第84回原宿句会
平成8年8月2日

   
兼題 鵜飼 草の市 夜の秋
席題 軸(読み込み)


            東 人
叱られて遅れ徒歩鵜の砂飛ばす
画きかけの絵の具の臭ひ夜の秋
軸受の油の錆びし晩夏かな
かけ声に背ナで応へて草の市
疲れ鵜の喉元さする鵜匠かな

            利 孟
電話から始まるドラマ夜の秋
取り巻きの囃して子供神輿かな
かぶり振る首をむんづと鵜匠の手
かなかなの鳴きつのりては鳴き萎えて
薄ぺらな板の木刀草の市

            希 覯 子
草市や手甲で隠る金指輪
提灯に織田の家紋や鵜舟待つ
腹見せるブリキの金魚日向水
幽霊の一軸欲しや暑気払ひ
地下鉄の地上に出でて夜の秋

            千 恵 子
藁馬のまづ売り切れて草の市
ぎうぎうと軸大軋み山鉾曲がる
火の粉吹く先へ先へと荒鵜かな
欠け茶碗瀬戸ですすいで水振舞ひ
テーブルに湯呑み一つや夜の秋

            白 美
鵜篝や集まる眼猛々し
ひねりたる紙の値札の草の市
女らは腕より灼けてビルの街
地球のかなたに走者夜の秋
尾を高く挙げれば矜持洗ひ鯉

            法 弘
鵜篝や揺れて鬼めく影法師
夜の秋のうなづけば揺れ耳飾
水くぐる鵜の爛々の眼かな
自堕落に夢見て生きて夜の秋
草市を戻りて母の跼み癖

            義 紀
地球儀の地軸の傾ぐ夏期口座
夜の秋一人テレビを見る老爺
夜濯や新婚妻は職を持ち
二十年振りに会ふ友草の市
疲れ鵜の首を廻らせ沈みけり

            美 子
篝火の爆ぜる真下へ鵜縄引く
鵜の頚のつやつやとして魚を吐く
草市の黄泉の境の空眺む
人声へ振り向き様に夜の秋
炎天に抗ふやうに箱を焚く

            正
枢軸といふ語のありし終戦日
母に似る声に振り向く盆の市
鵜篝の燃えつきてより闇深し
障子開ければ朝蜩の峽の宿
寝返りの児に気遣ひの夜の秋

            健 一
ひと時の休めるペンに秋の夜
火の波に呼吸合はせる鵜飼かな
炎昼の校庭砂塵走るのみ
草の市笑顔もなしに品渡し