第87回原宿句会
平成8年11月5日

   
兼題 秋思 種茄子 小春
席題 どんぐり


            東 人
団栗を踏みて別れの記憶など
土に寝て青を失へ種茄子
文読んで秋思の闇をふくらます
肩を抱きしめて眩しき小春かな
蜜蝋の封書の中の秋思かな

            利 孟
手を掛けぬことが手入れの種茄子
鉄瓶の蓋の鳴り出す秋思かな
団栗の袴を猪口におままごと
小六月チョークで今日のスペシアリテ
波寄する音に泡立ち葦の花

            白 美
小春日や花いろいろの菓子木方
甚六の名を欲しいまま種茄子
立秋や老いの瞳の澄みわたる
検閲印捺されし古書の秋思かな
団栗の拳に入る五つほど

            千 恵 子
団栗を掌に盛り上げて思案の子
農を継ぐ子のある話種茄子
刈り終へし田に一礼の農婦かな
灯に入るを見てゐて不意に来る秋思
寝ころべるベンチの温み小六月

            梅 艸
小春日の形正しき紫煙かな
銭湯の小銭数へる日の秋思
血中のアルコールほどの我が秋思
種茄子や所在なき紺のDNA


            希 覯 子
種茄子と覚しき株の縄囲ひ
川隔て手話の少女の小春かな
種茄子のどつかと坐る藁褥
歩け会団栗拾ふ閑を呉れ
各停の電車に秋思つくしけり

            香 里
バス停をひとつ先まで小春かな
一人聴くユーミンの曲秋思かな
立ち止まるウィンドウの色小春かな



            笙
サラセンの王の紋章秋高し
太らせて色の錆びゆく種茄子
こまごまと便りしたたむ小春かな
山の根に灯一つ秋思かな

            萩 宏
横町に軽き秋思の地蔵尊
団栗の意志なき方へ転びけり
土間に置く団栗集めし竹の篭
種茄子や父の回復願ふ母
小春日や今日は休みしダイエット

            健 次
千年の壁画を前の秋思かな
小春日が続けば時は進まざる
団栗の蔕を並べておままごと
今はただ心を癒す小春空


            法 弘
観覧車真昼の位置にゐて秋思
古代裂に包みし玉のごとき小春
けふことに荒るる山風里神楽
有線の三時の時報種茄子
小春日を母とも母を小春とも

            美 子
種茄子の有らん限りに太りけり
小六月犬のストレス癒しやる
昨日泣き今日笑ふ母秋思濃し
白鳥の戻りて光増す川面
肩と胸地表に出して大根立つ

            正
小春日や懐かしき歌口ずさむ
珈琲に夢ふくらます今朝の冬
首傾げモディリアーニの秋思かな
選びたき人は遠くに種茄子
ころころと団栗転げ子も転げ

            健 一
浜畑の風に種茄子太りけり
団栗の両手に拾ふ夕の道
茶の花のまちまちに咲き畝の裾
ロックの音流るる街の秋思かな
山道に葉の散る先の小春かな