第94回原宿句会
平成9年5月13日

   
兼題 くづ餅 早乙女 卯の花
席題 今年竹


  東 人
葛餅や吉野古道に落胤誌
姉追うて蛍の闇にありしこと
卯の花や声で球呼ぶ外野の子
早乙女に携電の鳴る棚田かな
脱ぎ終へて七日の竹の風さそふ

  正  
金印の埋もれし島や花うつぎ
新緑やハイドパークの蹄跡
学び舎の隣に伸びし今年竹
葛餅に引かれて大師詣かな
早乙女の真白き肌に神も墜ち

  白 美
回廊の柾目の柱若葉風
彩色のあせし看板くづ桜
腕まくり足まくりして潮干狩り
早乙女が助手席に乗りライトバン
卯の花の匂ひて旅の終りかな

  法 弘
竹皮を脱ぐや妙義の山の前
早乙女の尻が丸く濡れてをり
蝶一枚はるかに渡る溶岩大地
嬬恋は終着の駅花卯木
葛餅や芸妓の素顔幼くて

  利 孟
早乙女の手を貸し合うて田に下りぬ
脱ぎ切れぬ皮を揺すりて今年竹
卯の花や朱に点り初む水銀灯
くづ餅の厨訪ふ風蔵む
海色の皮引き残る初鰹

  千恵子
竹林に皮脱ぐ音や昼の月
箱膳に祖母の名前や葛桜
童貞を捨てし日のこと椎若葉
卯の花のこぼれる闇に人の声
早乙女の尻隆々と昼の月

  義 紀
若竹や生傷絶えぬ吾子の脛
また増えし休耕田や田螺鳴く
卯の花や子を叱りをる母の声
葛切を横目に暗き路地に入る
母から娘へと早乙女の赤襷

  美 子
五月女の神の産土踏みて舞ふ
足裏の壺の激痛躑躅燃ゆ
葛餅の皿の遠くに猪牙の舟
亀石の碑に浸み通る若葉かな

  希覯子
篤農の父祖三代や卯木垣
早乙女と呼ばれて齢思ひけり
葛餅や辨殻格子磨き減り
母の日や二寺を巡りて句三昧
少年よ大志を抱け今年竹

  健 一
今年竹風に背筋を伸ばしけり
葛餅や帰りに渡る太鼓橋
早乙女の髪掻き上げる白き腕
牡丹の蕾ほんのり覗く紅
卯の花の小屋を覆ひてこぼれけり

  香 里
花卯木うす暗き家に帰りけり
早乙女や水かさ増して土にほふ
つるるんと葛切喉をとほりけり
早乙女や白き脚絆に泥はねる