場に闇のかたまり星月夜

            武 甲
咳払ひして掌中の胡桃の音
雌阿寒のアイヌ伝説星月夜
一日を仕舞ひて祖父の蝗焼く
星月夜神火の灯る古宮跡
去来忌や読経の絶えぬ苔の寺

            白 美
佃煮となりても群れる蝗かな
背にりぼん結ひし児の服赤のまま
足元に闇の広がる星月夜
胡桃の実異形を内に抱きをり
肩書きの失せし名刺や去来の忌

            利 孟
生返事しては蝗の羽むしる
観音の湖見る眸去来の忌
爽かや角切り揃へパンの耳
星月夜葉鳴りせはしく大欅
錆色の浜に傷つき青胡桃

            法 弘
踏切が閉ざす嵯峨野の去来の忌
まづ降ろす大きな鞄花野馬車
胡桃掌に満つ愛のみで生きる日々
去来忌を修す小鉢の柿膾
逢ふは別れの万平ホテル星月夜

            千 恵 子
バリバリと開く唐傘去来の忌
しみじみと命の話星月夜
田に入れば四方八方飛ぶ蝗
身に入むや縄文土偶の口の虚
胡桃落ちしあとに音なき墓の道

            笙
ころころと集ひて肥る芋の露
沓脱ぎに桐下駄白き良夜かな
山寺へ辿る杣道去来の忌
瀬音聴く影を濃くする星月夜
胡桃割る人形眉の秀でたり

            美 子
リハビリの胡桃おかれしまま逝けり
のけ反りし頚より湯の香星月夜
「子曰く」隔靴掻痒去来の忌

            健 一
消灯の床にちちろの添寝かな
去来忌や四十八字の切れ字考
浜風の砂に寝転び星月夜
蝗追ひ畦踏み外す子らの声
割る人もなき此の頃や鬼胡桃

            正
フィヨルドの村の灯仄か星月夜
屋根を打つ胡桃の音や草枕
終の住処探しあぐねて去来の忌
ジェット機の窓に輝く天の川
蝗捕り語る老婆の若き頃

            義 紀
なかなかに割れぬ胡桃の混じりけり
過疎村の灯の入らぬ家星月夜
去来忌や俳句歌留多のいろはにほ
学生服の裾の短き休暇明け

            萩 宏
星月夜ライトアップの桜田門
キーボードの溝に落ちたる胡桃片
去来忌や筑波を望む新任地

            希 覯 子
落柿舎に臨時の句箱去来の忌
胡桃割る知恵者の鴉人里に
星月夜象牙の塔に人の影
鶏頭や汝の大地ポリ馬穴