すぎなみき命名句会 平成8年6月28日
文化センター


  森利孟  
しばらくは飛び立つ構へ蠅取紙  
番号のつかぬカーブや朴の花  
湖わづか照らし終んぬ遠雷  

  会田比呂  
古書店の古書新入荷蠅叩  
朴の花峡にかたまる湯治宿  
度忘れの名を思ひ出す日雷  

  池田孝明  
川釣りの頬に冷たき梅雨の風  
稲光家路を指して子等急ぐ  
手をこする仕草に惑ふ蠅叩き  

  石嶋巧  
雷のあと畳に道衣打ちひびき  
日雷に仁王の前で泣きじやくり  
雷鳴にかきみだされし蟻の道  

  伊藤均  
昼寝する子の額には黒い蠅  
目の前をゆらゆら飛ぶは小蠅かな  
いかづちや家路急がすジョグの足  

  小又美恵子  
蠅叩きさらりと躱し次の皿  
歩むたび空色見てる蝸牛  
縁側や遠雷肴に進む酒  

  片山栄喜  
遠雷や墨の流れの速き空  
干瓢のすだれくぐりし童かな  
黒き蠅花弁留まりたり白きかな  

  茅島正男  
稲妻がたてば不安の忘れ傘  
稲妻が満杯の桶たがゆるめ  
ハエ逃げるもつと遠くへなぜ逃げぬ  

  小林美智子  
帰宅した我の鼻先蠅かすめ  
大の字になりて昼寝の極みかな  
遠雷を合図に子供の散りにけり  

  田中功一  
日雷や背中の孫を堅くさせ  
晩酌の肴は一つ冷奴  
午睡中はへはほほなで枕抱き  

  高島文江  
雷光に孤島のごとく町浮かぶ  
暗闇を潜りて栗の花にほふ  
全員の目が追つてゐる部屋の蠅  

  手塚須美子  
雷鳴に堪える犬の背小さきや  
夕立や濡れて連れ呼ぶ軒の下  
遠雷やいそぎ外せるネツクレス  

  床井憲巳  
遠雷に手習ひの筆止めにけり  
踏み台を出して三度蠅を追ふ  
稲妻を集めて青し水田かな  

  永松邦文  
神鳴や鉢のパセリの縁濃し  
お見合ひにしやしやり出てくる五月蠅  
遠足の雷おこしとほき日に  

  仁平貢一  
雷鳴や身を寄せあつて軒すずめ  
遠雷と祭囃子が競り合つて  
遠雷に心は空の色になり  

  福田匡志  
雷雨去り夜のしじまの湯浴みかな  
迅雷やみちのく会津杉木立  
たちまちに雷雨すぎさり百姓す  

  堀江良人  
男体山の雲を散らして雷雨去る  
雷雨去り賑はひ戻る夕の店  
稲妻や雷鳴ひびかせ天を割る  

  三澤郁子  
つれづれの蔵書整理や蠅叩く  
雷を遠くに痛風病んでをり  
匿名の電話もらひて雷雨かな  

  山田秀夫  
激雷や濁りて深き小貝川  
遠雷や黒くたたずむ羽黒山  
いかづちや草にうもれし石畳  

   
『編集後記』  
句会名が「すぎなみき句会」と決まりました。